魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第10話 駆逐と感謝

拘束した生徒を講堂の奥まった部屋に連れ帰ると、委員長が尋問を開始する。

 

「ダメだな。この程度の強さじゃリーダーのことは話さないか」

 

委員長はそうボヤキ始めた。彼女は複数の薬品を混ぜて、自白剤を合成して使用したが効果がなかったらしい。

 

「手引きした犯人はすぐ吐いてくれたんだけどね…」

 

会長もがっかりしている。手引きしたのは、叔母から送られてきた紙に書いてあったのと同じ司甲だった。

 

「魔法か何かでその部分の記憶を消されたか、封じられているかもしれませんね」

 

そう俺は予想する。このタイミングで《全想の眼(メモリアル・サイト)》を使うか迷っていた。あれは有効な魔法だが、会長たちに知られたくないというより副作用のことを気にしていた。

 

全想の眼(メモリアル・サイト)》を使うと、魔法演算領域にかなりの負荷がかかり疲弊してしまう。だが、悩んでいる時間はないので使うことにした。ここにいるのは先輩方2人だけなので、他言しないようにお願いをする。

 

「今からこいつの記憶を読み取ります。ただそれをするにはある魔法を使わなければなりません。誰にも言わないと約束してもらえますか?」

 

会長と委員長の眼を見て聞いた。

 

「ええ、約束するわ。第一高校生徒会長としてではなく、〈十師族〉の一員、七草家の長女として」

「あたしも約束するよ。七草家の長女の友人として」

 

委員長の約束は七草先輩より固いものではなかったが、信用できる人なので何も言わなかった。俺は頷いてから確保した生徒に視線を向ける。

 

「それでは始めます」

 

息と一緒に余計な情報を吐き出し、眼を生徒の記憶に向ける。

 

『これで説明は終わりだ。明日は面白くなりそうだね諸君!このアジトは集会が終われば破壊されることになっている。新しいアジトは後日伝えるよ。解散!』

 

大口をたたくひょろっとして、ふちなしの眼鏡をかけている男が【ブランシュ】日本支部リーダー司一なのだろう。アジトを出るとそこはどこにでもあるようなビルの地下だった。

 

しばらくして眼を現実の世界に戻し、今視たことを2人に話す。

 

「指導者は司一。第一高校3年の司甲先輩の義理の兄です。おそらく司先輩も魔法か何かで操られて、手引きさせられたのではないでしょうか。アジトはビルの地下にあったようですが、今は何もなく新しい場所に移動したようです」

「何故そこまでわかった?」

 

委員長が聞き返してくる。

 

「摩莉、他人が隠している魔法を詮索してはダメよ」

 

会長の言う通り、他人の魔法を詮索するのはタブー視されている。【固有魔法】は他人に知られてはならないと考える魔法師が多く、詳しく説明する訳にもいかないのだ。

 

「構いませんよ会長。今のは俺の【固有魔法】で、この生徒の記憶を覗いたんです」

「怖い魔法だな。覗かれないように気を付けよう」

 

少なからず本気で怖がっている委員長に、信頼している相手に無断で使用しないと説明しておく。説明しながら気になった記憶をもう一度視返す。この男の横にいた男の想子を読み取っていく。記憶の中にいる人物だが、現実世界に存在しているならば、読み取ることができる。

 

するとその男の想子が、別の想子と強制的にリンクさせられているのが視えた。しかもその想子は既に死んだ人間のものだ。それが何なのか考える前に、現実の情報世界に視界を戻す。討論会が始まる前に見かけていたのだから、校内の何処かにいるはずだ。

 

…見つけた。

 

だがこの位置は…。俺は講堂の裏口から、その男が狙っている女子生徒の下に向かった。

 

「「克也君!?どこに行くんだ(の)!?」」

 

会長と委員長の声に振り向くことなく走る。体術と自己加速術式を使って疾走した。

 

 

 

女子生徒の姿が見えたのと、男子生徒が襲い掛かるのが同時だった。間に合わないと思った俺は、想子を圧縮して想子弾を構築し、男子生徒に向かって撃ち出す。想子弾に直撃された男子生徒は、大きく吹き飛ばされて地面に倒れる。襲われかけた女子生徒は気を失って倒れていたので、抱きかかえて危険のない場所まで移動させる。

 

立ち上がってこちらを見る男子生徒の眼は虚ろで、生気をまったくというほど感じない。想子を《全想の眼(メモリアル・サイト)》で読み取ると愕然とする。死んだ人間の想子に浸食され、本当にの意味で死んでいたのだ。

 

なのに生前と変わらない動きに魔法を繰り出すことに驚く。一撃で終わらせるために、魔法式を構築し起動式を展開させる。

 

《夜》が一部分だけを塗りつぶす。闇に燦然と輝く星々の群れ。星が光の線となって、男子生徒の中の想子を貫通する。

 

男子生徒はその場に倒れ、それきり動かなくなった。

 

 

 

男子生徒が完全に機能しなくなったのを確認してから、寝かせていた女子生徒を抱き上げる。急ぎ足でその場から離脱し、保健室に向かいベッドに寝かせる。出ようとすると安宿先生に引き止められ、一通り検査されることになった。

 

攻撃されたわけでもなかったが、保健医としてやらねばならないことだったのだろう。異常なしと診断されてからようやく解放される。

 

奥の部屋からが出てくると、そこには会長・委員長・会頭がいた。

 

「何が…」

 

会長が尋ねようとしたが、後ろの出入口が開けられる。壬生先輩を抱えた達也が入ってきた。寝かせて5分後に、目を覚ました壬生先輩に異常なしと診断した安宿先生が出ていくと、生徒会からの事情聴取が始まった。

 

それによると委員長に突き放されたと勘違いした壬生先輩に、司一が付け込んでいたらしい。これによって壬生先輩に非がないことがわかった。

 

 

 

「重要なことは奴らが何処にいるかですが…」

 

壬生から話を聞いた後、達也はそう切り出した。

 

「行くつもりか司波?危険だぞ」

 

達也の言葉に何かを感じた克人は止めに入る。

 

「わかっています。俺は学校側に手を貸してもらうつもりはありません」

「司波君、もし私のためだったらやめて。怪我をされたくないから」

 

壬生は達也をなだめる。自分のために誰かが傷つくのは見たくないと言いたいのだ。誰だってそうだろう。自分のせいで誰かが傷付くのは、自分が傷つくよりずっと辛い。

 

「壬生先輩のためではありません。自分の生活空間がテロの標的になったんです。深雪・克也との日常を損なおうとする者は、すべて駆除します」

 

だが達也の答えは辛辣だった。しかしそれを咎めるような声は上がらない。

 

「でも達也、拠点がわからないとどうしようもないぞ」

 

そう克也が聞くと達也は、「知らなければ知ってる人に聞けばいい」と言いながら保健室のドアを開ける。そこには1ーEの担当カウンセラー、小野遥が立っていた。

 

「九重先生の秘蔵の弟子から隠れ遂せようだなんて…やっぱり甘かったか」

 

苦笑気味で視線を逸らす。遥から拠点の地図をもらい、全員で確認する。

 

「達也が行くなら俺も行くぜ」

「当然あたしもね」

 

レオとエリカが同行すると言い出した。

 

「なら俺も行こう。〈十師族〉としてこのまま見逃すわけにはいかん」

 

今まで黙っていた克人が切り出した。

 

「車は俺が出す。それでいいな?」

「十文字君が行くなら私も…」

「七草、お前はダメだ」

「そうだぞ真由美。この事態に生徒会長が不在なのは困る」

「わかったわ十文字君お願い。でもそれなら摩莉もダメだからね。まだ校内に残党がいるかもしれないんだから」

 

説得された真由美は摩莉を止めた。摩莉も残念がっていたが。

 

「達也、俺も残るよ。だから後のことを頼む」

「任せろ」

 

それだけ言うと、達也たちは駆逐するために駐車場に向かった。

 

 

 

残りの残党を(全想の眼を使って)捕まえていると、安宿から女子生徒が目を覚ましたと連絡が来たので保健室に向かった。

 

「気分はどう?リンちゃん」

 

真由美が呼んだように、襲われそうになっていたのは鈴音だった。

 

「ええ、驚いて倒れた時に頭を少し強く打っただけですから。それよりここに連れてきてくれたのはどなたですか?」

「お前の目の前にいるよ市原」

「え?」

 

摩莉の言う通り視線を横にずらして、鈴音は克也を驚いたように見つめる。

 

「貴方が?」

「それだけじゃないぞ。お前を襲おうとした奴を倒したのもそいつだ。どうやってかは知らないがな」

 

摩莉の言葉に眼を見張る鈴音は、これまで見てきた表情ではない。そのギャップに克也は新鮮さを感じていた。

 

「あたし達は事情説明があるから行くよ。またな」

 

摩莉がそう言って真由美と共に保健室を出ていく。

 

 

 

人が出て行ってからしばらく。会話が弾まないまま5分が過ぎていた。

 

「…改めて助けていただきありがとうございました」

「いいえ、そんなご丁寧に。それより怪我がなくてよかったです」

 

それだけ話すと鈴音は黙ってしまった。ここは挨拶だけして出た方がいいのか、何か話題を作るべきなのか克也は迷っていた。すると鈴音が紅潮させながらお願いしてきた。

 

「は、初めて生徒会室に来た時から気になっていました。今日助けられてすごくうれしかったです。わ、私とそ、そのお、お付き合いしてもらえませんか?」

 

まさかの告白に克也は数秒間フリーズした。

 

「…俺なんかでいいんですか?」

 

そう尋ねるとさらに顔を赤くして頷く。これまでの人生で、少なからず好意を持たれたことはある。名前を恐れてでも告白されたことだって片手には収まらない。だが歳上からというのは初めてだった。これ以上伸ばすと、鈴音に精神的なダメージを与えそうなので答えることにした。

 

「喜んでお付き合いさせていただきます。これからよろしくお願いします」

 

そう言うと鈴音は、年相応の笑顔を克也に向けてくれた。

 

 

 

 

夕方、拠点を落とした達也と深雪と3人で家に帰る。あとは就寝するだけの合間に操られていた生徒の話をした。

 

「…というわけでやむを得ず《流星群》を使ってしまったんだ」

 

克也の話に耳を傾けていた達也は真剣な顔で頷く。

 

「なるほど。死者の想子を魔法式で復活させ、安定させるために器である魔法師に組み込んだのか。魔法式が不完全だったのか器がそぐわなかったのか。安定せずに暴走しだしたということだな。その器にされたのは誰だったんだ?」

「2年のニ科生黒木竜(くろきたつ)らしい。苗字からしてあの黒木家だろうな」

 

達也の問いに流れるように答える。

 

「黒木家とは何ですが?」

「黒木家は魔法師の家系でありながら、魔法を排除しようとする一族だ。知る人ぞ知る話だから深雪は気にしなくていいよ」

 

達也は説明しながら深雪の頭をなでる。

 

克也は2人に「市原先輩と交際することになったから」と特大の爆弾を落として寝室に向かった。その時の達也の驚いた顔を、克也は忘れないだろう。

 

 

 

翌日、1日中深雪から不機嫌オーラを吹きかけられた克也は、授業に集中できずに週末に居残りさせられることになるという失態を犯した。

 

そして鈴音との交際は広まらないだろうと思っていた克也の予想に反して、ありえない速度で広まってしまった。

 

犯人は誰かわからないまま謎は迷宮入りするのだった。

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