魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第26話 横浜事変②

VIP会議室で雫がアクセスコードを使って、スクリーンに警察データを映しだす。ひどい状況であるのは一目瞭然で、眼にした全員が厳しい表情を浮かべていた。

 

「酷いな…これは」

「大規模な人員が投入されてるようだ。すぐには解決しないだろう。避難するにも交通の便が機能していないから何もできない。それよりも避難する前に少し時間をくれないか?」

「どうして?」

「デモ機のデータを処分しておきたい」

 

エリカの質問に達也は予想外のことを口にする。確かに情報を抜き取られては研究の時間が無駄になり、望む方向とは違う方向に使われるかもしれない。そんな不安から敵に渡さないために、達也は消去したいのだった。消されたとしても各校共にバックアップは取ってあるから問題は無い。

 

 

 

発表に使ったデモ機の置いてある場所に向かうと、上級生が集まっており処理している最中のようだった。

 

「司涙君、他校のデモ機のデータを処理してきてくれないかな?」

「終わったら控え室に集まろう。そこでこれからの方針を決める」

 

五十里に頼まれたと同時に摩莉からも指示される。可能な限り早く終わらせるために、克也一向は即座に行動を開始した。

 

 

 

上級生と手分けして各校のデモ機を処理した後、全員が控え室に集まった。

 

「彼らの目的は何でしょうか」

「おそらく魔法協会のメインデータでしょう。重要データは京都と横浜で集中管理していますから」

「沿岸警備隊の輸送船が向かってるけど、全員を収容できるか分からないみたい。それにゲリラによる攻撃もあるから中々到着できないそうよ」

 

五十里先輩の質問に俺が答え、七草先輩が現在の避難事情を説明してくれた。避難民の数を考えると、安全を確約できないのは仕方ないかもしれない。

 

ここら一帯は、ゲリラに襲撃されて包囲されているだろう。逃げようにも交通網が麻痺している今では逃げられない。応援に駆け付けていた各校の生徒、発表会の関係者の人数は正直予想がつかない。

 

不安に思っている最中、達也は俺達の話を聞かずに別の方を見ていた。正確には後ろのドアを見ている。いや、さらにその先だ。

 

「達也?」

 

達也は俺の言葉を無視し、〈シルバー・ホーン〉を外に向けて、《雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)》を発動させた。

 

「…今のは何?」

 

物体が消失した場面を目撃した七草先輩はそう呟いた。俺も発動の瞬間に視野を外に広げており、こちらに特攻してきていた大型トラックが跡形もなく消えるのを見た。達也は見られたことにイラついていたが、説明する必要はなかった。

 

軍服を着た人物2人が、部屋に突然入ってきたのだ。

 

「特慰、情報統制は一時的に解除されています」

 

女性は一緒に入ってきた人物に驚いている達也に、そう声をかけた。達也が敬礼すると、俺と深雪以外が驚いている。特慰と呼ばれたことにだろうか。はたまた敬礼にだろうか。

 

おそらくその両方だろう。

 

「国防陸軍少佐 風間玄信です。所属は訳有ってご勘弁願います。特慰、国防軍特殊規則に基づき貴官にも出動を命じる。四葉殿、貴殿にも関係者及び周辺地域の安全確保への尽力を希望する。本作戦の責任者として要請したい」

 

達也は頷いて眼を閉じる。眼を閉じた理由を俺は何となく理解した。達也が何を思い何を考えているのか。それは俺が考えていることと同じだろうから。一高メンバーに軍の関係者であることがばれ、関係を断たれることを恐れているという思いに…。

 

そして俺は迷うことなく風間少佐の要請を受け入れる。

 

「四葉の名のもとにその要請を承諾し、ご期待に添えるよう全力を尽くします」

「協力感謝する。またこの場にいる皆さんには、特慰の地位について守秘義務を要求したい。本件は国家機密保護法に基づく措置であるとご理解いただく」

「すまない。みんな聞いての通りだ。先輩方と一緒に避難してくれ」

「お待ちください達也お兄様」

 

達也が言い残して外に向かおうとすると、深雪に引き留められた。深雪が達也の額に口づけをすると、知覚できるほどの活性化した想子が荒れ狂って達也を覆う。

 

「ご存分に」

「行ってくる」

 

深雪に見送られて達也は戦場に向かった。

 

 

 

「藤林少尉殿、少しよろしいですか?」

 

達也が出撃したあと、会場に残っているメンバーで軍関係者に護衛をしてもらいながら安全地帯に向かって歩いていた。藤林さんとその部下に護衛されながら街を歩いていると、十文字先輩が問いかける。

 

「何でしょうか?」

「車を1台貸していただきたいのです」

「…どちらに行かれるのですか?」

「魔法協会関東支部へ。私は代表代理ですが、務めを果たさなければなりません」

 

十文字先輩の言葉に藤林さんは納得したようだ。だがその考えに俺は納得できずにこう切り出す。

 

「それなら俺も行きます十文字先輩」

「お前はダメだ」

「何故ですか?」

「お前にはここにいるメンバーを守ってもらわなければならない。そうでなければ俺が満足に務めを果たせん。それにお前はまだ次期当主候補だろう?ここで代表代理が動かなければ示しがつかん」

「…分かりました」

 

俺は素直に従う。学校での先輩・後輩という関係ではなく、国を守る〈十師族〉の魔法師として。十文字先輩と藤林さんの部下を見送りシェルターに向かっていると、直立戦車が2機向かってきた。

 

「どこから!?」

 

藤林さんにも予想外らしく口から心の声が漏れる。しかし次の瞬間には、直立戦車が凍り付いた上に穴だらけになっていた。深雪の《凍火(フリーズ・フレイム)》によって機関銃は火を噴かずに立ち尽くし、七草先輩のドライアイス弾によって穴が空いたのだ。

 

「さすがね」

 

藤林さんの称賛に2人は照れている。その間に、俺が振動魔法で機体を丸ごと消し去っておく。

 

「私は市民のために輸送ヘリを呼ぶつもりです」

「私も父に連絡して移動用のヘリを手配します」

 

七草先輩と雫は市民とみんなのために行動するらしい。なら俺はここにいる全員を無事に守ることが役目である。今やるべきことはヘリがやってくるまで、この発着所を守るメンバーを守ること。やるべきことが決まった俺は視界を広げたが、声が聞こえたのでやめる。

 

「軍の仕事は敵を排除することであり、市民の保護は警察の役目です。藤林少尉は本隊に合流してください」

 

タイミングの良すぎる兄 寿和の登場に、エリカはうんざりした顔をしている。俺達はそんなエリカに興味津々な視線を向けていた。

 

 

 

ヘリの到着を待つ間、俺は藤林さんから許可をもらって単独行動を取って敵戦力を分析していた。

 

機動隊が上陸してきたか。総力を以て制圧するつもりかな。やれやれこんなのじゃすぐに殲滅されるっていうのに、何を考えてるのかわからないね。目的が魔法協会のデータじゃなく他の何かなのか?

 

ビルの屋上から動き回る戦車を見ながら考えていると、下から襲撃された。3階建てな上に屋上に身をさらしている。地面から狙撃することは簡単だったことだろう。

 

「やれやれまったく。先に上陸させた部隊が全滅したのを知らないのかね。まあ、倒すのは変わらないから関係ないか」

 

独り言を呟きながら飛び降り、襲撃してきた部隊の真ん中に降り立つ。

 

「俺と戦う?」

「戦うも何もお前は死ぬんだ」

 

俺の問いかけに直立戦車に乗っている男がにやつきながら話してきた。余裕なのだろう。俺の力も知らずに話し掛ける男に笑えてくる。〈ブラッド・リターン〉をそいつに向けて言う。

 

「残念だけどいなくなるのはお前達だ」

 

死ぬとは伝えずに薄い笑みを浮かべてトリガーを引く。その瞬間、直立戦車ごと男が炎に包まれて燃滅した。その様子に取り囲んでいた男達の顔は恐怖に染まる。

 

「どうするまだ戦う?それとも降参して捕虜になる?情報を吐いてから本国に送られるかどっちがいい?」

 

俺は全員に〈ブラッド・リターン〉を向けてから聞いた。するとはるか上空を猛スピードで飛ぶ人間が視えた。《念話》で言葉を伝え、意識を自分に戻す。

 

「くそ、撃て撃て!蜂の巣にしてやれ!」

 

司令官らしき人物が命じると、機関銃とハイパワーライフルをぶっ放してきた。自分の周りを《炎陣(えんじん)》で囲み、襲いかかる銃弾を防ぐ。これは振動加熱魔法を防御魔法として俺が考案し、達也に作ってもらった俺のオリジナル魔法だ。

 

想子鎧(サイオンがい)》では防ぎきれない攻撃を防ぐことができる。銃弾などを余裕で防ぐだけの防御力があり、小型の大砲でさえも防いでしまう。もちろん、運動エネルギーも消えるので風圧や衝撃は伝わらない。

 

使用者や周囲は熱を感じず外側からも見えない。内側からは相手の様子がうかがえるので対応策を考えやすい。内側から全員の位置を確認し記憶する。人数は19人。どうやら死にたいらしいので、俺は《阿鼻・叫喚》を発動し全てを蒸発させた。

 

直立戦車でさえ姿を消し、俺は発着所に戻る道を歩き始めた。

 

 

 

克也が戦闘を起こした場所は、戦いがあったのかと疑うほど痕跡を残さず綺麗なままだった。

 

 

 

克也と《念話》を交す10分前、達也は戦闘用装備を着ていた。

 

「では早速だが特慰、柳の部隊と合流してくれ」

「柳大尉の位置はバイザーに表示可能だよ」

「了解です」

 

達也は風間の指示に敬礼し、真田の言葉通り柳の位置をヘルメットのバイザーに表示させた。〈ムーバル・スーツ〉に備え付けられた飛行魔法用CADを作動させ、上空に駆け上がる。

 

飛行魔法で出せる速度は、魔法師がこの魔法をどれだけ習熟しているかで決まる。達也は基盤から作り上げたことはもとより、克也や深雪もかなりの速さまで耐えることができる。

 

肉眼だけでなく、《精霊の眼(エレメンタル・サイト)》をレーダーとして同時使用していた達也は、無人偵察機を発見したことで消し去ることを決める。一旦、無人機の10m上空まで上昇し、飛行魔法を解除して重力に任せながら落下した。無人偵察機と同じ高度に到達した瞬間、《雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)》を発動して消し去る。飛行魔法を再始動させ、目的地に向かって飛んだ。

 

道中もう2機消失させた達也は、兄が敵に囲まれているのを視たが、《念話》で『こっちは気にするな。任務を全うしろ』と届いたので、何もせずに飛び去った。

 

兄があの程度の敵にやられるとは、思ってもいないので心配はしない。もちろんその気持ちがゼロというわけではないが、頭から余計な思考を追い出し、自分が出せる限りの速度で柳の場所に向かった。

 

柳の居場所に到着して達也は即座に頼まれた。

 

「弾は抜いた。後を頼めるか?」

「了解です」

 

柳の心配そうな様子に達也は無感情に答え、怪我をした隊員に左手で持ったCADを向けて魔法を発動させた。負傷した隊員のうめき声が消え、代わりに達也の閉ざした口の奥から歯ぎしりする音を耳にする。柳は隊員を怪我をさせ、達也に魔法を使わせたことに自分を責めた。

 

 

 

「すいません。今戻りました」

「あ、克也君。大丈夫だった?」

「ええ、遭遇した敵は殲滅してきましたよ」

 

真由美の心配に克也は斜め上の回答を真顔で伝え、殲滅という言葉をどう受け取ったのか分からなかったが、今はそんなことはどうでもよかった。

 

「それで情報は何かわかった?」

「いいえ何も。特定できるような物が見つかればいいんですが」

「直立戦車がどこの国かはわかったりしない?」

「これらの機械の部品は、中古市場で大量に出回っているパーツを取り寄せて作った物のようなので特定は難しいかと。ただ言えるのは、大亜連合の可能性が高いということですね」

「大亜連合と共謀してる国がいるかもしれないのに?」

「その可能性は低いと思います。大亜連合の部隊しか上陸していませんし、今の状態で押されているのを上官は分かっているはずです。それなのに他の国の軍隊を一つも見ていません。そうなると敵は大亜連合しか考えられないかと」

 

克也が頭を回転させて説明していると、遠くからヘリの音が聞こえてきた。

 

「来たわね」

 

真由美の顔には、市民と後輩を逃がせることへの安堵が浮かんでいた。ヘリが着陸しようと高度を下げていると、突如として黒い雲が現れた。いや、雲ではない。異様な動きをしながら近づいてくる虫の大群は化成体だ。

 

雫が《フォノンメーザー》を放つが数が多すぎて倒し切れない。克也は《全想の眼(メモリアル・サイト)》で想子情報体を読み取り、読み取った情報を視てほっと息を吐いた。化成体の想子情報体が全て同じだったので、範囲設定するだけで消し去ることができる。

 

闇色の煉獄烈火(ベルフェゴール)》を発動すると、全ての化成体が消え去った。

 

「これで安心して乗れますね。市民の皆さんを乗せてから俺達も乗りましょう」

 

克也がそう言うと真由美は市民を先導し始めた。あらかた乗り終わり、別のヘリに乗ろうとした瞬間。

 

「動くな!」

 

大きな声を出して鈴音の首元にナイフを押し付ける男がいた。周りを見れば、5人の男が同じようにナイフを抜いて立っている。どうやら避難民の中にゲリラが紛れ込んでいたらしい。

 

「お前には捕虜を交換するための道具になってもらう。動くなと言っている!」

 

鈴音を脅しながらCADを操作しようとした真由美に怒鳴る。真由美は大人しく言うことを聞いて手を離した。

 

「確かに狙いは良かったのですが、タイミングが悪かったですね」

「なんだと!?」

 

鈴音の冷静な声音と意味不明な言葉に大声を出し始める男は、自分がどのような状況に陥っているか理解していないようだった。

 

「ゲリラさん、死にたくなかったら今すぐ離れたほうがいいですよ。もう遅いみたいですけど」

 

真由美も笑顔で矛盾したことを言っているが、その顔は引きつっていた。

 

「何を言って…っ!」

 

男は突然身体を襲ったプレッシャーに言葉を詰まらせ、目線を話していた真由美の横に移す。そして余計に圧迫される錯覚に陥った。

 

「お前、誰に何をしている?俺の目の前で」

 

顔を俯かせながら発せられたその声音は、真由美達もこの半年間で一度も聞いたことのないものだった。ゆっくりと上げられた顔には天使の笑みがある。しかしその天使とは普段耳にするような優しいものではなく、怒りに染まり悪魔化した天使の笑みであった。

 

いわゆる堕天使なのだが、天使と表す方が適切な笑みである。それほどまでに純粋で穢れのない笑みだった。

 

男は鈴音の首からナイフを離す。それは意識してではなく、無意識のうちに自分の身を守ろうとする防衛本能が働いたのと、鈴音に随意筋を司る運動を麻痺させられて行動した結果だ。

 

「そうそれでいい。しっかり握って構えろ。じゃないとあっという間に死んじゃうからさ」

 

克也はそう話し、想子を軽く活性化させて男に向かって歩き出す。それだけで男は尻餅をついてしまう。

 

なんて脆いんだ。この程度の活性化で怖気付くなんて。

 

克也はそう思った。

 

克也は気付いていないが、自身の活性化された想子によるプレッシャーは、A級ライセンスを持つ魔法師でも冷や汗を流すほどだ。そんなものを向けられては、低レベルな魔法師であるゲリラが耐えられるわけがない。

 

4人の男がそのプレッシャーに負けたのか切りかかってきた。だが左右の手刀で上半身と下半身に分断され、傷口から燃えて消え去っていく。克也は手首から先に薄く鋭い想子を纏わせ、刀のように切れ味をつける。切り裂いた部分から燃えるように、《地獄の業火(ヘル・ヘイム)》を体内に打ち込んだのだ。

 

「次はお前だ」

 

克也は鈴音を拘束しようとした男に笑顔を向けながら近づく。

 

「ひぃ!や、やめてくれぇぇ!」

 

男は恐怖で叫び始めた。

 

「やめてくれ?どの口が言っている。お前は俺の大切な人を利用しようとした。殺されるのは当然だろう。その罪は万死に値する。この罪はお前の命で償わさせてもらおう」

 

克也は右手で手刀を作り、男の首に振り下ろそうとしたが後ろから抱きつかれて動きを止めた。

 

「やめてください私は何もなかったんです。だからもうやめてください」

「何故だ?こいつはお前を利用しようとしたんだ。死ぬのは当たり前だ」

「これ以上貴方の手を汚さないでください!」

 

鈴音の言葉に克也は正気を取り戻した。男は気絶し倒れていたが4人を殺した場面を目撃した友人達は、なんとも言えない表情をしていた。

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