魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第28話 横浜事変④

「…何が起こったんだ?いっそ夢だったって言われた方が、まだ状況が理解できるぜ」

「でも僕が背中を大怪我したことも君の足がちぎれたことも。紛れもない事実だ」

 

桐原先輩の呟きに対して、五十里先輩はしっかりと現実を受け入れていた。自身に何が起こったのか理解できていなくとも、納得だけはできていたようだ。

 

「司波、教えてくれないか?克也君と達也君は何をしたんだ?」

「摩莉、他人の魔法を探るのは失礼よ」

 

七草先輩が委員長をたしなめた。魔法社会では、他人の魔法を聞き出すのはマナー違反とされている。個人情報と同等の秘密なのだから当然である。

 

「構いません七草先輩。何が起こったのかを受け入れるには、あるがままに話す必要があるでしょうから。ここにいる方々に話しても、達也お兄様は文句を言わないでしょう」

 

深雪はそう言うと話し始めた。

 

「克也お兄様が使用された魔法は、【固有魔法】《回復(ヒール)》です。怪我を治す治癒魔法ですが、これは見かけの上のみでとなります。傷が塞がったとしても、完治するまでに克也お兄様が亡くなれば、効果はなくなり怪我が元に戻ってしまいます。達也お兄様が使用された魔法は、克也お兄様と違って治癒魔法ではありません。魔法の名称は《再生》、達也お兄様の【固有魔法】です。エイドスの再生履歴を最大で24時間まで遡り、上書きして事象を無かったことにします。これは生物だけではなく機械にまで作用します。この魔法のせいで、達也お兄様は他の魔法を自由に使うことはできません」

 

深雪の説明に全員黙り込んでいた。達也の魔法力の低さは知っていたが、それでも一科の生徒を上回る能力を持つことを訝しんでいたのだ。

 

だが今の説明で理解できた。

 

魔法力の低さを肉体の強度で補い、それを利用した戦闘方法で勝つ。達也が意図的に魔法力を低くみせて、一科の生徒に勝利して優越感に浸っているのではないと改めてわかった瞬間だった。

 

「だから達也君はあれほどまでにアンバランスだったのね」

「それだけの高等魔法が待機していれば、他の魔法が阻害されてもおかしくはない」

 

七草先輩と委員長は深刻そうに話したが、2人の先輩は違っていた。

 

「でもそれだけの魔法が使えれば、他の魔法が使えないことなんて些細なことじゃない!」

「そうだね。その需要は計り知れない」

 

千代田先輩と五十里先輩の幼馴染が慰めるが、俺と深雪の表情は暗い。深雪が膝に置いた手を強く握る。その手を俺が優しく包み込むと、深雪が抱き締めるように胸へと持ち上げた。

 

「…その魔法が何の代償もなくお使いになれるとお思いですか?」

「…え?」

 

静かに告げた俺の言葉に2人は硬直した。

 

「エイドスを読み取るということは、その者が味わった苦痛も伴います。桐原先輩を俺が治療してから、達也が魔法を使うまで20秒がかかっていました。そして魔法が終了するまでにかかった時間はゼロコンマ2秒。この瞬間に達也は桐原先輩が味わった苦痛を100倍にして味わっているんです。それでも達也にこの魔法を使わせるのですか?」

 

俺は静かに怒りながら伝える。言葉を聞いた瞬間に深雪が震えたのがわかった。深雪を抱き寄せて髪を優しく撫でる。

 

「…100倍」

 

桐原先輩は頭を抱えながら呟く。俺と深雪は達也に《再生》を使わせてしまったことを悔いていた。

 

「...このことは私達だけの秘密にしたほうがよさそうね」

 

七草先輩の一言に全員は俯いたまま同意するのだった。

 

 

 

「っ!」

 

しばらくの間ヘリで移動していた俺は、協会付近で突然吹き付けた重い想子の波動を感じて声を出してしまった。

 

「克也お兄様、どうされました?」

「あっ!」

 

深雪の質問に答えようとした瞬間に美月も声を上げた。

 

「美月もどうしたの?」

「魔法協会の近くで野獣のようなオーラが見えた気がして…」

 

全員が理解できないような顔をしていたが、幹比古が呪符で外の様子を確認する。

 

「敵襲!?」

 

ついで叫び、全員が気を引き締めた。

 

「名倉さん、協会に!」

 

七草先輩が指示を出すと、ヘリが進行方向を変更した。

 

 

 

協会の麓では白い甲冑を身に纏う見たことのある男が戦っていた。

 

呂剛虎(ルゥ・ガンフウ)か…」

「どうやら逃げられたみたいね」

 

俺と七草先輩はぼやく。あれだけ苦労して捕縛したのだ。それが目の前に入れば、否応なく気分が悪くなるのは当然である。

 

「呂剛虎…ね」

「エリカ、知ってるのか?」

「強敵よ」

「なるほど」

 

エリカとレオのうわついた会話に俺は割り込む。

 

「エリカ・レオ、あいつを甘く見るな。そんな状態じゃ死ぬぞ。俺でも倒しきれなかったんだからな」

 

俺の言葉に2人は顔を引き締める。俺の魔法力を知っているからこその反応だろう。

 

「エリカ・西城、お前達にも手伝ってもらうぞ」

「言われなくても」

「もちろん」

「克也君・深雪さん、2人は協会の中をお願い」

「「はい」」

 

七草先輩のお願いに俺達はしっかりと答えた。

 

 

 

陳 祥山(チェン・シャンシェン)は、魔法教会関東支部の廊下を歩いて目的地に向かっていた。これまでの襲撃は、全てにおいて魔法協会のデータを盗むための布石だった。

 

論文コンペの襲撃・ゲリラの上陸・戦闘用ロボットの使用。そして彼の部下である〈白虎甲(パイフウジア)〉を着た本気の|呂剛虎による陽動。それら全てがこのためのものだ。《電子菌蚕》が入った端末を指紋認証部分に押し付ける。警報が鳴り響くが気にしない。ハッキングで開かれたドアから冷気(・・)が漏れ出る。

 

「これが《鬼門遁甲(きもんとんこう)》ですか。なるほど勉強になりました」

 

ドアをくぐりぬけた先から、可憐な声が聞こえてきたのでその方向に顔を向けると、そこには監視対象であった清楚な少女が立っていた。

 

「司波、深雪…。何故ここに?」

「深雪の名前を知っているということは、今まで俺達を追い回していたのはお前の部下だったわけか」

 

後ろから声が聞こえたので振り返ると、要注意人物として国から警告を受けていた人物の1人が立っていた。

 

「四葉、克也…。お前達には私の術が効かなかったのか!?」

「事前に警告を受けていましたから。『方位に気をつけろ』と。しかしそれではよくわかりませんでした。なので全方位に気を配っていれば、何とかなんとかなるだろうと思いました」

 

深雪の言葉に陳祥山(チェン・シャンシェン)は驚愕する。その程度で破られるようでは、《鬼門遁甲》は既に廃れている。しかし実際に破られているがそのようなことを考える必要はなく、話していた目前の深雪が説明してくれた。

 

「幸いこちらには普通は視えないものが視える方がいましたから。術によって見えないことになっている貴方の姿を、容易に発見することができたというわけです」

 

その視線を辿ると照れた笑みを浮かべる克也がいた。

 

「とりあえず今はお眠りください。貴方がいなくなれば、私達も静かに暮らせるというものです」

 

深雪は嬉しそうに呟きながら笑った。

 

陳祥山は、自分の身体の体温が下がっていることにようやく気付く。おそらくこの部屋に入ってから気付かれないように徐々に下げておき、言葉を発した瞬間に急激に下げたのだろう。

 

「どうぞごゆっくりとお休みください。みなさんのおかげで私も上達しました。一生氷の中ということはありませんのでご安心を」

 

その言葉を最後に、陳祥山の意識は闇に飲まれた。

 

 

 

「お疲れ様深雪。見事な魔法制御だな。これなら後遺症が残ることもないだろう」

 

凍り付いた陳祥山の様子を調べてから、深雪に労いの声をかける。

 

「そ、そんな、もったいないお言葉です///」

 

すると深雪は顔を赤くさせて悶えた。驚愕の表情をうかべながら凍り付いている男の横で、顔を紅潮させている美少女というかなりシュール極まりない絵面。幸いにも気にする者は1人もいない。

 

「深雪、ヘリに戻ろうか」

「はい!」

 

深雪は克也の言葉に頷いて左腕に飛びつく。その様子は恋人に甘える普通の少女で、敵を凍らせたときとは違う美しさを兼ねそろえていた。

 

 

 

外に出ると、呂剛虎はその巨体を地面に崩していた。ちなみに既に深雪は克也から離れている。深雪は物足りなそうにややふくれっ面だったが。彼が倒れた様子を見るのは2度目だが、今回は確実に確保できたと克也は確信する。

 

「エリカ・レオ、よくやったな」

「あたしじゃないよ倒したのは。あ〜あ、負けちゃった」

「やれやれ強かったぜこいつはよう」

 

エリカとレオのぼやきに苦笑し、倒したことより負けたことを悔しがるエリカの様子に克也と深雪は苦笑する。その後に話を聞いたところ、呂剛虎を倒したのは真由美の得意魔法《ドライミーティア》によるものらしい。

 

エリカやレオが痴話喧嘩を繰り広げている頃、克也は弟が今いる方向に目線を向けていた。

 

「達也…」

 

無意識のうちに呟く克也であった。

 

 

 

「敵の揚陸艦が逃走を始めたようだな。これを撃沈するぞ」

「はっ」

 

柳が部隊に攻撃の命令を出そうとすると通信が入った。

 

『柳大尉、敵艦に対する直接攻撃はお控えください』

「藤林、どういうことだ?」

『敵艦はヒドラジン燃料電池を使用しています。東京湾内で船体を破損させると水産物への影響が大きすぎます』

 

柳は舌打ちをした。それでは敵をわざわざ逃がすようなものだ。しかしその心配は杞憂に終わりそうだった。

 

『退け。柳』

「隊長?」

 

風間から撤退の指示が出たからである。

 

『勘違いするな。作戦終了というわけではない。一旦帰投しろ』

「了解しました」

 

今の通信を聞いていた部下も移動本部へ向かって飛び立つ。いくらハイレベルの魔法師である独立魔装大隊の兵であるといえど、長時間の戦闘は眼に見えぬ疲労が蓄積する。それを踏まえての帰投命令だった。

 

 

 

帰投した柳に指揮権を委ね、風間は真田大尉・藤林少尉・達也を連れてベイヒルズタワーの屋上に来ていた。

 

「敵艦は相模灘を時速30ノットで南下中。房総半島と大島のほぼ中間地点です。撃沈しても問題ないかと思われます」

 

藤林が小型モニターを見ながら伝えた情報に、風間は頷いて真田に命じた。

 

「〈サード・アイ〉の封印を解除」

「了解」

 

風間から嬉しそうにカードキーを受け取り、真田は大きなケースに差し込んだ。カード・静脈認識・暗唱ワード・声紋の多重複合キーによる厳重な箱を開けていく。

 

「色即是空 空即是色」

 

真田が呟くとロックが外れ、中から大型CADが姿を現した。

 

「大黒特慰、《質量爆散(マテリアル・バースト)》を以て敵艦を撃沈せよ」

「了解しました」

 

真田から〈サード・アイ〉を受け取った達也に風間は命令を下した。「大黒特慰」正式には「大黒竜也」は、独立魔装大隊において特務士官として活動する達也の名前だ。

 

「成層圏監視カメラとのリンクを確認」

 

藤林がモニターを確認して告げる。達也のバイザーにも同じ情報が映し出されているので、達也に言ったというより風間や真田に伝えたのが正しいだろう。

 

船体に付着する無数の水滴のうち、ヒドラジン燃料電池タンクの直上、甲板に付着した水滴に狙いを定める。監視カメラの分解能では見分けられない一滴の水滴を、精密照準する〈サード・アイ〉の遠距離精密照準補助システムも侮れないが、情報体を知覚する達也の視力も驚異的だ。それを理解する頭脳と分析する処理能力もだが。

 

「《質量爆散(マテリアル・バースト)》発動」

「《質量爆散(マテリアル・バースト)》発動します」

 

風間の指示に、達也は迷うことなく引き金を引いた。

 

突然、想子波の揺らぎの警告音が鳴り響き、偽装揚陸艦はざわつき始める。10km四方に敵の影も形もなかったのだから、その行動は仕方の無いことだ。もし揚陸艦の生存者がいたのであれば、こう表現したことだろう。

 

「太陽が突如現れて膨れ上がり、爆発した」と。

 

しかしその言葉を後世に残すことができた人間はいなかった。その灼熱の光球に全て飲み込まれ、跡形もなく蒸発してしまったのだから。

 

究極の分解魔法、戦略級魔法である《質量爆散(マテリアル・バースト)》が実戦で《2回目(・・・)》に使われた瞬間であった。

 

 

 

とある爆発を俺達は、横浜にある魔法協会近くの海岸近くで見ていた。突然光球が水平線の彼方に現れたかと思うと、膨張して何もかもを飲み込む瞬間を。深雪は心配そうな表情をして俺の左手を握りながら見ていた。俺は無表情に何もなかったかのように穏やかになった海原を、しばらくの間眺めていた。

 

 

 

「敵艦と同じ座標で爆発を確認。撃沈したかと思われます」

「撃沈しました」

 

藤林の報告を修正し、達也は再度報告した。

 

「約80kmの距離を精密照準。〈サード・アイ〉は所定の性能を発揮しました」

 

真田の嬉しそうな報告に風間は頷く。達也、いや大黒特慰を毅然とした態度で労った。

 

「特慰、ご苦労だった」

「はっ」

 

大黒特慰はいつも通りの敬礼を返すのだった。

 

 

 

俺と深雪は自宅で初めて2人きりの生活を送っていた。もちろん俺達に間違いが起こることもなく普段通りだ。達也がいないことだけを除いては…。電話の音が鳴り響き、深雪が応対する間に俺はテレビの正面に立っていた。呼び出し音が四葉からの秘匿回線からだったので、素早く身支度を整える。

 

「お久しぶりです叔母上」

『久しぶりね克也。それに深雪さんも』

「ご無沙汰しております叔母様」

 

俺達は挨拶をしながらお辞儀をした。俺が()と呼ばなかったのは、この回線が強力な暗号でカモフラージュされているからである。

 

『そんなにかしこまらなくて結構ですよ。それよりも今日は大変な目に遭いましたね』

「はい。しかし何も心配することはありません叔母上。問題など何一つありませんし、達也が片付けてくれますから」

「その通りです叔母様。今、達也お兄様は事後処理のためここにはおりません」

 

俺と深雪は感情のぶれが一切無い声で答えた。

 

『そうですかそれを聞いて安心しました。そうそう今度の日曜日にいらっしゃいな。とても美味しいお茶を用意していますから』

 

この言葉を真に受けてはならない。叔母としてのお茶会参加ではなく、当主としての出頭命令だ。

 

「わかりました。達也に伝えておきます」

 

俺と深雪は素直に頷いた。

 

『じゃあ、お休みなさい』

「「お休みなさいませ叔母上(様)」」

 

電話が切れると俺はソファーに沈み込んだ。

 

「克也お兄様…」

 

深雪が心配そうに見つめてくるが、今は振り向かない。

 

「達也、お前を切り離したりはしない絶対に。例え四葉家と敵対することになっても、この地球に俺達の居場所がなくなったとしても」

 

そう呟いたあと、深雪は俺を後ろから抱きしめてきた。

 

「そんな重荷を克也お兄様だけが背負う必要はありません。私も同じように背負って生きていきます。だからそんなに抱え込まないでください」

 

そう話しかける深雪の頬には二筋の雫が流れていた。そして俺の頬にも。

 

「達也…」

 

俺はまた大事な弟の名前を呟いた。深雪を放っておくことはできず、俺は深雪と共に同じベッドで夜を明かすのだった。

 

 

 

 

 

10月31日、達也は対馬要塞でハロウィンを迎えていたが特別な感慨はなかった。

 

「これはつい5分前の写真だ。この様子だと約2時間後には出港するだろう。そしてこの動員人数を見る限り、日本海側の何処かを占領する意図があると考えられる」

 

確かにそれだけの人員・物資・武器が準備されていた。

 

「既に敵は準備を完了しているが、我々は昨日より動員を開始したばかりだ。このままでは奴らに先を越されるのが目に見えている。よって我々独立魔装大隊は、戦略級魔法を投入して殲滅することを決定した。これは〈統合幕僚会議〉の許可を受けた作戦である。大黒特慰、頼むぞ」

 

風間の言葉に達也は頷きだけを返す。そのままの流れで達也は、液晶モニターが大量に映った部屋の中心に立つ。

 

「大黒特慰、準備はよろしいですか?」

「準備完了。衛星とのリンクも良好です」

 

真田に問われて達也は〈ムーバル・スーツ〉を着て、〈サード・アイ〉を両手に答えた。

 

「《質量爆散(マテリアル・バースト)》発動順備」

 

風間の声に達也は〈サード・アイ〉を構え、照準を合わせる。狙いは鎮海軍港巨済島要塞に停泊している大亜連合艦隊の中央の戦艦の戦闘旗。三次元処理された衛星映像を手掛かりに、目的の情報体へアクセスする。

 

「準備完了」

 

呟くような小さな声だった。しかし静まりかえった室内ではそれで十分だった。

 

「《質量爆散(マテリアル・バースト)》発動」

「《質量爆散(マテリアル・バースト)》発動します」

 

風間の声を復唱し、達也は〈サード・アイ〉の引き金を引いた。

 

魔法は対馬要塞から海峡を越えて鎮海軍港へ。そして爆発した。爆発の後の爪痕を見て表情を変えなかったのは達也だけ。そしてここにいる全員が、戦略級魔法という意味を思い知らされる。

 

 

 

それは後世に《灼熱のハロウィン》として、まことしやかに語り継がれる世界を揺るがす大事件であった。

 

 

 

 

 

克也は翌日から学校には深雪と2人で登校したが、達也のいない登校は寂しいものだった。いつものメンバーから達也はいつ帰ってくるのかと聞かれたが、連絡もつかないので分からないと答えていた。

 

達也が軍の関係者であることを知っても、変わらずに接してくれる友人たちに感謝したが、昼食の席でも重たい空気が覆って楽しいと呼べるものではない。ほのかやエリカが明るく話を盛り上げてくれたのだが、空気を吹き飛ばすことはできなかった。

 

「達也お兄様はいつ帰ってくるのでしょうか」

 

1日の学校生活を終えて、エリカ達と別れてコミューターに乗っているとき、深雪がふいにこぼした。

 

「あれから2日も経つというのに、お兄様からは連絡はありません。こちらから連絡しても返信さえ返って来ません。何かあったのでしょうか」

「忙しいんだろうさ。叔母上からの報告にもあったように、条約を締結したから達也の立場も変わってきてるんじゃないかな。勝利の立役者なんだし。それに達也に何かあれば、俺達が気付かないはずがない。達也が帰ってきたときに笑顔で迎えられるように、明るく元気でいよう」

「そうですね克也お兄様。それでは今日は、克也お兄様の大好きなたらこスパゲティにしますね」

 

俺の言葉に深雪は吹っ切れたらしく、いつもの深雪に戻っていた。

 

「それは楽しみだな。それなら早く帰らないと」

 

俺は笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

《灼熱のハロウィン》から3日後。達也はようやく任務が完了して家路についていた。2日前、大亜連合は日本側の要求をほぼ受け入れる形で条約を締結した。大亜連合が条約をせず受け入れたのは、日本側が出した要求が控えめな内容だったのもあるが、何より鎮海軍港の被害が甚大だったのが大きかったのだろう。

 

大亜連合は《灼熱のハロウィン》によって4割の戦艦と3割の軍隊を失っており、降伏するには十分すぎる規模の被害だった。条約が締結された後、達也は会議などに出席しなければならず、到底克也と深雪に連絡できる状態ではなかった。

 

しかしそれももう終わりだ。あと10分もすれば2人に会える。そんなことを考えていると家に着いた。ドアを開けると、2人の姿が見えて声が聞こえてくる。

 

「お帰り(なさい)達也(お兄様)」

 

3日しか声を聞かなかったのに、こんなに嬉しくなるのは何故だろうか。それだけ2人が大切だからだろうか。

 

「ただいま克也・深雪」

 

達也は2人に笑顔を向けながら、玄関のドアを閉めるのだった。

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