魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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5章 来訪者編
第30話 留学生


西暦2095年も残るところあと1ヶ月。といっても、楽観的なことを言えるのはまだまだ先である。

 

何故なら…。

 

「…訳分かんねぇよ!」

「うるさいっ!」

「…レオもエリカも落ち着け」

 

レオの問題が解けないことへの苦しみの叫びに、集中していたエリカが一瞬にしてキレた。克也は落ち着かせるために、葉から煎れた紅茶を注いで2人の前に置く。今克也達は雫の家で学生という名の者にとって、忌まわしき避けては通れない定期試験のテスト勉強の真っ最中である。

 

克也・達也・深雪・レオ・エリカ・幹比古・美月・ほのか・雫といういつものメンバーが、ほのか・雫の提案で勉強会に集まっていた。といっても大抵のメンバーは、筆記試験においては優秀である。

 

レオも上位20人には入っていないが赤点を気にすることはないので、勉強会というものは名目に近い。実際は和気藹々としたお茶会に発展している。克也と達也による謎の魔法講義が開催されていたので、勉強会というのはあながち嘘でもない。時折レオとエリカがケンカし始めるので、克也と美月の2人がかりで抑えていたが。

 

だがその雰囲気も雫の言葉で吹き飛んでしまう。

 

「アメリカに留学することになった」

「雫、今なんて言ったの?」

「アメリカに留学することになった」

 

雫はほのかの言葉に一語一句変えずに答えた。その様子に痴話喧嘩していたレオとエリカも途中で切り上げ、相手に向けていた視線を雫に向け直す。

 

「よく許可が下りたな」

「私もびっくりしてる」

 

克也の言葉は雫の学力のことを言っているのではない。ハイレベルな魔法師は、国外に出ることを政府に制限されている。なので今回許可されたのが不思議ということで言っているのだ。

 

「理由はわからないけど、交換留学だからだって言ってた」

「だからじゃない?」

「交換留学だからって理由で許可されるのもおかしくない?エリちゃん」

「言われてみれば」

 

美月の言葉に考え込むエリカ。

 

「ところで北山さん、期間はどのくらい?」

「年が明けてから3ヶ月」

「短くて良かった~」

 

幹比古の質問の答えに安堵したほのかは、もっと長期間だったと思っていたようだ。

 

「じゃあ送別会をしないとな」

 

達也の一言に全員が嬉しそうに頷いた。

 

 

 

 

 

定期試験も無事終わり、送別会を今日12月24日に行うことになった。

 

ちなみに定期試験の結果は予想通りである。

 

筆記試験

1位達也 

 

僅差で2位克也 

 

3位深雪 

 

4位幹比古 

 

5位ほのか 

 

6位雫 

 

10位エリカ 

 

15位美月 

 

レオはランク外。

 

実技試験

1位深雪 

 

僅差で2位克也 

 

3位雫 

 

4位ほのか 

 

20位幹比古 

 

達也・エリカ・美月・レオはランク外。

 

総合順位

主席 克也 

 

僅差で次席深雪 

 

三席雫 

 

僅差で四席ほのか 

 

15位幹比古

 

達也・エリカ・美月・レオはランク外。ちなみにレオは全てにおいてランク外であるが、二科生の中ではトップクラスの成績を収めている。筆記試験はやや低い順位であるが、実技が特段高いので総合的に見れば優秀というわけだ。

 

全員が驚いたのは実技のトップ20に幹比古が入ったことだ。〈九校戦〉以来、魔法の使い方を思い出した幹比古は、眼に見えて上達していった。それがこの結果にも表れている。

 

そしてこの日は全員結果のことは忘れて、仲良くパーティーを楽しんでいた。

 

「送別会の趣旨とは違うけどこの合図でいこうか。メリー・クリスマス」

「「「「「「「メリー・クリスマス!」」」」」」」

 

達也の合図で、全員がジュースの入ったグラスを天に突き上げて合唱する。このときは全員が魔法師ではなくごく普通の少年少女だった。開催場所の〈アイネ・ブリーゼ〉は、貸し切り状態にしてもらって楽しんでいる。

 

「そういえば、留学先のアメリカは何処に行くの?」

「バークレー」

 

エリカの質問に都市の名前だけを答えた雫だった。普通ならありえない留学が許可され、それが友人であったなら聞きたくなるのも当然だろう。

 

「ボストンじゃないんだ」

「東海岸は雰囲気がよろしくないようだからね。正しい判断じゃないかな」

 

克也が雫の言葉を補填するように呟く。

 

「魔女狩りの次は魔法師狩りか。歴史は繰り返すと言うが、自分が標的だと思うと余計に気分が悪いぜ」

 

レオの言葉は全員が思っていたことなので、反論するメンバーはいなかった。

 

「代わりに来る子はどんな子?」

「同い年の女の子らしいよ」

「それ以上は分からないか」

 

雫の返事に達也はしみじみと呟いた。

 

 

 

帰り道、コミューターの中で深雪が疑問を話し始めた。

 

「雫ほどの魔法素質があるのに、留学が許可されるとは思いませんでした」

「そうだね。いくら同盟国とはいえ完全な信用などできないはずだ」

「俺達への接触を図るためなのかもしれないな」

「達也、それはどういうことだ?」

 

克也は達也が何か知っているらしいので、教えてもらうことにした。

 

「俺達は容疑者らしい。叔母上の忠告と合わせれば、偶然と思って野放しにはできないさ」

 

達也は敢えて何のとは言わなかったが、克也と深雪は分かっていたので聞き返さなかった。

 

「今は大人しくしていよう」

 

達也の言葉に克也と深雪は頷いた。

 

 

 

 

 

新学期が今日から始まったが、留学生が来るということもあってか校内はうわついていた。

 

「達也君は聞いた?留学生がすごい美少女なんだって」

「…エリカ、何処からその情報を得たんだ?」

「色々」

 

エリカの答えにため息をついた達也だったが、顔の広いエリカはどこからか仕入れてきたのだろう。

 

「それに二高・三高・四高にも来たんだって。あと研究所にも」

 

本当に何処から得るのか気になる。

 

「こっちから関わらなければ何にも無いだろ?」

「あんた馬鹿ぁ?」

「なんだとこら」

 

エリカにけなされ沸点まで怒りが上昇したが、今回はレオの無知が災いした。

 

「A組に来てるんだから克也君や深雪と関わるでしょう?2人は校内でトップクラスの魔法力持ってるんだから、先生方も預けやすいし留学生もそっちに行くでしょうに」

 

エリカの言う通りだ。深雪は生徒会役員でもあるので、自然に教師から任せられるだろう。深雪と共に行動している克也・ほのか・雫も同様に。

 

 

 

その関わりは思ったよりも早くやってきた。昼食の席でのことである。

 

「あの3人がそろうと絵になりますね」

「恐ろしいわね」

 

美月の言葉に同調して感想を述べたエリカは、昼食を取りに行って列に並んでいる3人を眺めていた。

 

中央にはたくましさを感じさせる黒髪に、夜空を思わせる群青気味な漆黒の瞳を持つ容姿端麗な克也。黄金の髪に冬の空を思わせる蒼穹の瞳の少女が左に。漆黒の髪に黒水晶のような瞳の深雪が右にいる。ただでさえ周りから視線をもらっているというのに、さらに注目を浴びることになっていた。克也も深雪も見られるのは慣れているので気にしてはおらず、留学生の方も慣れている様子である。

 

「なあ達也、あの子どっかで見たことがある気がするんだけど」

「そういえばそうですね」

「同感だな」

「「え、そうなの?」」

 

レオ・美月・達也の言葉に驚くエリカと幹比古。彼らが見かけたのは正月のことなのだが、エリカ・幹比古は一緒に初詣に来てなかったので知らないのだ。

 

「では紹介しますね。今回留学されてきたアンジェリーナ・クドウ・シールズさんです」

「リーナと呼んでくださいね」

 

料理の乗ったトレーを持った3人が席について、リーナの紹介が始まった。流暢な日本語で自己紹介をしながら華やかな笑顔を浮かべる。

 

「よろしく。深雪の兄の達也だ」

「レオと呼んでくれ」

「エリカでいいわ」

「美月と呼んでくださいね」

「幹比古と呼んでください」

 

それぞれが自己紹介する。

 

「タツヤ・レオ・エリカ・ミヅキ・ミキヒコね」

 

全員の名前を復唱するがミキヒコが言いにくそうだった。

 

「言いにくいならミキでいいわよ」

「ちょっ、エリカ!」

「そう?じゃあミキで」

 

エリカによって幹比古のあだ名が決定して幹比古は落ち込む。落ち込んだ幹比古をスルーしながら全員が食事を始めた。

 

「リーナって九島閣下のご血縁かい?確か閣下の弟さんが渡米されて、そのまま家庭を築かれたと()に聞いたんだが」

「よく知ってたわねカツヤ。かなり昔のことなのに。その通りよ。ワタシの母方の祖父が九島将軍の弟なの。カツヤの母もよく知ってたわね」

()は一時期九島閣下の指導を受けていたらしくてね。その時に聞いたらしいよ」

「へぇ~九島将軍の指導を受けられたなんて運が良いわね」

「俺もそう思うよ」

 

烈は弟子をとらず、ましてや教育することもほぼ無かった。教えを受けられた深夜と真夜は幸運だったと言えよう。

 

「そういう理由もあってワタシのところに話が来たみたい」

「じゃあリーナが自分から望んだわけじゃないんだ」

「…うん」

 

エリカの何気ない質問に、一瞬だけ言葉に詰まったことに気付いたのは、克也・達也・深雪だけだった。

 

 

 

 

 

リーナは一高で鮮烈なデビューを果たしていた。深雪に負けない美貌とその魔法力によって。昼食前の午前の授業では、CADを用いた実践的な魔法の授業が行われていた。実践的であると言っても実際は、生徒同士が対決するものだけだ。本格的に魔法をぶつけあうものではなく、ゲーム性の印象が強い傾向にある。

 

『ミユキ、準備はいい?』

『ええ、いつでもいいわ。カウントはリーナのタイミングでどうぞ』

 

向かい合う2人の距離は3m。その真ん中で直系30cmの金属球が細いポールの上に乗っている。実習の内容は同時にCADを操作して、中間地点に置かれた金属球を先に支配するというものだ。シンプル且つゲーム性が高いので見ている者は楽しいが、シンプルが故に力量差が明確に現れるため、当事者は見ている者ほど気楽ではいられない。

 

『…にわかには信じられんな。あの司波の妹にも勝るとも劣らない魔法力があるとは』

『それを確認するために、こうやって見に来てるんだけどね』

 

噂を聞き付けた摩莉と真由美は自習を即座に終わらせて、教室の隅からその様子を鑑賞していた。上級生(一科生に限って)は、下級生の授業風景を教員の許可なくして見ることが許されている。もちろん授業を妨害しない条件付でだが。

 

許可されている理由としては、〈九校戦〉のように実力の高い生徒を見つけ出すためだ。〈九校戦〉前に観戦していれば、選ばれるために上級生が見ている前で、その場しのぎの全力で取り組む輩が出てくる。それで選ばれたとしても学校の役には立たないし、むしろ足手まといになる。

 

もちろん真由美や摩莉ぐらいになれば、その程度の頑張りなど即座に見破れるのだが。

 

まあ授業中で操作している生徒からすれば、〈九校戦〉が終わった今見られてもいい迷惑であるのは間違いない。かといって深雪・リーナ・克也がその程度のことで怖気づくはずもない。むしろプラスの力に変えることだろう。

 

『スリー』

『ツー』

『ワン』

『『Go!』』

 

最後の合図を2人同時に合わせて言う。2人がCADを操作すると金属球が左右に揺れ少しのための後、リーナの方向に地面に落ちた。

 

『あ~っ、また負けたぁ!』

『これで2つ勝ち越しよリーナ』

 

盛大に悔しがるリーナの前でほっとした顔の深雪が言った。

 

『…ほぼ互角だな』

『魔法発動速度は留学生が僅かに速かったけど、〈干渉力〉で深雪さんが制御を奪い返しというところかしら』

『確かに侮れんな留学生の実力は』

『ええ』

 

2人はそう言い終えると、3人以外の誰にも気付かれぬまま静かに教室に戻っていった。

 

『克也お兄様もどうですか?』

『構わないけどリーナ次第だな』

『頼むわカツヤ。ミユキに負けた悔しさを乗せて今回は勝たせてもらうわ』

『負かせてやるよリーナ』

 

深雪のお願いとリーナの宣戦布告に、不敵に笑って準備を始める。

 

『スリー』

『ツー』

『ワン』

『『GO!!』』

 

CADを操作して魔法力を金属球に作用させる。すると、深雪よりも早く金属球がリーナの方に落ちた。

 

『何でよぉ!!』

『俺の勝ちだリーナ。これで俺の4戦4勝だな』

 

またしても盛大に悔しがっているリーナに伝える。

 

『さすが克也お兄様です!』

『ありがとう深雪』

 

リーナやクラスメイトを無視して2人だけの世界で話す2人に、クラスメートは鋭い視線を突き刺した。特に雫とほのかからが痛かったが、克也と深雪は動じなかった。

 

 

 

 

 

噂でリーナの魔法力を聞いていたため、その日の昼食中は先程の実習の話になっていた。

 

「さすがリーナね。選ばれてくるんだからすごいのは予想してたけど、深雪とほぼ互角とは思わなかったわ」

「驚いているのはワタシもよ」

 

エリカの尊敬のまなざしに肩をすくめながら、リーナはやや嘆息気味に答えた。

 

「これでもステイツのハイスクールでは負け知らずだったんだけど、ミユキには勝ち越せないしカツヤにはコテンパンにされるし。さすが魔法技術大国・日本よね」

「俺の場合は発動スピードで勝っているだけだから、総合力でいえばリーナの方が上だよ」

 

リーナの言葉に克也は事実を伝えた。

 

「でもリーナ、学校の中で勝ち負けにこだわりすぎなくても良いと思うわよ?」

「何事にも勝ち負けがあるから伸びるとは思わない?」

「確かに競い合うことは必要だが、必要以上にこだわりすぎるのも良くないぞリーナ。どうやらリーナは競争好きなようだな」

 

深雪とリーナの会話に達也が言葉を差し込み、熱くなりかけているリーナを抑えた。

 

「ごめんねみんな。ワタシ熱くなりすぎてたみたい」

「構わないさ。競い合うことが必要なのは事実だからな。ところでどうでもいいんだがリーナ、アンジェリーナの愛称は普通『アンジー』じゃないのか?」

 

リーナは顔を引きつらせながら(克也・達也・深雪しか気付いていなかった)答えた。

 

「あながち間違いではないのよタツヤ。もう1人アンジェリーナという名前の子がいたから紛らわしかったの。だからワタシが『リーナ』って呼ばれるようになったというわけ」

「そうか」

 

達也は納得したかのように答えて食事を再開した。安堵した空気を醸し出したリーナに気付いた者はいなかった。

 

 

 

夕食後、リビングでのんびりしていると深雪が達也に話しかけた。

 

「達也お兄様、お昼の話はやはり…」

「気付いていたのかい?俺は高確率でリーナが〈アンジー・シリウス〉だと思っている。しかし〈シリウス〉の正体を隠そうとしていないようにも見えた。それはこちらに気付かせて話題をふっかけさせようとしているのか。リーナが潜入捜査に向いていないのか。それは俺にもわからないけど」

 

達也は悩み始めていたが、その話は横に置いて別の話題を出す。

 

「昼にはあんなことを言ったが、リーナとは本気で競い合うんだ深雪。そうすればお前は今以上の高みに上ることができる」

「はい、この言葉は失礼ですが言わせていただきます。リーナほど同性で競い合える人物はいませんでしたので、このチャンスは逃せません」

 

深雪の眼は闘志で溢れていた。

 

「克也、お前もだぞ」

「分かってるよ達也。リーナから学ぶことは多いからな」

 

克也も納得の出来る魔法力を持った知人ができたことを喜んでいた。

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