魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第15話 九校戦①

克也・達也・幹比古が思わぬ仕事をさせられたのを知らずして、〈九校戦〉は開幕した。1日目の競技は、〈スピード・シューティング〉の予選から決勝と〈バトル・ボード〉の予選だ。

 

「会長の試合か。さて〈エルフィンスナイパー〉の異名の実力を見せてもらおうかな」

「本人は嫌っているようだから、目の前で言わない方がいいぞ。討論会の前の時のようなことになりたくなければな」

 

達也のくぎに克也が身を震わせる。エリカたちは何のことか分からないらしく首を傾げていたが。

 

〈スピード・シューティング〉は、30m先の空中に投射されるクレーの標的を魔法で破壊する競技だ。制限時間内に破壊したクレーの個数を競う。いかに素早く正確に魔法を発射できるかを競うので、そのまま競技名になっている。

 

真由美が会場に登場すると、大きな歓声が上がる。大半が男子生徒だが、女子生徒からもあったので意外に感じた。

 

選手がCADを構えると辺りが静まる。

 

選手はヘッドセットをつけているので声は聞こえないが、試合の開始前に静かにするのは暗黙の了解だ。開始シグナルが点灯すると軽快な発射音が聞こえる。クレーが飛び出すが、すべての標的が個々に破壊される。

 

「…流石だな。あの一瞬ですべて破壊するとは。異名をつけられるのは伊達じゃない。それに去年の映像よりさらに速くなっている。いくら映像と実物が違うとはいえ、これはあまりにも乖離がありすぎるな」

 

克也でも冷や汗が吹き出るほどの腕前だった。克也の得意分野でないということを差し引いても、高校生程度の大会では割が合わないと思わせられた。そして試合はパーフェクトで終わる。

 

「遠隔視系の知覚魔法《マルチスコープ》も常時使用しているのか。同じ魔法を100回繰り返しても、まったく疲労してるようには見えない。魔法式に使う魔法力を必要最低限に抑えているから、あれだけ平然としていられるのか。〈十師族〉の直系というのは恐ろしいな」

 

達也も同感のようで称賛しか口から出ていなかった。周りにいるメンバーは、克也・達也・深雪・レオ・エリカ・美月・幹比古・ほのか・雫の9人。そして全員が真由美の実力に度肝を抜かれていた。

 

 

 

〈バトル・ボード〉は人工の水路を長さ165cm・幅51cmの紡錘形ボードに乗って、全長3kmのコースを3周して走破する競技だ。水路には直線・急カーブ、上り坂や下り坂、滝状の段差などが設けられている。如何に素早く状況判断をして、如何に有効な魔法を選択できるかが勝利の鍵になる。

 

摩莉はコースのボードの上で腕組みをしながら立っていた。他の選手3人が片膝立ちで待機しているため、配下を平伏させている女王様のように見える。摩莉の名前がコールされると歓声が沸き上がった。男子より女子の割合が高いのは、女性にしては凜々しい顔立ちをしているからなのだろうか。

 

合図が鳴ると一斉に飛び出す。選手の1人が水を爆破させ、大波で推進力を利用しようとしたが失敗していた。

 

「…使い方は間違っていないが、自分がバランスを崩すほどの威力を出してどうするんだ?おかげで既に委員長は独走状態に入っているが」

「でも持ち直したぜ?」

 

克也の愚痴を聞いていたレオの言う通り、魔法を使用した選手が体勢を持ち直したので、後ろ3人は混戦状態になっている。

 

「硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか。これは面白いな」

「何を硬化させているんだ?」

 

達也の呟きに自分の得意魔法が出てきたことで興味があったらしく、レオは達也に疑問を感じながら聞いていた。

 

「ボードから落ちないように、自分とボードの相対位置を固定しているんだ」

「?」

 

レオは達也の説明にピンときていないようで、疑問の表情を浮かべている。

 

「硬化魔法は物質の強度を高める魔法じゃない。パーツの位置を固定させる魔法だ。渡辺先輩は自分とボードを一つのオブジェクトを構成するパーツとして、その相対位置に固定する魔法を実行している。そして自分とボードを、一つの『物』として移動魔法をかけているんだ。それと同時にコースの変化に合わせて定義を変化させている」

 

達也の賞賛は止まらない。

 

「加速魔法だけでなく振動魔法も使用しているのか。うちの3年の中で、〈十師族〉に匹敵する実力者と言われているのも頷けるな」

 

真由美は高速・高精度の魔法で観客を魅了しているが、摩莉は多種多様・臨機応変に魔法を使い分けている。別の意味で観客の心を掴んでいた。

 

「1位は確定だな」

 

レオの言葉に全員が頷いた。

 

 

 

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〈スピード・シューティング〉は真由美の優勝で幕を下ろした。すべての試合でパーフェクトをたたき出せば、優勝以外に何があるだろうか。

 

摩莉も〈バトル・ボード〉で準決勝に進出し、女子の方は好スタートを切ったが男子は苦戦していた。〈スピード・シューティング〉では優勝し、〈バトル・ボード〉の服部がなんとか勝ち残ったが、この先が危ぶまれた。

 

昼頃、風間に呼び出された達也は、昨日の賊が〈九校戦〉前に聞いていた【無頭竜】に間違いないと克也に伝えた。ただ、何を目論んでいるかまでは分からなかったらしい。わかればすぐに連絡がくるらしいが、それまでに犠牲者が出ないことを祈るしかない。

 

午後からの〈クラウド・ボール〉でも真由美の進撃は続いた。急遽達也が真由美のエンジニアに任命されたのは、昨日の夜のことだった。だがそんなことは関係なく、全試合無失点・ストレート勝ちで優勝を飾った。

 

それを観客席から見ていた克也は、逆らわない方が身の安全につながるかもしれないと改めて思った。

 

続いての競技〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉は、縦12m・横24mの屋外フィールドで行われる。フィールドを半分に区切り、それぞれの面に縦1m・高さ2mの氷の柱を12本設置し、相手陣地内の氷柱をすべて破壊すれば勝ちだ。

 

花音は一回戦を最短時間で勝利していたので、負けることはないと思っていた。試合は予想通り相手に簡単に勝利し、余裕で三回戦進出を決めた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

大会3日目。男女〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉と男女〈バトル・ボード〉の各決勝が行われるので、〈九校戦〉前半の山場と言われている。想定通り、摩莉の試合は白熱していた。開始合図と同時に飛び出したのは摩莉だけではなく、七高の選手がぴったりとマークしている。 

 

「これって去年の決勝カードですよね!?」

 

美月が興奮しながら叫ぶ。

 

「流石〈海の七高〉だな。渡辺先輩との魔法力の差を、巧みなボードさばきで不利を補っている」

 

克也の言う通り、2人はもつれ合いながら最初のコーナーに突入した。

 

突如、七高の選手の動きが加速する。その異様さを背中と観客の悲鳴で感じ取ったのだろう。摩莉が視線を背後に向ける。危険な速度で突っ込んでくる相手を躱すのではなく、受け止めるために魔法を解除した。しかし何故か受け止める瞬間にバランスを崩し、2人同時に吹き飛ばされてフェンスにぶつかる。試合中止の旗が振られているが克也達の眼には映らなかった。

 

「お兄様方!」

「「行ってくる」」

 

克也と達也は深雪に伝えてから事故現場に向かった。

 

 

 

目を開けると、そこは病院の天井らしきものが見えた。

 

「摩莉、気がついた?」

「…真由美。ここは病院か?」

「そうよ」

 

短い会話のやりとりで、自分に何が起こったのかを思い出す。

 

「克也君のおかげで骨はくっついたけど、念のため10日間の安静が必要だって。〈バトル・ボード〉と〈ミラージ・バット〉も棄権ね。摩莉が身体を張ったおかげで、七高の選手も怪我をしてるけど命に別状はないわ。意図的に仕組まれた事故だと思われるから結果と怪我は気にしないで。先に言っておくと、七高の選手はおそらく犯人じゃない。克也君は達也君と一緒に大会委員からビデオを借りて、検証してるから今ここにはいないわ」

「そうか…。自分が怪我をしていれば世話はないが...」

 

自分のせいで他人に迷惑をかけるのは嫌いだ。モヤモヤとした言葉にしがたい感情が沸き上がりつつも、今回は仕方ないことと割り切って安静にすることにした。

 

 

 

「達也、どうだ?」

「やはり何者かの介入があったと思うべきだな」

 

ここは達也の部屋。今は委員長の事故検証のために明かりを暗くしてある。ビデオを何度も再生させて確認しているとき、ドアがノックされ、顔見知りの先輩2人が入ってきた。

 

「千代田先輩、優勝おめでとうございます。五十里先輩もご足労をおかけしてすみません」

 

軽く2人に挨拶する。

 

「ありがとう。摩莉さんの代わりに勝たないとね!」

「構わないよ。僕から参加させてほしいと言ったんだからね。それでどうだった司波君?」

「第三者の介入があったと考えるべきですね。ここを見てください」

 

五十里先輩の質問に答えながら達也が画面を指差す。事故直前の映像を上から見た状態でコマ送り再生する。

 

「普通ならこのコーナーで減速しなければならないわけですが、七高の選手は逆に加速してしまっています」

「…こんな単純なミスをする魔法師が〈九校戦〉に出れるわけがないわ」

「千代田先輩の言う通りです。この場面で魔法の選択を誤るような魔法師は、普通に考えれば出場できません。こんなところで加速すればどうなるか理解できてるはずですから」

 

達也の説明に千代田先輩は怒り模様だ。事故を起こした魔法師への怒りに満ち溢れている。憧れの人が大怪我を負えば仕方ないことかもしれない。

 

「司波君の分析は完璧だけど。どうも妙だよね」

「啓、どういうことなの?」

「現場検証で発覚したんだけど、魔法は水中から発せられているんだ。それを聞いて僕は遅延発動型術式が仕掛けられていたか、何者かが水中に潜んでいると思っていたんだよ。でもそれじゃ大会委員にばれるし、潜むなら長時間呼吸するための装備が必要になる。ましてや姿を隠す魔法を使えば発見される。現代魔法にも古式魔法にも完全な透明化する術式なんてないからね。それに遅延発動型術式が使われていたら、第一レースの選手が気付いてるはずだよ」

 

そこまで説明しているとまたしてもドアがノックされた。ドアを開けて入ってきた幹比古と美月が、驚きながらも軽く先輩たちと挨拶を交わす。

 

「今俺達は事故の検証を行っている。魔法は水中から発せられているんだが、どうやって発動させたのかが分からない。美月、試合中に何か見えなかったか?」

「ごめんなさい。眼鏡をかけていたので分からないんです」

「いや、美月は何も悪くない。むしろ眼鏡を外していたと思い込んでいたこっちがおかしいからな。話を続けますが完璧に姿をくらませる魔法は、五十里先輩の言う通り現代魔法にも古式魔法にもありません。ならば人間以外の何かが、水路内に潜んでいたと考えるのが合理的でしょう」

 

最初は美月に、最後は全員に向けて説明されていた。

 

「…司波君は精霊魔法の可能性があると言いたいのかい?」

「ええ、それしか今の状態では考えられません」

 

精霊魔法は想子ではなく霊子で構成されている。普段から想子を知覚している現代魔法師にとって、知覚したり認識することは非常に困難だ。一部の異能や魔法を除いては。そのため大会委員によって構成された監視員の監視を、容易にすり抜けた可能性があるのだ。逆に言えば、古式魔法を使用する魔法師であれば、普段から慣れているため知覚しやすい。

 

「吉田は精霊魔法を得意としていて、柴田は霊子光に特に鋭敏な感受性を有しています。早期解決するために2人には来てもらいました。幹比古、精霊魔法でこの事故を起こすことは可能か?」

「可能だよ」

 

幹比古は躊躇いなく即座に頷いた。

 

「お前にもか?」

「今すぐにやれと言われても無理だけどね。地脈を理解して何度か会場に忍び込むことができればなんとか。半月ぐらい時間を貰えれば今の僕でも可能になるよ。条件定義するなら水面近くを通った人数かな。第一レースの人数に1人目を足した数字をインプットさせればいいだけだからね。去年のタイムラップを考えれば、誰にだって考えられる簡単な方法さ。水の精霊に命令すれば、そのタイミングで波または渦を作らせることができる」

「なるほどな。精霊魔法の可能性は確実か」

 

達也は幹比古の説明に確信に近い納得を覚えたようだが、少し早とちりし過ぎた。

 

「幹比古、渡辺先輩のような高位の魔法師が簡単にバランスを崩すような強い波をその条件で起こせるのか?それだけの威力を出すには、それなりの時間と手間が発動するまでにかかるはずだ。余程の腕がない限りできないと思うんだが」

「そうだよ克也。その条件では水面を揺らすぐらいの波しか起こせないはずなんだ。そよ風による波紋が起こる程度のね。精霊は術者の思念の強さに応じて力を貸してくれるものだ。何時間も前から準備していては微弱なものしかできない。そんな波では渡辺先輩がバランスを崩すようなことにはならないよ」

 

幹比古も何が起こったのかわからないらしい。

 

「恐らくですが七高の選手のCADに、何かしらの細工がされていたんだと思います。ここを見てください」

 

達也の言葉に全員が驚きながら、達也が指差した画面を見る。

 

「普通なら減速すべきところで、逆に加速してしまっています。前回のタイムラップを見れば、渡辺先輩と七高の選手がほぼ同時にコーナーに入ることは容易に想像できます。減速術式を加速術式と入れ替えれば、間違いなくこの場所で衝突するでしょう。減速するはずのコーナーで、後ろから突然急加速してくれば誰だって驚きます。そしてその人物がバランスを崩して吹っ飛んでくれば、受け止めるか避けるか反応します。そのタイミングで不意に水面が揺れれば、バランスを崩してしまうのは目に見えています。いくら渡辺先輩でもその一瞬では対処できないでしょう。俺が工作員なら、優勝候補2人を一度につぶせるまたとない好機だと考えますね。結果的に2人はリタイアしましたから、敵の作戦は成功と言えるでしょう」

「まさか七高の技術スタッフにスパイが…」

「討論会のこともあったのでその可能性も否定できませんが、俺は大会委員に工作員がいると考えています。いくら作戦を立案しても、その選手のCADを調整するスタッフになれるかどうかはわかりません。確率的に低いので敵も高校には潜入させていないでしょう」

 

達也は千代田先輩の予想を切り捨てる。

 

「でも司波君、そんなことができるのかい?CADは各校が厳重に保管しているはずだけど」

 

達也と五十里先輩のやりとりで俺は気付いた。

 

「五十里先輩、CADは試合前にデバイスチェックとして大会委員に引き渡されます。検査する際に個人情報も見られますから、その時に七高選手のCADに仕組んだのでしょう。しかしいつどうやって誰が仕組んだのかがわかりません。厄介な手口です…」

 

俺の答えに全員が立ち尽くす。

 

「今の内容をまとめましょうか。渡辺先輩は七高の選手の暴走を見て、選手を受け止めようとしたが何らかの妨害を受けてバランスを崩し、七高の選手と共に吹き飛ばされた。その要因は精霊魔法による可能性が高い。大会委員にスパイがいて、デバイスチェック時に何かしらの意図的なことを仕組まれた可能性がある。こんな感じでしょうか」

「あくまで当事者視点での希望的予測だがな。大会委員には第三者に責任を擦り付けたいという感じに思われかねない。今はここにいるメンバーと生徒会だけの秘密にしておこう」

 

克也の簡潔な報告と達也の提案に全員が頷くのであった。

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