魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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14章 報復編
第95話 覚醒


重い瞼をゆっくり持ち上げる。長い間光を忘れていたことで、僅かな灯りでも眩しく感じて再び目を閉じてしまう。何度か瞬きを繰り返すと、徐々に眼が光に慣れて視界が鮮明に映るようになった。

 

左側から寝息が聞こえる。ぎこちない動きで顔を向けると、そこには頭を俺が寝かされているベッドに置いて、もたれるようにして眠っているリーナがいた。起き上がろうと身体を動かすが、途中でそれ以上動かせなくなり元の体勢に戻ってしまう。身体が倒れた時の振動でリーナが目を覚ました。

 

「カツヤ!」

 

骨が折れるような強さで抱き締めてくるリーナの背中を、軽く叩くと自分の腕の細さに驚く。枯れ枝のようにみすぼらしい。〈戦略級魔法師〉とは思えない弱々しさだ。

 

「どれだけ心配させたら気が済むのよ!」

「ごめん。俺、どのくらい眠ってた?」

「グス、2ヶ月よ馬鹿!無茶して!」

 

またしても泣きつかれるので苦笑するしかなかった。

 

「あんまり抱き締めると俺の骨が折れるぞ」

 

どうにか茶化すと涙を浮かべながら笑ってくれた。だが俺の顔を見て、驚きの表情を浮かべたので不思議に思った。

 

「俺の顔に何かついてるか?」

「カツヤ、あんたその姿…」

 

意味が分からずきょろきょろと辺りを見回していると、リーナが枕元の台に置かれた鏡を俺に渡してくれた。覗き込むとリーナが驚いた理由が分かった。

 

蒼い眼(・・・)

 

それが今の俺の瞳の色だ。リーナのように冬の蒼穹を思わせるような透き通った碧眼ではない。何もかもを見通す神の如く鋭い。されど優しさのある蒼色。

 

金色の髪(・・・)

 

リーナより濃い。されど不思議と光に照らされると透けて見えるような黄金の髪。明らかに今までの俺ではない。別人と言っても過言ではない変化だ。リーナは俺の別人ぶりに思考停止に陥っていたが、俺はすぐに状況を受け入れていた。

 

おそらく【精神世界】と呼ばれるあの場所から現実世界に帰還する際、四葉(ぜろ)という名の別次元の自分が俺に触れたこと、次元の歪みと思しきひずみに跳び込むのを、後押ししてくれた3人が触れたことによる事象の変化なのだと。

 

魔法ではなく人間そのものを造り替える。そんな魔法という範疇を超えた能力だと思える。それを知らないリーナが驚くのは別段可笑しくなく、正常な反応である。

 

「ようやく目覚めた(・・・・)ってわけか」

 

克也は2つの意味で呟いたのだが、リーナは1つの意味でしか捉えられていなかった。そのことに2人は気付かず話は進む。

 

「これで報復ができるわけだ」

「威勢だけはいいけど。その様子だと全然覇気が伝わって来ないわ」

「…まあ、そうだろうな」

 

確かに痩せ細りきった今の俺は迫力が皆無に等しい。口だけしか強い言葉は使えない。

 

「取り敢えずタツヤとミユキを連れてくるから、貴方はそのままでいなさい」

 

命令に近い言葉を残し、リーナは〈集中治療室〉から出て行った。

 

 

 

リーナが出て行くのを見送ってから思案を始める。

 

俺のこの状況は2人に説明しづらいな。上手く誤魔化さないとどうにもならん。しかし何故俺の容姿が変わったんだ?(ぜろ)が俺を呼んだときの言葉に何か意味があるのか?

 

〈言霊〉。

 

そんな一語が頭に浮かんだ。それは古来より日本で言葉に霊的な力が宿り、その言葉通りに結果を表すと信じられてきた。それが古式魔法にあるとすれば、《言霊》という言葉により、俺の髪と眼が変わっても不思議ではない。

 

【精神世界】で精霊を介して聞こえた声の人物が、俺に変化をもたらしたのであれば、古式魔法には外見を変える魔法が存在するということになる。《全知の眼(ゼウス)》古式魔法を侮っていたわけではないが抜け目がない。

 

古式魔法から学ぶことはまだまだ尽きないだろうな。自分の身体的なことより魔法のことを気にする辺り、以前の俺と何も変わらないようだ。

 

ふと思い、《眼》を自分の内側に向ける。自分の魔法演算領域に、別の魔法演算領域が付随していることに気が付いた。中身を見ようといくら《眼》を向けても、中を覗くことができない。偶然覗けたとしても、もやがかかったように詳細を見ることができない。いつかは見ることができると信じ、余計な詮索を止めた。

 

 

 

深雪の仕事部屋へ向かう間、リーナは顔を真っ赤にして両手で顔を覆っていた。

 

何でカツヤの声を聞くだけで嬉しくなるんだろう。もしかしてワタシったらカツヤのことが好きなの!?ない。それはないわ。だってカツヤはライバル。そうライバルよ。それ以外の対象にはならないわ。

 

そう意識する辺り、恋をしているのは間違いないのだが。受け入れたくないのか受け入れられない理由があるのか。どちらでも有り得そうだが、一番の理由は恋に気付いていないことだろう。

 

「タツヤ・ミユキ!カツヤが目を覚ましたわ。早く!」

 

深雪の仕事部屋にノックをせずに入り、リーナは高揚した声で2人に伝える。すると2人は慌てて立ち上がり、血相を変えて仕事部屋を飛び出した。達也は樹里を腕に抱きながらも、振動が可能な限り伝わらないよう気を配りながら走って行く。

 

そのおかげか気にする様子もなく、樹里はすやすやと眠っている。2人の後ろを追いかけながら、リーナは少し羨ましそうに見ていた。

 

 

 

「「克也(お兄様)!」」

 

突進してきそうな勢いで2人が克也に駆け寄ってきた。

 

「おはよう。というか久しぶり?」

 

克也が茶化してくることに、本当に戻ってきたのだと嬉しく思う反面、達也は克也の変化に驚いていた。深雪はその変化には気が付かない。気が付かないほどに克也が目を覚ましたことが嬉しいのだ。

 

旦那である達也と最愛の娘である樹里より優先順位は低く、血縁関係が【調整体】で離れているとはいえ、敬愛する兄であることには変わりがない。目を覚ました克也に真っ先に抱き着いても達也は文句を言わない。言えないというのもあるが、達也自身も抱きしめたいのだから言えるはずもなかった。

 

「達也が抱いているのが2人の子供か?」

「ああ、樹里だ」

 

達也が眠っている樹里を差し出して克也が受け取ろうとする。2ヶ月間動かしていない筋肉では、生後2ヶ月の赤ん坊でも支えることができない。抱っこできないことに克也は悲しそうな顔をしたが、何故か嬉しそうに微笑んでいた。

 

「克也、何故笑っているんだ?」

「目標ができたからさ。樹里を抱っこするっていう目標が」

「それだけなのですか?」

 

深雪は名残惜しそうに克也の腕から離れ、横に立ちながら少し不満そうに聞いた。その不満は愛娘の樹里に克也を奪われたからではなく、リハビリする生きる理由がそれだけなのかという意味合いが込められた不満だった。

 

「それだけじゃないよ。水波の敵を討つことが第一目標だ。必ずこの報いを受けさせる」

 

瘦せ細った腕に力を込める克也・達也・深雪。そして2人の後ろに立つリーナは、同じ気持ちであることを示すかのように何度も頷いた。

 

 

 

 

克也が目覚めたことを友人達に知らせたが、克也が回復するまで面会を禁止したことに残念がる友人たちだった。だが文句を言う無粋な者はいない。克也は目覚めてからリハビリを献身的に開始した。ある日のリハビリ帰り、自室に向かう途中に双子と出会った。

 

「香澄に泉美か。久しぶりだな」

「久しぶり克也兄」

「克也兄様、お久しぶりです」

 

克也の予想通り大人の魅力を醸し出す女性に成長した2人を見ても、動揺せず普段通りの対応をした。

 

「僕達がここにいることに疑問を感じないの?」

「何かしらの理由があるからここにいるんだろ?だったら聞くのは野暮ってもんだ」

 

松葉杖を廊下の壁に立てかけ、自分ももたれかかりながら答える。別に普通のことを言っただけなのだが、2人はいたく感心しているようだ。誰にとっても聞かれたくないことや、話したくないことが1つや2つあるのだから、聞き出すのは失礼千万だ。

 

その後軽い世間話をしてから、克也は2人と別れて自室へと戻った。

 

 

 

 

 

リハビリ開始から2ヶ月で、克也は依然と同じように歩けるようになった。身体にも脂肪と筋肉が戻り、樹里をようやく抱っこすることもできた。克也が抱っこしても樹里は泣かない。むしろ達也より落ち着くように穏やかに眠るので、達也は少し不満そうだった。

 

魔法が依然と何ら遜色ないほどに回復したのは、樹里が生まれてから6ヶ月後のことである。深雪・達也・リーナは、克也の魔法の〈発動速度〉と〈事象干渉力〉が強くなったのを、直接目の当たりにはしていないが、うすうす感じていた。それは強力な魔法師にしか感じられない微かな変化である。3人の洞察力があってこその離れ技であった。

 

故に香澄や泉美が気付かないわけである。達也は克也の容姿の変化と魔法力の強化が密接に関わっていると、持ち前の洞察力と《精霊の眼(エレメンタル・サイト)》で確信していた。

 

 

 

 

 

克也が目覚め、リハビリに一区切りをつけたある日。真夜は自ら克也を誘って買い物に出かけた。俗に言うデートだ。五十路を越えても三十路にしか見えない。下手をすれば20代に間違われる容姿をしている真夜と克也が街をうろつけば、パニックに陥るのは必然である。

 

克也の腕にしがみついておねだりする真夜を見れば、恋人に甘える女性なのだが、意味ありげにわざと視線を亜夜子・リーナ・泉美に向けるので台無しだった。3人は眉間に青筋を浮かべながらも優しい笑みを浮かべていたが、真夜と深雪には嫉妬しているのが丸分かりだった。

 

約1名はまだ自分の気持ちに気付いていないので、嫉妬していることに気付いていないが。自分では五十路を過ぎても、容姿が何一つ変わらない真夜に対するものであると思っているが、克也を取られている状況への女性としての嫉妬が渦巻いていることに気付いていない。

 

3人が嫉妬をしているのは事実だが、振り解こうとせず困った笑みを浮かべている克也にも不満を抱いていた。だが克也にも言い分はある。自分を溺愛してやまない真夜を、心配させてしまったことへの謝罪である。

 

だがここで自分に好意を向ける3人の前で、このような行動をされるのは困るのである。克也の内心の葛藤を知ってか知らずしてか不明だが、自分の感情を最優先にした真夜は、強制的に克也を連行して買い物に出かけた。

 

その様子を深雪は微笑ましそうに。達也は樹里を抱っこしながら片手で自分の額を抑える。何ヶ月かぶりのある種の頭痛に苛まれていたのだ。溺愛は生まれた頃からのことなので、今さら文句を言ったところで無駄であると理解している。

 

ちなみに達也の腕の中の樹里は、その雰囲気を利用してスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。

 

達也は久しぶりに大きなため息をつき、頭痛を同時に追い出してから深雪を連れて仕事部屋に戻る。その後も亜夜子・リーナ・泉美の3人は、克也と真夜が出掛けた方面をずっと羨ましそうに見つめていたのだった。




タグ・転生という意味を使い、作者が別に書いている〈魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜〉という作品と繋ぐことができました。こちらはまだ完結しておりませんがよろしければ読んで見てください。では次話の〈縁談〉にてお会いしましょう。
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