魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第31話 後悔

「司波君、ちょっといい?」

 

放課後、達也は風紀委員本部に向かった。到着してすぐ花音に呼ばれ、話を聞くべく委員長席の前に立つ。エリカの言葉を聞いて、少なからず感じていた通りの仕事を押しつけられた。

 

「シールズさんのことは知ってると思うけど、今日一緒に回ってくれない?」

 

面倒臭い。また変な噂が流れる。

 

そんなふうに思ったが、拒否すると花音の機嫌が悪くなり、そちらの方が面倒臭いので承諾する。先輩への尊敬の念が全くないが、事情を知っている者からすれば、達也の気持ちは理解できるものだった。

 

 

 

「リーナの行っていた学校では、こういう制度はなかったのか?」

 

普段の仕事で巡回している道を歩きながら、達也はリーナに何気なく聞いた。

 

「ええ、そうよ。入れるのは2年生からで、1年生は勉学に励みなさいというスタンスだったわ」

「それはアメリカ全体でか?」

「詳しくは分からないわ。ステイツのハイスクールすべての制度を知るのは無理だもの。でもそういう学校は多いと聞いたわ」

「なるほどね。リーナからしたらこれは珍しいんだな」

「ええ、だから詳しく知りたいと思ったの」

 

話の軸を乱すことなく会話を続けるので、そういうところは鍛えられているらしい。回っていると周囲から視線が飛んできたが、達也の腕章を見て状況を理解したらしい。茶々を入れてくるような無粋な生徒はいなかった。達也に対しての風当たりは未だ良いとはお世辞にも言えないが、入学当時と比べれば大きく変わっている。

 

〈九校戦〉でのエンジニアとしても選手としても大活躍。〈論文コンテ〉では鈴音のテーマをより現実的にさせる補助の完遂。いくら一科生でも、これらを評価しないわけにもいかなかったらしい。もちろん達也に対して敵対心を抱いている存在がゼロというわけでもない。

 

森崎とか森崎とか森崎とか。

 

〈九校戦〉での戦闘不能による敗北への同情は理解できなくもないが、その無念を晴らしてくれた達也に怒りと妬みを向けるのは間違っている。事情が事情だけに手柄を横取りされたと思っても仕方がないのだが。だがそういうこともあって今の達也は、入学当時と比べれば少しばかり楽な立ち位置にいるのだった。

 

「ねえタツヤ、あなたはalternate、俗に言う補欠なのよね?」

「ああ、そうだ」

「でもみんなタツヤは、校内でトップクラスの実力を持ってるって言ってたわ」

 

みんなというのが誰なのかが気になったが、ここで聞く必要はなかった。

 

「俺は周りの人間とは違う少し特殊な環境で育ったからな。それに実戦経験が多いから戦略を練るのに慣れている」

「年齢=経験じゃないのは理解できるわ」

 

リーナの想子が冗談では済まないほどに活性化していく。敵を目の前にしたかのような活性具合だ。達也も放課後とは思えない雰囲気を纏わせる。

 

「穏やかじゃないな」

「分かるのね。すごいわ」

 

そう言うと研ぎ澄まされた刃のような笑顔をしながら、リーナが右拳底を繰り出してきた。達也はそれを容易に掴み取る。掴まれた指先に想子が集まるのを感じ、放たれる瞬間に手首を捻る。

 

「っ!」

 

リーナが声を上げたので捻っていた手首を離した。

 

「あんた本当に力加減がすごいわね。絶妙だわ」

 

自分の右手をさすりながら言ってきたので、達也は不愉快そうに質問することにした。

 

「説明してくれるんだろうな?」

「ちょっと確かめたくなっただけよ。お許しくださいタツヤ様」

 

リーナの言葉に苦笑が浮かぶ。先程の不機嫌さが嘘のようだ。

 

「何よ?」

「いや、リーナらしくないなと思ってな」

「ワタシのどこが上品じゃないっていうのよ!」

「キャラじゃないだろ」

 

達也の言葉にリーナは余計なことを言ってしまう。

 

「これでも大統領のお茶会に呼ばれたことあるんだからね!」

「…ほう?」

 

達也の反応を見て自分の失言を思い出し、リーナは冷たい瞳で達也を睨んだ。

 

「…はめたのね?」

「今のはリーナの自爆だろ?」

 

リーナの鋭い視線を達也は言葉で破壊する。大統領と直接会えるのは、階級の高い人物か一定以上の魔法力を持つ魔法師だけだ。先程の発言は、リーナがアメリカでも有数の強力な魔法師、或いはそれなりの地位にいるということを言っているのと同じである。これによってリーナが〈アンジー・シリウス〉という可能性が上昇したが、今はどうでも良いことだった。

 

「とりあえず、リーナの好奇心で俺に攻撃をしたということでいいんだな?」

「…ええ」

「じゃあ、説明を再開しようか」

 

達也はそう言うと巡回路を進み始め、呆れながらもリーナが追いかけた。このやりとりを知っているのは当事者の2人だけである。

 

 

 

 

 

「シルヴィ、どうしたんですか?」

「カノープス大佐から緊急の連絡です」

 

真夜中、リーナは同居人にたたき起こされて急いで電話を取った。

 

「ベン、音声のみで失礼します」

「こちらこそ失礼します。総隊長、先月脱走した者達の行き先が判明しました」

「何処ですか!?」

「日本です。横浜に上陸後、現在は東京に潜伏中だと思われます」

 

カノープスの報告にリーナは驚愕した。自分がいるこの東京に、自国の脱走者が潜伏しているとは考えていなかったからだ。

 

「総隊長、参謀本部からの指令をお伝えします。アンジー・シリウス少佐に与えられていた命令の優先権を第二位とし、脱走者の追跡後に捕獲または処刑せよとのことです」

「イエッサー」

「総隊長、お気を付けて」

 

そう言い終えるとカノープスは電話を切った。そしてその報告を受けてリーナは震えていた。自分がどんな理由で震えているのか自覚しないままに。

 

 

 

 

 

「達也君、昨日のニュース見た?」

 

翌日の朝、教室でエリカが登校してきたばかりの達也に聞いてきた。

 

「吸血鬼事件のか?」

「うん。あたしは臓器売買ならぬ血液売買だと思うんだけど」

「それじゃ全血液の1割しか奪っていないのが理解できないな。それに血を抜いた注射痕が残っていないことを考えると、そっちの線の可能性は低い」

 

達也の言葉にエリカはまた考え直すようだ。レオが普段より遅く登校してきたので理由を聞こうと思ったのが、時間的に無理だったのでやめたのだった。

 

 

 

その日の昼食で、リーナがいないことに達也は気付いた。

 

「今日、リーナはいないのか?」

「なんでも家の事情で休みだそうです」

 

留学3日目で休むのもおかしな話だが、国から何かしらの命令(・・・・・・・・・)を受けたのだろうと達也は疑うのだった。

 

 

 

その日の夜、俺は七草先輩と十文字先輩ととあるレストランの一室で会談していた。

 

「七草家が把握している情報では、吸血鬼事件の犠牲者は報道人数の3倍。現時点で24人よ。あまりにも多すぎるわ」

「調査が進めば、犠牲者の数がそれ以上に増える可能性があるということですか?」

「ええ」

 

俺の質問に七草先輩は深刻そうに頷いた。詳しい数字を把握していることに疑問を感じたのか。十文字先輩が身を乗り出した。

 

「被害に遭っているのは七草家の関係者か?」

「半分正解ね。正確には当家と協力関係にある魔法師よ」

「つまり敵は魔法師を狙っているということですか?」

「でしょうね」

 

ため息をつきたくなるがこらえる。

 

「四葉、留学生は怪しいと思うか?」

「怪しいとは思いますが、彼女が犯人ではないでしょう。むしろ追跡する側ではないかと」

「その情報は実家からか?」

「いえ、俺の想像です。リーナが来てからこの事件が発生しているので、あまりにもタイミングが良すぎると思いました。それにあの魔法力を考えれば、未知の敵に対処するためだと考えることができます。もちろん彼女が意図的に事件を起こしている可能性もありますが。しかし万が一、留学生が問題を起こす立場であるならば、あまりにもリスクが高すぎます」

 

交換留学という名目で来ている以上、あまり派手な動きはできないはずだ。俺は自分の考えられる限りの可能性を話しておく。敵にしてはリーナの性格は悪になりきれていないし、あの人間性はそっち方面に適していないと判断している。

 

「なるほどな。この事件を解決するには、四葉家の手を借りるべきだろう」

「でもそれはほぼ不可能ね。父が余計なことをしたせいで、四葉家とは実質的に冷戦状態だから。ごめんね克也君、迷惑をかけて」

「いえ、俺はどうでもいいので何も文句はありませんし言うつもりもありません。それにまだ次期当主候補の身ですので、俺は個人的に協力させてもらいますよ。知り合いに被害が出てからでは遅いですから」

 

七草先輩の謝罪を受け入れる。結局は七草弘一と叔母の戦いなのだから関わる必要はない。でしゃばって手を貸せと言われたくもない。わざわざあの冷戦に首を突っ込んで、余計な仕事を任されたくないしな。

 

「ありがとう。これで七草家と十文字家は共闘して、克也君も参加すると。案外簡単に解決するかもしれないわね。それと克也君、今日のことは2人には内緒でね」

「分かってますよ。知られたら俺の首が飛びます。特に深雪によって」

 

そう言うと2人は想像できたのか苦笑し、その後俺は家路についた。

 

 

 

 

 

克也の家に凶報が届いたのは登校する直前だった。克也と達也が険しい顔をしていると深雪に声をかけられた。

 

「どうされました?」

「レオが吸血鬼に襲われたらしい。入院しているみたいだけど命に別状はないから見舞いは放課後にしよう。幹比古と美月も誘って行きたいから連絡しておいてくれないか?」

「「わかった(りました)」」

 

早く見舞いに行きたい気持ちを押し殺す3人だった。

 

 

 

「酷い目に遭ったなレオ」

「見苦しい姿見せてわりぃな。医学的には大丈夫なんだけどよ、力が入らないから立ち上がれねぇんだ」

 

レオの入院している病院の一室で、達也の問いかけにレオはベッドに横たわったまま返事をしている。

 

「で、何があったんだ?」

「それが良くわかんねぇんだよな。殴り合っている最中に突然力が入らなくなってよ。白い仮面をかぶっていたが、やり合った感じは女だったぜ」

「素手でレオと互角か。そいつがもしかしたら、巷で噂されてる吸血鬼なのかもしれないな」

 

レオの言葉から、克也はレオが吸血鬼と出くわした可能性があると思った。レオの腕前と力を知っている友人達からすれば、その言葉をレオから直接聞いたことで、克也の言葉を深く理解した。

 

「それよりなんで夜中に歩いてたんだ?」

「エリカの兄貴の捜査に参加してたんだよ。この前、暇つぶしがてらに街を歩いてるときに話しかけたら連行されてよ。色々話を聞いたときに俺が参加するって言ってな」

 

どうやらエリカの兄の責任はそれほどないらしい。

 

「もしかしたら遭遇して相手が、最初から人間じゃなかったということもありえるよ」

「幹比古、それはどういう意味だ?」

 

達也の問いかけに幹比古は真剣に話し出した。

 

「レオが遭遇したのは〈パラサイト〉なんだと思う。寄生虫という意味じゃなくて、PARANORMAL PARASITE(超常的な寄生物)略して〈パラサイト〉。人間に寄生して人間以外の存在に作り変える魔性のことだ。古式魔法の中でもマイナーだから、現代魔法を使うみんなが知らなくてもおかしくはないよ」

 

幹比古の説明に程度の差はあれど全員が恐怖した。

 

「レオ、君の幽体を調べさせてもらっていいかい?」

「ゆうたい?」

「幽体は精神と肉体をつなぐ霊質で作られた器だよ。人の血肉を糧にしている魔物は、同時に精気を取り込んでいると考えられている。身体と同じ大きさをしている幽体を調べれば、立ち上がれない原因が分かるかもしれない」

「分かった任せるぜ幹比古。原因が分からなかったら処置の方法もわかんねぇからな」

 

幹比古の説明に納得したレオは、二重の意味で許可を出して頼んだ。克也や達也が見たことのない伝統呪法具と由緒正しい墨で書かれた札を用いて、レオの状態を視ていた幹比古は驚愕していた。

 

「…克也や達也も大概おかしいと思ってたけど。レオ、君は本当に人間かい?」

「…おいおい、なかなかの言いぐさだな幹比古」

 

レオはしみじみと呟かれて気分を害していたが、それに気付かない幹比古は驚き続けていた。

 

「これだけ吸われていたら普通ならこうやって話せないはずだよ」

「幹比古、どうしたんだ?」

「ご、ごめん。今のレオは常人が意識を保っていられないほどの精気を奪われているのに、こうやって話ができているから驚いてるんだ」

「そりゃあ俺の身体は特別製だからな」

 

それでも笑い飛ばすレオは本当に心優しい少年なのだろう。本気で自分を貶しているわけではないことを分かっていたので怒ったりはしない。しばらく話をしてレオの体調を考え、克也達は帰ることにした。

 

 

 

 

「幹比古、何故〈パラサイト〉は血が必要だったんだ?精気を吸うだけなら必要ないはずだろ?」

「うん。それは僕もおかしいと思ったんだ」

「他に理由があるのかもしれませんね」

 

深雪の言葉に全員が頷くのだった。

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