魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第27話 横浜事変③

「七草先輩、先に深雪達のところに行かせてもらってもいいですか?」

 

ヘリに乗り込もうとしていた真由美に、克也はそう問いかけた。大切な妹だから先に迎えに行きたい気持ちが現れている。深雪だから余程のことはないと信じているが、今は敵の危険地域に立っているのだ。想定外のことが起こっても可笑しくは無い。

 

「ヘリと一緒じゃなくて?」

「ヘリでは遅すぎるので。先に行って知らせておきたいんです」

「それなら連絡すればいいんじゃないかしら」

「今この状況では電話を使っても、気付いてもらうのは厳しいでしょう」

「わかったわ。先に行って教えて上げて」

「ありがとうございます」

 

克也は真由美から許可をもらい、自己加速術式と体術を併用して、深雪達がいる場所に向かった。

 

 

 

「七草先輩、克也さんは?」

「克也君の友人の光井さんね?彼は深雪さん達にヘリのことを伝えるために先に向かったわ。とんでもないスピードでね」

 

最後にウインクをつけて言うと、光井さんは少し顔を赤くする。その隣の北山さんが不思議そうに問いかけてきた。

 

「ヘリと一緒ではなくですか?」

「ヘリじゃ遅いから早めに伝えたいんだって。せっかちね克也君は」

 

私の愚痴にくすりと笑う2人を見ると、少しだけ安心しているようだった。でも、まだ油断はできないわね。このままじゃ終わらない気がする。私はそう思った。

 

 

 

克也が深雪のところに着くと、既に何機かの戦闘ロボットが倒されていた。

 

「深雪、大丈夫か?やるなエリカ・レオ・幹比古も」

 

突然の登場に3人は驚いていた。深雪は克也が近づいているのを知っていたようで、まったく驚いていないが。

 

「克也お兄様!」

「うわ、驚いた!急に話しかけるのやめてくんない?」

「おい克也、驚かすなよ…」

「心臓に優しいお迎えが欲しかったなぁ」

「ヘリがこっちに向かってるから、タイミングよく切り上げて脱出しよう」

 

3人の文句を無視して伝えるべきことを話しておく。今は余計な会話をしている時間が惜しい。動ける時に動かなければ安全を確保できない。

 

「了解っと。この危険な場所から逃げられるのか。助かる嬉しさもあるがもう少し戦いたいぜ」

「レオ、あまり不謹慎なことを言わないでよ。魔法師は戦う道具かもしれないけど、人を殺す道具じゃない」

 

レオの言葉を幹比古がたしなめる。レオの言葉をどう解釈するかはその人次第だ。守られている側からすれば、敵を倒してくれる安心。倒される側からすれば、味方が殺される恐怖。幹比古がレオを注意したため、克也は話題転換して空気を変えることにした。

 

「エリカ、レオのそれは武装一体型デバイスか?鍛錬はこのためだったんだな」

「よく分かったね克也君」

「まあ、俺には決め手となる技がないからな。手に入れるのに苦労したぜ」

 

レオの言葉には習得するまでの苦労が込められていた。会話をしている間にも克也は周囲を警戒していた。だからこそ敵の動きをすぐに察知できたのだ。

 

「「来た」」

 

克也は《全想の眼(メモリアル・サイト)》で、幹比古は風の精霊からの情報で知ったことを3人に知らせる。数秒後、ビルの陰から2機の戦闘ロボットが飛び出してきた。しかし角を曲がりこちらに向かってくる途中、足下が凍り付いて動きを止める。

 

凍り付いたのは足下だけではない。機銃も榴弾砲も火を噴かず凍結していた。深雪による《凍火(フリーズ・フレイム)》の陽動と援護だ。深雪の魔法はちゃちなものではなく、相手を一撃で無力化できる強力な魔法である。

 

火器が火を噴かないことに気付いたレオは、ロボットが硬直した瞬間に飛び出していた。手にする獲物は克也が見たことのない代物だった。双頭ハンマーに似た短いスティック。レオが想子を流し込むと駆動音が流れ、スティックの先端から黒いフィルム吐き出される。薄い薄い黒く透き通ったフィルムだ。長方形なのだが横から見ると存在を疑うほど極薄の刃。

 

エリカが決定打のないレオに伝授した、人を殺すための技と武器。千葉一門の秘剣〈薄羽蜻蛉〉を、レオは硬化魔法を発動させて使用している。

 

レオが〈薄羽蜻蛉〉を一閃する。5ナノメートルの極薄刃は、凍り付いた装甲板をやすやすと切り裂く。どんな刀よりも切れ味のある極薄刃を防ぐ術はない。装甲板が切り裂かれると赤い雫がしたたり落ちる。それは紛れもなく操縦者の血だ。それを見たレオは顔をゆがめたが、嘔吐など拒絶反応を示すことはなかった。

 

 

 

獲物を仕留めたのは、もしかしたらエリカの方が早かったかもしれない。全長180cmの巨大な武装一体型デバイス〈大蛇丸〉を、肩に担ぐ用に持ち上げると既に魔法が発動していた。

 

重さ10kgの大太刀が軽々と振りかざされ、突然エリカの姿が消える。次の瞬間には破砕音が聞こえ、ロボットが粉砕されている。レオと同じように、相手を殺すための魔法によって潰されたロボットの機械油に混じって鮮血が流れていた。

 

加重系慣性制御魔法《山津波》。自分と刀にかかる慣性を極小化して敵に高速接近し、インパクトの瞬間に消していた慣性を増幅させ、対象物にぶつける魔法。

 

この魔法は助走距離が長ければ長いほど強力になる。

 

使うためには、慣性を消した不安定な状態で駆け抜けられる足さばきと、刃筋をぶれさせない操刀技術。何より無慣性状態のスピードに負けない体幹と運動神経のこれらが必要になる。エリカは先天的な【速さ】と長年の厳しい修行で剣を極めつけたことで、完璧に使うことを可能にしていた。

 

 

 

克也は深雪の隣から2人の戦いを観察していたが、この魔法は警戒すべきだとそう認識した。話をしていると、ヘリの音が聞こえたが本体が見えない。音の発生源は認識しているのだが知覚できなかった。

 

「音が近くにあるのはわかるんだけどよ。ヘリはどこだ?」

「おそらく光学迷彩で姿を隠しているんだろう。敵に認識されないように。しかしすごいな。ここまで景色に溶け込ませるのは。かなりの腕前だよ」

 

克也が称賛しているとエリカに聞かれた。

 

「使ってるのは誰なの?」

「ほのかよ。ほのかはエレメンツの血統だから光学魔法を得意としているの」

 

深雪の説明にエリカは納得する。ポケットの携帯端末が振動したので取り出して耳に当てた。

 

『克也君、ここ狭いから着陸できないの。ロープを降ろすからそれにつかまってね』

 

克也の返事を待たずに一方的に話して電話を切った。上空から破壊された戦車の状態を確認していたのだろう。無駄な時間を使わず、安全を最優先に克也達の回収を急いだようだ。

 

「克也お兄様、今のは七草先輩からですか?」

「ああ、機体が散乱して狭いから着陸できないらしい。ロープを降ろすからそれにつかまってくれだって」

「そうですか。それは構いません。それより克也お兄様、少しよろしいでしょうか?」

 

克也は深雪の言葉の続きをある程度予想していた。すると予想通りその言葉が聞こえてくる。

 

「七草先輩のプライベートナンバーを、何故ご存じなのですか?」

 

笑顔で聞いてきたので、エリカ達に眼を向けるとそっぽを向かれて裏切られる。

 

「いや、初めて会ったときに交換しただけなんですが…」

「そうですか。その事を教えてもらっていなかった理由を、後ほど詳しく聞かせていただきますね」

 

〈横浜事変〉が終わってからも問題が残る。いや、これより大きな問題かもしれない。克也はそう思うのだった。

 

真由美の言葉通り、5本のロープが降ろされたので4人に先に上がってもらい、周囲を視て危険がないことを確認してからロープにつかまった。

 

「光井さん、辛かったら解除しても構いませんよ?今ここには深雪さんや克也君がいますから」

「…大丈夫です。みんな頑張っているんですから私もここで頑張らないと…」

 

真由美の言葉に返事するほのかは苦しそうだった。座席についていたのだが、克也は深雪に席を代わってもらう。頭に右手をかざして《癒し》を発動させて、ほのかの負担を減らす。するとほのかの苦しそうな表情が明るくなり、浅く早い呼吸が正常なものに戻った。

 

 

 

ヘリで摩莉達が戦っている場所に着いたが、全員無事に救助することができなかった。ゲリラがハイパワーライフルを発射したことで桐原の足を吹き飛ばし、五十里の背中に榴弾の破片が突き刺さる。それを見た克也と深雪はヘリから飛び降り、重力を感じさせない動作で着地する。

 

克也と深雪はCADを使わずとも完璧に重力を掌握していた。非常に強すぎる魔法領域は、【世の理】を覆すこともある。

 

深雪の感情の暴走は、兄の能力を抑えている副作用だ。達也の能力を解放したことによって深雪の力も解放されていた。克也たちの母は精神干渉魔法を得意としており、その魔法が克也と深雪に遺伝していてもおかしくはないだろう。

 

攻撃してきたゲリラに向けて、精神干渉魔法《癒し》と系統外精神干渉魔法《コキュートス》を発動させた。敵意を向けてきたゲリラに、克也が《癒し》で精神に苦痛を与えて生命活動を停止させ、深雪によって精神が凍り付いたゲリラは、身体に死を命じることも死を認識することもできない。

 

克也と深雪がしたことを理解できた者はいなかった。

 

敵を一掃した克也が桐原と五十里に近づく。

 

「何をするの!?」

「何を!」

 

壬生と花音が叫ぶ。致命傷である恋人と幼馴染に無表情で近づけば、誰であろうと叫ばずにはいられないだろう。克也は無言で桐原と五十里を横たわらせて、《癒し》を発動させる。

 

五十里は少しずつ榴弾の破片を抜きながら傷を塞いでいく。桐原の場合は止血し、痛みを軽減させることしかできず、太ももの下からは再生させることはできなかった。五十里は治ったがこれは見かけ上しか治っていないので、完治するまでには数週間はかかるだろう。

 

「五十里先輩、一応のところは治療しました。念のために2週間ほどは激しい運動は禁止です」

 

克也は桐原に《癒し》を施しながら説明する。

 

「…ありがとう四葉君」

 

五十里のお礼に頷きながら近づいてくる弟を待っていた。しばらくすると、彼方の空から飛んでやってくる人影が見えた。

 

「達也(お兄様)、頼む(お願いします)!」

 

飛行魔法で駆けつけた達也にお願いする。達也は無言で頷くと、左手でCADを構え桐原に発動させる。

 

【エイドス変更履歴の遡及を開始】

 

達也は無表情にたたずむ。

 

【復元時点を確認】

 

この魔法を発動するのは一瞬だが、その間に達也が理解できない痛みを味わっているのを、克也と深雪は知っていた。

 

【復元開始】

 

達也の魔法が発動する。桐原の身体が一瞬霞んだと思うと、そこには吹き飛ばされる前の状態に戻った足があった。

 

【復元終了】

 

達也は桐原の足が治ったのを見ずに、深雪を抱き寄せて耳元で何か呟く。克也には視線を向けてきたので頷きで気持ちを伝える。

 

数秒ほど視線を交わして抱擁をすると、飛行魔法を使用して飛び去っていった。達也が深雪に呟いた「良くやった」という言葉を、克也と深雪以外が知る機会が訪れることはなかった。

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