1週間後、克也たちは第一高校を受験して無事3人とも合格した。そして今、克也は達也と2人してソファーに沈み込んでいる。制服を試着したまではよかったのだが、満足のいくまで深雪に着せ替え人形にされたのが精神的にきていた。当の本人はご機嫌で、いつも以上に露出度の高い服で家事をしている。
合格報告を真夜に伝えなければならないのだが、精神的に疲れているためする気になれないのが現状だ。少し理不尽じゃないか?と思いながらも深雪の機嫌取りは、この家にいる限り必須なのでどうしようもない。
そんな風にソファーにもたれかかっていると、秘匿回線から電話がかかってきた。
電話の場所が深雪の方が近いので、克也と達也の代わりに動いている。意図としては、2人が動くまでもないので座っていてくれということだろう。別にそれぐらい自分でもするのだが、気分が気分だったのでありがたく受け取っておくことにした。
「克也お兄様・達也お兄様、叔母様からです」
この時間帯に電話してくる相手と言えば、一部の人間を除いて1人しかいない。一部というのは達也の知り合いだが。電話の相手がある程度予想通りだったので驚きはしなかった。
「すぐに出る」
深雪に伝えてから今まで沈み込んでいた気分と身体に鞭をふるって、2人はテレビの正面に回った。電話の相手に相応しい態度を必要とするため、気分の切り替えは即座にしなければならない。それがある意味15年という短い人生で学んだ知識だ。
『おはよう克也・達也さん・深雪さん』
紫のドレスを着た真夜が画面に映し出され、3人そろって失礼にならない。かといって礼儀正しすぎないお辞儀を返す。露出度の高い服を着ていた深雪は、その上から上半身を覆う普段着を羽織っていた。
『3人とも結果はどうでしたか?』
「3人とも合格しました叔母上。俺と深雪は一科生、達也は二科生で深雪は新入生代表です」
何のとは言わなかったが、それ以外に用件はないとわかっていたから克也は問題なく答えた。ちなみに真夜の呼び方は、克也と達也が叔母上で深雪が叔母様だ。
『よく頑張りましたね3人とも。それにしても代表は克也ではなく深雪さんなのですか?もう既に波乱が起こっているわね』
真夜は楽しそうに笑っている。3人ともどうしたらいいのかわからないので、微妙な表情をしているが。
『まあいいわ。学校生活を楽しみなさい3人とも。この3年間は人生の中でももっともわくわくする時だから。友人を大切にして時間を無駄にしないようにね。何かあったら連絡するわ』
そう真夜が言うと電話は切れた。
「叔母上の言ったことを言葉通りに受け止めれば、高校生活を謳歌しなさいってことなんだろうけど。気を抜かずにいなさいってことでもあるのかな?」
克也の疑問に達也と深雪は疑問符を浮かべていた。
入学式の朝、深雪はリハーサルのために早く家を出なければならなかった。克也と達也が「「一緒に行く」」と言うと深雪は嬉しそうにしていたが、「お兄様方に迷惑をかけることはできません」と言ってきた。
2人して「「ガーディアンが護衛対象から離れてどうする」」と言うと、深雪は渋々頷いた。深雪のガーディアンは克也でなく達也だが、そのことに対して2人から修正はなかった。
リハーサルの間に達也と2人でベンチに座っていると、上級生らしき生徒がこちらをちらちら見ながら話していた。
「〈ブルーム〉が〈ウィード〉なんかとつるみやがって。〈ブルーム〉の恥だな」
聞きたくもない声が聞こえてくる。俺からすれば〈ブルーム〉だとか〈ウィード〉だとかで差別している方が恥ずかしい。差別意識があるのは、いつの時代も同じなので気にしてはいない。達也は少なからず申し訳なさそうな顔をしていたが…。
入学式の予定時間に近くなり、講堂へ向かおうとすると女子生徒がこちらに足を向けて話しかけてきた。
「突然で悪いんだけど、二科生の君の名前を聞いてもいいかな?」
人なつっこいのだろうか。初対面の相手に名前をいきなり聞くことなど普通ならしないだろうに。だが不思議と馴れ馴れしさを感じなかったらしく、達也は俺に目配せをして自己紹介することにした。
「初めまして新入生の司波達也です」
「司波達也君か。貴方が職員の先生方が噂していた人なのね」
達也は内心穏やかではいられなかったようだ。恐らく新入生代表の兄のくせに二科生なのかというものだろう。しかし女子生徒の答えは、達也の予想の斜め上をいっていたらしい。
「筆記試験7教科平均100点満点中96点で1位の司波達也君。筆記試験7教科平均100点満点中90点で2位、実技試験100点満点中95点で2位。文句なしで入学試験総合2位の四葉克也君。2人の筆記試験の点数が入学生平均70点にも満たないのに、高得点だったから噂になっているのよ。しかも今年四葉家の直系がくるって言うしね。お久しぶりです克也君」
知り合いの女性はおどけた口調で俺と達也の入試成績を暴露し、ついでとばかり俺に挨拶して話し終えた。彼女の言う通り、俺は今日再会するまでそれなりの時間会っていない。だが久々の再会が入学式直前だとは思っていなかった。会うとすれば、もう少し後の生徒会でだと思っていたからだ。どうせ入学したことは知られているし、呼び出されるだろうと予感していたからだ。
「貴女のお名前は?」
「失礼しました。私は生徒会長を務めさせていただいている七草真由美です。ななくさと書いてさえぐさと読みます。よろしくね?」
最後にウインクがつきそうな口調で言うと、講堂に向かって歩き出した。その圧倒的な自己紹介に、俺と達也はしばらくそこから動けなかった。
入学式は深雪がその容姿で魅了しつつがなく終了した。ここで何もなく帰れていれば、一部の二科生と一科生の溝は深まらなかっただろう。ある人物が声をかけなければ…。
事の発端はクラスメイトが深雪に「貴女をお守りします」と言ったことだ。「お兄様がいるので大丈夫です」と断ったのだが、彼はしつこく食い下がった。
「本人がそう望んでいるのだから、無理にする必要はないんじゃないか?」
克也が深雪の肩に手を乗せながらそう言う。
「何だお前。もしかして司波さんのオトモか?」
案の定、こんな風にあざ笑ってきた。克也を馬鹿にすれば、深雪に嫌われるというのに。深雪は沸点に上り詰めたようで、すぐにでも魔法を発動させそうだった。だが克也が《癒し》で深雪を落ち着かせながら言う。
「そんなことはどうでもいい。もう諦めたらどうだ?」
克也はそう冷たく言い放ってから、深雪を連れて帰ることにした。
絡んできた生徒を軽くあしらった2人が歩いていると、校門に複数の人影があった。達也と講堂で仲良くなったエリカ・美月。もう1人は知らないが、彫りの深い顔立ちで体格のいい少年だった。
「よろしくな。俺は西城レオンハルトだ。がさつなもんでこんな話し方しかできないが大目に見てくれ。レオでいいぞ」
「よろしくレオ。俺は四葉克也だ。克也と呼んでくれ」
お互いに自己紹介するとレオが顔を少し顰めた。四葉と聞いて不安になったのだろう。克也が笑顔を向けると曇りのない笑顔を返してくれた。名前だけで相手を決めつけないなかなかの根性をしている奴らしい。エリカや美月の深雪への自己紹介が終わり、仲良く帰ろうとするとまたあの声が聞こえてきた。
「司波さん、そんな奴等とじゃなくて僕たちと帰ろうよ」
後ろには男子2名・女子2名がいたが、女子の1名は困惑した顔をしている。尚もう1人は内心をうかがい知れないポーカーフェイスだ。まあもう1人と同じように、困惑した空気を纏っているのには変わりないのだが。残りの男子2名はその生徒の言葉に大袈裟に頷く。男子生徒の言葉に真っ先に突っかかったのは、意外にも美月だった。それに続くようにエリカとレオも参加し始める。
克也たち当事者を含んだ3人を置き去りにして。
「まさか美月が真っ先にキレるとはな…」
達也も予想外のようで呆気にとられていた。大人しそうな見た目とは違って、言うことははっきりと言うタイプらしい。
「なんの権利があって、お兄さんたちと深雪さんの仲を引き裂こうとするんですか!?」
最初は正論を並べていた美月だったが、少しずつ論点がずれてきていた。
「み、美月は何を!何を言っているの!?」
深雪は美月の台詞を違う意味で解釈したようだ。
「「何故深雪が焦る?」」
克也と達也が2人して深雪に聞く。
「え?わ、私は焦ってなどおりませんよ?」
「「そして何故に疑問系?」」
言い合っている友人たちの脇で、司波三兄妹はたわいのない会話をしていた。
「うるさい!他のクラス、ましてや〈ウィード〉如きが僕たち〈ブルーム〉に口出しするな!」
差別用語である〈ウィード〉を使うことは禁止されている。彼はわかって使っているのか知らないが、自分が正しいと思うが故に、その言葉が無意識のうちに口から出ていたのだろう。しまったという顔をしていたが、一度口にした言葉を簡単には取り消せない。
「今の時点で、貴方たちがどれだけ優れているというんですか!」
美月が耐えられなくなったのか、口にすべきでないことを口にしてしまう。売り言葉に買い言葉とは、まさにこのことを指している。
「…どれだけ優れているかだって?」
どうやら彼も耐えられなくなったのだろう。想子が活性化し始めていた。
「「まずいな…」」
克也と達也の口から同時にやるせない気持ちが漏れる。同時に同じ言葉が漏れたり、行動してしまうのは双子だからだろうか。
「はっ、おもしれぇ。是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」
レオも話し合いではらちがあかないとわかったらしく、実力で止めようとしている。
「いいだろう教えてやる。これが才能の差だ!」
そう言いながら流れるような動作で、男子生徒がCADをホルスターから抜き出して照準を定める。その動きは明らかに魔法を使うことに慣れている証拠だ。克也の眼から見てもなかなかの動きだった。
「特化型!?」
誰が叫んだかはわからなかったが、危険な状態であることは確かだ。しかもそのCADがスピード重視ではなく、攻撃力重視ならば尚更に。男子生徒が抜いた瞬間にレオも走り出していた。かなりの反射速度だが男子生徒を掴むのが先か、魔法が発動するのが先か微妙なところだ。だがそこまで気にする必要はない。
何故なら…。
カンッ!と音がしたかと思うと、男子生徒のCADが宙を舞っていた。男子生徒は右手を押さえながら、目の前に現れた人物を睨み付ける。そこには右腕を振り上げた状態で膝立ちするエリカがいた。振り抜いた先を見ると、CADが回転しながら遠くへ飛んでいく。エリカが右手に持っているものではじき飛ばしたようだ。鮮やかな技で空気が一瞬止まる。
CADが落下した音を聞いて、気がついたかのように残りの男子生徒2名が魔法式を構築し始める。それを見た女子生徒の1人が止めるためにCADに手を走らせた。
「達也おに…」
深雪は達也に止めてもらおうとしたが、達也の眼が自分たちの見ている場所ではなく、違う場所へ向けられていることに気付いて、話しかけるのをやめた。魔法式は構築中に強い衝撃を受けたときや、自分より強い魔法式がかぶせられたときは、構築できずに起動式が定義破綻する。
今のように。
「やめなさい!自衛目的以外の対人攻撃は、校則違反である前に犯罪行為ですよ!」
女子生徒の構築中だった魔法式が、想子弾によって搔き消える。術者にダメージを与えず、魔法式にぶつけて起動式だけを砕いた精緻な照準と出力制御は、並の訓練では到底習得できない。もともとの才能なのか血の滲むような努力をしたのか。本人に聞かないとわからないが恐るべき技量である。
想子弾が飛んできた方向に眼を向けた数人は衝撃を受けた。そこには想子を活性化させ、厳しい顔で見つめる生徒会長七草真由美と、入学式の生徒会紹介の記憶が正しければ風紀委員長の渡辺摩莉が、凜々しい顔をさらにきつくして佇んでいる。
「君たちは1-Aと1-Eの生徒だな。話を聞きます全員生徒会室までついてきなさい」
そう言うとくるりと背を向けて歩き出そうとする。まさかの登場に克也・達也・深雪以外は硬直してしまっている。達也が2人に向かって歩き出したが、克也と深雪は止めずに見送った。
こういう少々立ち回りにくいときは、達也に任せてじっとしているのが一番である。達也は意地を張って堂々と向かうでもなく、萎縮してとぼとぼと向かうでもなく自然に近づく。司波三兄妹を当事者として認識していなかったのだろう。達也が近づいてきたことに、摩莉は疑問符を浮かべていた。
「すいません。悪ふざけが過ぎました」
失礼にならないように一礼して事情を説明する。摩莉はいぶかしげに眉をひそめながら聞いてきた。
「悪ふざけ?」
「はい、森崎家一門の〈クイックドロウ〉は有名ですからね。一度見ておきたいとお願いしたのですが、あまりに真に迫りすぎていたのでしょう。危機感を感じて反撃してしまったようです」
レオにCADを向けていた生徒が驚きで眼を丸くしている。あの一瞬で言い訳を考えたことに驚いているようだ。だがこのようなことで驚いていては、司波達也という人間と付き合っていけない。
閑話休題
達也の言葉を信じたのか。転がっているCADとエリカが握っているCADを一瞥し、女子生徒に鋭い視線を向けながら聞く。
「ではそこの女子生徒が攻撃性の魔法を放とうとしていたのは何だ?」
「あれは攻撃魔法ではありません。目眩ましの閃光魔法ですよ。失明したり視力障害を起こすような威力ではありませんでした。あの一瞬で魔法式を構築し、起動式を展開できるのはさすが一科生ですね」
達也の言った言葉に、魔法を使おうとした女子生徒は顔を逸らした。攻撃魔法を使おうとしたにも関わらず、陽動魔法だったと庇われたことに罪悪感を感じたのだろう。達也の言い分が白々しいと思ったらしく、摩莉は冷笑を浮かべている。
「どうやら君は、起動式を直接読み取ることができるらしい」
摩莉の台詞に克也と深雪は顔を曇らせる。あまり知られたくない達也の能力が露呈したからだ。本人が開示したせいなのではあるが。
「実技は苦手ですが分析は得意です」
「誤魔化すのも得意のようだ」
摩莉は想子を少し活性化させながら言葉を発した。想子を活性化させたことによって、2人を除いた全員に緊張感が走る。といっても克也と深雪は特に何も感じていない。
「ちょっとした行き違いだったんです。お手を煩わせて申し訳ありません」
深雪が達也の横に並んで謝る。それに困惑している摩莉に真由美から声がかかった。
「もういいじゃない摩莉。達也君、本当に見学のつもりだったのよね?」
上目遣いに聞いてくる真由美に、達也は「いつの間にか名前で呼ばれてるよ」と思いながらも、真由美の手助けを無碍にはできないと考えて頷いた。真由美の笑顔が深くなったのは気のせいだろうか。まるで貸し一つでもいうようだ。
「互いに教え合うことは素晴らしいことですが魔法を使う場合、生徒会に許可を取って生徒会に許可された場所と時間内だけにしたほうがいいでしょうね」
それだけ言うと満足げに校舎に戻って行った。
「会長がこう仰っているので今回は不問にします。以後このようなことがないように」
摩莉が再度注意を与えるので全員で礼をした後、校舎に向かう途中振り返って聞いてきた。
「君の名前は?」
「1-E司波達也です」
答えると摩利は不敵な空気をまとう。
「覚えておこう」
そう言いながら真由美の後を追いかけていく。「結構です」と言おうと思ったが、面倒くさいことになりそうだったのでやめておいた達也だった。
「借りだなんて思わないからな」
達也の隣にはいつの間にか問題の男子生徒が立っていた。
「借りだなんて思ってないから安心しろ。それに決め手になったのは深雪の言葉だ。お礼を言われるようなことは何もしていない。余計な一言だが、CADは念の為にメンテナンスしてもらったほうがいい。CAD同士の衝突と落下の衝撃による不具合が出ているかもしれないからな」
「…僕の名前は森崎俊、森崎家の本家に連なる者だ。俺はお前を認めないぞ司波達也!司波さんは僕たちと一緒にいるべきなんだ!」
達也に庇われた形になった生徒は、敵意むき出しで言ってきた。達也的にはどうでもよかったのでさらっと流す。それだけ言うと校門を出ていく。残りの男子生徒2人も二科生全員をにらみつけて森崎の後を追った。
「帰ろうかみんな。遅くなったし」
何事もなかったかのように振る舞う達也に、全員が苦笑を浮かべていた。若干2名は絶賛口喧嘩中であるが。一方は煽るだけ煽って相手の言葉を無視している…。敢えて誰とは言わない。
「あの…私は光井ほのかです先程はありがとうございました。何も起こらなかったのはお兄さんのおかげです」
克也たちが校門を出ようとすると、真由美に想子弾を撃ち込まれた女子生徒に声をかけられた。
「どういたしまして。でもお兄さんはやめてくれ。これでも同級生だ。達也と呼んでくれていいから」
どうやら達也には手に余るようだ。もともと他人と接することがあまり得意ではない達也は、初対面の人に対してはあまり好意的に接することが出来ない。どちらかと言えば、同年代より年上の方が接しやすいのだ。かといってわざと他人に嫌われるような行動もできない。自然な対応はできないが、それでも一生懸命に接しようとするのは、人を知りたいと思うからだ。それを克也と深雪は応援したいと思っている。
「わかりました達也さん。それで…駅までご一緒してもいいですか?」
お願いされて断れないメンバーだったので、一緒に行くことになった。別段断る理由もなかったのもある。
「え、じゃあ達也君と克也君って幼馴染なの!?」
駅に向かって歩いていると、克也・達也・深雪の関係を聞いたエリカが驚いたように声を上げた。全員驚いて声が出なかったのもある。克也と達也は双子だが、一卵性双生児ではないのでこのような嘘が通じるのだ。嘘をつくのは心苦しかったが、まだ達也と深雪が四葉の血縁者だとばれてはいけないので我慢する。
四葉と聞いて最初は遠慮がちな深雪の友達だったが、噂通りではないことをアピールすると普通に話しかけてくれた。ほのかと一緒にいる女子生徒は北山雫といい、彼の有名な北方グループのご令嬢らしい。
レオ 美月
深雪 達也 ほのか
雫 克也 エリカ
という順で下校中である。ちなみに進行方向に向かって克也が先頭である。
「深雪が克也君をお兄様って呼んでる理由は?」
エリカがもっともな質問をしてきた。一般の魔法師が
「小学校の頃まで一緒に遊んだりしてもらっていたからよ。歳が達也お兄様と一緒だったし、雰囲気がよく似ていらっしゃったの」
「何で小学校までなの?」
余計なことまで話してしまった深雪がはっとするが、達也のファインプレーによって気付いた者はいなかった。
「俺たちが親の都合でこっちに引っ越しちゃったからね。先月一高を受験するって知らせが来たんだ」
「名前も似てるよね?達也君も四葉家と関係あるの?」
悪気があって聞いてきたのではないので余計に答えずらい。ではあるが、名前が似ているという聞き方はある意味失礼だ。日本中を探せば、達也や克也という名前と似ているもしくは同名もいるだろうから。
「達也の親と俺の親が仕事の上司と部下の関係でね。誕生日が同じだったから、似た名前にしようって親同士が勝手に決めたんだよ」
それらしいことを言うとエリカは納得してくれた。
「それにしても行動の仕方が似てないか?司波さんに対することとか」
エリカに馬鹿呼ばれされているが、決してレオは馬鹿ではない。むしろ動物の危険察知能力並みに勘は鋭い。
「幼い頃からよく組み手をしてたりしてたから、互いの動きがわかるんだ。同じ行動をしちゃうのは無意識にだよ。深雪は妹みたいな感じでほっとけなくてさ」
レオは完全に納得したわけではなさそうだが、それ以上聞くことはなかった。歩きながら他愛のない話をしていると、達也がCADの調整ができることを知ったエリカが達也に頼みこむ。
「達也君、あたしのも調整してよ」
「無理。あんな特殊なCADをいじる自信はないよ」
達也は断ったが本気で頼んでいたわけではないらしく、エリカはあっさりと引き下がった。レオを弄るにしてもどうやらエリカは、他人をからかうのが好きな人間らしい。かといって人が本気で嫌がるまではしない。程度を考えて他人をからかうのだ。
「…どこにシステムを組み込んでんだ?その様子じゃ全部空洞ってわけじゃないんだろ?」
「残念でした。柄以外は全部空洞なの。刻印型の術式で強度を上げてるのよ。硬化魔法は得意分野なんでしょ?」
「術式を幾何学模様化して、感応性の合金に刻みこんで想子を注入させて発動するってやつか?並の想子量じゃもたねぇぞ?よくガス欠にならねぇな。てかそもそも刻印型の術式って燃費が悪すぎるから、ここ最近じゃあんまり使われてねぇはずだぜ?」
レオの指摘にエリカが驚き半分関心半分の顔で答える。その表情は褒めているようにも見えた。
「さすが得意分野。でも残念だけどハズレ。打ち込みと受ける瞬間にだけ、想子を流してあげればそんなに消耗しないわ。〈兜割り〉と同じ原理よ。って、みんなどうしたの?」
周りが呆れた空気を醸し出していたので、エリカは気になって聞いてみた。本人は何気なく言っているが、〈兜割り〉はそんな簡単なものではない。
「エリカ、〈兜割り〉は秘伝とか奥義とかに分類されるはずなんだがな。淡々と言えるのは普通じゃない。それって想子量が多いよりよっぽどすごいぞ?」
さらっと言うエリカに、驚きながら全員を代表して克也は答えた。
「うちの学校って一般人のほうが少ないのかな?」
美月が持ち前の天然キャラで質問する。
「魔法科高校に一般人は居ないと思う」
このグループで雫初となる発言はツッコミだった。
タイミング良く切れるところが見つからなかったのでそのまま書き続けました。ほのかたちとの出会いは入学式2日後ですが、ここでは初日に会っています。