魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第103話 完了

冬の寒さを纏った風が、何処までも広がる雪原を吹き抜けていく。眼下を覗けば、人が住んでいない風化した家屋が点在している。ヘリから見えた土地はそんな悲しい風景で、初めて見る北海道の地には哀愁が漂っているようだった。

 

過疎化が過剰に進んだことで人口減少が著しい稚内市は、30代以下の若者が幼い幼児などを除いて全体の20%程度しかいない。赤ん坊が生まれた世帯には多額の生活保護が与えられ、本人や両親が拒否しない限り、20歳になるまであらゆる割引などを受けることができる。

 

国は北海道の過疎化、正確には県庁所在地や主要都市以外からの人口流出を防ぐために必死になっている。寒冷化が進んだこともあり、北海道の人口は最盛期の7割程度まで減少している。土地面積があまり、1人辺りの分配面積が広くなっていく一方である。

 

稚内市で最北端は宗谷岬北西にある弁天島だが、そこは無人島で非常に狭く、手入れされているわけではないので上陸は不可能である。別段必ずそこに行かなければならないわけではないので、稚内市に急遽設置された臨時本部から狙えればいい。

 

克也が乗ったヘリはヘリポートに着陸したが、すぐに魔法発動の準備を整えるよう言われた。駆け足で本部の近くにそびえるビルの屋上に向かう。この部隊での命令権は柳に与えられているらしく、克也と共にビルの屋上に来ていた。

 

「まさか柳少佐に命令してもらう日が来るとは思いませんでした」

 

特化型CAD《レーヴァテイン》の最終確認をしながら、部隊長ではなく司令長として命令を下す柳の緊張をほぐすように、克也は穏やかに問いかける。

 

「俺も思っていなかった。だが良い経験にはなると思っている」

「俺は既に似たような経験をしてますけどね」

「四葉家当主補佐の奴が何を言う」

 

克也が笑顔を見せると、柳は少しだが緊張がほぐれたらしく口も滑らかだ。最終確認が終わり、《レーヴァテイン》を日本海に向けて構えてから視界を広げる。既に新ソ連の艦隊は領海まで残り10km程にまで接近しており、敵艦の試し撃ちも完了済みのようだ。

 

「発動しますか?」

「少し待て。まだ上からの許可が下りていない」

「領海内に入られては、稚内市が一面火の海になり兼ねません。一刻も早い攻撃許可を望みます」

 

上は何を渋っているのだろうか。命令を無視して決行してもいいと思ってしまう。稚内が壊滅しても四葉家には影響などないが、魔法師に対する批判は膨らむだろう。それは四葉家も他人事として傍観などしていられない。

 

「どうやら国防軍情報防諜第三課からの反対が強いらしい。強行採決はできないようだ」

「それならば問題ありません。そこは七草家の息がかかった部署ですから、強行採決しても構わないかと。四葉家がそう言っていると連絡して下さい」

 

もしそれでも文句を言いに来るようであれば制裁を加えればいい。武力をちらつかせたくはないが、そもそも弘一があのような行動をしなければ、こちらも穏便に済ませるつもりだった。だが今は話し合いなどはするつもりはない。力で潰す。それが今の四葉の考えだ。

 

「…許可が下りた。発動してくれても構わない」

「分かりました」

 

俺は大型CADを構えて視界を再び広げる。今はもう《全能の眼(ゼウス)》は使えず、本来の俺の《全想の眼(メモリアル・サイト)》で敵を見据える。使えなくなったのは、目的を達したからだろうか。使えなくても元々の《眼》を使えば問題はない。そもそも《全能の眼(ゼウス)》は、《全想の眼(メモリアル・サイト)》の強化版あるいは進化版だ。使い勝手が良くなるだけなので別に気にしていない。

 

艦隊の中心には、他の誰よりも想子濃度が高い魔法師が乗っているのが視えた。おそらくこれが〈十三使徒(大亜連合が認めていないが正確には十二使徒)〉の1人、新ソ連公認戦略級魔法師イーゴル・アンドレイビッチ・ベゾラゾフなのだろう。彼まで参戦させているとなると、本気で戦争をするつもりだったようだ。

 

見つけた瞬間、強力な魔法発動の兆候を感じ、急遽《レーヴァテイン》の発動をやめ、達也が新しく開発した新魔法《ゲートキーパー》を発動させる。そのおかげか魔法は発動せず我ながら安堵してしまう。

 

 

 

今のは〈領域干渉〉?いいえ、魔法が完成していたにもかかわらず効果を発揮しませんでした。今のは精神干渉魔法の1つでしょうか?

 

戦艦の特別室にいたベゾラゾフはたった一度で、克也が何をしたかの真髄に迫っていた。

 

 

 

今回は何とか発動を間に合わせることができたが次はないだろうな。ならば何も考えず消し去る。跡形もなくこの世界に存在したという意味そのものを。

 

「《レーヴァテイン》発動します」

 

克也は今度こそ《レーヴァテイン》を発動させた。煉獄の炎を纏った剣は、イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾラゾフが乗船している戦艦の上空から引力に従って落下する。ベゾラゾフも何もせず攻撃を受けたわけではない。瞬時に自分が完成させた《完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)》を展開したが、《レーヴァテイン》の熱量と運動量によって定義は無効化された。

 

《レーヴァテイン》が作り出した爆風は、瞬時に艦隊の中心から広がり、円形に半径7kmを航行していた戦艦を全て巻き込んで燃滅(・・)させた。

 

紅い巨大な剣が、遙か遠くの沖合で落下して爆発したかと思えば、何もなかったかのように静まりかえる夜の海原が見える。それを二度現場で眼にした柳は震え上がった。

 

克也の戦略級魔法《レーヴァテイン》が、局所的な爆発でありながら絶大な威力を発揮するのは、克也が指定した範囲内において、上昇気流が高密度で発生するからである。一度の発動で小さく強力で数多の渦が発生し、周囲のものを引き寄せた渦の中で炎が燃やし尽くす。

 

燃滅(・・)完了です」

「…仕事が早くて助かる」

 

柳は微妙な顔で克也を労い、本部に向かってビルの非常階段を下りる。その様子は作戦に成功して喜ぶ士官ではなく、命を奪ってしまったことへ許しを請う1人の人間の様だった。

 

 

 

 

 

克也が稚内で《レーヴァテイン》を発動させたのとほぼ同時に、達也が対馬要塞で《質量爆散(マテリアル・バースト)》を、リーナが足摺岬で《ヘビィ・メタル・バースト》を発動させ、敵からの反撃を受けることなく消滅させた。

 

北で紅・南で黄・西で白の光が輝き、漆黒の闇の中の日本を照らす。

 

この3つの戦略級魔法による新ソ連・大亜連合艦隊・【レプグナンティア】艦隊が消滅した事件を、人々は安易な名前で呼んだ。

 

 

 

【天変地異】

 

 

 

それは人の命を簡単に奪う物でありながら、同時にそれは人の命を救うことを如実に示した。だからこそ魔法は抑止力にもなり兵器にもなりうる。そのため魔法に対する反感は、これからも存在し続ける。克也・達也・深雪がどれほど魔法の使用を制限しても、世間の冷たい視線は注がれ続ける。それでも3人は、日本と世界のこれからを担う魔法師のために、反魔法運動と総力を以て戦い続ける。

 

 

 

 

 

弘一との全面戦争終了後、克也達は真っ先に今回の戦争で失った命を弔った。

 

黒羽亜夜子。

 

亜夜子の遺体に文弥・克也・達也・深雪・リーナが順に、最後の挨拶をする。真夜は元当主としての立場があるのか涙を見せなかったが、葉山は彼に似合わず崩れ落ちていた。四葉の関係者そして年長者である葉山は、亜夜子を含む克也・達也・深雪・文弥・夕歌・勝成は孫同然の存在であり、達也を除いて(・・・・・・)可愛がっていた。

 

達也を可愛がらなかったのは、分家による再度(・・)の〈達也暗殺計画〉を企てさせないための布石だった。本心では皆と同じように可愛がりたかっただろう。

 

亜夜子以外にも四葉の傭兵部隊から15名の死者が出たが、顔を合わせたこともない相手である。それに亜夜子を失った悲しみがある以上、無念だとしか思えなかった。

 

貢は亜夜子を失った悲しみから病気を患い、今は病床についている。もっとも悲しみにうちひしがれているのは文弥だろう。自分が亜夜子の交戦地に着いた瞬間に、目の前で殺されたのだから。

 

リーナも悲しみに暮れ、克也の胸にすがりついて涙を流している。お互いに気を許し、分からないことは互いに教え合い、時には魔法力の競争もした。そして恋のライバルであったのだ。リーナは戦争終了間近に自覚したが、何故亜夜子が自分が四葉に保護された際に見せた笑みの中に、鋭い視線を含ませていたのか知らなかった。

 

だが今になって気付いた。あれは「自分の気持ちに気付け」と「自覚しろ」と言っていたのだと。お礼を言いたい。そして謝りたい。でも亜夜子はもうここにはいない。声を聞くことも話すこともできない。そう思う度に涙が溢れてくる。止め処なく流れ、身体中の水分が涙に変わるのではないかと思うほどに。

 

泣いている間、克也はリーナを優しく抱きしめていた。その優しさが胸に刺さる。亜夜子にこんなことをしなかったのに自分にしてくれる。

 

期待してもいいのかな?

 

リーナは克也の腕の中で泣きながら、心の片隅でそんなことを考えていた。

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