魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第104話 惜別

亜夜子を弔った後、克也は九島家と北山家に対して婚約破棄を申し出た。今の状態で婚約しても心は晴れない。むしろ病んでしまいそうだった。どちらも引き下がってくれたが、渋々という感じなのが心残りである。

 

だが気にしている暇はない。今やるべきことは七草家と七宝家の処分をどうするかが先決だからだ。数日後、四葉家は七草家を擁護する方針で一致した。

 

 

 

戦争から1週間後。七草家を除く緊急師族会議が魔法協会関東支部で開かれ、深雪と克也が会議室に到着して会議が始まった。

 

「今回の事件について申し上げます。七草家の処罰及び〈十師族〉からの除籍及び取りつぶし。以上3つを行わないことを提案致します」

 

深雪が処罰の内容について発表すると、各当主は驚きの表情を浮かべ何人かが叫ぶ。

 

「四葉殿、本気ですか!?」

「克也殿、本当によろしいのですか!?貴方の妻が殺されたというのに何もしなくてもいいのですか!?」

 

二木家と八代家の両当主が質問を重ねる。

 

「無論です。真由美嬢は関係ありませんし、今回の暴走は弘一個人ですので潰す理由はありません。長男と次男の智一殿と考次朗殿は既に拘束済みです。弘一の考えに賛成するばかりか、推進しようとしましたので。現在は刑務所にいます」

「なるほど四葉殿のお考えは分かりました。我が一条家は四葉家に賛同する」

 

まずは一条家が四葉側についた。

 

「十文字家も異議なし」

「九島家も異議なし」

「五輪家も異議なし」

 

これで四葉家を除き賛成と反対は4:4。こちらにはまだ手札があるがまだ出すときではない。

 

「何故取りつぶしになさらないのですか?今復讐せずしていつするのですか?」

「先程から申している通りです。今回の事件の根本は、弘一個人の暴走によるものです。それだけで七草家を魔法社会から破門する理由にはならないのです六塚殿」

 

深雪の威圧に六塚家当主は黙り込んでしまう。四葉家は七草家の滅亡は望んでいない。むしろ繁栄を望んでいる。真由美は信頼できる魔法師であり、何より人の信頼もあり人を動かす力がある。それを無駄にすれば、日本の利益ではなく不利益を被ることになる。

 

「取りつぶすべき家は七宝家です。七宝家は弘一と共謀し、自分の妻を拉致し監禁し拷問した。七宝家は一家総出で荷担していますから、七草家ではなく七宝家を取りつぶしにしましょう」

 

当主の七宝拓巳は、達也の《質量爆散(マテリアル・バースト)》によって、既にこの世から消え去っている。妻や配下の魔法師は自分達は関わっていないと言い張っているが、辰巳の第一発見者が拓巳の妻であり、捜査協力しなかった罪は重い。思い出したくないと発言したのは、関わりを避けるための言い訳だ。

 

「二木家は異議なし」

「三矢家も異議なし」

「六塚家も異議なし」

「八代家も異議なし」

 

こうして七宝家は〈師補十八家〉から除籍され、名義も剥奪されて解体された。七宝家の中心だった人物や配下の魔法師・関係者は個別に取り調べが行われ、危険な人物は拘置所に送られた。要注意人物ではあるが直接・間接的な行動に出ないと判断された人物においては、監視に留めるとして釈放されている。

 

 

 

 

 

 

四葉家の復讐が終わり、亜夜子を亡くした悲しみからようやく立ち上がりかけていた矢先。またしても行き先は闇に包まれた。

 

「起きても大丈夫なのか?」

 

ドアを開けて中に入り、窓枠から庭をヨチヨチと歩く娘を見ている達也に声をかけた。

 

「今日は調子が良い。今のうちに眼に焼き付けておきたくてな」

 

悲しい笑みを浮かべるので、そんな達也を見て俺は心が痛む。窓の外から深雪の楽しげな声が聞こえ、それが余計に心に突き刺さる。

 

達也は母と水波と同じように魔法演算領域のオーバーヒートによって、寿命が極端に短くなっている。今までの《再生》の使用が達也の精神を蝕み始めたのだ。今回の戦争で達也は100回以上行使していたらしい。それが症状の悪化を一層加速させてしまった。

 

「あんまり無理するなよ?余計に寿命を縮めるからな」

 

達也は両手を広げて肩をすくめる。そう達也はもう寿命がないのだ。医師に下された命の灯火は僅か2ヶ月。あまりに短すぎる時間の宣告に、深雪と俺は身体が震え出すのを止められなかった。

 

今は3月24日。樹里の誕生日が5月27日であり、医師の診断を受けたのは2月17日。祝える可能性は限りなく低い。余命宣告を受けてもそれ以上に長く生きる事例もあれば、それよりも前に亡くなる事例もある。余命宣告はあくまでの目安にしかならない。

 

今達也の身体は《再生》が自分の意思とは関係なく、常に発動している状態だ。だから常に魔法演算領域には、多大な負荷がかかっている。それでも達也が平常でいられるのは、達也の保有する想子量が桁違いであり、鍛え上げた身体の強靭さによるものである。

 

だがこの均衡がいつまで続くかはわからない。明日なのかそれともまだ先なのか。もしかしたら今この瞬間、目の前で《再生》が途切れるかもしれない。

 

「取り敢えず飯を食え。少しでも樹里と一緒にいたいなら」

 

俺はテーブルに今日の昼食を置くと、達也は済まなそうな表情をしながら椅子に座って食べ始める。達也の身体は味の濃い料理や脂の多い料理が食べれなくなっている。今は野菜や果物・おかゆといった胃に優しい料理しか口にできなくなっていた。そのせいで今の達也の体重は、明らかに俺より軽く腕は痩せこけている。それでも眼は光を失っておらず未だ強く輝いている。

 

おかゆを食べ終わった達也は、眠気が訪れたのか眼をこすり布団に潜り込むと寝息を立て始めた。俺はおかゆの入っていた皿を持って部屋を出る。

 

 

 

皿を使用人に任せて裏庭へ向かうと、深雪が樹里の歩行を手伝っていた。その様子をリーナが羨ましそうに、裏庭の芝生の上に置かれた机の上の紅茶を飲みながら眺めていたので、リーナの座っている椅子の横に腰を下ろした。

 

「樹里は歩けるようになったのか?」

「あと少しってとこかしら。補助があれば10mぐらいは歩けるみたい。ところでタツヤの容態は?」

「食べてはくれたが明らかに量が減っている。本人は自覚していないようだが」

 

今日の量は先週の3分の2程度でしかない。このままいけば、樹里の誕生日まで生き続けることなど到底できない。四葉家は可能な限り手を尽くす予定だが、現代科学でも治せないものは治せない。魔法は精神に著しい負荷を与えるため、弱っている達也に対して魔法を使う気にはなれない。

 

一番辛いのは深雪であるが、深雪は今とても幸せそうだ。だがそれは樹里を相手している今だけであり、仕事に戻れば達也のことばかり考えてしまって手につかなくなる。そんな生活を1ヶ月続けている。

 

嬉しそうに樹里の手を引き歩行練習をする深雪を、俺とリーナは優しく見守っていた。リーナが頭を俺の左肩に預けた姿勢で。

 

 

 

それから半月後。達也はついに起き上がることも腕を動かすこともできなくなった。口を動かすことはできるが、その姿は今までの健康な達也と比べてあまりにも弱々しかった。

 

「…克也、いるのか?」

「眼を覚ましたか達也。気分はどうだ?」

 

達也が眠るベッドの横で、読んでいた本を閉じて達也に問いかける。

 

「清々しいさ。克也、覚えてるか?俺達が初めて顔を合わせた日のことを」

 

達也の言葉を聞いて、俺は脳裏に達也と初めて出会った時のことを思い浮かべる。遥か遠く22年前の記憶だ。細部までは思い出せない。多少の記憶を視ることができる俺の《眼》は、相手のものを視るのであって、自分の記憶を読み返すことはできない。

 

たとえ自分の魔法演算領域を視ることができたとしても。

 

「ああ、覚えてるよ。確か叔母上のプライベートスペースだったな」

「あの時の母さんと叔母上の嬉しそうな顔は忘れられない。それにお前を視界に入れた時、何故か安心できた」

「それは俺もだ。2人で遊ぶときも何故か叔母上と遊ぶより楽しかった」

 

お互いに微笑みながら眼を見て話し合う。

 

「人造魔法実験を受けて目が覚めた時にも思ったよ。『こいつがいたら背中を預けられる。目の前の敵にだけ集中できる』ってな」

「双子だからって理由じゃダメか?」

 

冗談めかして言うと達也は無邪気に笑った。それは俺が見た達也の最後の笑顔だった…。

 

 

 

 

 

3日後、達也は眠るように俺達の前で息を引き取った。一切の苦しみを感じさせない安らかな眠るような息の引き取り方だった。樹里は深雪が嗚咽をこらえて泣いているのを、不思議そうに見上げていた。

 

達也を父として知りえる日は二度と訪れない。写真や映像を見ても「これが父なのか?」と思うのが関の山だ。だが父親が存在したこと。そして達也が未来に、あらゆるものを託したことを知ってくれればそれでいい。

 

達也を代々四葉家直系の者だけが埋葬される墓に納骨した日。俺は深雪に夜を共にするよう求められた。達也に申し訳ない気持ちがあったが、何より深雪をこれ以上悲しませたくなかった俺は了承した。

 

そして俺と深雪は初めて身体を重ねた。決して俺は達也から深雪を奪いたかったわけではなく、深雪は達也を忘れたくないために重ねたのではない。

 

ただ、お互いの悲しみを癒したかった。

 

ただそれだけだった。

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