小野先生からもらった電動バックを引きながらテントに向かい、カバンを開けて中身を見た俺は固まった。
「...達也、これは?」
「マントとローブだ」
「それは見ればわかるんだけどね。これが《
「それ以外に使い道はないだろ?」
達也が俺の質問に答えてから幹比古の質問にも答える。
「このマントとローブには魔方陣を織り込んでいる」
「魔方陣を織り込む?」
達也の言葉に覗き込んでいた会長が、疑問を感じたように聞く。
「古式の媒体で、刻印魔法と同じ原理で作用するんですよ。このマントとローブには、着用した者の魔法が掛かりやすくなる効果を付与されています」
「補助効果だな達也。これがなくても戦えるけど、あることに越したことはないということか」
達也が考えているのだから間違いはない。俺はそう信じてる。
「決勝戦に進んでくれた時点で新人戦優勝は決まっているのよ?あまり無理しないでね」
「出場させて貰っているんですから出たからには優勝しますよ」
「〈クリムゾン・プリンス〉と〈カーディナル・ジョージ〉に勝ったとなれば、俺たち3人の自信になりますしね」
会長の心配に達也と俺は不敵に笑いながら告げた。幹比古は緊張で震えていたが…。
三位決定戦が終わり、決勝戦は〈草原ステージ〉と発表された。それを見て一高首脳陣は厳しい顔をしている。三高を優勝させたいという思惑が、運営委員から漏れ出ているようにも感じられるからだ。
「障害物がない場所では不利ですね会長。...司波、策はあるのか?」
服部から意外な質問をされて驚いているが、しっかりと達也は答えた。
「正直、本来の戦い方をされれば手も足も出ません。しかし一条選手は、どうやら過剰に俺を意識してくれているようです。接近戦に持ち込めればなんとか」
「格闘技は禁止されてるぜ?」
「大丈夫ですよ。策はあります」
桐原の念と首脳陣の不安そうな顔に達也は、薄く不敵な笑みを浮かべた。
決勝戦開始前、試合ステージに到着した後に俺はマントの襟の陰に首をすぼめ、幹比古はフードを深くかぶり直していた。
「幹比古さんよ。絶対笑っている奴が約1名いるんだと思うんだが?」
俺は話しかけながらチラリと観客席の方に視線を向ける。すると同じように幹比古も、あきらめ顔で視線を向けていた。
「使い方はさっき言ったとおりだ。頼むぞ2人とも」
達也から俺たちに向けて応援がくる。本来は俺たちが送るべきなのだが逆に励まされた。それに対して俺たちは深く頷く。
試合後に分かったことだが、俺の予想通り笑っている人物がいたらしい。名前は言わないでも分かるだろうから、敢えて言う必要は無い。
閑話休題
試合開始の合図と共に両陣営の間で砲撃が交された。一方は二丁拳銃、片方は一丁で魔法を繰り出している。互いに歩き出して一歩ずつ近づくのを、俺と幹比古は不安な顔で送り出した。達也が魔法を撃ち合うが、互いの距離が縮めば縮むほど手数が減ってきている。
《
その前に回り込むと、いきなり《
「ぐはっ!」
爆風により吹き飛ばされて地面にたたきつけられた。肺から空気が押し出され、呼吸がままならなくなる。目の前が真っ暗になり、それから少しの間俺は気を失った。
僕は攻撃を受けて倒れた克也を見て恐怖を覚えた。
『なんて威力だ』
そう思いながらもローブに想子を流して、吉祥寺選手の遠近感を定まらなくさせる。すると《
その一瞬の判断の速さに驚き、ローブに流す想子を止めてしまう。逆にその隙をつかれて、吉祥寺選手の加重系統の魔法を食らい為す術なく横に落ちた。
「ぐっ!」
呼吸ができなくなるが意識を失うまではいかなかった。だがしばらくは動けないだろうと感じる。
『達也、ごめん...』
それだけを念じた。
『克也と幹比古がやられたか...。だが今ので一条は油断しているだろう。攻めるなら今だな』
突如ダッシュして彼我の距離5mまで距離をつめると、レギュレーションを超えた威力の圧縮空気弾が16発発射されるのが視えた。《
魔法式にはそれぞれ強度がある。
《
『達也!』
意識を取り戻した俺の視線の先で、達也が圧縮想子弾を2発喰らっていた。いくら達也でも、レギュレーションを超えた威力の魔法を喰らえば、鍛え上げた肉体であっても無事では済まない。
《癒し》を少しずつ身体に施しながら、意識を取り戻した俺は2人の戦いを見ていた。幹比古はまだ起き上がれる状態ではなく、地面に倒れたままだ。自分も早く戦闘に復帰したいが、圧縮空気弾をまともに受けたくせにケロッとしていれば、何を言われるのかわからない。だから少しだけ我慢することにした。
【肋骨骨折 肝臓血管損傷 出血多量を予測】
【戦闘力低下 許容レベルを突破】
【自己修復術式/オートスタート】
【魔法式/ロード】
【コア・エイドス・データ/バックアップよりリード】
【修復/開始...完了】
それは達也が意識するより早く走り、達也が意識するより早く完了した。達也が立ち上がると、そこには硬直している一条がいる。起き上がった瞬間に突き出した右手の指を一条の左耳の横で鳴らす。すると音響手榴弾に匹敵する破裂音が達也の手から発せられた。
トドメを克也と幹比古にさそうとしていた吉祥寺も、音源に目を向けていた。一条が倒れ、共に達也も片膝を立てる姿勢で荒い呼吸をしている。
「吉祥寺、避けろ!」
仲間から危険を知らされ、その場から逃げると今まで立っていた場所に雷撃が落ちた。放たれた場所を見ると、先ほど倒されたはずの幹比古が立ち上がっている。もう一度《
『やったんだね達也』
呼吸をする度に胸が悲鳴を上げて肋骨が痛む。長時間圧迫されていたためか、軽い酸欠状態になっているのだ。
『倒された時に打った背中が痛いけど、達也が受けた攻撃に比べればこの程度は何でもない!』
自分に活を入れて歯を食いしばり、幹比古はしっかりと地面を掴む。
『達也が〈クリムゾン・プリンス〉を倒したなら、〈カーディナル・ジョージ〉だけでも僕が倒す!達也は教えてくれた。自分にではなく術式に問題があると。達也、君を疑っているわけじゃないけど。君の言葉を証明させて貰うよ』
幹比古は両手操作の大型携帯端末型CADのコンソールに、長いコマンドを打ち込む。その数15回。通常の汎用型CADによる発動手順の5倍だが、処理速度は圧倒的に速い。幹比古は5つの魔法を一つの魔法の工程としてまとめるのではなく、連続発動を指定した。
一つ一つの魔法の結果を確認しながら、対話式で術式を完成させる精霊魔法では当たり前の手順。それを一連の動作として、一々結果を確認せずに一気に処理を進める。
それが達也の幹比古に出した解えだった。
右腕をたたきつけた地面が揺れる。地面の表面が振動していると吉祥寺にもわかっているが、幹比古が揺らしているように錯覚させられる。バランスを崩した吉祥寺の足下へ、幹比古の手元から地割れが走った。
地面がひび割れているのではなく、土に圧力を掛けて押し広げていると理屈で分かっている。だが冷静さを失った吉祥寺は、まさに幹比古が起こしていると勘違いしてしまう。逃げるために加重軽減と移動魔法の複合術式で空中へ逃れようとしたが、足が地面から離れない。
視線を下げると草が足に巻き付いており、地面に引きずり込まれると錯覚して跳躍の術式に全魔法力を注いだ。外れたことで安心した吉祥寺の頭上に、5発目の魔法が発動した。
「喰らえぇぇぇ!」
幹比古が吠えると同時に雷撃が吉祥寺を撃ち落とす。
「この野郎!」
三高の最後の1人が魔法を幹比古に放つ。《
『あぁ、負けちゃったな。でも〈カーディナル・ジョージ〉を倒せたからいいか』
幹比古はそう諦めを心の中で口にする。だが衝撃が来ないので目を開けると、魔法式が燃えているのを知覚する。
「はあぁぁぁぁぁ!」
気合いをほとばしらせながら、克也が《
「お疲れ様2人とも。達也はすごいな〈クリムゾン・プリンス〉を倒すなんて。幹比古もあの5連発はすごいよ。〈カーディナル・ジョージ〉の動揺を上手く使っての奇襲攻撃。こっちも痺れた」
「ありがとう克也。あれは意地だったんだよ。達也が〈クリムゾン・プリンス〉を倒したんだから〈カーディナル・ジョージ〉を僕が倒すっていうね」
「こっちもだ克也。美味しいところを持って行ったが狙ってたのか?」
「そりゃまさかだぞ達也。あの攻撃を受けた後は本当に動けなかったんだ。あれは参ったなぁ。15mの高さから水に飛び込んだときに入水角度をミスって、背中から落ちた時以来だ」
達也の茶々に克也はおどけながらもしっかりと答える。
「…克也、君って結構馬鹿なんだね」
「そう言うなよ幹比古。案外楽しかったんだぞ?」
「でもよく復活できたね。あの威力の圧縮空気弾を受けて」
「これは内緒にしてほしいんだが。実は俺の【固有魔法】で少しずつ治したんだ」
幹比古の質問に答えながらもオフレコであることを頼む。
「流石四葉家だね。でもありがとうおかげで助かったよ」
「水臭いぞ幹比古、それはお互い様だ。お前が〈カーディナル・ジョージ〉を倒す時間がなかったら復活できなかったしな」
2人で話していると、達也が話に入ってこないので克也と幹比古は不思議に思った。
「達也、どうかした?」
「すまない。もう一回言ってくれないか?」
「達也は大丈夫なのか?って聞いたんだけど」
「ああ、すまない。片方の鼓膜が破れていてな。今は口の動きを読んでどうにか理解できている程度だ」
あまり話に入ってこなかったのは、そういうことだったのかと不安を捨てる。3人で歩いていると、一高の観客席前に到着した。そこでは深雪が大粒の涙を流しながら立っていたので、克也と達也は2人して手を振る。
エリカたちもみんな涙を流しており、さすがに3人とも驚いた。克也と幹比古があまり知らない明智英美ことエイミィ・里見スバルなど。達也の担当選手も勢揃いしており、涙を流して抱き合っていた。
克也は一高の上級生3人組の姿を探す。するといつものメンバーから少し離れた位置に座っている3人組と眼が合った。真由美は笑顔で迎えて摩莉は腕組みをしながら頷き、鈴音は深雪同様に大粒の涙を流している。克也が鈴音のためにウインクを送ると、何を勘違いしたのやら。隣の三高女子生徒から良い意味の(克也からすれば悪い意味の)悲鳴が上がり、決勝戦で疲労した克也に頭痛を起こさせた。
その夜に鈴音がまた部屋にやってきた。
「…来てくれるのはうれしいけど。ルームメイトにバレてないのか?」
「問題ありません。作戦を考えてくると言って出てきましたから」
俺の質問に答えながら鈴音は俺に抱き着いてきた。
「ごふっ!そのスピードで抱き着くのは反則だ」
「そんなこと知りません。こうしたかったのですから我慢してください」
俺の文句に耳を貸さずいきなりキスしてきた。俺は暴れるががっちり腕をロックされ逃げ出せない。何故こんな攻撃?を受けるのか理解できずにいると、勢いに押されてベッドに倒れてしまう。よくよく見ると鈴音に覆いかぶさられる状態になる。
積極性に赤面していると、向こうも赤面しながら笑顔を向けてきた。鈴音の気が済むまでキスをされ続け、試合とは違う心地良い疲労を覚えた夜だった。
《