魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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横浜騒乱編はこれで終了です。次話からは来訪者編に入っていきます。


第29話 出頭命令

後世に《灼熱のハロウィン》として語られる日から1週間。克也達3人は、地図に記されていない山村に来ていた。その理由は真夜からの招きという名の出頭命令によるものだった。

 

「心配するな。俺達は3年前とは違う」

 

達也は暗い顔をしている深雪の肩を軽くたたきながら慰めた。達也の言った言葉の中には、2つの意味が込められている。2人の実力と2人の関係。達也は3年前まで深雪の単なるガーディアンで、今は兄であり(・・・・)ガーディアンなのだ。

 

「兄」という言葉が付くだけで深雪の心は暖かくなり、しかし同時に少し切なくもなる。この感情は深雪に理解できるものではなかった。達也は深雪がそんな感情を抱いていることを知らない。そんな2人を、克也は首だけ後ろに向けながら複雑そうな表情で見ていた。

 

 

 

玄関のベルを鳴らすと女中に一室に通された。そのまま俺と深雪はソファーに座ったが、達也は深雪の横に立ったままだ。俺は座るように言ったが、達也に断られたので二度も同じことを言うことはしない。

 

「おっと」

 

中庭をぼんやりと見ていた俺はつい声を出してしまう。

 

「どうした克也?」

「黒羽の姉弟だ」

「珍しいですね」

 

俺の言葉に達也と深雪は、窓から中庭を歩いている2人を見た。黒羽姉弟が出てきた離れには、当主である叔母上にとっての叔母に当たる人物が住んでいる。2人がわざわざご機嫌伺いに来てもおかしくはない。

 

「そういや達也は最近2人に会ったのか?」

「いや、会っていないな。会おうにもお互いに仕事があったし、去年は受験勉強で忙しかったからな」

「なるほどね。実を言うと俺もここ1年ほど会ってないんだ」

「どうしてだ?」

 

達也は四葉の本家にいた俺が、仕事の関係上で2人が叔母上に報告に来る際に会っていたと思っていたので、会っていないと聞いて驚いたのだろう。

 

「2人が来るときに限って用事が入っててさ。七草家のパーティーとか病院とかで会えなかったんだ」

「病院?」

「別に体調を崩して行ってたわけじゃない。事故による後遺症の最終検査の為だよ」

 

俺の説明に不安の顔をしていた達也は、安堵した顔に変わった。

 

コンコンとドアがノックされる。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

声と共に入ってきた女中が深々とお辞儀をする。そのまま横にずれると、そこには俺達が知っている人物が立っていた。

 

「久しいな達也。先週会ったばかりだが」

「少佐、何故。いえ、叔母上に呼ばれたのですか?」

「ああ、2人が来るとは聞いていなかったが」

「申し訳ありません」

「謝る必要は無い。事件現場にいた上にここは四葉家本家だ。君達がいても不思議じゃないさ」

 

風間少佐は俺の謝罪を流す。必要だから呼ばれたのだと、瞬時に理解してくれたのだろう。

 

「しかしここに来るのも3年ぶりか。相変わらず〈死の匂い〉が立ち込めているな」

「仕方ありません。ここは四(死)の研究所の上に作られた場所ですから」

「それもそうだな」

 

この会話は3年前に達也達がやりとりしていたらしいが、まるで今思い出したかのように言っているようだ。達也と深雪が風間少佐と出会ったのは沖縄でのことで、その事に対して俺は詳しく聞こうとしない。叔母上から説明されていたので、話についていけないということはないが。

 

風間少佐が言った〈死の匂い〉とはそのままの意味ではない。比喩表現で魔法師として言葉で表せないが、なんともいえない〈何か〉を感じるのでそう言っているだけである。

 

 

 

「失礼いたします」

 

程なくしてドア越しに声が聞こえた。返事を待たずにドアを開けた執事は、見るからに高い地位を有する執事だ。実際に地位は高いのだが…。その執事の後ろから主である四葉真夜が現れた。

 

「遅くなってしまって申し訳ありません。それでは始めましょうか」

 

真夜が席に着いてそう口にすると、執事が克也・深雪・真夜・風間の前に紅茶を置く。達也にはないが誰も何も言わなかった。

 

「本日来ていただいた理由は、《横浜事変》に端を発する一連の軍事行動についてお知らせしたいことがあったからです。風間少佐・克也・達也さんと深雪さんそれぞれに」

 

真夜はそう切り出すと紅茶に口をつける。自分のリズムに合わせろとでも言うようだ。

 

「国際魔法協会は1週間前、鎮海軍港を消滅させた爆発が憲章に抵触する〈放射能汚染兵器〉によるものではないとの見解をまとめました。これに伴い、協会に提出されていた懲罰動議は棄却されています」

 

そんなことにまで発展していたのかと克也は思ったが、顔にも空気にも表さずに聞いていた。

 

「風間少佐は消滅した敵艦隊の搭乗員に震天将軍が含まれていて、戦死が確実視されているのをご存じですか?大亜連合は認めていませんが」

「劉雲徳がですか?」

 

風間はその人物が参戦しているとは考えていなかったようだ。何故ならその人物は世界でも有数の魔法師だからである。

 

「ええ。それぞれの国の政治によって国際的に公にされた、13人の戦略級魔法師の1人であるその人がです」

 

13人の戦略魔法師は〈十三使徒〉と呼ばれ、世界各国と人々から恐れられている。現在は、《十二使徒》となってしまっているようだが。そのうちの1人を出征させていたと聞けば、どれだけ大亜連合が先の混乱に乗じて侵攻しようとしていたかがわかるというものだ。

 

「3年前から続く因縁はこれで終わるのでしょうか?」

「それはなんとも言えないわ克也。ただ今夏の鎮海軍港消滅は多数の国から興味を注がれているから、大爆発が〈戦略級魔法〉であると考えている国も少なくないでしょうね。術者の正体を暴くため、密かに探りを入れてきている国もいると思いますよ。3年前の爆発を含めてね。これ以上達也さんの正体を暴かれたくないので、しばらくの間は接触を控えていただきたいのです。よろしいでしょうか風間少佐」

「…その方がよろしいでしょうね。わかりました可能な限り関係は持たないことにしましょう」

「ありがとうございます」

 

風間の返事に満足そうに真夜は頷いた。

 

 

 

風間が退出した後、克也と深雪は席を外すように指示された。複雑そうな顔をしながら別室に移動する。

 

「さて、達也さん。こうやって2人だけで話すのは初めてね」

「ええ、必ず克也か深雪が側にいましたから。それにこうして直接声をかけていただくのも初めてです」

 

達也は普段と変わりなく話をしていた。常人であれば震えだし会話もままならなかっただろう。生憎、達也はそういう感情に疎いのでそんなことにはならないが。

 

「そうだったかしら?まあいいわ。今回は大活躍でしたね」

「恐縮です」

 

真夜が軽く皮肉を込めるが気にせずに返答する。

 

「でも四葉にとっては困ったことをしてくれたわね」

「申し訳ありません」

「達也さんに非があるわけではありませんよ。命令した風間少佐に責任があるんですから。...気をつけなさい達也(・・)、〈スターズ〉が動いているわ」

 

今までのおどけた雰囲気が一変し、当主に相応しい威厳を表した。

 

「〈スターズ〉がですか?」

「ええ、そうよ。それも克也・達也さん・深雪さんを、容疑者の可能性があるというところまで絞り込んでいるわ」

「すごい情報収集力ですね」

「伊達に世界最強の魔法部隊を名乗っていないわ」

「俺が言っているのは、リアルタイムで敵の情報を集めていることに対してです」

 

達也の言葉をそのままの意味で認識していた真夜は、一瞬思考停止に陥ったが瞬時に復活させた。

 

「…教えてあげられないわ。残念だけど」

「でしょうね。最初から教えてもらえるとは思っていませんよ」

 

真夜の捻り出した言葉に周知済みとも言える言葉で答える。

 

「達也、ここで謹慎なさい」

「それは俺が犯人であると暗に意味することになりますが?」

「理由はどうとでもなります」

「そうでしょうか?」

「私の命令に従わないと?」

「俺に命令できるのは克也と深雪だけです」

 

達也がそう言った瞬間、部屋が《夜》に塗り替えられる。だが隣の部屋から伝わってきた想子に、真夜は《流星群》の発動を強制終了させた。

 

「克也にあまり心配をかけないでもらえますか?」

「貴方が私の言うことを聞いていれば、そんなことにはならなかったのだけど。貴方も克也のことになれば素直なのね」

 

魔法を放とうとした時の表情とは違い、普段の妙齢で妖艶な笑顔に戻っていた。

 

「克也に免じて今回は許してあげる。克也に感謝しなさいよ?」

「相変わらず克也に対する溺愛は変わりませんね叔母上」

 

達也の言葉に恋する少女のように顔を真っ赤にさせる真夜。

 

「べ、別に良いでしょ!?」

 

年甲斐もない叔母の慌てぶりに、これが四葉の当主なのか?と不覚にも思ってしまう達也だった。

 

「…達也さん、今失礼なことを考えませんでしたか?」

 

鋭いと思ったがおくびにもださず答える。

 

「滅相もありません。叔母上の普段見られない一面を見れたことに感動していただけです」

「…感じない感情を表に出されてもね。まあいいわ。とりあえず冬は気をつけなさい」

「わかりました」

 

達也は席を立ち退室した。

 

 

 

3人は克也の元ボディーガードである四谷辰巳(よつやたつみ)が運転する車の中で、真夜との会話中に感じた想子の圧力の話を達也はしていた。

 

「克也のおかげで《流星群》を《分解》せずにすんだよ」

「まさかあんなところで使うとはね。叔母上にも困ったものだな」

「さすが克也お兄様です!」

 

約1名おかしな言葉を発していたが…。

 

「辰巳、家までどのくらい?」

「およそ2時間半ほどです。」

「そうか。なら辰巳も自動運転に切り替えてこっちで遊ばないか?」

「何をされるのですか?」

「カードゲームの一つでUNOというらしい。昔流行ったらしくて、エリカにもらったけど遊ぶタイミングがないから今しようかなと。人数もちょうど良いしね」

「かしこまりました。参加させていただきます」

 

克也の呼びかけに快く引き受ける。青木なら運転までは引き受けるだろうが、参加などはせずに運転に集中していたことだろう。

 

家に着くまでUNOを楽しみ、そして一番はしゃいでいたのが辰巳だったことが意外な克也だった。

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