魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第24話 間近

「克也、一高付近で何かおかしな想子を持つ魔法師を、可能な限りで良いんだが探してみてくれないか?時間があるときでいい」

「わかった。空き時間にやっておくよ」

 

幹比古からの頼まれ事をコミューターで克也に達也が頼んでいると、深雪が不安そうな表情で話しかけてきた。

 

「お兄様方、今朝先生が仰っていた『方位に気をつけろ』とはどういうことでしょうか」

「俺にもそれだけじゃわからない。とりあえず全方位を気にしていればいいんじゃないかな?」

「そうですね納得しました」

 

深雪は達也の言葉で不安がなくなったようで、先程より達也との距離を詰めるのだった。

 

 

 

今日は論文コンペまで残り1週間前の土曜日なのだが、学校に行かなければならない。術式の最終調整が残っているためである。聖遺物(レリック)をFLTに預けに行った後、ロボット研究部のガレージで達也は作業することになった。

 

「達也、1人だけおかしな想子が頭部にある奴がいる。たぶんそいつが先生の言っていた敵の仲間だと思う」

「ああ、わかった。知らせてくれてありがとう」

 

達也は克也にお礼を言ってロボ研のガレージに入っていき、克也は深雪と達也を見送った後、2人で仲良く校舎に向かった。

 

 

 

克也は生徒会室におり、深雪が仕事をしている横で眠っていた。今までの疲れが余程溜まっていたらしい。

 

「克也お兄様、少しよろしいでしょうか?…克也お兄様?」

 

呼んでも返事が返ってこないのでいる場所を向くと、腕組みをしながら寝ている克也がいた。それを見て深雪は頬を緩めてしまう。今この生徒会室には自分と克也しかいないので、こんな姿を見せているのだろう。起こすこともせずに深雪は生徒会室の書類をまとめ始めた。

 

 

 

1時間ほど眠っていたが、知った想子が近づいてきたことで克也は目を覚ました。克也は家にいる時以外は常に辺りを警戒している。四葉家の訓練によって叩き込まれたため、無意識的に行ってしまうのだ。それは睡眠中でも同じで、今回も誰が来るのかが事前に分かっていた。

 

「千代田先輩、おはようございます」

「司波さん、やっほ~。ところで寝ぼけてる四葉君はどうしたの?」

「疲れが溜まってたみたいです」

「なるほどね」

 

起きたまではいいが、寝起き数分では克也でもさすがにいつも通りとはいかなかった。2人のやりとりが左から右に流れている。その様子を見て、深雪の説明に花音はすぐに納得した。しかし次の瞬間に克也の意識は覚醒する。

 

「千代田先輩、保安システムから異常警報です!」

「場所は!?」

「ロボ研です!」

「司波さんはここにいて。四葉君、行くわよ!」

「「はい!」」

 

克也と深雪はそれぞれ違うお願いに同じ言葉で答えた。

 

 

 

「関本先輩、何をしているんですか?」

「な、千代田に四葉!?ど、どうしてここに!」

 

ロボ研に入ると、達也以外に誰かが動いているのが見えた。千代田先輩に声をかけられた人影は、獲物に睨まれた小動物のように振り向いて止まる。驚きすぎだろうと思ったが今はそれどころではない。

 

「その台詞は聞き捨てなりませんね。ここに私が来てもおかしくはありませんよ」

「馬鹿な!警報は切っていたはずだ!」

 

不用意な言葉を発したことで、俺と千代田先輩は想子を活性化させる。

 

「ええ、警報は自動ではなく手動(・・・・・・・・)で届きましたから」

 

後になって分かったことだが、達也はロボ研の所有する人型ロボット〈3H〉に、何かあれば警報を手動で発することを命じていたらしい。

 

「関本先輩、警報を切ったとはどういうことですか?今ここで言えないのであれば、後々お聞きすることになります。もちろん厳しい罰を受けてからですが。とりあえず起きろ達也。狸寝入りはバレてるぞ」

 

脅しで話してもらおうと思ったが逆効果だったようで、関本先輩は口を開閉するだけで何も発しない。俺の言葉に達也は苦笑しながら立ち上がり、それを見た関本先輩はさらに驚く。

 

「馬鹿な!ガスが効いていないのか!?」

 

その言葉に俺はため息をついた。自ら墓穴を掘り続けることに飽き飽きしたのだ。

 

「関本勲、CADを外して床に置きなさい!」

 

そう命じながら千代田先輩は、自分のCADに想子を流し込み待機させる。

 

「千代田ぁ!」

 

関本先輩は叫びながらCADを操作するが、床を媒体とした千代田先輩の振動魔法に意識を刈り取られて倒れる。魔法を発動直前で待機させていた千代田先輩に、後から発動させて勝てるわけないだろうに。

 

「とりあえずこの人を引き渡しましょう。千代田先輩、お願いできますか?」

「ええ、任せて」

 

快く引き受けてくれたので仕事が楽になった。おそらくは先輩としての立場と風紀委員長としての仕事だと認識したからだろう。千代田先輩がいなくなるのを確認した後、俺は達也に尋ねる。

 

「で、証拠はあるのか?達也」

「ああ、3Hに記録させておいたから役に立つだろう。あとは藤林さんに送って確保してもらうだけだ」

 

そう言って帰宅する準備を始める達也を残して俺は外に出た。

 

関本勲の襲撃は予測できなかった。エリカに聞いたあの非工作員が言っていたことはこのことだったのだろうか?平河千秋の場合は自ら望んで手を結んだが今回は違う。関本勲は二科生との溝を深めず、中立的な立場をとってきた人物だ。

 

そのような人物がこんな犯罪行為をするだろうか。マインドコントロールを受けて操られていた可能性もある。だがそれでは会話が成り立たなくなるはずだ。しかし先の会話でおかしな箇所はどこにもなかった。分からない藤林さんに任せるしかないか。

 

そう思いながら俺は、雨を降らせる雨雲を見上げていた。

 

 

 

 

 

翌日、コミューターを降りて学校に向かおうとすると、後ろを走ってきていたコミューターから降りる人物を見て、克也たち3人は立ち止まった。

 

「げっ」

「ん?どうし…」

 

エリカの硬直に首を傾げながら視線を変えたレオが、こちらを見て行動停止した。

 

「詳しいことは聞かないから安心しろ」

 

克也が2人に言うとようやく動き出した。

 

「久しぶり3人とも。このことは内緒ね」

「おっす克也・達也・司波さん」

 

2人が挨拶してくるので、いつも通りに挨拶をしてから学校に向かった。

 

 

 

その日、達也は関本先輩に事情聴取をしに行きたかったのだが、風紀委員である千代田先輩と生徒会長であるあーちゃん先輩に面会許可をもらえず落ち込んでいた。俺が達也の代わりに行くなら許可するらしく、達也はその条件で渋々頷いた。

 

まあ、結局は家に帰ってから話すのだから行っても行かなくても変わらない。達也が行くと面倒事が起こるからというのが言い分である。正当性は全くないが、事実であることを俺は知っている。それに論文コンペの主力3人のうちの1人なのだから、今このタイミングで向けるのは外聞が悪い。たとえ予定以上にスケジュールが進んでいたとしても。

 

拘置所には七草先輩と委員長と行くことになり、放課後に関本先輩がいる八王子特殊鑑別所に向かった。

 

七草先輩と2人で関本先輩の隣の部屋から、委員長の尋問を聞くことにした。委員長が入ってくると関本先輩は無意識にCADが巻いてあった位置をさするが、もちろんないので何も起こらない。すると今まで焦っていた関本先輩の顔が陰り、脱力したことで無表情になった。

 

「匂いを使った意識操作ですか。これは危険ですね」

「克也君も見るのは初めて?」

「はい、あまり使われたくないですが」

「それもそうね」

 

軽い会話をした後、尋問が始まった。

 

『何をするつもりだった?』

『デモ機のデータを吸い上げた後、司波の持ち物を調べるつもりだった』

『何が目的だった?』

『〈聖遺物(レリック)〉だ』

 

委員長の質問に1つずつ答える。目的を聞いた瞬間、関本先輩は操られていたと確信した。論文コンペに出場できなかった悔しさをつけ込まれて利用されたのだろう。気持ちは分かるが同情はできない。相手の侵入を許してしまうほど関本先輩の心が弱かったのだ。

 

「克也君、そんなものを持っていたの?」

 

俺が達也と一緒に暮らしているのを、一高生はほぼ全員知っている。だから俺に聞いてもおかしくはない。

 

「いえ…」

 

そこまで話していると突然警報が鳴り出した。部屋を出ると委員長も隣の尋問室から出てくる。

 

「克也君、これは一体...」

「侵入者のようですね。…なるほど、こちらが狙いですか」

 

通路の奥からゆっくり歩いてくる男を視界に入れた瞬間、全身の毛が逆立つ錯覚を感じた。

 

「「呂剛虎(ルゥ・ガンフウ)...」」

 

委員長と同時に敵の名前を叫ぶ。

 

「委員長もご存じなんですか?」

「ああ、少し前に平河千秋の入院している病院で交戦した。克也(・・)も知っているのか?」

 

委員長が俺の名前を呼び捨てにするのは余程の時だけだ。つまりは今がその時ということ。目の前に危険人物がいれば当然である。

 

「ええ、()に大亜連合で注意すべき魔法師の1人と教えられましたから。これで関本先輩を使って達也を襲わせた犯人が分かりましたね。関本さんの無実とは言えないまでも、減刑を求める書面は書けそうです。それよりも委員長、会っていたなら教えてくださいよ。そうすれば対策できたかもしれないのに」

「いちいち報告はいらないだろ。というより構えろ。来るぞ!」

 

その言葉通り呂剛虎は、こちらから50mまでの距離に接近していた。

 

「俺が戦いますので2人は離れていてください。あいつは危険です。俺もそこそこ本気で戦わないと互角の戦いはできないでしょう」

「…いや、克也は真由美を守ってくれ。あいつはあたしが倒す。シュウに怪我をさせたんだ。その仕返しをしなければ気がすまない」

 

委員長の気持ちは分かるが怪我をされては困る。〈バトル・ボード〉のようなことは二度とごめんだ。たとえ直接的な魔法による攻撃でないとしても。目の前で知り合いが傷つく瞬間は見たくない、

 

「いいえ、これは四葉家次期当主候補である俺にとって最優先事項です。他国が我が国で好き放題するのは看破できません。委員長は七草先輩のカバーをお願いします」

 

俺の活性化した想子に気圧されて息を飲む音が聞こえたが、俺の意識は近づいてくる呂剛虎の様子を観察していた。

 

「わかった。なら君に任せる」

「気をつけて」

「ええ」

 

2人の心配に返事をしてから敵と対峙する。

 

「っ!」

 

小さく息を吐き出し、呂剛虎に向かって疾走すると同時に向こうも動き出した。俺の頭上からドライアイスの弾丸が呂剛虎に向かって発射される。位置定義を俺の頭上としているので、彼我の距離が接近するほど威力が上がる。俺の頭部が急激な方向転換や角度を変えると条件が途絶えるので、可能な限り頭部を動かさずに左右に移動しながら接近する。

 

ドライアイスの弾丸の半数が直撃するがダメージはない。彼が常時発動している《鋼気効(がんしごん)》によってはじき返されたのだ。《鋼気効》は身体を覆う魔法の鎧だ。熟練度の差にもよるが、余程の魔法でない限り破ることは不可能である。俺も七草先輩もその程度でダメージを与えられるとは思っていない。だから驚きはしなかった。

 

想子を右拳にまとわせ呂剛虎の腹部を強打しようとしたが、《鋼気効》によって阻まれて体勢が泳いで後ろに吹き飛ばされる。その瞬間を狙って呂剛虎が拳を繰り出してきた。

 

それはまるで虎の顎のようだ。俺は焦らずドロップキックを呂剛虎に喰らわせるため、仮想の足場を想子で左足の近くに形成してする。慣性・重力・回転による三重のブーストを付けた攻撃は、《鋼気効》を砕いて呂剛虎の右肩を直撃した。

 

「があぁぁぁぁ!」

 

叫び声を無視して右肩を蹴って距離をとる。先生に習った体術を使用していなければ、《鋼気効》を砕いたとしても右肩にはそれほどダメージを与えられず、逆に俺の踵は粉砕されていたことだろう。強固なものだと生半可な攻撃では貫通できないと分かっていたが、ここまで堅いとは思わなかった。

 

このままじゃやばいな。2人を守りながらじゃ満足に戦えない。魔法を使えば、ここを全壊とはいわないまでも半壊させそうだ。さてどうしたものか。

 

そこまで考えていると呂剛虎が荒い息を吐き、右肩を抑えて立ち上がった。予想よりダメージがあったようだ。すると呂剛虎が、真剣な表情をしながら猛スピードで突っ込んできた。

 

自己加速術式を使わず、これほどの速度が出せるのかと思いながらも俺も構える。しかし肉薄された瞬間に姿が消えた。直感で右に振り向くと壁を蹴る音が聞こえた。俺と先輩方の距離は10mもない。魔法を選択している余地はなかったので想子を可能な限り圧縮して1つ撃ち出す。それは呂剛虎の《鋼気効》と左脇腹を貫通した。

 

「グアァァァァ!」

 

かなりの量が出血しているが、それでも前に進もうとしている。

 

「委員長!」

「わかってる!」

 

俺の叫びに委員長は答えながら、CADを操作して気流を発生させた。呂剛虎の動きが止まったかと思うと、上体を崩して俯せに倒れる。

 

「委員長、今のは催眠系の香料を使ったんですか?」

「…ああ。少し分量を間違えて、かなり強力な睡眠剤を処方してしまったがな。目を覚ますまでにどれくらいかかるのやら」

 

委員長のボヤキに苦笑しつつ、七草先輩の状態を聞いた。

 

「七草先輩、怪我はありませんか?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう2人とも。それじゃあ警備員を呼びましょうか。このまま放っておくわけにもいかないし」

「お願いします」

 

俺が頼むと壁に備え付けられた緊急用固定電話に向かった。

 

これが噂の〈人喰い虎〉呂剛虎(ルゥ・ガンフウ)か…。思ったより強敵だった。鍛え直す余地がありそうだな。

 

俺は電話をする七草先輩の横でそう思った。

 

 

 

帰宅すると2人に心配されたが、怪我をしていないことを告げると安心してくれたので、叔母に連絡すると言ってその日は早めに自室に戻った。

 

『…そんなことがあったの。それは大変でしたね』

 

叔母は俺の報告に真剣に答えている。

 

「恐るべき技量でした。呂剛虎があれだけの実力だったとは。自分の未熟さを痛感させられました」

『白兵戦では無類の強さを誇りますもの。だとしても落ち込む必要はありませんよ。直接対峙して怪我をせずに退けたのは、お世辞抜きにしても称賛に値することだと思いますけど』

 

おどけているのか本気なのかはわからない。褒め言葉なのだから、落ち込むことはないと言ってくれているのだろう。だが俺は素直に受け取ることはできなかった。

 

「しかし先輩方がいなければ協力者は殺されていたでしょう」

『かもしれないわね。でも《貴方の魔法(・・・・・)》を使えば苦戦することはなかったはずよ?』

 

叔母は《地獄の業火(ヘル・ヘイム)》を使えばよかったと言っているのだが俺は反対だった。

 

「確かに使えば楽だったでしょう。しかし女性の前で人が燃える光景を見せたくなかったものですから」

『甘いわね。そんなことを言っていると、いずれ大切なものを失うわよ』

「肝に銘じます」

 

叔母の言葉は本気だ。決して口先だけのことではないのだろう。

 

『論文コンペを頑張りなさいと達也さんに伝えておいてね。それじゃあまた』

「お休みなさいませ叔母上」

 

それきり電話は切れた。今のは気をつけなさいってことだよな?そう思いながらリビングに向かった。

 

 

 

「叔母上から伝言。どう解釈すればいいのかわからないけど伝えるよ。『論文コンペを頑張りなさい』だって」

「そのままでいいんじゃないでしょうか?」

 

深雪は深く考えずに答えた。

 

「いや、事件が起こるのは一度に1回限りじゃない。平河先輩の妹といい関本先輩といい、関係者を使って2回も失敗しているんだ。次は自分たちから動くだろう。論文コンペだけを気にするなと伝えてくれたのだろうな。だが今は論文コンペの発表を考えるのが先だ」

 

達也の言葉に頷いた2人だった。

 

「それに藤林さんからの報告だが、ほぼ全てのスパイを拘束したらしい。隊長の陳祥山(チェ・シャンシェン)は逃したようだが、克也が呂剛虎(ルゥ・ガンフウ)を確保してくれたから満足したってさ。よかったな克也」

「ああ、これで達也が集中できるよ」

 

自身が褒められることより、達也の発表の心配をする。何者にも侵されない家族の繋がりが垣間見えた瞬間だった。

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