第1話 始まり
私は父 司波克也、母 四葉
詳しくは今後話していきますが、かいつまんでお話しさせていただきます。
お母様の祖国のかつてUSNAと呼ばれた国から、亡命されたお母様を受け入れたのが、お父様の家系である〈十師族〉の一角を担う四葉家でした。かつて〈最功〉と謳われ、引退しても尚〈閣下〉と呼称された九島烈様に、受け入れの許可を頂き姓を変えられました。
話を戻しましょう。
私は
そして私は自他共に認める父親大好き通称ファザコンなのです!仕方ないと言っては呆れられるかもしれませんが、本当に仕方ないのです!漆黒のように黒い髪に星々を散りばめた黒水晶のように澄んだ瞳。そして何より素晴らしいのが鍛え上げられたその肉体!
40代を迎えているというのに一向に衰える様子を見せません。完成されたその肉体は、もはや作品としか形容できませんね。容姿もお若いので年齢を知らない方が一目見ると、20代後半としか思われません。
一度お父様と2人で
実際、お父様はかつて誰も実現できないとされてきた常駐型飛行術式を完成させた天才なので、違う意味では空を飛ぶことができます。しかしあの時は本当に、術式を使わずとも浮かぶことができるのではないかと思わせられました。
家に帰ってそのことをお母様にすると嫉妬されました。優姫は悲しい…。そのあとお母様がお父様に噛みついていました(文字通りに)が、お父様は微笑を浮かべて抱きしめられました。そうすると顔を真っ赤にさせて俯くお母様が私の眼に映りました。
私はそれに嫉妬しました。お父様に撫でられて抱きしめられたいというのに、それを先にしてもらえるとは悔しいです!
…コホン。とまあ簡単な私のお家事情は理解されたでしょうか?簡単に言えば我が家は他者から見ると、若干可笑しいものなのです。
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ある日の朝。自宅前にコミューターを回してもらって乗り込んでいると、心配そうな顔で私を覗き込むお母様の姿がありました。
「CADは持った?ハンカチとティッシュは?忘れ物ない?」
「大丈夫ですお母様。もう中学生ではないのでそこまで気にしなくて大丈夫ですよ」
「でも何かあったらどうしようって思うの」
お母様は極度の心配性なのです。四葉家当主である叔母様によれば、自分にとって最初の子供だから仕方ないとのことですが、私からすれば少々。いえ、かなり重いです。あ、お父様ならいくらでもウェルカムですよ?
「叔母様、優姫も高校生なのですから心配のしすぎは疎遠扱いされますよ?」
「ユウキなんだもん。女の子だし暴漢に襲われないとも限らないから」
「優姫と私なら余程のことが無い限り返り討ちです」
お姉様の言う通りです。今の私達であれば想定外の事態が起こらない限り、魔法でも体術でも勝てる者はいません。余程の人数差でない限りという注釈付きではありますが。だって師に勝てるわけ無いじゃないですか!全国各地で道場破りを行い、その行動が伊達ではなかったということを示した赤髪の女性に!お父様の前ではやや乙女らしい様子になるのですけど。
「リーナ、少しぐらいは大目に見なさい。優姫だっていつまでも子供じゃないのだから」
リーナというのがお母様の本名です。
「ミユキは慣れたものでしょうけど。私にとってはこれが初めてなんですかね」
「そこまで言うのであれば切り札が必要ね。次にお兄様が帰ってきたときは私優先にするから」
「なっ!そこは譲らないわよミユキ!」
「その通りです当主様!私優先です!」
「ユウキまで!カツヤは私のなの!」
「「
お父様のことで喧嘩しているのをお姉様が見て、脱力気味にため息を吐くというのがいつもの情景です。四葉家関係者からすれば、今日も平和だと思える光景らしいので、これはこれでよしとしましょうか。
「優姫、そろそろ行かないとリハーサルの時間がなくなるわ」
「そうでしたねお姉様。それではお母様・当主様、、行って参ります」
「「頑張って」」
お二人に腰を折って優雅に一礼をしてからコミューターに乗り込みます。見送ってくれるお二人に手を振って、私はお姉様と一緒に第一高校へと向かいました。
愛娘を見送った私は、少しだけ安堵の息を吐く。
実践的な魔法技術を学ぶのは高校からであって、中学生の頃は魔法素質がある子供に簡単な魔法を教えるだけ。家によっては、幼い頃から魔法を親や研究者などに指導してもらうことができる。現実的なことを言えば、あまり教えない方が世間の眼は柔らかい。
魔法師家系であれば、指導力や機械などに困らないから指導の質が高くなる。でもそうでない家庭は、金銭を払って専門の魔法師に教えを請うしかない。教えを受けられたとしても短時間でしかなく、金銭もそれほど安く済むわけでもない。
こういうことから強力な魔法師を抱える家系以外は、自然と魔法の指導はあまり行わない。故に【第一世代】や魔法を使える家系に生まれたとしても、魔法科高校に入学できるかどうかはわからない。できたとしても実力差は歴然としており、卒業後も満足できる魔法的な仕事には就けない。
それが私がこの国に来て、娘を育てる上で身に染みて感じた現状。日本だけなのか世界共通なのかはわからないけど。
「あまり心配しすぎないように。そんなことで倒れられたらお兄様に会わせる顔がないわ」
「わかってはいるんだけどね。ユウキを見ていると不安になるの。昔の私を見ているようで」
昔の私は自分のやるべき事を唯為すためだけに動いていた。それをしなければ、自分の存在価値は何なのかと疑い正気でいられなかった。
でもカツヤと出会って私は変われた。あの頃の自分はUSNAの戦略級魔法師〈アンジー・シリウス〉としてではなく、唯の魔法師であるアンジェリーナ・クドウ・シールズとして見てほしかったのだと今だと思える。
無茶なことをして周囲に迷惑をかける性格だった自分のようになってほしくないから、ユウキに対して過保護になってしまう。あの頃の自分と今の優姫を重ねて比較してしまう。それが今の私がしている行動。たとえユウキの枷になっているとわかっていても。
ユウキにつけられた〈妖精の姫〉という二つ名さえ、今のユウキにとっては何物でも無い。唯の二つ名であって、自分の精神などに影響するものではない。
「優姫なら大丈夫よ。敬愛するお兄様と私の親友であるリーナの間に生まれた子供だから」
「クスッ、ミユキが言うと説得力があるわ」
「もちろんよ。〈十師族〉の一角を担う四葉家の現当主の言葉に説得力が無くてどうするの。さてと私達も仕事に入りましょうか。今日は
「忘れてたわ。改名してから初めての訪問だった」
深雪とリーナは顔を綻ばせながら、広大で贅沢ではあるが不思議と質素に感じられる日本家屋へと入っていく。2人の表情はとても明るく、過去に辛いことがあったのかと疑問に思うほど純粋な笑顔だった。
自宅へと入る。艶があり何色にも染まらない黒髪と派手すぎず、しかし嘆息するほど可憐な金色の髪を一吹きの朝の風が揺らす。4月にしては温かくそして柔らかく優しい風は、まるで遠くにいて顔を合わせられなかったことを謝罪するようだった。
それを感じたのか2人は入る直前に北東へと顔を向ける。今そこにいるはずの。2人にとって切っても切り離せない人物が、こちらを見ているのではないかと思い淡い笑みを浮かべた。