自家用車でお姉様と2人だけのちょっとした遠出。とは言っても言っても現実は厳しい。向かう場所はショッピングモールでもなければ高級料理店でもないのですが。
学生と名のつく者が抱く感情。半分は新しくできる友人への期待感。半分は嫌でもしなければならない勉強というものへの絶望感。
それ故に正と負の感情が入り混じり、なんと表現すればいいのかわからない。それでも新学期であり高校生活という中学生とはまた違った学年と考えれば、頭でわかっていても舞い上がってしまいます。
「緊張してるの?」
そう優しく問いかけてくれるお姉様のおかげで、私の緊張は少しばかり和らぎました。やはりお姉様は素晴らしい方ですね。抑えていたつもりでいたのですが、自覚しないうちに不安が漏れ出していたようです。
「それなりにはしています。人前に立つことはそれほど得意ではありませんから」
「四葉家の娘でしょうに。どうしてこうも性格が違うのかしら」
「人それぞれですお姉様。それに親がああであればこうなっても仕方ないかと」
そう私の母である四葉
別の言い方をすれば、湾曲した愛情表現といったところですね。嬉しいのですけどもう高校生なのですから、少しぐらいは大目に見てほしいと思うのは可笑しいでしょうか。お母様のことは嫌いではなく、むしろ好きですけどあれがあると素直に口にできなくなります。
「叔母様の過保護さには困ったものね。お母様のように少しは遠くから見守るだけにしてくれれば良いのに」
「ですよねお姉様!これでは周囲からかわれるのが目に見えています」
すると電話を知らせるメロディーが車内に響き渡りました。
「あら?こんな朝早くから電話なんて誰からかしら。お母様と叔母様は準備で忙しいはずだけれど」
「ものは試しではありませんが。取り敢えず開けば良いのでは?」
四葉家が所有する自家用車の電話番号を知っているのは、一家のご友人と関係者のみ。しかも今乗車している車の名義はお姉様ですから、番号を知っている人物はさらに一握り。まさかですけどあの人でしょうか?いえそんなはずはないです。忙しいですから連絡する暇も無いはず…。
「もしもし」
『おはよう2人とも。今時間あるか?』
「「叔父(お父)様!?」」
車内のスクリーンに現れたのは、画面越しでもわかる鍛え上げられた肉体に、40代には見えない若々しい容姿をした初対面であれば青年とも思える人物。四葉家が誇る最大最強の魔法師であり、日本が世界に誇る戦略級魔法師。お姉様のお父様である司波達也の兄であり、私の実父である司波克也その方でした!
『ビックリしたか?サプライズになったのであれば大成功なんだが』
「ビックリも何も…」
「お父様ぁぁぁぁぁ!」
『優姫はいつも通りのようだな。樹里も元気そうで何よりだ』
「ロサンゼルスにいるのでは?時間帯を考えるとお昼の15時頃でしょうけど。今はお昼休憩ですか?」
『巳焼島から緊急のSOSが届いてな。四葉家とかには連絡せずに昨日の夜には着いていた。サプライズで本家に帰ろうと思ったけど、予想以上に深刻な問題だったから報告が遅れてしまったのさ』
お父様はわかってしていらっしゃるのでしょうか。柔らかに微笑んでいれば、世の女性を虜にしてしまうものであるというのに。無意識とでも無自覚とも言いますが罪な人ですお父様!それは私だけに向けるべき表情です!お母様でも叔母様でもありません。私だけにです!
『…優姫に睨まれているんだが。俺は何かしたか?』
「叔父様はわかっていらっしゃらないのですか?」
『何を?』
「…いえ、何でもありません」
お父様ぁぁぁ!小首を傾げないでくださいぃぃい!私を殺すおつもりですか!?悶え死にさせるおつもりですか!?ああ駄目ですお父様。そんな風に迫られては私どうにかなりそうですぅぅぅ!
『本当は優姫に入学のお祝いを言いたかったんだがエキサイトしてるから後回しだな。樹里、進級おめでとう。ついに最終学年というわけだが、気を抜いたら許さないぞ?最終学年こそもっとも大切な時間だからな』
「心得ております叔父様」
『主席入学して主席卒業することを期待しているぞ。ああ、それとあまり
「そ、そんなはしたない真似は致しません!」
『ははははははは。言葉に詰まったところを見ると図星か?柊真もとんだお転婆な彼女をもったもんだ。いや、婚約者と言うべきか?』
「…帰ってきたら魔法練習の刑です叔父様」
『どんと来い』
まったく伯父様という方は、どうしてこうも人をからかうのがお好きなのでしょうか。嫌ではなくむしろ嬉しいのですが、TPOを考えてほしいと思うのは私だけでしょうか。仕事柄家に帰ることもままならず、家族と会話をする機会もない。こうしてストレス発散させていただくのも、次期当主としての責務。
不満など口にはせず、真摯に向き合って会話をしておくべきでしょうね。隣では自分の体を抱きしめて悶えている優姫がいますが、それは放っておいてもいいでしょう。むしろ放っておかないと私の精神がもちません。
「次はいつお戻りになるのですか?」
『ここの問題が片付いたらまたロスだからなぁ。早くて2週間で遅かったら1ヶ月とかそんな感じだな。うぉい文弥、いきなり引っ張るな。せっかくの親子の団欒だぞ。え?俺じゃないと対応できない?そんなの平河にさせておけ。あいつならどうにかしてくれる』
「叔父様?」
『すまん。どうやら俺でないと無理らしいから切るぞ。その前に優姫を呼んでくれないか?言ってきたいことがある。わかったわかったから文弥。そんなに腕を引っ張るな。脱臼するって』
どうやら画面の向こう側では、文弥様が叔父様を催促しているようです。文弥様もイケメンなのですが、叔父様が絡むとどうしようもなくだらしなくなってしまうので、どう接するべきか迷ってしまいます。
取り敢えず叔父様の身体のことを考えると、手っ取り早く優姫に代わっておくべきですね。叔父様の【固有魔法】を使えば、脱臼程度の怪我は怪我と呼べるほどでもありませんが。
「お父様、何用でしょうか!?」
『まあそのなんだ。あまり深雪・樹里・母さんに迷惑をかけないように良い娘でいること。いいな?』
「お父様まで子供扱いですか?これでも華の高校生ですよプンプン」
『「自分で言わないのでは?」』
「気にしたら負けですよお二人とも!」
えっへんと胸を張ってはいますけど、ボリュームが足りていないので、何故か虚しく感じてしまうのは私だけなのかしら?ボリュームと言えば私の方が余裕で上です。2つ年上だということも理由の1つですが、2年後のことを考えると勝つ気しかしません。
「お姉様、今自分の方が大きいと思いましたね?私はまだ発展途上ですから成長の余地はあります。しかしお姉様はもう成長しないのでは?去年から大きくなっていないと叔母様から聞きましたよ?」
「どうでもいい情報を入手してるんじゃないわよ!それとも大きさで負けてるから、そういうことを言ってるだけでしょう?負け惜しみとも言うわ」
「成長してない人に言われたくありません!」
「小さい子に言われたくないわ!」
こうなったら異性に聞いてもらうのが一番。
「「叔父(お父)様、胸は大き(小さ)い方が良いですよね!?」」
『……………どっちでも構わないんじゃないか?』
「「その間は何ですか!?その間は!?」」
『いや、だって男の俺に聞いたところでじゃん?俺だけが言っても意見にはならんだろ」
「「文弥様はどう思われますか!?」」
『文弥、って逃げたぞあいつ。関わりたくなかったみたいだな』
「「文弥様ぁぁぁぁぁ!」」
こういうときに限って逃げ出すなんて本当に男性なのでしょうか。〈男たるもの背を見せて逃げぬべし〉という家訓でもしたためてもらいましょう。
「「叔父(お父)様の本音はどっちですか!?」」
『……正直、豊満だろうが控えめだろうが俺的にそこは問題じゃない。愛する人がどっちであろうと好きなことには変わらんからな。…まあ、大きければその柔らかさには癒されるかもしれんが。控えめならそれはそれで愛着が湧きそうだしな。とはいえ、魅力は胸のサイズで全てが決まるわけではないさ。大きくしたり小さくしたり自由自在なわけでもないんだから、それで決めつけるのはどうかと思うぞ』
「「…」」
ぐうの音がでないとはまさにこのことです。というよりそのような話題で盛り上がってしまうとは、淑女としてあるまじき行為です!
『まあ、でも思春期なら悩んでもいいんじゃないか?深雪だって悩んでいたみたいだしな。リーナがどうかは知らんが』
「お母様もあったのですか?」
「叔母様が」
『そりゃ深雪にだって悩みはあったさ。恥を忍んで相談されたぐらいだからな。俺はありのままでいろと伝えたさ。そしたらいつの間にか素晴らしいプロポーションになってしまったが』
あの淑女の鏡であるお母様が、同じような悩みを抱えていただなんて想像もしていませんでした。お淑やかで清楚なお母様が叔父様に相談していただなんて。
「ではお父様、私にご教授ください」
『なんで父親の俺が手解きするって話になるんだ。リーナか深雪に聞けば良いだろうに』
「お父様だからこそお願いしているのです。今なら私の身体はお父様のものですよ」
『おい樹里、これは危険信号だと思ってもいいよな?』
「相違ありません。私がしつけておきますので仕事に戻られた方が良いかと」
『そうだな。文弥も怒っているだろうしそろそろ戻ることにしておくよ。優姫、入学おめでとう。高校生活を謳歌するんだぞ』
「いやぁぁぁぁぁ!お父様もっとお話をぉぉぉぉ!」
優姫の懇願も虚しく映像は切れました。優姫は魂が抜けたかのようにうなだれています。さてここまで憔悴した優姫を再起動させるにはどうしたらよいでしょうか。入学式のリハーサルまでに通常運転に戻ってもらわなければ、本番も残念な結果になってしまうでしょう。
そうなれば四葉家の家名に泥を塗ることになります。優姫だけではないということを知ってもらわなければ。
「優姫、元気を出しなさい。貴女が答辞を失敗すれば、四葉優姫という名前に変な肩書きがつくわよ」
「…いいです。私の名前に傷がついても気にしませんから」
「あのねぇ、優姫の名前に傷がつくって事は四葉に泥を塗ることになるのよ?責任がとれるのかしら」
その程度で四葉家が蔑まれることはないでしょうが、優姫がそういう風な眼で見られるのは耐えられませんからね。従妹であるということも理由の1つですが、精神の未熟な優姫を支えたいのです。私だって完璧とは到底言えませんから。
「そうなれば叔父様まで影響が出るかもしれない。貴女はそれを望んでいないでしょう?成功すれば叔父様はきっと褒めてくださると思うわ」
「本当ですかお姉様?」
「嘘だとでも?貴女のお父上ですよ?きっと褒めてくださるわ」
「そうですよね。お父様だったらきっと褒めてくださいます。やる気が出ましたよお姉様!さあ第一高校へ急ぎましょう!」
「はいはい」
本当に単純な