魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第12話 完成

「克也お兄様・達也お兄様、深雪です。入ってもよろしいですか?」

「ちょうど良かった。入って」

 

夜9時を過ぎた時間に、深雪が飲み物を持ってくるのは日課である。普段はすまなさそうに礼を言う達也と克也だが、今回は明らかに自分を待っていたらしいので、深雪は喜びながらも不思議に思った。

 

「ちょうど呼びに行こうと思って…」

 

達也は途中で言葉を途切れさせ、克也に至ってはあんぐりと口を開けていた。深雪は思考停止させる2人の兄に、小悪魔的な笑顔を浮かべながらスカートの裾を少し持ち上げて膝を折る。それはまさにお姫様のような一礼だ。

 

「それは〈フェアリー・ダンス〉のコスチュームかい?」

「似合っているよ。それにジャストタイミングだ」

「正解ですさすがお兄様方。ありがとうござ…います?」

 

深雪が一礼した視線の先の床にあるはずの克也と達也の足がなかった。視線を少しづつ上げていくと、2人は足を組みながら空中に浮いていながらも普段と同じ位置に顔がある。

 

「飛行術式…。常駐型重力制御魔法が完成したのですね!」

 

深雪が克也と達也の手を取って歓声を上げた。

 

「おめでとうございますお兄様方!お兄様方はまたしても不可能を可能にされました!お兄様方の妹であることを私は誇りに思います!」

 

克也と達也は本気で喜んでくれる妹に優しい笑みを浮かべた。

 

「「ありがとう深雪」」

「これでまた目標に一歩近づくことができたよ。といっても克也が起動式を限界まで小さくしてくなかったら実現しなかった」

「水臭いな達也は。いつでも手伝うに決まってるだろ?深雪、試してくれないか?」

「喜んで!」

 

深雪は達也のお願いに快く引き受けた。

 

「始めます」

 

深雪は彼女にしては珍しく興奮していた。それも仕方が無いことだろう。なにしろ自分が初めて兄たち以外に空を飛ぶのだから。そして飛行機や無重力を発生させる装置を必要としない飛行をするのだから。

 

飛行術式が組み込まれたCADのスイッチを押すと、想子が吸収されていくのが分かった。しかしそれは日常で発している想子に毛が生えた程度で、意識しなければ気付かないほどの微量。魔法式が構築され、起動式が展開する。すると足が床から離れ体が宙に浮く。

 

人類は空を飛ぶことに昔から憧れていた。生きている間は常に地に足をつける。生まれてから死ぬまでずっと。二世紀前には違う形で成功させたが、それは大きな機械を用いての成功だ。今回のはそれとは比べものにならないほど、小さい物で空を飛んでいる。

 

興奮しない方がおかしいのだ。

 

深雪は慣れ始めると、まるでフィギュアスケートを空中で行うかのように滑らかに滑り始めた。〈フェアリー・ダンス〉の衣装と相まった素晴らしい光景に、克也と達也はかなりの間見とれていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

今日はフォア・リーブス・テクノロジー略称FLTに、昨日完成した試作機を持って向かうことにした。自宅からは交通機関を乗り継いで、2時間ほど離れた辺鄙な場所にある。向かう間、深雪は四六時中ご機嫌でたまに鼻歌が漏れていた。

 

「深雪?」

「はい、なんでしょうか?」

「…いや、なんでもない」

 

達也が話しかけるとご機嫌な顔で聞き返してきたが、達也は言葉を濁した。それに気にした様子もなく深雪はまた鼻歌を漏らし始めた。達也がアイコンタクトで「何があったんだ?」と聞いてきたので、「俺にもわからん」と返しておいた。

 

自分のことを不思議に思っていることに気付かないご機嫌な深雪を含めた兄妹は、和やかな空気を発しながら目的地に到着した。技術力を売りにしている企業の心臓部に入るには、色々と手続きをしなければならない。だが3人が許可証を下げずに歩いていても引き留められることはなかった。

 

それは当然である。克也と達也は〈トーラス・シルバー〉の片割れで、深雪は妹なのだから。それにこの施設の人間は3人をよく知っている。なんせ世間・研究室・研究所などのはみ出し者もしくはズレた感覚の持ち主の温床である。だから四葉の関係者だろうが若かろうが気にしない。才能や適性があるならば喜んで迎え入れる。

 

「あ、御曹司!」

 

中央管制室に入るとすぐに声をかけられた。この場所以外ではないことだが、深雪ではなく達也がメインに見られる。

 

克也は端整な顔立ちと卓越した運動能力で、女性からよく声をかけられる。彼は別にそれがおかしいことではなく、仕方が無いと割り切っているので、ストレスでイライラすることはないが。魔法師の場合は、名前を出せば勝手に寄りつかなくなる。だが本人は名前を出したくないのでされるがままになる。一方達也は、本能的に少し危ない人と感じるので人が寄りつきにくい。

 

 

閑話休題

 

 

「おはようございます。ところで牛山主任はどちらに?」

 

深雪は自分ではなく、達也が敬意と好意の眼差しを向けられることを我が事のように喜んでいた。達也はそんなことを知らずに研究員に尋ねると、少し遅れて名前を呼ばれた男が現れた。

 

「お呼びですか?ミスター」

 

ヒョロリと背の高い、しかし弱さを感じない男は灰色の作業服を着ていた。

 

「今回お邪魔したのはこれです」

 

小型のCADを差し出すとマジマジと見始めた。

 

「…これはひょっとして飛行デバイスですかい?」

「ええ、牛山さんが作ってくれた試作用ハードにプログラムしたものです。俺・克也・深雪は試しましたが、俺たちは普通の魔法師とは言い難いですからね。そこで皆さんにテストして欲しいんです」

 

牛山はCADを嬉々として受け取ると、あるだけの試験用CADにコピーさせ、テスト飛行を行うよう命じた。

 

 

 

1時間後にテストは無事に終わった。だが10人のテスターたちは、大型体育館にも匹敵するほどの部屋の床で、息を切らせながら大の字に倒れている。

 

何故こうなったかというと、飛行術式のテストを行い、成功したことで舞い上がったテスターたちが、許可なしに空中鬼ごっこを始めたのだ。克也たちと比べると3分の1程度しかない想子量では、数十分使用するだけであっという間に枯渇してしまう。

 

「お前らは揃いも揃って全員アホか?お前らの想子量じゃ長時間使える分けねぇだろうが。手当代は出さねぇからな」

 

後遺症の残るような魔法力枯渇を起こしたテスターはいなかったので、牛山もため息をつきながら軽くボヤいてから話を終わらせた。

 

「ミスター、少しお顔が暗いようですが。何か問題があるんですか?」

 

テスターたちの文句を無視して、成功して喜んでいるようには見えない達也に声をかけた。

 

「やはり起動式の連続処理が、今のままでは負担が大きいようです」

「そりゃお三方と比べたら、そんじょそこらの魔法師の魔法力は微々たるものですからね」

「CADの想子自動吸引スキームをより効率化すればいいんじゃないか?」

 

克也が簡単な技術的な提案した。

 

「それは俺がなんとかしますよ。ソフトじゃなくてハードで処理すれば負担も減ります。それにタイムレコーダーも専用回路を付けた方が良い」

「「実は同じことをお話ししようと思ってました」」

「そりゃ、光栄ですな」

 

深雪とテスターたちを除いた技術者3人が、腹黒い笑みを交わし合う。周囲はこれがいつも通りなことを知っていたので、やれやれとばかりに苦笑していた。

 

 

 

その帰りに3人は、あまり会いたくない人物に出会ってしまった。飛行術式のテストでの余韻が一気に冷めるほどに。

 

「これはこれは克也様に深雪お嬢様。ご無沙汰しております」

 

2人揃って失礼にならない程度にお辞儀をする。かといって礼儀を加えたものでもないが。

 

「お久しぶりです青木さん。しかしここには俺と深雪以外にも弟の達也がいます。挨拶はなしですか?それに父さんも久しぶり。俺と深雪には入学祝いだと色々くれたり言葉くれたけど、達也にはないのか?」

 

少し怒気を含ませて挨拶する。父は軽く頷いたが何も言わない。青木と呼ばれた男は焦ることなく平然として答えた。

 

「恐れながら克也様、この私は四葉家の執事として財産管理の一端を任せられている者です。一介のボディーガードに挨拶をしろと言われましても、プライドというものが私にもございますので」

「私の兄ですよ?」

「それでもでございますよ深雪お嬢様」

 

克也と深雪が限界に近いのを感じている達也は、止めるべきだと思いながらも止めなかった。ここで割り込めば青木が何を言うか分からない。それが2人を暴走させるきっかけになれば本末転倒だ。

 

達也は傍観を決め込んだが、次に発せられた青木の言葉に反論しようと思ってしまった。

 

「恐れながら深雪お嬢様は、次期当主として家中の皆より望まれているお方。護衛役に過ぎない男、さらには四葉家の秩序を乱す者。そのような男とは立場が違います」

 

その言葉に深雪の感情が限界に来たらしく、床や壁が霜に覆われていく。青木は驚いてどうしたらいいか分からないようだ。仕方なく克也は青木を手助けすることにした。

 

悪い意味で。

 

「青木さん、今の言葉は誤解を生みますよ。その言い方では、次の当主は深雪に決まりだと叔母上が言っているように聞こえます。それは俺を除いた残りの当主候補の皆様に失礼だとは思いませんか?さて、四葉家の秩序を乱しているのは一体どなたなのやら」

 

深雪に《癒し》を施しながら尋ねる。

 

青木は顔を蒼白にしているが、さらに克也は追い詰めることにした。無性に追い詰められた青木の顔を、もっと見たいと思ってしまったのだ。

 

「先ほどのお言葉を叔母上にご報告してもよろしいですね?」

「それだけはご勘弁を!」

 

すると今までだんまりを決め込んでいた3人の父が、的を外れたとんちんかんな言葉を投げかけてきた。

 

「やめなさい克也。お前が母さんを恨む気持ちも分からなくもないが…」

 

その可笑しな言葉に克也は正気を取り戻し、2人を連れてさっさと帰ることにした。

 

「克也…」

 

父が話しかけてきたので、克也は2人を送り出してドアの前で立ち止まる。ドアが閉まってから克也は口を開いた。

 

「父さん、それは勘違いだ。俺たち3人は母さんを恨んでなどいない。むしろ俺は感謝しているよ。達也と深雪、愛する2人と暮らせるきっかけと時間を残してくれたのだから」

 

言うべきことだけを言い残して克也は去っていく。青木のことは真夜に伝えず水に流すことにした。

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