魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第102話 殲滅

耳障りな硝子を引っ掻くような音が耳を貫く。後ろでは亜夜子を抱き名前を呼び続ける文弥の声と、文弥を諦めさせようとするリーナの声が響く。

 

そのどれもが達也の耳に入ってくる。何より精神を蝕むのは、眼前から放たれる敵意ではない。〈アンティナイト〉特有の現象であり、魔法師にとっては危険そのものである、《キャスト・ジャミング》を発する元人間(・・・)

 

だが達也の魔法発動には何ら影響はない。何故なら彼自身の【固有魔法】《分解》は、《キャスト・ジャミング》の影響を無視して発動できるのだから。

 

「どうやって人間に〈アンティナイト〉を埋め込んだ(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「君が知る必要は無い。何故なら君は今ここで死ぬのだから」

 

拓巳はおよそ5体の《キャスト・ジャミング》を放っている自身の人形を、達也を攻撃対象として認識させた。すると5体が一斉に駆け出し、達也に掴み掛かろうとする。

 

達也が最初に近付いてきた人形を、《雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)》で消し去ると拓巳は驚愕を顕にした。

 

「貴様、何故《キャスト・ジャミング》の中で魔法を使える!?」

「つまらん奴だな。それと二人称は『君』じゃなかったのか?被っていた化けの皮が剥がれているぞ。俺が《キャスト・ジャミング》を無視できることがそんなに不思議か?」

 

そもそも達也の【固有魔法】は、魔法式を作り出すものさえ消してしまうので、《キャスト・ジャミング》程度なら簡単に無効化できる。克也の場合は、《キャスト・ジャミング》のノイズが干渉しても、揺るがないほどの〈領域干渉〉を持っているため、普段通りに使用できる。

 

「…君を消せないのであれば他の者を消せばいい。やれ!」

 

拓巳の突撃合図に、残りの人形が全方向に一斉に散ってしまったため、達也は10体しか消し去ることができなかった。

 

「リーナ!今すぐあいつらを追ってくれ。お前がいなければ全員が即死だ!」

「わかったわ!」

 

リーナはすぐに駆け出して人形を追い掛けた。だが文弥は泣き止まない。

 

「文弥、お前も仕事を全うしろ。お前は黒羽家次期当主なんだぞ。お前がここで腐っていたら誰が守るんだ!」

「姉さん!姉さん!姉さん!」

「文弥、今はそれどころじゃないんだ!」

「…克也兄さんは言いましたよね?生きて帰ると約束しろと」

「っ!」

 

文弥の声と眼は憎悪にまみれており、達也でも言葉に詰まってしまった。だが達也もここで引き下がるわけにはいかない。

 

「戦場では人が死ぬ。たとえそれが友人や家族であっても例外はない。ここで亜夜子と共に死ぬか、生き延びて四葉家のため黒羽家のために命を捨てるか今すぐ決めろ。俺はここでお前が決めるまで待ちはしない。生きるなら行動で示せ」  

 

達也はそれだけ言うとリーナとは反対に駆け出した。文弥はしばらくの間迷った。双子の姉をここに残して戦いに戻っていいのか。許されるのであれば、姉と共々ここで死んでもいいのか。

 

だがそれを克也は許しはしないだろう。何があっても全員で戻ると四葉の名にかけて誓ったのだから。姉がいてもいなくとも自分の道を進む。それが克也から教わった生き様だ。

 

大切な人が死んでも前を向いて生きることを。自分の力の弱さを痛感させられても誰かのために生きることを。

 

文弥は亜夜子の亡骸をもう一度抱き締め地面に優しく下ろす。焼け焦げたリボンを形見に戦場へ戻ることにした。その眼は先程とは違い、生きることに執着する。そして敵をただ屠る。それだけを為す。そんな眼をしている。

 

文弥はナックルブラスター型のCADを強く握りしめ、リーナと達也の間の方向へ走り出した。亜夜子の《想い》を胸に秘めて。

 

 

 

リーナと達也は苦戦を強いられていた。もともとリーナは、単体あるいは少数の敵を相手にするのが得意だ。達也はある程度の人数でも問題ないが、激しく動き回る敵を相手にするのは苦手だ。

 

自己加速術式を長時間使い続ける相手と戦ったことのない2人は、徐々に追い詰められていく。達也の場合は人形を相手にしながらも、左手のCADで負傷した黒羽家配下の魔法師を《再生》で治癒しながらの戦いだ。

 

リーナ以上の過酷さの中で、何十体もの人形を倒さなければならない。さらには《再生》を使ったときの副作用で、痛みも同時に受けるのだ。精神的ダメージはリーナの比ではない。だがそれでも戦わなければならない。克也のため四葉のために。

 

「ぐっ!」

 

ついに人形の攻撃が達也を捉えた。一撃喰らったことでさらなる魔法が達也を襲う。《再生》のおかげでダメージはなかった(・・・・)ことになるが、疲労するのは否めない。

 

そして何十回目、何百回目の《再生》を使ったときに達也は違和感を感じた。

 

今のはなんだ?何かが消えていくそんな感じだ。だがそれより重要なのはこいつらを消し去ることだ。

 

達也は違和感を勘違いだと思い込み、記憶の片隅にしまい込む。そして《分解》で縦横無尽に動き回る敵を的確に消していく。

 

 

 

リーナはその頃、壁際に追い詰められていた。体術もそれなりには鍛えているが、敵の体格が良すぎるので華奢なリーナの攻撃では相手に隙を与えるだけだ。体術が使えなければ魔法もあるが、《キャスト・ジャミング》を使われては思うような効果は得られない。

 

完全に手詰まりでありチェックメイトだ。

 

1回くらいカツヤとデートしたかったなぁ。

 

敵の振りかぶる拳を見てリーナはそんなことを思った。振り下ろされる拳を見ずに眼をつぶり、その時が来るのを待った。だが次の瞬間に浮遊感を感じ、抱きかかえられたと思った頃には地面に着地していた。

 

「間に合った!」

 

上から心で呼んだ男の声がした。恐る恐る眼を開けて見上げると、安堵の表情をする克也の顔があった。

 

「カツヤ、どうしてここに…」

「リーナ、少し待ってろ。すぐに終わらせる」

 

克也はリーナの質問には答えず、群がってくる人影7体を一度に相手するように立つ。

 

「カツヤ、そいつらは!」

 

リーナが何かを伝える前に克也は既に突っ込んでいた。右拳でボディーブローを喰らわせ、左の裏拳と右後ろ回し蹴りを放ち、前方へ転がってからの右ストレート。流れるような動きで一瞬の間に5体を屈伏させる。そして1体には、右前蹴りで顎を天に向かって蹴り上げる。残り1人を空中で、前方回転の威力を使って右かかと落としを頭頂部へ振り落とす。

 

全員が屈伏した瞬間、バック転を5回ほどして定位置へ戻りやや大型のCADを構える。リーナが両手で顔を庇うほどの活性化した想子が克也から溢れ、1つの強力な魔法が放たれた。

 

煉獄の剣と化した魔法は、上空10mから落下し地面に屈伏していた7体のうちの1体を貫き、存在の痕跡を残さず全てを焼き尽くした。リーナは非常に強力な魔法であるはずが、まったく爆風を感じず死体の痕跡を何一つ残さなかった魔法に驚いていた。活性化した想子より、こちらの方が穏やかに感じるほどに。

 

「リーナ、怪我はないか?」

「え?あ、うん。ありがとう」

 

急に話しかけられ、先程の怒りが含まれていた声音との差に驚いてしまう。

 

「今の魔法は《グレート・ボム》…なの?」

「違うよ。今の魔法は《レーヴァテイン》。《グレート・ボム》とは無関係さ」

 

《グレート・ボム》とは、達也の戦略級魔法《質量爆散(マテリアル・バースト)》の別称であり、他国がよくこの言葉を使う。リーナはまだ《グレート・ボム》の使用者が達也だとは知らないので、克也の魔法を勘違いしてしまったのだ。

 

「というより何であんたがここにいるのよ。目的は?」

「任務完了だ。あとはこいつらを消して亜夜子を連れ帰る(・・・・・・・・)。それだけだ」

 

リーナは気付いてしまった。亜夜子がもう助からないことを、克也がここに来るまでに知ったと。そして約束を守れなかったことを悔いていると。

 

「ミユキは?」

「達也のところに向かわせた。だが文弥が心配だ。俺は文弥の援護に行ってくるから、リーナは達也達と合流してくれ。そこに向かうまでに敵はいないから安心しろ」

「待って」

 

リーナは走り出そうとした克也の左手を掴み、克也の身体を自分に引き寄せた。自分より20cmも高い克也の唇を自分の唇で塞ぐ。克也の驚いた顔を見て、恥ずかしがりながらも華のような笑みを浮かべる。

 

「…リーナ?」

「フミヤを連れて必ず帰ってきなさい。ワタシのファーストキスを無駄にしたら許さないからね」

「…帰らなければならない理由がまた1つ増えてしまったな」

 

克也が穏やかな照れた笑みを浮かべる間に、リーナは長い髪を風にたなびかせ、自己加速術式で達也と深雪の元へ向かった。

 

まさかの不意打ちに流石の克也も戸惑いを隠せない。よもやこんな戦場で接吻されるとは思ってもいなかった。取り敢えず自分の戸惑いを心の中にしまい込み、行かなければならない文弥の元へ向かった。

 

 

 

文弥と合流して残りの〈ジェネレーター〉を《レーヴァテイン》で殲滅し、達也達の元へ行くと、こちらも戦闘を終えていた。達也の《小規模質量爆散(マテリアル・バースト)》とリーナの《小規模ヘヴィ・メタル・バースト》によって敵は消え去ったようだ。

 

座り込んで涙を流す深雪に近付き隣に両膝をつく。見開いている亜夜子の瞼をそっと閉じ、《回復(ヒール)》で焼けただれた皮膚と服を治すと、まるで眠っているかのように安らかになった。

 

「克也、終わったか?」

「ああ、これで何もかも全てが」

 

目的を果たしたというのに気分が晴れないのは何故か。亜夜子を失ってしまったことがあまりにも辛いからだろうか。落ち込んだ気分で空を見上げていると、ヘリが三機こちらに飛んできていた。

 

「あれは何?」

「…驚いたな。軍のヘリだ」

「何故三機もここに…」

 

数分後、今までの戦いが嘘のように静まりかえった七草邸の庭にヘリが降り立つ。中から現れた人物に克也と達也は驚いた。

 

「大黒特尉・神代特尉、至急対馬要塞と稚内にお越し下さい。新ソ連と大亜連合の艦隊がこちらに向かっています」

 

真田の言葉に全員が驚く。想定していたとはいえ、本当に来るなど思ってはいなかった。

 

「それとリーナ殿、貴女にも足摺岬へ来ていただきたいのです」

「藤林中佐、それは一体どういうことですか?」

「【レプグナンティア】USNA支部の艦隊が来ています。ここに3人(・・)の戦略級魔法師がいますので、今すぐに向かうことができます」

 

確かに黒羽家の車には、念の為に持ってきていた《ブリオネイク》がある。《サード・アイ》は風間が持ってきているだろうから、すぐに向かえば殲滅することは可能だ。だが奇妙なのは、もう1人の日本政府公認戦略級魔法師が出てこないことだ。

 

「五輪家は今回出撃されないのですか?」

「体調を崩されたらしく不可能です」

 

ならば自分達が行くしかあるまい。

 

「達也・リーナ、行くしかない。日本を守るぞ」

「当たり前だ」

「決まってるでしょ」

 

本当に頼りになる家族だ。

 

「リーナ、お前は少し疲れている。少しこっちに来い」

 

克也はリーナの額に右手を押し当て、《癒し》を発動させる。疲労を抜き取り、満足に魔法を発動できるようにした。

 

「達也・リーナ、生きて帰ってこい。そしてまた家で会おう。深雪、リーナと一緒に足摺岬へ。リーナの側にいてやってほしい」

「亜夜子ちゃんはどうするのですか?」

「文弥に任せる。いいか?」

「もちろんです」

 

文弥がしっかりと頷いてくれたので亜夜子を預け、4人がそれぞれのヘリに乗り込む。達也は西の対馬要塞へ、リーナと深雪は南の足摺岬へ、そして克也は北の稚内へ向けて飛び立った。

 

 

 

ヘリの中には柳が〈ムーバル・スーツ〉を着て座っていた。それも深刻な表情をして。

 

「お前もこれを着るんだ」

「了解しました」

 

達也が真田と共に製作した特殊スーツをその場で着替える。

 

「新ソ連の艦隊はどの程度なのですか?」

「ほぼ全艦と言っても過言ではないらしい」

「…本気で戦争をするつもりなのですか?」

 

なんとも言えない大胆さにため息しか出ない。

 

「大亜連合と【レプグナンティア】も、総力を以て我々を攻撃するようだな」

「返り討ちにしてやりますよ」

 

克也の物騒な言葉に悲しげな笑みを柳は浮かべた。着替え終わった克也の両腕には、大型CAD〈レーヴァテイン〉が握られている。非公式な命令だが従わないわけにはいかない。

 

二大国家+過激反魔法師団体が全兵力で向かってくるのだ。第四次世界大戦でも引き起こす気なのかと聞きたくなるが、そもそも大亜連合とは休戦協定を結んだだけであって、完全なる終戦はしていないのだ。

 

新ソ連は相互不干渉条約を締結していたはずだが、一方的に破られた。1945年の日ソ不可侵条約を破棄されたのと同じだ。それなりに報いを与えなければならない。日本に四葉家に牙をむいたことを後悔させなければならない。

 

3人の戦略級魔法師はそれぞれの想いを胸に秘め、目的地へと向かった。

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