翌日、学校に3人で登校して教室に入ると、深雪と2人してクラスメイトの3分の1に囲まれた。
「二科生が〈九校戦〉にエンジニアとして出るって本当?大丈夫なの?」
「君は幼馴染なんだろ?教えてくれよ」
一体どこから情報を得たのか知りたかった。解放して貰う方が先だったので質問に答える。
「事実だよ。それにあいつの調整したCADを使った選手からは、大好評だから問題ない」
しばらくして予鈴が鳴ったのでなんとか解放された。
5限目の発足式では、達也のクラスメイトで友人のレオ・エリカ・美月を含む1ーEのメンバーのほとんどが、最前列を占拠しているのを眼にして驚く。悪目立ちしているが本人たちは気にしてないようだ。同じ学校に通う他の生徒からの視線を気にしない素晴らしい友人だと思える。
真由美によって克也を含めた一科生の名前が呼ばれる。深雪に代表の証と競技会場に入場するために必要なIDをチップに仕込んだ徽章を、ユニフォームの襟元に付けてもらうと大勢の拍手が聞こえた。
最後に達也へ深雪が付け終えるが、拍手があったのはクラスメイトからだけだった。真由美が「参加者全員に拍手を」と言ってくれたおかげで、達也に対しての拍手のことは有耶無耶になった。
発足式が終わると準備が加速し、克也や深雪は閉門ぎりぎりまで練習することになった。達也も担当選手のCAD調整のために、同じく遅くまで走り回っていた。
8月1日。競技会場に向かう日になった。一高は会場から近いので、例年通り開催日の前々日に現地入りしている。近いというだけではなく、練習場が遠方校に優先的に割り当てられるので、自然と出発が遅くなるのだ。
また開催日の2日前に現地入りするのは、大会前々日に懇親会というパーティーが開かれるからである。日程の説明は達也から望んだものではなく、摩莉からの話題を作るための口実だ。疑問に思っていたことが解決したので達也は良しとすることにした。
何故そんな話を2人がしていたのかと言うと、生徒会に真由美から急遽家の事情で遅れると早朝に連絡が入ったのだ。先に行っていて欲しいと言われたのだが、出場選手やエンジニアによる満場一致で「待つ」ということになった。その報告を聞いて慌てて向かっているらしい。
出発当日に長男2人だけでなく、真由美まで手伝わされるとはよほどのことなのだろう。
予定出発時間から遅れて1時間半。真由美が到着したので向かうことになった。克也の席は深雪の前になっている。奥に進もうとすると、途中の席に座っていた鈴音に引き留められ、横に座らされることになった。嫌ではなくむしろ一緒にいたかったのは本心である。文句は言わなかったが、周りからはやし立てられたのはお決まりだ。
そして何故か鈴音の手は、隠れるように克也の左手の上に重ねられている。窓の外を眺める横顔を見ると少し赤くなっていた。鈴音に告白されてから4ヶ月経つが、恋人らしいイベントを一つもこなしていない。ましてや一緒に帰ることは一度も無かった。
この4ヶ月は1週間に1回一緒に昼食を取るだけだったので、克也不足病にでもなっていたのだろうか。1週間に1回しか一緒に食べられなかったのは、〈九校戦〉の準備で忙しく時間を合わせられなかったからだ。家で軽く電話などはしていたが、直接会うこと以上に満足することは難しいだろう。
高速道路に入ってゆっくりしていると、突然対向車がガードレールを飛び越えてこちらの道路に燃えながら吹っ飛んできた。バスは急ブレーキをかけるが、ぶつかるのは容易に想像できる。
「ふっとべ!」
「「止まれ(って)!」」
千代田先輩・森崎・雫が魔法で防ごうとするが、俺の〈領域干渉〉で発動させなくする。もちろん減速魔法を行使している上級生には被らないように。
「四葉君、何をするの!?」
千代田先輩の怒りが飛んでくるが無視しておく。今はそれどころではない。
「深雪、火を消してくれ。十文字先輩は車の衝突を防いでください」
「わかりました」
「わかった」
深雪が魔法を放つ瞬間、向かってくる車に働いている魔法式が消し飛ぶ。深雪は振動減速魔法で飛んできた車の炎を消し、十文字先輩は対物障壁でバスへの衝突を防いでくれた。お陰で怪我をした人は1人もおらずバスにも被害はなかった。
「みんな怪我はない?ありがとう深雪さん、素晴らしい魔法だったわ。さすが新入生総代ね。十文字君も克也君もありがとう。安心できる魔法障壁と的確な指示だったわ」
「四葉の指示が素早く的確だったからな」
「ありがとうございます会長。自分が指示できたのは、市原先輩が減速魔法でバスを止めてくれたお陰ですよ」
俺と十文字先輩の謙遜に会長は頷いてから座った。その頃、俺の後ろでは委員長に小突かれたようで千代田先輩が頭を抑えていた。
「北山や森崎が驚いて魔法を発動しようとしたのはわかる。だがお前は2年生だろ。真っ先に引っかき回してどうする!」
「すいませんでした…」
尊敬する先輩に怒られて萎縮しているのを見ると、余計なことをしたかなと思ってしまう。だが千代田先輩の得意魔法が使われていたら被害は膨れていたと思う。気にすれば余計に傷つけそうだったので考えるのをやめた。
その頃、摩莉はいぶかしげに眉をひそめていた。
司波が魔法を放とうした瞬間、向かってくる車のタイヤに働いていた魔法が消し飛んだ。あれは何だ?司波に聞くべきか?いや、聞かない方が良いだろうな。真由美に何か言われるかもしれないし、私の見間違いかもしれんしな。
摩莉は見たことを忘れることにした。
その後は何も起こらず快適に目的地に到着した。その間は鈴音が眠気に負けて肩を貸すことになり、花音や深雪から氷柱のような目線をもらったのは言うまでもない。
花音の場合は単なる嫉妬である。深雪の場合は、氷属性が付与されていたので余計に痛かった。つまりは嫉妬である。駐車場に止められたバスから必要な荷物を下ろし、ホテルにいつもの3人で向かっている途中、高速道路で遭遇した事故の話になった。
「ではあれは偶然起こった事故ではなく、意図的な事故ということですか?」
「ああ、魔法の痕跡がいくつか見つかった。1つ目はタイヤをパンクさせる魔法。2つ目が車体を回転させる魔法。3つ目が車体に斜め上への力を加える魔法。そして4つ目が車体をぶつけるために方向を決める魔法。どれも車内から放たれている」
「では自爆攻撃ということですか?」
「そうだよ。魔法が使われたことになかなか気付かないほどの巧妙さだ。特別な訓練を受けていたんだろうね。かなりの腕前だったから使い捨てにするには惜しいな。それだけの技術を持っていたなら、正しい方向に使って欲しかったものだ」
「使い捨てですか?卑劣な!」
深雪はやり方に理解できず感情を現にした。達也は哀れな犯罪者に同情するのではなく、命じた者のやり方に憤りを感じていることに満足する。
「そもそもテロリストという輩は卑劣な者たちだ。今回のこともそれを考えればおかしなことではないよ」
「克也は魔法が使われたことに気付いたか?」
「いや、気付かなかった。おかしな動きをしていたから、魔法が使われたと思ったけど。どんな魔法が使われているかまではわからなかったな」
ホテルのフロントに入ると、ソファーに座っていた知り合いに声をかけられた。
「2週間ぶり。元気してた?」
エリカはラフな格好で足を組みながら、陽気な声に笑顔を浮かべているので普段より楽しそうだ。
「久しぶりエリカ。よく泊まれたな」
「エリカ、また後でな」
挨拶をする克也の横を達也が言葉をかけながら機材を乗せたカートを押していく。エリカが視線を向けると、それ以降は何も言わずにホテルの奥に行ってしまった。
「挨拶ぐらいさせてくれたらいいのに」
「ごめんなさいエリカ。先輩方を待たせているから行かなきゃダメなのよ」
エリカも本気で思っていたわけではないようで、すぐに機嫌を治してくれた。
「今日、懇親会でしょ?」
「関係者以外入れないぞ?」
「大丈夫よ。あたしたち関係者だから」
悪い笑みを浮かべながら伝えるエリカの言葉に、二重の意味で首を傾げる克也と深雪であった。