魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第33話 恐怖

夕食後、克也達は自宅の大型スクリーンを眺めていた。吸血鬼を追跡している3つのマーカーが移動しているのを見て、達也は厳しい顔をしている。

 

「達也、行くのか?」

「ああ、〈スターズ〉はこちらより簡単に吸血鬼を見つける何かを持っているようだ。追跡しているのは十中八九リーナだろう。チャンスは少ないと思われる。おそらく今はリーナ1人だろうから、話し合いで終われるかもしれん。行ってくる」

「気をつけろよ」

 

バイクにまたがり向かう達也を、克也と深雪は心配そうに見送った。

 

 

 

しばらくすると、家のインターホンが鳴ったので深雪が出ると驚いていた。

 

「克也お兄様、九重先生が車に乗ってほしいと仰られていますがどうされますか?」

「行かないとな。それに先生が車を出すということは、余程のことなんだろう」

 

俺はそう言いながら、〈ブラッド・リターン〉と汎用型CADを持って家を出た。

 

「先生、何故力を貸してもらえるんですか?」

 

コミューターでの移動中に俺は気になって聞いてみた。世間のゴタゴタに介入するなど普通の先生ならありえない。つまりはそれなりに大事、もしくは重大な何かが理由としてあるのだと予測する。

 

「先代が九島に教えた《纏衣(まとい)》は、《仮装行列(パレード)》の原型だ。それには僕達にとって門外不出の秘伝が含まれている。見境なく使われては困るから、今回は手を貸すことにしたんだよ」

 

先生は俺の質問に笑顔で答えているが、心中は穏やかではないのだろう。怒りがにじみ出てきている気がする。達也の元に向かう間、俺はそう感じていた。

 

 

 

達也の元に向かうと、リーナが達也にCADらしきものを突きつけていた。

 

「…さようならタツヤ」

 

その声が聞こえた瞬間、俺は茂みから飛び出していた。

 

「そんなことはさせないぞリーナ」

 

その間に周りにいる男達を昏倒させる。俺の声を聞いてリーナは、驚きながらこちらに顔を向けてきた。

 

「カツヤ?ミユキもなんで…」

「妹だから当然でしょう?」

「達也君、危なかったねぇ」

「白々しいですよ師匠。隠れて出番を待ってたくせに」

 

先生と達也のやりとりを見て笑顔になりそうだったが抑える。それから〈ブラッド・リターン〉で牽制していたリーナを見る。

 

「リーナ、達也は殺させない。達也に向けられる敵意を俺達は見逃さない。取引といこうリーナ。1対1の勝負でこちらが負けたら今回は逃がすが、こちらが勝てば聞かれたことに答える。どうだ?」

「…いいわよ」

「交渉成立だ。じゃあ始めようか」

 

俺はリーナから約15mの位置に立って特化型CADを構える。

 

「今更だけど勝てると思っているの?〈スターズ〉総隊長であるこの私に」

「それはこっちの台詞だよリーナ。俺は〈触れてはならない者たち(アンタッチャブル)〉の血を受け継いでいるんだ。簡単に勝てると思わない方がいい」

 

俺が想子を活性化させ臨戦態勢を取ると、リーナは一歩後退りしたが踏み止まり、同じように想子を活性化させてきた。俺が出会った中ではトップクラスの圧力だが、危機迫る程ではない。

 

むしろ心地が良い。

 

「リーナ、カウントいくぞ」

「ええ」

「スリー」

「ツー」

「ワン」

「「GO!」」

 

言うと同時に《地獄の業火(ヘル・ヘイム)》を発動させると、リーナは《ムスペルスヘイム》を発動させてきた。さすがだ。この高等魔法を使いながら俺の魔法に耐えるとは。でも、残念だけど俺の勝ちだよリーナ。君は気付いていないんだから。心の中でそう思うと俺の魔法がリーナの魔法を喰い始めた。

 

 

何故この魔法を!?何でカツヤが世界で10人しか使えない魔法を使えるのよ!私は心の中で驚愕してしまう。自分の魔法が押され始めていることに気付いた私は、余計に焦り始めた。

 

この私が負けるなんてありえない!気合いをいっそう入れるが止まらない。何で止まらないのよ!

 

 

リーナはこの長期間、精神的に余裕がない状態で働き続けていたため、自分の疲労を自覚していなかった。そのため本来の魔法力ではなく、7割程度しか使いこなせなかった。全力で戦っても克也の本気にはかなわなかっただろう。克也が本気を出せば、達也と同じで一国を簡単に落とせるのだから。

 

リーナが押されているな。克也はまったく本気を見せていないところを見ると、リーナにはそれなりの疲労が溜まっていたんだろう。克也とリーナの勝負を見ていた達也は〈シルバー・ホーン〉を構え、《術式解体(グラム・ディスパージョン)》を放つ。

 

地獄の業火(ヘル・ヘイム)》がリーナの目前に迫ったとき、克也達の魔法は消し飛んだ。誰が何をやったのかを理解していた克也は驚かなかったが、リーナは何が起こったのか理解できていなかった。

 

「さすが達也だな」

「何?今のは…。魔法式が消し飛んだ?」

 

リーナはまだ驚いていたが、それどころではなかったので話しかける。

 

「リーナ、どうする?勝敗は分からなくなったけど」

「…いいわワタシの負けで。あのまま戦っていても負けたのはワタシだったから。でも、質問にはイエスかノーで答えられる質問じゃないとダメよ。これは譲らないからね」

 

普段のリーナに戻り、拗ねる様子に克也達3人は笑った。その間の八雲は、感情が読み取れない謎の笑みを浮かべながら克也達を見ていた。

 

 

 

 

 

翌日、克也達は捜査チームを学校の生徒会室に呼び出した。

 

「昨晩3時間おきに特定パターンの電波を発する発信器を、吸血鬼に撃ち込むことに成功しました。寿命は最長で3日間。微弱ですが電波は違法防止用の傍受アンテナなら受信可能です」

「どうやって…」

「それは秘密です」

 

真由美の質問に達也は答えなかった。答えるためには独立魔装大隊の技術力の一端を教えることになるからだ。それは避けなければならない。話してしまえば国家反逆罪で世間とは半永久的におさらばとなる。いくら四葉家でも国の法律には抗えない。

 

「我々が追いかけている吸血鬼の正体は、USNAから脱走した魔法師のようです。昨日四葉家から(・・・・・)連絡がありました。それに加えて、我々の邪魔をしていたのはUSNAの追跡部隊。こちらに知られず事を終えたかったようです」

 

達也の半分の嘘を信じているエリカ・幹比古・真由美・克人は、「なるほど」と「まさか」という表情をした。妨害している組織のレベルが、単なる非合法組織ではないと薄々感じていたのだろう。

 

 

 

「リーナ、昨日はどうしたのですか?〈スターズ〉のコード持ちが4人とも無力化され、任務復帰の目処が立たないほどの大怪我、その上リーナまで3時間以上も通信が途絶えるだなんて」

 

シルヴィは布団で寝ていたリーナを起こし、ソファーで話をしていた。自分がリーナを追い詰めていることに気付かずに話を進めたことで、只でさえ克也に負けて吸血鬼に逃亡され、精神的にやられているというのに。そんな言葉を聞けば、奈落の底へ落とされたと感じても仕方ないだろう。

 

「…私はもう〈シリウス〉を続ける自信がなくなりました。地位を返上します」

「…え?ちょ、ちょっと待ってください総隊長!」

 

自分がとどめを刺したことにようやく気付いたシルヴィが慰めに入る。

 

「今回は運が悪かったんですよ」

「運?」

「ええ、リーナは数日前から働き続けていましたから疲労が溜まっていたんです。それなら仕方ないじゃないですか」

「…そうね。運が悪かっただけよ」

 

復活してくれたようで一安心したシルヴィだった。やはりちょろいリーナである。

 

「昨日四葉家の者と勝負したのですが負けました」

「〈触れてはならない者たち(アンタッチャブル)〉と呼ばれるあの四葉家ですか?」

「ええ。疲弊していたのは否めませんが、万全の体調で全力で戦っても勝てなかったでしょうね」

 

リーナの言葉に信じられないという表情をシルヴィはしていた。〈十三使徒〉の1人のUSNA戦略級魔法師〈アンジー・シリウス〉でさえ勝てないとなると、非常にマズい状態だ。

 

「総隊長、それでも任務は続けますか?」

「ええ、これは〈シリウス〉として成すべき事柄です」

 

リーナの表情は歳頃ではなく1人の魔法師であった。

 

 

 

 

 

週明けの学校に登校してきたエリカは、そこで全体力を使い果たしたのか。眠気に抗えず机に突っ伏していた。ここ数日おなじみの光景なので美月も慣れたようだが、心配なのは変わらないようだ。

 

「起こしてあげた方が良いでしょうか?」

「寝かしといてやろう。寝惚けて攻撃されたり不機嫌になられては困るからな」

 

達也の声も普段より半トーン低いものだ。そう美月に伝えると自分の席に座り、もう少しで始まる授業の準備をするのだった。

 

 

 

数値化不能の体力量(そもそも不可能)を持つ達也から体力を奪ったのは、雫との電話が原因である。時間は半日ほど遡る。

 

夕食を終えて一息つこうとした時に電話が鳴る。出るとなんと雫からだった。

 

『雫か。どうした?』

 

達也が出るととんでもない姿をした雫が、大型画面いっぱいに映し出された。

 

『雫、貴女なんて格好をしてるの!』

『普通の服装だけど…』

『…これが普通だと?』

 

深雪が叫ぶが、雫は何かしら反応が薄くあまり気にしていないようだった。雫の服装はネグリジェで、そこまではまだギリギリで許容できる。一人暮らしで寝巻がネグリジュであるのは別段おかしくはない。

 

だが問題はその下だ。何も着けていなかったのが危なかった。雫の反応を見て、克也は素で問い返している。さらに悪いことに司波家の画面は、最新の技術が使われているため映像が鮮明に映し出される。それが余計にまずかった。

 

『…とりあえず雫、上を着ようか』

『はーい』

 

どうやら雫は寝惚けているらしいと克也は思った。

 

『夜遅くにごめんね。でも伝えたいことがあったから』

『こっちは構わないが。雫、まさか飲んでるのか?』

『何を?』

『…いや、何でも無い。で、用事とは?』

 

達也の心配を聞かず(聞けず?)雫は答えた。

 

『早く伝えたかったから連絡した』

『さすが雫だな。もう、わかったのか』

『もっと褒めて。具体的には克也さんが』

 

用件は達也が雫に頼んでいたことのようだ。だが雫の言葉に克也と深雪は頭を抱えてしまう。誰が雫に飲ませたのだろうと思ったが口にはしなかった。

 

『吸血鬼の発生原因なんだけど。余剰なんとか。黒い穴の実験みたいだよ』

『黒い穴?どういうことなの雫』

『分からないから克也さんと達也さんに聞こうと思った』

『〈余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・消滅実験〉じゃないか?』

『そうそれ』

 

克也の言葉に雫は頷き、雫の行動に克也と達也は眉をひそめた。

 

『お兄様方、それは一体なんなのですか?』

 

深雪は何が何だか分からないようで、克也か達也のどちらに聞いたのか分からなかったが達也が答える。

 

『簡単に言うと、ごく小さなブラックホールを人工的に作り出して、そこからエネルギーを取り出そうとする実験だ。生成されたブラックホールが蒸発する過程で、質量が熱エネルギーに変換されるのが予想されるからね』

『けどそれは被害が予想できないから許可は下りなくて、無くなったはずの計画じゃなかったか?』

『ああ、そのはずなんだが何者かが勝手に実験したんだろうな。まったく余計なことをしてくれたものだ』

 

達也は忌々しそうに呟いた。

 

『強大過ぎるエネルギーが何かしらの条件で発生すると、次元が揺らぐという話を聞いたことがある。そして次元が揺らぎ、次元に穴が空くとどうなると思う?』

まほーしき(魔法式)ではきょんとろーる(コントロール)しゃれにゃい(されない)ましょうてき(魔法的)なエネルギーが漏れてきゅる(くる)?』

 

雫の呂律が回らなくなり眠気にも負けそうなのか。身体が揺れているがなんとか耐えている状態のようだ。

 

「そうだ。それに紛れて謎の情報体が流れ込んでくる可能性は否定できない」

 

達也がそう締めくくると克也は眉をさらに深く潜める。深雪は達也に縋り付くように移動し、雫が画面の奥で身体を震わせた。

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