魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第25話 横浜事変①

鈴音は論文コンペ本番前日に学校を休み、リハーサルを午後に繰り下げてとある病院を訪れていた。同行者は俺1人だけだ。病院の個室の中には安宿先生と平河千秋の姿があった。

 

「平河千秋さん、今の貴女のやり方では司波君の気を引くことはできません。好意は無論のこと、敵意も悪意も引き出すことは難しいでしょう」

「ええ、分かってます。お連れの人に教えてもらいましたから」

 

平河の返事は学校で見たときほど棘が生えておらず、むしろ諦めの感情が含まれているのは、現実を受け入れようとしている証拠なのだろう。俺はそんなことを踏まえて言った覚えはないが、自分なりの解釈で導き出したのかもしれない。間違っていないので何も言わなかったが。

 

「千秋さんは知っていますか?1学期定期考査筆記試験で、司波君は他を寄せ付けない圧倒的な結果を残したことを。そこにいる彼を除いてですが。しかし筆記試験第5位が貴女です。92点、普通ならトップであってもおかしくない点数です。今回ばかりは相手が悪かったのでしょうね。しかし貴女なら司波君を追い抜く技量があると思っています。この2週間一緒に作業してきましたが、司波君はソフトと比べるとハードをあまり得意としてはいないようでした。現時点でも高校生レベルをはるかに超えてはいますがソフトほど飛び抜けていません。2年生からはハードの比重が増えてきます。そのタイミングでしたら貴女は司波君を追い抜くことも可能だと思いますよ。他の科目で勝てないなら自分の得意分野で競いましょう。明日会場に来てください。きっと得るものがあると思いますから」

 

そう言って鈴音と俺は退室した。

 

「鈴音、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。ちょっとした自己嫌悪ですから」

 

俺の言葉に応える鈴音の顔は、暗くて悲しい笑顔を浮かべていた。俺はこんな小さなことも解決できないようだ。思い詰めるが俺より鈴音の方が重い枷を付けているように感じる。

 

「鈴音、思い詰めるな。今は論文コンペのことだけを考えよう」

 

そう言って肩を抱き寄せる。鈴音は頭を俺の肩によりかからせながら病院を後にした。

 

 

 

 

 

論文コンペ当日は何事もなく目的地に到着した。開始時間が近づくと、どの学校も緊張感を醸し出している。しかしとある一室からは、何故か軽い空気が外に漏れ出ていた。

 

「こんなところに来ていいんですか?藤林さん」

 

その言葉通り、克也達の前に座っているのは藤林響子だった。しかもここは一高の控え室なので、異常と言えば異常である。にも関わらず、藤林はやけに楽しそうで嬉しそうな笑顔を浮かべているのだが。

 

「問題ないわ。防衛省技術本部兵器開発部所属の私が、〈九校戦〉で大活躍をした達也君の元に来てもおかしくはないもの。だから『藤林少尉』でも『藤林さん』でも『藤林のお姉さん(・・・・)』と呼んでくれてもいいわよ?」

「「『藤林のお姉さん』はなかったはずですが…」」

 

藤林の冗談にさすがの克也と達也でも困惑していた。深雪はニコニコと楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「雑談はこの辺にしてと。悪いニュースと良いニュース、どっちを先に聞きたい?」

「悪いニュースからで」

「…そこは良いニュースからじゃなくて?」

「では良いニュースから」

「…2人も大変ね」

 

簡単に掌を返す達也に、藤林は克也と深雪へ助けを求めた。しかしながらその呼びかけも虚しく、2人に一蹴されてしまう。

 

「「達也(お兄様)ですから」」

 

克也と深雪は苦笑しながら同意する。こちらも相変わらずの阿吽の呼吸を見せてくる。その様子に藤林は聞く相手を間違えたと、白旗を上げるのだった。

 

「…気を取り直してっと。じゃあ良いニュースからね。例のスーツが完成したわ。今日の夜にはこっちに持ってくるって真田大尉から伝言」

「流石ですね。この短期間で完成させるとは」

「その言葉は直接言ってあげてね。彼、とても喜ぶと思うから。…次は悪いニュースね。例の件だけど、このままじゃ終わらないみたい。詳しくはこれを見て」

 

データカードを渡してきたので、どうやら電話やデータ通信でも憚られる内容らしい。

 

「もしもの時はお願いします」

 

藤林の真剣な顔に克也と達也は頷いた。

 

 

 

一高のプレゼン前、克也は藤林から暗号メールが送られてきたので、達也に頼んで暗号解読のための鍵を貸してもらっていた。解読すると驚くべき内容が書かれていた。

 

横須賀に向かっていた護送車が襲われ、呂剛虎(ルゥ・ガンフウ)に逃げられた!?生存者はなしか…。達也に伝えておくべきなのだろうが、このタイミングはさすがにまずいよな。後手になってしまうがプレゼンが失敗するよりはマシか。

 

克也は個別ブースから出て観客席に向かった。

 

 

 

時刻は午後3時ちょうど。一高のプレゼンは予定通りに始まった。一高のテーマに各校だけでなく、魔法関係者も興味を示していた。

 

『…核融合発電の実用化に何が必要になるか。これは前世紀から明らかにされてきました』

 

鈴音のつややかなアルトの声音でプレゼンが開始され、全員の意識は一高に向けられている。一方会場の外では、開戦の準備が着々と進み、会場に危機が近づいていた。

 

 

 

『…いずれは点火に魔法師を必要とするだけの〈重力制御魔法式核融合炉〉が、実現できると確信します』

 

鈴音がこう締め括ると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。発表を終えて、壇上から降りた達也をとある人物が待ち構えていた。

 

「さすがだね司波達也。あの《ループ・キャスト》の洗練度には脅かされたよ」

「恐縮だな〈カーディナル・ジョージ〉。ありがとうと言うべきか?」

「いいや、別に礼をしてほしくて言ったんじゃないよ。次こそは僕たちが勝つ!」

 

ここまでは高校生のお祭りだったが、お遊びとしてはここまでだった。その時、轟音と振動が会場を襲った。

 

 

 

現時点、西暦2095年10月30日午後3時30分。

 

後世において人類史の転換点と評される《灼熱のハロウィン》、その発端となった〈横浜事変〉は、この時間に始まったと言われている。

 

 

 

「「達也(お兄様)!」」

 

俺と深雪は客席から達也の元に走り、舞台に上がって声をかけた。

 

「達也、今の爆発音はグレネードか?」

「おそらく正面玄関の近くで爆発したんだろう」

 

達也は俺の言葉を肯定した。さらに悪いことに銃声が多数聞こえ始める。

 

「フルオートじゃない。…対魔法師用のハイパワーライフルか」

 

達也が呟いた瞬間、数人の男が銃を持ちながら突入してきた。

 

「大人しくしろ!デバイスを外して床に置け!」

 

たどたどしい日本語はつい最近密入国した人間だろう。だがそれ以上に魔法師の扱いにも慣れているようだ。

 

「お前達もだ!」

 

2人の男が俺達に近づいてくるが無視する。視界を会場の外に向けると、侵入者共と交戦している警備員が多くいた。だが明らかに押されている。

 

やれやれ、もっと実戦経験のある魔法師を配備してほしかったな。どうでもいいことを考えていると、ゲリラがさらに近づいてきた。

 

「早くしろ!」

 

それにも無視を続けていると予備動作なく発砲してきた。明確な敵意を物理的に発していたが、俺と達也はそれでも焦らない。俺は手をポケットに突っ込んだまま立ち、想子を鎧のように纏うと、それは銃弾をいとも容易く防ぐ。達也は銃弾を掴み取ったかのように右手を握りしめたまま立っていた。

 

「…銃弾が貫通しない?」

「…銃弾を掴み取ったのか?」

「この野郎!」

 

発砲した男が呟いた瞬間、もう1人が達也に向かって数発ぶっ放した。しかし先程同様に達也の右手がコマ落としのように動き、何かを掴んでいるかのように握りしめられている。

 

「バケモノめ!」

 

叫びながら銃を捨て、戦闘ナイフを抜きながら斬りかかってくる様子は、高いレベルで訓練されていることを示している。だが今回はさらなる恐怖を生むものだった。達也は右手を手刀に切り替え、ナイフを持つ手に打ち込む。

 

「ぎゃっ!」

 

達也の手刀は何の抵抗を示さずに男の腕を切り落とした。返り血を浴びていたが気にした様子はない。

 

「達也お兄様、血糊を落としますのでそのままでお願いします」

 

「ほこりを落とします」と言い換えても気にならない。そんな落ち着いた妹の様子に自然と笑みが浮かぶ。そのおかげで止まっていた時間が動き出した。

 

「取り押さえろぉ!」

 

その合図に危険を顧みないように生徒たちが、近くのテロリストに魔法を放って速攻で取り押さえた。血を見ても怯えない。それは自らの生存本能によるが故か。もしくはそれを見てことで、現実を受け入れたのか。

 

どちらにせよ再起動してくれたことは何よりだ。

 

「克也さん・達也さん、お怪我はありませんか!?」

「大丈夫だよ」

「問題ない」

 

ほのかの心配に俺は銃弾が直撃したように見えたはずの箇所を見せ、達也は右手をひらひらさせた。その様子にほのかは安堵する。

 

「これからどうする?」

「助かろうにも逃げようにも、まずは正面玄関の敵を無力化しないとな」

「別行動して怪我をされるよりはマシか…」

 

エリカの言葉に俺は答えて達也はため息をつく。動き出そうとすると声をかけられた。

 

「ちょっと、ちょっと待て司波達也!」

「一体何だ吉祥寺真紅朗」

 

達也は敢えてフルネームで呼び、不機嫌そうに振り返った。

 

「今のは《分子ディバイダー》じゃないのか!?」

 

知識があるが故の誤解。好都合だがめんどくさいと俺はそう思ってしまった。達也は相対距離ゼロで《分解》を行使しただけだが、秘匿すべき魔法を説明するわけにはいかない。

 

「今はそんなことを話している暇はない」

 

達也はそれだけ言うと動き出した。

 

「ま、待て!」

「二度も言わせるな吉祥寺。今は黙ってろ」

 

まだ何か言おうとしたので黙らせて達也の後を追った。

 

 

 

正面玄関に到着すると、ほぼ敵に制圧されかけていた。交戦できている警備員は3人だけだ。壁際から覗いていたのだが、レオがそのまま突っ込もうとしたので、達也と2人してその場に留まるように止める。正確にはレオの襟首を2人で引っ張って首を絞めた。

 

 

「「敵は対魔法師用ライフルを持っているぞ」」

「ぐえっ」

「…2人とも相変わらず容赦ないね」

「でもおかげで命拾い」

 

幹比古と雫が感想を述べる。その隣で克也と達也は敵の動きを分析していた。

 

「深雪、銃を黙らせてくれ」

「はい」

 

深雪が達也の力を借りて魔法を発動させる。引き金を引いても銃弾が発射できないことに、ゲリラが不思議そうに動きを止める。《凍火(フリーズ・フレイム)》によって弾丸が凍り付き、発射できなくなったのだ。《凍火(フリーズ・フレイム)》は燃焼を阻害する魔法なので、火薬の燃焼により発射する銃にも有効だ。

 

深雪が魔法を放った直後、達也が飛び出して手刀でゲリラを切り裂くと同時に、エリカも手元のCADでゲリラの頸動脈を的確に狙う。最後は幹比古が生き残った連中を、風魔法の《鎌鼬(かまいたち)》で追い返す。

 

血が飛び散った場面を見てほのかと美月が怯えている。俺は燃焼系の魔法で血を蒸発させ、エリカに頸動脈を切り裂かれて絶命したゲリラを、移動魔法で外に運び出す。おかげで2人の顔色が少しだけ良くなる。

 

「達也、どうする?」

「情報が欲しい。俺達が想像しているよりも状況が深刻に進行しているようだ」

「それならVIP会議室を使ったら?」

 

雫の言葉に全員が首を傾げる。

 

「VIP会議室って言ったか?」

「うん。閣僚級の政治家や経済団体のトップの会合に使われる部屋だから、大抵の情報にアクセスできるはず」

「そんな部屋があったのか」

「認証キーとアクセスコードも知ってるよ」

 

どうやら北山潮は雫にそんなことまで教えていたようだ。溺愛とは恐ろしいなと思ったのは俺だけではあるまい。

 

「雫、頼む」

 

達也が頼むと雫は今までに見た頷きの中で、もっとも真剣な頷きを返した。

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