魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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番外編②
社交パーティー


七草邸に向かう道中、俺はコミューターの中でため息を漏らしていた。

 

「克也様、いかがされました?」

 

四葉の執事兼俺の専属ボディーガードでもある四谷辰巳(よつやたつみ)25歳は、運転しながらも俺のため息を聞き逃してはいなかった。彼は四葉家の中でも達也に対して、普通に接してくれる数少ない人物だ。そのおかげか俺は辰巳に心を許し、達也も少なからず心を開いている。

 

「俺はパーティーが嫌いだよ。何で見ず知らずの人に愛想ふりまかないとダメなのかな。それに叔母上だって来ればよかったのにさ。何で俺1人で行かせるんだ?達也と深雪が行かないのはわかるけどさ」

 

俺の愚痴に一瞬だが辰巳が表情を歪ませた。だが言葉を発した時には何もなかったかのように話し始める。

 

「真夜様は七草のご当主のことがお嫌いなのです。詳しいことは申せませんが、今の関係を改善することはほぼ不可能ですから。深夜様がまだご存命であったならば、可能だったと思われますが…」

 

叔母上と七草弘一の関係を俺は知らない。今の話だとよほどのことがあったに違いない。母さんが生きていれば、可能だったかもしれないとはどういうことなのだろうか。聞きたいと思ってはいるが、聞いてはならないような気がしていたのでやめておく。

 

「克也様、もうすぐ到着でございます。ご準備を」

「…わかったよ」

 

辰巳の言葉に渋々降りる準備を始めた。

 

 

 

七草邸は東京に近い高級住宅街にあり、豪華な洋風の建物で四葉家とは違って派手なことに驚く。

 

「辰巳、四葉とはかなり違うけどこれって家系による?」

「もちろんでございます。それぞれの当主様の意向で外観や内装までが異なっております」

 

辰巳の説明に耳を貸しながら、七草家の執事の後ろをついていく。パーティー会場に入ると、大勢の大人が着飾って談笑しているのを見て頭痛がしてきた。俺が入ってきたことに気付いた大人たちがこちらに視線を向けてくる。特に女性陣がこそこそと話し合っている。俺が四葉家だということはバレているだろうが、何故こそこそと話しているのかわからない。そこで辰巳に聞いてみることにした。

 

「辰巳、自意識過剰かもしれないけど、何故俺が入った瞬間に談笑からこそこそ話に変わったんだ?」

「それは克也様の容姿に驚いておられるからでございますよ。中学3年生にもかかわらず170cmの高身長、そしてよく鍛えられた肉体、そこから発せられるオーラ。そして何より皆様を虜にするほどの端正な顔立ち。一体どうやってこれらを無視することができるでしょうか!」

 

エキサイトし始める辰巳に違う意味で頭痛を覚える俺であった。近くを通ったウェイターからもらったミネラルウォーターを口に含んで、何気なく周りを見渡す。

 

魔法師友好派の国会議員である上野議員や、魔法社会と太いパイプを持つ化学工業を扱う大企業の社長など。魔法社会とは違う一般社会で大きな権力を持つ人物などが、思った以上に大勢いることに少々驚いていた。その他にも有名俳優や女優なども来ていることから、七草家は日本の一般社会と大きな関わりを持っていることに驚かされた。

 

 

 

しばらくすると主催者の七草弘一が娘3人を引き連れて登場した。最初の方の演説は参加者に対するお礼や、自分が貢献した事業などの説明だったので俺は暇だった。しかしそれは開始から15分間のことで、弘一が突然俺の名前を呼んだ。

 

「今回のパーティー開催に置きまして、魔法社会で大きな権力を持つ四葉家のご子息殿が参加して下さっています。四葉克也殿、前へいらしてもらえますか?」

 

フロアがザワザワし始め、俺は辰巳にどうしたらいいのか小声で聞いた。

 

「辰巳、どうにかしてくれ」

「不可能でございます。これは行かなければならないかと」

 

辰巳のポーカーフェイスに俺は脱力しながら、七草弘一の元に向かう。俺が壇上に上がると、参加者から拍手と女性から歓声が聞こえた。

 

「御足労をおかけして申し訳ありません四葉殿」

「いいえ弘一殿、今回の社交会に招いていただき光栄です」

 

弘一の社交辞令に愛想笑いで答える。もちろん愛想笑いはバレないように俺が使える技量を、可能な限り出し尽くしたものだったので弘一が気付いた様子はない。〈十師族〉は対等な立場なので、歳がある程度離れていても敬語は軽いものしか使われない。

 

「四葉殿に参加してもらえるとは恐悦至極です」

「こちらこそ恐縮です」

 

軽い挨拶を終えてからは食事時間になった。

 

 

 

ここでは何故かバイキング形式だったが、俺は肉料理ではなく魚料理や山菜などに舌鼓を打っていた。一方辰巳の方はというと、普段四葉家では見ることができない料理に眼を輝かせて、これでもかという程にたらふく食っている。俺はその様子を本日3度目の頭痛を覚えながら見ていた。

 

帰ったら1回絞めないと駄目だと思ったのは秘密である。後日、辰巳を訓練室に呼び出して、体術でコテンパンにつぶしたのは言うまでもない。

 

 

閑話休題

 

 

腹八分目になり、食後のデザートである大好物のバニラアイスを食していると、後ろから女性に話しかけられた。

 

「すみません」

 

俺はアイスの入った皿とスプーンを、テーブルに置いてから振り向いた。

 

「いかがされました?」

「四葉克也さんですよね?私は七草家長女真由美です。こちらの2人は私の妹の香澄と泉美です」

「は、初めまして四葉さん。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 

自己紹介されたが、3人とも四葉の名前に怯えているようで声が震えていた。俺は四葉だが、自分たちこそ最も優秀だと思っている四葉の中心人物共とは違う。名前で他人を脅すようなことはしたくない。だから俺は年相応の振る舞いで話すことにした。

 

「初めまして四葉克也です。家名など気にせずに克也と呼んでください。自分は名前で優遇されたいとは思っていないので、気軽に話しかけてくださいね」

 

笑顔で自己紹介すると、名前のように怖い人ではないとわかってもらえたようだ。ぎこちなかった笑顔や話し方も自然になっていった。

 

「克也君は高校はどうするの?一高にするの?」

「俺は一高に行きたいんですけど、当主が最終決定するのでわからないんです」

「当主?母親じゃなかった?」

「ええ、()ですよもちろん。ただ家ではあまり()と呼びにくくて。溺愛されすぎて嫌になる時があるというか。それに〈十師族〉の中でも異端の四葉家当主ですから」

「いい母親じゃない。大切にしなきゃダメよ?」

 

そういえば七草家に今は母親がいなかったと思い返す。

 

「もちろんですよ」 

「克也さんは何の魔法が得意なんですか?」

「そうだね。得意不得意は特にはないけど、強いて言うなら振動魔法かな。あとは()が使う《流星群》だね」

「《夜》を使えるのですか?あれは四葉家ご当主様しか使えないはずでは?」

 

泉美の質問はもっともである。《夜》は叔母の【固有魔法】のはずだが、何故か俺にも使用できるので謎なのだ。

 

「そのはずなんだけど何故か俺にも使えるんだ。四葉の研究者にも解析を依頼してるんだけど、解明は全然進んでいないらしいよ」

 

話をしていると会場内に流れていた曲調が、クラシックからダンスミュージックに変わる。大人たちが手を取り合ってダンスステージに流れていった。

 

「よかったらご一緒しませんか?」

「よろこんで」

 

真由美さんに誘われたので快く引き受ける。エスコートするように手を引いて踊り始めた。真由美さんのダンスは、高校2年生にもかかわらず大人にも負けない洗練されたものだった。その後真由美さんの妹たちとも踊ったが、何故か真由美さんによって2戦目に強制参加させられた。

 

そして踊っている途中から周りの大人たちが離れていき、俺たち2人だけが最終的に残った。弘一の方をちらりと見たがシャンデリアの光の反射によって、薄い色のついた眼鏡の奥の眼は見えない。しかし雰囲気までは隠しきれておらず、俺には何を考えているのか分かった。

 

このパーティーを機会に俺と真由美さんを婚約させ、四葉を味方につけようとしているのだと。そんなことはさせないと思いながらも、真由美さんをないがしろにはできないので、先程と変わりなく踊り続けた。

 

踊り終わると拍手をいただいたのでお辞儀で返礼する。すると弘一が近づいてきて、予想通りのことを耳元でこっそり言ってきた。

 

「もしよろしければ、娘3人のうちの誰かを娶ってもらえませんか?」

「ありがたい申し出ですが、それを決定するのは俺ではなく、()なので今はなんとも申せません」

 

許可がなければ婚約はできないと口では言っているが、言葉にそんなことはしませんと含ませている。そのことに気付いているのかどうかは分からないような、感情のない笑顔を向けてきた。

 

「もちろんそれは重々承知しています。候補に入れてもらえればと思っているだけですよ」

「そうですか。では保留とさせていただきます」

 

そう言ってこの話はこれでおしまいと俺は切り上げた。

 

 

 

「克也様、そろそろお戻りになる時間です」

 

先程までたらふく食っていた辰巳が、いつもの執事に戻って話しかけてきた。この切り替えの速さを俺は評価している。戦場では一瞬の判断ミスが命を落とすことに繋がるので、感情の切り替えは優秀な魔法師には必然的に付随してくる。

 

「もうそんな時間か。思ったより早いな。わかったすぐに向かうからコミューターの準備をしておいてほしい」

「かしこまりました」

 

辰巳にそう命じて俺は弘一に謝罪した。

 

「すみません。そろそろ出発しなければ家に戻るのが遅くなるので、帰宅させていただきたいのですがよろしいですか?」

「もう少しお話ししたかったのですが残念です。分かりました皆様には私から伝えておきましょう。真由美、駐車場までお送りして差し上げなさい」

「わかりましたお父様」

 

俺は弘一に一礼してから会場を後にした。

 

 

 

「父に何を言われたの?」

 

駐車場までの道程を歩いていると、真由美さんが顔色を伺うように問いかけてきた。

 

「ん?ああ、それは三姉妹のうちの誰かを嫁にしてくれと言われたんですよ。俺1人では決められないから、返事はできないと話を保留にしただけです」

 

隠すことなく答えると、真由美さんは表情を暗くさせた。

 

「あの狸親父、また私を嫁に貰って欲しいって言ったのね。何人に言えば気が済むのかしら」

「…まあ、親からすれば幸せになって欲しいんでしょうね。自分のように決まっていた婚約者とではない方と、気の進まない結婚してほしくないんだと思いますよ」

 

俺は真由美さんの怒りを抑えながら諭す。かつて弘一には婚約者がいたことを、俺は叔母から情報として聞いていた。どういった事情があったかは知らないが、婚約破棄となって今は死別した妻と結婚したらしい。先程の言い方はある意味、真由美さんの母を愚弄する形になってしまうが。

 

「…そうね。親は自分の子供が幸せになることが一番嬉しいもの。それはそれで仕方ないか。でも、自分の好きなように恋愛をさせて欲しいと思うこともあるの。自分から好きになって交際して結婚する。それが普通の恋愛じゃないの?」

「確かに一般人はそうでしょうが、俺たち魔法師はあまり自由に恋愛はできませんからね。特に数字付き(ナンバーズ)のように強力な魔法師を抱えている家系は」

 

真由美さんの言いたいことはよく分かる。好きでもない相手と結婚して子供を産むなど心が傷つくだろうが、優秀だとされた魔法師は昔からそうしてきた。それはこの国を守るために必要だったのだから。

 

500年前ならばそれが当たり前だった。政略結婚することで、武士は己の家督を繋いできたのだから。結婚する男女に拒否権はない。親のいいなりで結婚し、子供を作り、血を繋いでいく。恋心などない体裁だけの契だ。

 

中には恋愛からの政略結婚や通常の結婚もあっただろう。政略結婚後に互いが恋心を抱くこともあったかもしれない。

 

話していると七草家の正門に到着した。そこには運転席の前に立ち、俺を待つ辰巳の姿がある。

 

「そろそろお別れですね」

「ええ、でもこれが最後じゃないわ。あなたが一高に来るのであれば会うこともあるでしょうから」

「そうですね。()に懇願してみます。今日はお招きしていただきありがとうございました。踊れて良かったですそれでは」

 

俺は真由美さんにお礼を言ってから車に乗り込んだ。

 

「こちらこそ会えてよかったわ。また会いましょう」

 

走り出す車の後ろから、真由美さんがそう言いながら手を振ってきたので手を振り返した。

 

 

 

「如何でしたか?初めてのパーティーは」

 

少しばかりリラックスしていると、辰巳がふいに問いかけてきた。

 

「中々有意義な時間だったよ。ただ、七草弘一は油断ならない男だということがはっきりした。叔母上の言っていた『気をつけなさい』という意味が分かった気がする。俺はあいつの味方などにはならないしなるつもりもない。真由美さんや妹たちは別だけど」

 

克也は辰巳の質問に怒気を含ませながら答える。そうでもしないとコミューターを燃やしてしまいそうだった。

 

「それで結構でございます。必ず〈十師族〉と友好的な関係を築かなければならないという掟もなければ、それに従う義務もないのですから。七草家は油断ならないと気付いてもらうために真夜様は今回、七草家の要望に応えて克也様を送り出したのです。気付いてもらえたと知れば喜ばれると思いますよ」

「そうだね。叔母上の意図を少しぐらい理解できなければ、四葉としてはやっていけない。辰巳、俺は少し眠るから家に着く10分前ぐらいに起こしてほしい」

「かしこまりました克也様。ごゆっくりお休みになられてください」

 

俺は辰巳にそうお願いして、軽い睡眠を取るために椅子に深く座り直した。

 

 

 

「そう。やはりあの男は油断ならないわね」

 

そう言う叔母の顔は怒りでも苛つきでもなく、優しい笑みを浮かべていた。ここは叔母のプライベートスペースで、普段は立ち入れない場所である。俺は辰巳に起こされた後、眠気の余韻を頭から追い払い、当主である叔母の元に報告しに向かったのだ。ハーブティーを口に含みながら叔母は俺に眼を向けてくる。

 

「何でしょうか?」

「貴方が私の意図を理解してくれて嬉しかったのよ。何も理解せずに帰ってきていたらどうしようかと思っていたから」

 

恐ろしいことをさらっと口にしながら笑みを浮かべる。俺は正解に辿り着いていなかったら今頃どうなっていたのか想像したが、よろしくないことばかり思い浮かんだので途中でやめた。

 

(深雪に氷詰けにされたり、達也に体術と魔法でコテンパンにされたり、叔母上によるいろんな意味を含む精神攻撃だったりとかetc.)

 

まだ俺を見つめる叔母に疑問符を浮かべる。 

 

「まだ何かおありですか?」

 

叔母は言うか迷っていたらしいが、何ヶ月ぶりかに聞く言葉を発した。

 

「…久々に抱きしめていいかしら?」

 

耳まで真っ赤にさせながら言ってきたので、俺は苦笑するしかなかった。

 

「構いませんよそれぐらい」

 

そう言うと幼い少女のようにはしゃぎながら抱きついてきた。

 

身長165cmの叔母は170cmの俺とそこまで大差ないのだが、それを気にした様子はない。むしろこの差が少ないことを喜んでいるようだ。この状況を葉山さんに見られればどうなるかわからない。だが今は叔母が立ち入り禁止にしているのでその心配は無い。だからこうやって「お願い」を聞いているのだが…。

 

叔母の満足いくまで好きなようにさせていると、叔母が充電完了とでも言いたげな顔で俺から離れた。そして俺は部屋を出て自室に戻る。

 

数ヶ月後に、まさか第一高校に進学するよう命じられるとは知らずに。

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