アルゼンチン帝国召喚   作:鈴木颯手

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第二十三話「交わる世界」

第二十三話「交わる世界」

神聖ミリシアル帝国の使節団は総統府にて先進11カ国会議の参加要請を伝えると天の浮舟35型に乗り自国へと帰っていった。

外交を担当したベートルは直ぐに情報を纏め総統アイルサン・ヒドゥラーへと報告した。

 

「……以上の事でアルゼンチン帝国を先進11カ国会議の東方国家代表として固定参加にしたいと事です」

「成程、先進11カ国会議の参加要請か」

「他にも元列強だったレイフォルの代わりにグラ・バルカス帝国を候補にしているそうです」

「ふむ、まぁ参加国を滅ぼしたのだから代わりに参加するのは当然か。……そう言えばその皇太子は今何をしている?」

「今は本土のあちこちを周っております」

 

グラ・バルカス帝国の皇太子グラカバルはアルゼンチン帝国本土を見て回っていた。時には大学に行って知識を得たり時には陸軍などの演習を観衆に混じって見学したり時には農家や漁師の手伝いをしたりとグラ・バルカス帝国、アルゼンチン帝国両国の護衛の胃を痛めさせていた。因みにこれが原因で護衛の仲は良くなっているとか。

皇太子とは思えないフランクな姿勢からアルゼンチン帝国の臣民の間でも人気が出てきていた。

 

「……確か今はペルーの方にいたな?」

「いえ、今はガラパゴス諸島に赴いています。何でも独自の進化をした生物を直接見たかったと」

「……」

 

アイルサン・ヒドゥラーはグラカバルの計画性のない行動に頭を抱える。アルゼンチン帝国の事を良く知ってもらうには必要な事かもしれないがあまりにも自由に動き過ぎて次の行動が読めない。このままでは誘拐や暗殺が起きても対処できなくなる可能性があった。幸いなのは護衛を必ず連れて行動している事ぐらいだ。

 

「……グラ・バルカス帝国からも話が来ている。もし皇太子に何かあっても我らに責任は取らせるようなことをしないと」

「……それは、ありがたい事なのでしょうか?」

「分からん」

 

ベートルはグラ・バルカス帝国からの内容に困惑しアイルサン・ヒドゥラーは疲れがにじみ出る息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

「うむ!これも面白い姿をしているな!名前は何というのだ?」

「ガラパゴスリクイグアナという種類です」

「成程!確かにイグアナだな!む!これは何だ!?」

「ガラパゴスペンギンという種類です」

「成程!確かにペンギンだな!む!これは何だ!?」

 

その頃、グラ・バルカス帝国の皇太子グラカバルはガラパゴス諸島に上陸し専属のガイドを質問攻めにしていた。

 

 

 

 

 

 

「レミール様、銃の生産が漸く安定しました」

「そうか、分かった」

 

帝国領パールネウス首都ルーディアにてレミールは内務省からの報告を受けていた。彼女は漸く完治しつつある腕をいたわりつつ資料を読んで時にはハンコを押していく。

帝国領パールネウスはパーパルディア皇国時代の主要都市と工業都市全てを無くした状態で誕生した。しかも72ヶ国連合が壊滅した後も独立機運が各地で起きていて不安定な状態であったが自治領統合軍の到着により一気に平穏となっていた。帝国領パールネウスは一切の軍事力を自治領統合軍に委ねているため(パンドーラ大魔法公国を除くアルゼンチン帝国の自治領全てに言える事)武器の生産をする必要はない。しかもアルゼンチン帝国では骨董品としてなら価値のあるマスケット銃を。これらはロデニウス大陸などのアルゼンチン帝国友好国にほぼ無料ともいえる値段で供給されている。

 

「それとクワトイネ公国から食料の第三陣が到着しました。現在は各地に送っています」

「早急に頼むぞ。飢える者がいなくなれば帝国領パールネウスももっと安定するからな」

「はっ!それとインフラについてですが首都周辺はアルゼンチン帝国から貸し与えられた機械で何とか完了しました」

「よし、次は南方を優先的に行ってくれ。帝国直轄領間の道が整えば様々な物が入って来るうだろうからな」

「かしこまりました」

 

男は報告を終え部屋を後にする。部屋にはレミール一人だけとなり背もたれに体を預ける。

 

「……億劫だな」

 

レミールは無意識に呟く。彼女には一週間後に控えるお見合いがあった。お見合いといっても相手はアルゼンチン帝国の政党である帝国白銀党の党員であり能力も階級もそれなりに持っていた。これはアルゼンチン帝国からの楔でもあった。

レミールはデスクの引き出しからお見合い相手の写真が入った本を取り出す。決してイケメンとは言えないが醜い容姿とも言えない、むしろ穏やかそうな見た目をしている男であった。

 

「パーパルディア皇国は負け滅びた。私も本来なら敵の皇族という事で殺されても可笑しくなかった。そう考えれば好待遇だが……」

 

レミールは瓦礫に埋もれた中で救出してくれた男の言葉が忘れられない。パーパルディア皇国を呆気なく潰せる力。その力がパーパルディア皇国に向いた結果、パーパルディア皇国はずたずたに引き裂かれた上で傀儡となった。レミールをトップにして。

 

「……そう言えば北のオチデ王国がナチス・アトランタ第三帝国という国によって滅ぼされていたな。難民などの流入に気を付けないとな」

 

レミールは写真をしまうと再び業務へと戻るのであった。

 


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