魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第97話 決定

雫と藤林の縁談はあまり気乗りしないものであり、破談したいのだが2人を蔑ろにできないのもまた事実。敵討ちといい縁談といい後手に回りすぎている。

 

結局縁談の話は先延ばしになった。なぜなら真夜から有意義な情報がもたらされたからである。そこで前当主の真夜・現当主の深雪・克也・達也・リーナ・文弥の四葉家の重鎮が勢揃いし、軽くない空気が会議室には溢れていた。

 

四葉を完全に敵に回した馬鹿を殲滅できる可能性が出てきた。ようやく水波の復讐ができる。だが真夜が得た情報が真実だとは限らない。真夜を疑っているわけではなく、情報が数多溢れるこの世界で、嘘の情報は規格外なほど蔓延している。入手経路によっては、的外れと言っても過言ではない。

 

「七草家当主 七草弘一は秘密裏に大亜連合との契約を結んでいたわ。内容は『日本の魔法師を選別し、純粋な魔法師だけを残す』というもの。仲介役は新ソ連。おそらくここから《完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)》の起動式をもらったのでしょうね」

「何故一個人が大国と同盟を結べたのでしょう」

「完全な同盟ではなく利害の一致だろう。国家と個人の立場は対等ではない」

 

深雪は何故七草家が同盟を結べたのか気になっていたようだが、それより克也が気になったのは真夜の入手経路だ。何故そこまで詳しく知ることができたのか気になる。

 

「叔母上、一体どうやってその情報を得たのですか?黒羽家でさえ掴めていなかったというのに」

「文弥さん以外は知っているはずよ。〈フリズスキャルヴ〉を」

 

まさかの言葉に文弥を除く克也達は驚きを隠せない。〈フリズスキャルヴ〉とは〈エシュロンⅢ〉に組み込まれているハッキングシステムであり、〈七賢人〉と呼ばれる人物だけが使用可能な機械である。

 

〈七賢人〉と名乗っているのはレイモンド・S・クラークただ1人であり、他のオペレーターは使わない。そもそも〈七賢人〉は、レイモンドが使うハンドルネームのようなものである。

 

まさか真夜がそのうちの1人だとは。こんなに近くにいたのに知らなかった。だが同時に深く納得できる。協力を要請して僅か数日で要望を達成するあの行動力。そして普通なら知り得ることのない情報提供。それらすべては〈フリズスキャルヴ〉によるものだったのだ。

 

「これで敵は七草家だと決まったわけですが。どうやって攻め込みますか?」

「克也、実力行使前提なのか?」

「それ以外に何がある。水波と辰巳が殺されてるんだぞ。それなりの報復は必須だ」

 

克也の言葉に怒りが含まれているのを、全員が嫌でも気付かされた。

 

「気持ちはわかる。俺達だってそうしたい。だがまずは弘一がこの情報を見て、どんな対応するかによると思うが?」

「甘いな」

「何?」

 

まさかの突き放しに達也は苛ついて臨戦態勢になる。深雪とリーナが慌てて達也を抑えにかかるが、それに構わず克也は尚も煽る。

 

「実力行使しかないんだよ。話し合いなんて時間の無駄だ」

「命を失ってもいいのか?」

「構わない。それだけの覚悟だ。じゃあ1つ聞くが、達也は深雪が水波と同じ立場になったらどうしてた?自分が言うように話し合いで解決できたか?」

「っ、それは…」

 

さすがの達也も否定はできなかった。小学生の頃に人造魔法実験を受け、唯一残った感情が〈家族愛〉。克也と深雪にしか愛情を抱くことができない人間にされた自分が、どちらかを失った瞬間に世界を破壊してしまうと理解している。

 

だから克也に問われたときに即答できなかったのだ。「話し合いで解決する」と。

 

「達也様、私も克也お兄様の考えに賛成します」

「深雪?」

「ワタシもよタツヤ」

「リーナもか…」

 

達也も深雪はともかく、リーナまで賛成するとは思っていなかった。むしろ克也を止めにくると思っていたのだ。リーナの行動は自分を保護し、家族同然のように扱ってくれる四葉家に対する感謝。亡命時に、自分と仲良くしてくれた水波の敵を取りたいという気持ちが重なった結果だ。

 

「達也さん、貴方の言い分は分かるけど今回ばかりは私も我慢できないわ。七草家・大亜連合・新ソ連・日本に四葉家の怖さを今一度示すときです」

「…分かりました」

 

真夜の元当主としての威厳に圧倒され、達也は受け入れるしかなかった。水波の敵を取りたいという気持ちは達也自身にもある。自分を信頼し、恐れを抱くこともなく慕い、兄が愛した女性をこの世界から奪った奴等を許せるわけがない。

 

言葉では表せないほどの怒りと悲しみが溢れる。だが達也自身それがどんなものなのかわからない。こういうときに〈感情〉というものが理解できないのが悔しい。だがこれだけは分かる。誰よりもっとも辛い思いをしたのは克也だと。

 

自分の力で守れなかった。敵はいないと油断していた自分への怒り・憤り・恨み。負の感情に押し潰されたが故に、克也は生と死の狭間を彷徨った。しかし、克也は生きる道を選んだ。死んで水波と同じ世界に行くことを望まず、水波が生きたこの世界を守るために現実世界に戻ってきた。

 

その克也が覚悟を決めたのであれば、自分が反対せず後ろから支えるべきだ。

 

「克也、俺が間違っていた。対話など甘すぎる。命は命を以て償わせる。それが命を預かる俺達の役目だ」

 

こうして会議室で行われた話し合いは、七草家当主 七草弘一を暗殺ではなく正面からつぶすことを決定した。

 

 

 

「ねえシルヴィ、本当に七草家が間接的にミナミを殺したと思う?」

 

その日の夜。自室で下着だけになってベッドに寝転がりながらリーナは、窓を拭いているシルヴィに何気なく聞いた。シルヴィは雑巾をバケツにかけてから振り返った。

 

「リーナは疑っているのですか?」

「疑っているわけじゃないけど信じられないだけ。あの有名な七草家当主がこんな強攻策を立てたなんて思えないから」

 

シルヴィはため息をついてリーナに説明を始めた。

 

「そもそも七草弘一殿は、純粋な魔法師だけの国を作りたがっていたようです。といってもそれは高校生までの話なようですが。当主の座を継いでからは、日本の魔法師に分け隔てなく接することを目指していたようです」

「何がきっかけで学生の頃の野望を思い出したの?」

「憶測ですがおそらく2095年度の〈九校戦〉が原因かと。深雪様・達也様・克也様の活躍から、燻っていた火種に火が付いたのでしょう」

 

〈九校戦〉のことは克也達から聞いていたので、どんなものなのかは知っている。だがそれだけではないとリーナは直感していた。シルヴィの次の言葉でそれが正しかったのだとわかった。

 

「〈九校戦〉程度で済めば、今頃このようなことにはならなかったでしょう。〈論文コンペ〉の大亜連合の侵攻・吸血鬼事件・お三方の婚約発表などの大きな出来事で、吹っ切れたのか大きく燃え上がってしまったのか。自分の娘2人を陽動に使い、魔法師の意識をそちらに向けている間に、その火種を自分では抑えきれなくなった。そこで日本の敵である大亜連合と新ソ連に協力を要請したのでしょう」

「リスクを考えなかったのでしょうか」

「考える必要は無かったのです。何故なら成功すれば自分の野望が叶い、失敗すれば情報が片方または双方から漏れるか漏らされるかのどちらかですから」

「リスクを補うリターンがほぼ皆無よ…」

 

確かにリーナの言葉は正しい。だがそれでも弘一は野望を叶えたかった。目がくらんでいたのだ。欲に取り付かれた人間がどのような道をたどってきたのか一番知っているはずの自分が、実は一番欲に取り付かれていた。

 

「自分を見失っていたのでしょうね。それも大きく魔法師として人としての道を」

 

シルヴィはそう締めくくるとリーナの部屋から出て行った。まるで「あとは自分で考えろ」と言うように。その後もリーナはシルヴィの言葉を自分なりに解釈していた。結局自分では答えが出せないと気付いたのは、考え始めてから1時間後だった。

 

 

 

四葉家は七草家当主 七草弘一に対して自ら起こした行いを〈師族会議〉で話すよう命じる文を、克也達と少なからず関わりのある真由美から届けてもらった。翌日の返事はもちろん否であり、四葉家は宣戦布告を正式に魔法協会本部を通じて七草浩一個人(・・・・・・)に送った。

 

そのことを〈数字付き(ナンバーズ)〉や〈師補十八家〉は、四葉家に思い留まるように促した。だが四葉家は受け入れず、〈十師族〉でさえ止めることはできなかった。

 

こうして四葉家と七草弘一の全面戦争が始まろうとしていた。

 

 

 

『復讐は蜜の味』

 

この言葉の意味を知る者は今の四葉家にはいない。いや、知りたくないと言った方がいいだろう。

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