七草弘一に襲撃時間の書いた文を送る前、克也は救出すべき人物に連絡していた。もちろんプライベートナンバーでだ。自宅にかけたところで、七草家の使用人に切られるのが予想される。
『もしもし克也君?』
「お久しぶりです七草先輩。今どちらにおられますか?」
『吉祥寺の別荘にいる九亜ちゃん達の様子を見に来ているの』
電話をかけたタイミングは偶然だが、いてほしいところにいてくれたので今回はラッキーだ。
「明朝、七草邸を襲撃します。その際に九亜達が弘一の手下に狙われる可能性がありますので、できる限り早急の避難をお願いします」
『急に言われても準備なんてできてないわよ?』
「分かっています。ですがそこにいれば、間違いなく殺されるでしょう。先輩も狙われる可能性があります」
『何故お父様がそんなことを!?』
確かに実の父親が自分を殺すなど思いたくないだろう。だがやりかねないのが弘一であり、自分の悪行が明るみに出たことで余計に危険度が増している。自分のことをよく知っている人間は、監視するか殺すかのどちらかだ。
「もはや一刻の猶予もありません。今すぐにそちらへ使者を向かわせますので先輩も避難して下さい。我々四葉家が責任を持って保護します」
『…わかったわ。みんなと待ってるから』
真由美が少し悩んだのは、克也の言葉を信じるかどうか迷った結果だろう。信頼度で言えば克也の方が遙かに上である。父が何をするのかわからない。頭で考えていることと口で言っていることが、一緒だと自分には思えない。そして父の悪行を知ったことで、父親としての存在はなくなった。
いや、妹の香澄と泉美と親子関係を断絶したときからだろうか。それでも父親として信じたかった。1人の魔法師として信じたかった。でも克也の最愛の妻を殺したという事実があるならば、自分も自分の道を歩まなければならない。
それが克也の提案を受け入れた理由だった。
克也は電話を切った後、花菱兵庫と青木に大型のリムジン2台で今すぐ吉祥寺に向かうよう命じた。位置はさきほどの電話回線を辿れば探知は可能だ。ちなみにこれは非常に難しいので、藤林に逆探知してもらっている。
その地点をナビに入力した2人は、法に引っかからないギリギリの速度で向かった。念の為に黒羽家の魔法師を5人ほど護衛に回しているが恐らく大丈夫だろう。克也は深雪に七草弘一に対して、翌日の襲撃時間を記載した文を黒羽家の配下の魔法師に届けるよう命じ、自分達も翌日のために準備を始めた。
文を読んだ弘一は僅か15分後に、九亜達のいた吉祥寺の自分の別荘を襲撃した。もちろん九亜達を世話していた家政婦や使用人も、既に避難していたため死傷者はいない。
しかしそのやり方があまりにもひどすぎたためか。現場検証を行った警察は怒り狂っていた。別荘は半分が灰と化し、半分は今尚燃え続けていたそうだ。どうやら《燃焼》の魔法を得意とする魔法師が関係していたようだが、周囲の想子レーダーは悉く破壊されており、実行者を捕まえることはできなかった。
七草弘一より四葉家へ、真由美・九亜一行・吉祥寺の別荘関係者を引き渡すよう要求があった。その要求を克也達は黙殺したのだった。
2103年2月8日午前10時
四葉家及び分家、そして四葉家が抱える傭兵部隊の大半が動員された七草弘一との全面戦争が行われんとしていた。
「魔法」が御伽話の産物ではなく、現実の技術となってから僅か100年。それだけの間に世界は、魔法師という新しい〈種族〉を造り出すことに成功した。
そして今それを打ち砕こうとする勢力と、それを止めるのではなくその勢力を潰そうとする勢力の最終決戦が行われる。おそらく国内で最初で最後の魔法師同士の全面戦争だろう。
弘一側は七草家の配下の魔法師だけではないが、動員できるほとんど全てを。四葉家側も出せる限りの魔法師を動員させているのだから、全面戦争と言っても過言ではあるまい。
克也・達也・深雪・リーナ・文弥が最前線に立ち、その後ろに亜夜子率いる黒羽家の魔法師・四葉家お抱えの傭兵部隊が並んでいる。それに対し、弘一側はまったく表情のない人形を勢揃いさせている。軽く見積もって50体は下らない。一体何処から集めたのだろうか。
だがよくよく考えれば可笑しなことはない。何故なら〈ジェネレーター〉と同じまたは似た存在である彼等は、七草家の裏家業である〈強化人間〉などの危険分子を排除する仕事で、容易に手駒にできるからである。
四葉にも似たような依頼は来るが、それは要求の大抵が国家に対する反逆を行ったあるいは企てた魔法師の抹殺のため、配下にできる人数は限られてくる。それにこのような感情を奪うようなことはしない。
何故なら四葉家は、感情が魔法に多大な影響を及ぼすことを知っているから敢えて生かしたまま放つ。だが放つ前には四葉家の恐怖・畏怖を本能的に覚え込ませるため、彼等は四葉家の依頼を素直に聞くようになる。
このように
克也が《
「《
「克也の目的は弘一只一人だ。俺達が道を切り開く。その間に克也は深雪と共に七草邸へ突っ込め」
「頼むぞ達也」
克也と深雪は自己加速術式を発動直前で保持してその時を待つ。達也が〈シルバー・ホーン〉を、リーナが〈
それが後に〈
《小規模
倒れた〈ジェネレーター〉の隙間をぬって、克也と深雪は一瞬にして駆け抜ける。駆け抜けたときには、さらなる3つの魔法が〈ジェネレーター〉を襲っている。克也が七草邸に向けて《
だが次の瞬間に《
「…なんとか入り込めたか」
「あそこまで再構築が速いものなのでしょうか?」
「魔法式が安定してきているし洗練されている。使うことに慣れ始めたんだろうね」
そう言いながら《眼》で家の中全体を視渡す。しかし目的以外には何も見つからない。弘一が追い出したのか自ら出て行ったのか。真実を知らなければ分かるわけがない。存在を認識した場所に向かって克也は足を踏み出した。だがその足取りは少しだけ重く、その様子に深雪はすぐに気付いた。兄が何かを視て動揺したのだと深雪は直感した。
その頃弘一は書斎で青年を1人自分の後ろに立たせ、指を絡めてその上に顎を置いて書斎の入り口を眺めていた。
「どう思う?」
「まあ、確実に殺されるでしょうね僕達2人は」
まったく恐れを抱いていない。それどころか笑みを浮かべているのを見ると気持ち悪い。
「まさかこんな簡単に我々の前に姿を現してくれるとはな」
「感情に流された魔法師ほど、簡単に誘導できることはありませんから」
「1つ間違っているぞ七宝君。彼らは魔法師ではない。只の紛い物だ」
「失礼しました弘一殿」
このような姿を琢磨の父や友人が見たら何と言うだろうか。恐らくこう言うだろう。
狂っている。
2人は自分が狂っているとは思っていない。むしろ正しいと思っている辺り、やはり人の道を外れている。2人の含み笑いは克也が到着するまで続いた。
アルテミス・・・全体が銀色で所々に紫の花が装飾された拳銃型のCAD。克也と達也が、移動制限と重量過多の〈ブリオネイク〉に代わるCADとして作成した。