第11話 準備
〈全国魔法科高校親善魔法競技大会〉。
通称〈九校戦〉は、全国に九つある魔法科高校が威信をかけて競い合う催しだ。生徒たちは若きプライドをかけて、栄光と挫折の物語を繰り広げる。
政府関係者や魔法関係者だけでなく、一般企業や海外からも大勢の観客と研究者のスカウトが集まる。よってここは魔法科高校生の晴れ舞台となる。注目を浴びたいがために熱心に訓練に励む者がいるが、愛校心がある生徒程活躍する傾向にある。そのため生徒の心意気は否応なしに高まるのだった。
学校同士の対抗戦という色彩が強いためか、〈九校戦〉の出場者はクラブの枠組みを超えて、全校から優秀な選手が選出される。こういったこともあって、〈九校戦〉は部活連ではなく生徒会が主導となって準備するのだった。
「…ということもあって私たちが選出しているの。選手の方は十文字君のおかげで決まったんだけど。…エンジニアが足りなくてね」
そうボヤく会長の食事速度は、普段の半分程度になっている。ちなみに俺と深雪は、選手として出場することになっている。深雪が生徒会ということもあり、エンジニアが不足していることは知っていた。
「まだ数がそろわないのか」
委員長もため息をつく。
「実技方面に人材が偏っているからアンバランスなのよね」
自分に火の粉が降りかかる前に逃げ出すことを決めたのか。達也が弁当を片付けて出ていこうとしたが、今回はそれが裏目に出る。
「じゃあ、司波君はどうですか?深雪さんと四葉君のCADを調整しているらしいですから」
中條先輩がそう提案する。達也の内心は「余計なことを」と思っているに違いない。
「さすがあーちゃん!ということで達也君、放課後の会議に出席してね」
会長が(強制)参加することをウインクで命じた。
「ニ科生がすべきではないと思いますよ。調整はユーザーとの信頼関係が絶対条件ですから」
達也がネガティブ発言をしたことによって、会長の熱も少なからず冷める。確かにエンジニアとユーザーの間に信頼関係がなければ、満足のいくパフォーマンスはできない。達也の言っていることは正しいのだが、棘が生えすぎていて痛かった。刺というより刃物と言った方が妥当だろうか。
「「達也(お兄様)、俺(私)のCADを九校戦で調整してほしい(もらいたい)のだ(です)けどダメかな(でしょうか)?」」
俺と深雪にお願いされた達也は明らかにチェックメイトだ。達也の内心を古風に表すとしたら、「ああ、ブルートゥスお前もか」だろう。
ちなみに俺のCADの調整は、汎用型をお願いすることにしている。さすがに特化型CADまで達也にさせるほど俺は鬼ではない。特化型なら達也より上手く調整できるから尚更だ。俺と深雪の裏切り行為に負けた達也は、弱々しく会長のお願いに頷くのだった。
放課後、会議で達也をエンジニアとして参加させることを提案した真由美に、一科生の上級生から反対の意見が上がった。「ニ科生には務まらない」というのが理由だ。
「ならば司波の実力を見ればいいだろう。なんなら俺が実験台になるが」
克人が反論を抑え、もっとも効果的な打開案を提案した。しかし危険だとまたしても反対の声が上がる。
「いえ、その役目を俺にやらせてください」
桐原が自ら立候補したので克也は男らしいと思った。桐原の立候補に誰も反対しなかったのは、勧誘活動での騒動を知っているからだ。そのような出会い方をしているなら、嘘の事実は伝えないと全員が思ったようだ。
特に達也と桐原の仲を中途半端にしか知らない者たちは、そう思ったことだろう。ちなみに桐原と達也は、割と仲のいい先輩・後輩という関係に好転している。桐原曰く、「相手の気持ちを理解できないわけではなく、伝えてるのがただ不器用なだけ。溝を気にせずたわいない話ができる後輩」だそうだ。出会い方は中々だったのだが、お互いに悪い奴ではないという共感があったようだ。
真由美によって、桐原のCADから競技用CADにコピーすることが課題にされた。文字に表せば簡単に見えるが現実は甘くない。スペックの違うCADをコピーするのは危険が伴う。なのでそこがエンジニアとしての腕の見せ所だ。
そう考えているうちに達也は調整を終了させていた。相変わらずの手際の良さだと克也は感心する。達也が調整したCADを桐原が操腕に取りつける。その表情がやや固いのと動きが緩慢なのは、自分で言ったとはいえ少し不安があるからなのだろう。桐原が得意の《高周波ブレード》を発動させると、CADは何の問題も起こさずまったく同じように作動した。
「桐原、感触はどうだ?」
「問題ありませんね。自分のCADと言われても疑わないほどです」
桐原は不敵な笑みを浮かべながら答える。桐原の言葉に、達也の参加に反対していた上級生は驚いていた。
「一応の技術はあるようですね。しかし突出したほどではないと思われます」
評価しない者もいたことに克也は我慢できなかった。
「完全マニュアル調整など普通は誰も行いません。それを達也は行使し、桐原先輩に違和感を与えなかったことは評価すべきかと。幼馴染だということを除外しても、エンジニアとして参加させるべきだと思います」
「まあ、そう言えなくはないが…」
あと一押しが足りない…。
「桐原のCADは競技用よりはるかにハイスペックな機種です。その違いを感じさせなかったことは評価すべきだと思いますが。会長、私は司波のエンジニア参加に賛成します。〈九校戦〉は当校の威信をかけた戦いです。ニ科生だとかつまらないことで争わず、ベストなメンバーで挑むべきではないかと」
服部の意見に達也は眼を丸くして驚いていた。あれだけ二科生だと見下していた服部が後押ししたのだ。達也でなくとも驚いたことだろう。
「服部の意見はもっともだ。司波はおそらく校内でトップの調整技術を持っている。そんな生徒を参加させずに誰に任せるというのだ?」
克人のまとめで達也の九校戦参加が決定した。
その日の夜、達也は陸軍101旅団独立魔装大隊隊長 風間玄信と話をしていた。わざわざ一般回線に割り込んで、繋げてきているのだからかなり重要な話なのだろう。克也と深雪は一緒に、食後の食器洗いに行っている。
「わざわざ手で洗わなくても」と言ったことがあったが、その時は2人に睨まれながら「「この程度は自分でする必要がある(ります)」と言われたので、それ以来言わないようにしている。
『ところで聞いた話によると、〈九校戦〉に参加するらしいな。...気をつけろよ
階級でもなく名前で呼んだのには、友人としての危険を知らせる為だろうか。達也はさらに表情を厳しくする。
『会場は富士演習場南東エリアだそうだな。これはまあ例年通りなんだが、該当エリアに何やら不穏な動きがある』
「侵入者ですか?」
『嘆かわしいことにその通りだ。国際犯罪シンジゲートの構成員らしき東アジア人が、近隣で目撃されている。時期的に見て〈九校戦〉が狙いとみていいだろう』
達也はまた厄介事が増えた思ったが、口にしたことは別のことだった。
「国際シンジゲートと仰いましたが」
『壬生に調べさせた』
「第一高校2年 壬生紗耶香の御父君ですか?」
『その通りだ。退役後は内閣府情報管理局で外国犯罪組織を担当している』
「…驚きました」
素で驚いた達也は素直に感情を口にした。
『詳しいことが分かったらまた連絡する。富士で会えることを楽しみにしているからな』
「ありがとうございます」
画面越しの敬礼に敬礼で達也は応えた。