魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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最終話 祈り

『そして達也は3ヶ月生きた。余命を告げられながらも必死に生きた理由は、娘と少しでも一緒にこの世界で行きたいと願ったからだ』

 

克也は第一高校の講堂の演壇に立ち、集まった生徒と教師に話しかける。達也が亡くなってから5年。四葉家は達也が天才魔工師〈トーラス・シルバー〉の1人(・・・・・・・・・・・)であることを、正式に発表することを決定した。

 

最初は四葉家内でも反発はあった。だがそれでも深雪と克也は、達也が生きた証を形ある物として残したかったのだ。命という形ある結晶として樹里がいるが、称号というもので魔法社会に残し続けることを望んだ。

 

そういうこともあり、克也は毎年臨時講師として各魔法科高校を訪れ、最高学年に対して演説を行っている。達也のおかげで今の自分達が生まれ、魔法を自由に学ぶことができ、イメージ通りの魔法を発動できるCADを手にすることができているということを教えている。

 

『だから決して忘れないで欲しい。君達が魔法を学び、将来自分達が目指したい職業に就きやすくい社会にしたのは、私の弟である達也の活躍があったということを』

 

克也がそう締めくくると、講堂は割れんばかりの拍手に見舞われた。毎年同じ内容を各魔法科高校で公演しているが、やはり母校で話すときほど力が入ることはない。それは「愛校心」故からなのか。それとも「達也と過ごした高校生活」が忘れられない故か。

 

克也はどちらも正しいと思っている。どちらも自分の心に焼き付いている。死ぬまで。いや、死んでも忘れない。それだけ大切な記憶だ。

 

 

 

校門前を通ると学生時代を思い出す。

 

達也と並んでいると上級生から差別された入学式。優等生と劣等生の溝から生まれたいざこざで疲弊した帰り道。今でも鮮明に思い出せる。まるで周りにその場にいた友人達が本当にいると思えるほど。

 

「お父様」

 

春の風が頬を撫で、髪を揺らすのを感じながら桜を眺めていると、校舎の方から少女の声が聞こえた。振り返ると、高校1年生にして既に世の男を悩殺できるほどの美少女に成長した優姫が、可憐な笑みを浮かべて立っていた。

 

比較していいのかどうかはわからないが、今の優姫は学生時代の深雪にも劣らぬ美貌を持っている。世の中の美人という評価は、時代によって大きく変わっていく。美人が評価される時代もあれば、童顔が評価される時代も巡ってくるだろう。今は特に清楚や清純が評価される時代だそうだ。

 

…つまり優姫の美貌は、評価される時代に合致してしまったというわけだ。紫がかった漆黒の艶やかに流された長髪。全てを見通しながら、包み込む蒼穹のような碧眼。美少女と言えないわけがなかった。

 

「生徒会の仕事はいいのか?」

「今日はお父様が来ているということなので。特別に免除してもらうことができました」

 

納得感とともに疑問が浮かぶ。

 

「それは良しとして。まさか押し付けたりはしてないよな?」

「ギクッ!」

「今ギクッって言ったか!?」

「冗談です。本当に免除されたんです。というよりも今日ぐらいは、一緒に帰れということでしょうね」

 

左両手を頬に当てて少し頬を染めながら熱っぽく見つめてくる優姫に、克也は苦笑いしか浮かばなかった。学生時代の深雪のような動作だ。その様子に克也は「血は争えんな」と他人事のように考えていた。父親に見せていい表情ではない気はするが。第三者が見れば誰もが卒倒するであろう仕草である。

 

そんなことを露知らず。克也は優姫の言葉を吟味していた。確かに一緒に帰ることなどそうそうできないし、職員や生徒会役員のご厚意に甘えることにしようか。

 

「じゃあ、帰るか?」

「はい!」

 

笑顔を向けると満面の笑みを浮かべながら克也の右腕に抱きついた。実際は親子なのだが、克也があまりにも若作りなせいなのか。傍から見れば、10歳ほど年上の恋人に甘える新入生きっての美少女の図である。

 

第三者が見ていればそう思っただろうが、幸いにも今回は誰もいなかったので突っ込まれることはなかった。まあ、誰がいようと何人もの視線を向けられようと、優姫は気にしなかっただろうが。

 

何故なら優姫は深雪の重度のブラコン(・・・・・・・)と同じ、重度のファザコン(・・・・・・・)なのだから。

 

 

 

克也の所有物である車の中で克也は優姫の髪を解いていた。一切の乱れのない紫がかった漆黒の髪を、克也に解いてもらうのが、優姫にとって一番のご褒美だ。もちろん母のリーナに解いてもらうのも好きだが、大雑把な性格が災いしたのか。どちらかと言えば、優姫は克也にしてもらうことを好む。

 

 

閑話休題

 

 

「相変わらず癖が何1つないな優姫の髪は」

「お父様のために毎日ケアしていますから」

「褒め言葉を言ってくれるのは嬉しいが。そろそろ父離れしてくれ。高校生だろう?」

「歳は関係ありません」

 

どこかで聞いたことあるセリフだが今は気にしないでおこう。今の優姫の髪の長さは腰ほどであり、中学生になった頃から伸ばした成果なのだが、3年でここまで伸びるのかと思うほどの速度である。

 

中学入学当時は襟足に髪がかかる程度だったのだが、3年で40cmも伸びた計算だ。髪は1日に0.3mm〜0.4mm。つまり1ヶ月では、1cm前後伸びる計算で1年間に12cmである。もちろんこれは目安なので、個人差が出るため正確な数字ではない。その数値を平均として考えると、優姫はかなり速い体質なのかもしれない。

 

優姫の髪を解くといってもくくることはしない。それに優姫はストレートを好むので櫛を通すだけで済む。それ自体をする意味がないほどさらさらなので、優姫の機嫌取りというのが名目に近い。

 

ある程度櫛を通しているとメールが届く。車に取り付けられた通信機を開いて、克也は大きなため息をついた。

 

「どうなされたのですか?」

(はるか)がまたやらかしたらしい。何故あいつは問題を起こしたがるんだ?」

「思春期だからだと思いますよ?」

 

克也に髪を解いてもらい。さらに機嫌が良くなった優姫は、華のような笑みを浮かべたので克也も毒気を抜かれた。

 

克也の息子の悠は、四葉家とは思えないほど問題児である。優姫に礼儀やマナーなどを全て持っていかれたのか。はたまたリーナの中に置いてきたのか。判断に迷うところだ。

 

問題児とはいっても、犯罪や誰かを本気で傷つけることなどは決してしない。素行・口・髪型・人相がやや悪いところ以外は、至って普通なのである。魔法力は四葉家に相応しいものであるし、【固有魔法】も保有している。

 

「母さんが迎えに行っているからこのまま真っ直ぐ帰ろうか」

「はい!」

 

帰宅(優姫の中ではデート)するために、克也は自動運転から手動に切り替えてアクセルを強く踏んだ。

 

 

 

 

 

翌年、優姫の従姉である樹里が第一高校を卒業した。そしてかねてからの婚約者であった、同い年の幹比古と美月の長男である柊真(とうま)との婚姻の義が行われた。こうして正式に四葉家と吉田家は親戚同士になった。

 

そして克也・深雪・幹比古・美月の4人は、四葉家のテーブルを囲んで和やかな空気を醸し出していた。ちなみにリーナは使用人達一緒に、婚姻の義の後片付けに参加中である。

 

「これでようやく俺達は親戚同士になれたわけだが。えらく時間がかかったものだ」

「そう言わないでよ克也。2人ともシャイなんだからさ」

 

意地悪く言うと、幹比古は焦ったように首を振りながら言い返す。いつまで経っても高校時代と何も変わらないので、あの頃が懐かしく思えてくる。

 

「吉田君と美月の性格が化学変化を起こして、社交性に富んでくれたらよかったのに」

「それを言うなら樹里の変わりようも相当だぞ。幼いときの樹里のお転婆さを何処かにやったのはどなたでしたっけ?」

 

痛いところを突かれたらしく、深雪はふんっと顔を背けてしまう。笑い声が謁見室に響き、いつも通り昔と変わらない楽しい時間は過ぎていく。

 

「エリカは結婚しないのかな?」

「エリカと釣り合う男はいないだろ?」

「釣り合うなら克也さんぐらいですね。でももう立場的(・・・)に必要ないかと」

「美~月?少しこちらに来てもらえないかしら?」

「ひゃい!?」

 

地雷を踏んだらしく美月は深雪に連行され、克也と幹比古は微妙な笑顔を浮かべながら見送ることしかできなかった。

 

「でも美月の言いたいことは間違ってないよな?」

「うん。エリカが克也のことを異性として見てたのは事実だからね。深雪さんも怒らず、美月さん(・・・・)にああやって笑顔で話してるんだろうね」

「女神の微笑みではなく氷雪の女王の笑みだけどな」

「克也お兄様、何か仰って?」

「いえいえ何も。どうぞどうぞお続け下さい」

 

ひそひそ声で話していたのにも関わらず、聞こえていたのは地獄耳だからだろうか。それとも予想していたからなのかは分からないが、余計なことを言わない方が身のためである。「口は災いの元」という諺は的を射ている言葉である。

 

余談だが、優姫が生まれて数年後にエリカが克也の愛人となっている。名目上は愛人だが克也は決してそのように扱わない。1人の女性として妻としてエリカを受け入れていた。かといって四葉家内でゴタゴタがなかったわけではない。

 

リーナとか真夜とかリーナとかリーナとか。

 

克也は四葉家の勧めもあり、エリカの性格を知っていた上で要望という名の告白(・・・・・・・・・)を受け入れた。あのエリカが乙女らしく好意を伝えるわけがなかったのだ。だが克也からすれば建前の理由でもよかった。エリカの本心が伝わっているのだから。

 

とある魔法の過剰使用で、子を望めない身体なのもあったのだろう。それに気付いたことで踏ん切りがついたのかもしれない。エリカが決してそのことを言うことはないが。受け入れた時のエリカを克也は忘れない、少しだけ乙女のエリカを見たのだ。好きな人に受けいれて貰えたことの喜びと安堵の笑顔を。

 

形だけの夫婦生活はとても順調だ。傍から見ればやや乾いた関係のように見える。だがエリカを知っている友人達からすれば、あのエリカが心の底から幸せなのだと伝わってくる。

 

克也と周りにバレないように(全員が気付いているが)克也の袖を申し訳程度に掴んでいたり。2人っきりだけになれば想像をつかないほど甘えたり。克也はそのギャップに心を満たされるのだ。リーナとは違った愛情表現があるのだ。

 

 

閑話休題。

 

 

「それより幹比古は、未だに美月のことを名前だけで呼べないのか?」

「違和感がありすぎて言いにくいんだ。一度呼んでみたら空気が割れた感じがしてね。少しの間だけ口をきいてもらえなくなったから。それ以来口にしにくくて」

 

気持ちは分かるが、一緒になってから20年近く経つのだ。息子も父が母を「さん」付けで呼んでいるのは、なんとなく居心地悪いだろう。

 

「無理にとは言わないが努力はしなよ。お前はそういうの得意だろ?」

「それなりには頑張るよ。でも別れを切り出されたら…」

「考えすぎだ。美月はそんなことで別れを切り出しはしない。心からお前を愛しているからな」

 

笑顔を向けると幹比古も優しい笑みを浮かべた。

 

「ありがとう克也。やっぱり相談相手は必要だね」

「もう親戚同士だしそれ以前に俺達は友人だ。友人の悩みを聞いてやるのも、友人としての存在意義でもあるんだからな」

「相変わらず名言を残すね克也は」

「当たり前のことしか言っていないつもりなんだがな」

 

肩をすくめながら答える。実際、人としての立場を考えた上での発言なのだが、幹比古からしたら神託・天啓にでも聞こえたようだ。自分の言葉でもそうでなくとも、それで生きる意味や努力するきっかけになればいいと思える。

 

「問題なら俺にもある。優姫にはそろそろ父離れしてほしいんだけどね」

「克也が魅力的過ぎるんじゃないかな」

「俺が望んだことじゃないんだが…」

 

何とも言えない表情をしていると、幹比古は人の悪い笑みを浮かべた。高校時代の克也と達也の人間の悪さが伝染したようだ。

 

優姫は小さい頃から「お父様のお嫁さんになる」と周囲に漏らしていたので、克也はある意味嬉しかったのだが、婚約者を見つけることができないので頭を抱えていた。追撃でリーナが優姫の前で、「パパはママの物」と対抗したりしたのだ。その度に両腕を引っ張られることもざらにあった。

 

思い出したらまた頭が痛くなってきたな。

 

「まあ、可能な限り見つけられるようにしておくよ。あと悠の婚約者も」

「じゃあ、レオの子供はどう?」

「いいと言うかわからんし、どっちも会ったことないからなんとも言えないなぁ」

 

レオは祖父の故郷ドイツで結婚して家庭を築いている。悠の1歳年下なので婚約は可能だ。悪くはないがドイツが許可するか分からない。そこが一番の問題だ。ローゼンを通せば可能性はなくもないが。

 

裏庭にいる中睦まじい様子の樹里と柊真を縁側から見つめる。樹里が次期当主なので柊真は婿入りだ。四葉家でこれからを生活することになる。

 

達也が残した命はここに残り、達也の意思を受け継ぎ、次の世代に着実に繋がっている。それは友人達も胸に抱き、いつまでも四葉家が存続する限り、友人達の心が引き継がれる限り消えることはない。

 

 

 

 

 

西暦2168年、克也はその波乱な生涯の幕を閉じた。

 

享年九十歳 老衰。

 

四葉家の双子の兄として生まれ、最愛の女性を失った悲しみから立ち上がり、その女性が愛した世界で生きることを選んだ。多くの人を愛し、多くの人に愛された克也の心もまた次世代に受け継がれている。

 

優姫・悠・樹里・(かなめ)李土(りど)典孝(のりたか)に、「人を愛し自分も愛せ」という家訓を渡し遺言とした。

 

そして遺骨は四葉家直系が入る墓ではなく、妻である水波とリーナが眠る墓に納骨された。

 

 

 

 

 

『...ここは?』

 

俺が目を覚ますとそこは暗い闇の中だった。死んだのは自分でも分かっている。これが死者の国と言われる場所なのだろうか。

 

『遅いわよ』

『お待ちしておりました』

 

かつて愛した女性2人が俺の前に現れ、その容姿は学生時代の頃のものだった。自分の手を見ると若返っており、しわもなく若々しい皮膚がある。

 

『迎えに来てくれたのか?』

『あんたが死ぬの遅いから、強制的に連れてこようとしたくらいよ』

『ここで待っていれば会えると思っていましたから』

 

2人はそれぞれの個性ある言葉で俺を迎えてくれた。

 

『ありがとう水波。それじゃあ行こうか』

『ちょっとワタシは!?』

『話したいことが沢山あるんだ』

『無視すんなぁぁぁぁ!』

 

後ろから怒りの声が聞こえるので、弄るのもここまでしにておこうかな。

 

『冗談だ。さあリーナ』

 

右手を差し出すと、頬を紅潮させながらも嬉しそうに右手ではなく右腕に抱きついてきた。すると水波も負けんとばかりに左腕に抱きついてきた。そんな2人に苦笑してしまうが、ここまで自分を愛してもらえるのは悪くない。俺は幸せ者だ。

 

『あの光に向かって歩こうか。まだまだ先は長いけどね』

『克也様がいれば、どれほど長い道のりであろうと困難が待ち受けようとも微塵も気になりません』

『その気持ちはワタシも負けないからね!』

『今回も楽しくなりそうだな。さあ2人とも新たな旅の始まりだ』

 

俺は水波とリーナを連れて、暗闇の中を照らす一点の光に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

これは旅の終わりではなく途中経過に過ぎない。終わるときなど来ないかもしれないし、終わりがすぐに来るかもしれない。

 

だが3人からすれば、そんなもの「だから?」の一言で終わらせるだろう。3人の楽しげな幸せそうな声は、暗闇の中でも明るく響いている。まるで幼きときに戻ったような。純粋に自分達のしたいことをやりたいようにやる。そんな様子だ。

 

もしかしたら3人が本当に望んだのは、〈世の摂理〉に従わず、何も考えず暮らす。そんな当たり前の生活だったのかもしれない。日本を護り、弱き者を助け、他国の脅威を未然に防ぐ。などといった一瞬の気の緩みが許されない状況。そんな支配から解き放たれた今を謳歌する。

 

それが今の3人の心を満たす幸福感なのかもしれない。




これにて本編は終了となります。克也達の子供世代のストーリーは、後ほど投稿させていただきます。


四葉優姫(ゆうき)・・・克也とリーナの娘。克也の髪とリーナの眼を受け継いだ美少女で重度のファザコン。

四葉(はるか)・・・克也とリーナの息子。ちょいワル顔であり、学校で頻繁に問題を起こして克也とリーナを悩ませている。

四葉樹里(じゅり)・・・達也と深雪の娘。四葉家の次期当主で柊真の妻。

四葉柊真(とうま)・・・旧姓吉田柊真。幹比古と美月の息子。美少年でありながらかなりのシャイ。樹里の夫。

四葉(かなめ)・・・樹里と柊真の息子。李土(りど)の双子の兄。

四葉李土(りど)・・・樹里と柊真の息子。(かなめ)の双子の弟。

黒羽典孝(のりたか)・・・文弥の息子。
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