魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第34話 拮抗

その日、幹比古がやってきたのは2限目からだった。胃の辺りを抑えながら達也に文句を言っていたが、達也は軽く流していた。 

 

 

 

「っこれは!」

 

昼食後、俺は突然感じた言いしれぬ波動につい反応してしまった。

 

「克也、どうした?」

「いや、何かよく分からないけど不快な何かを感じた」

「それは想子波か?それとも霊子波か?」

「…達也が気付かなかったなら霊子波じゃないか?」

 

俺の言葉に達也は黙り込み何かを考え出した。俺達が今いるのは校舎の屋上なのだが、実際に滞在しているのは俺・達也・深雪・ほのかの4人だ。エリカが機嫌を損ねていたせいで一緒に昼食を取ることができていない。そのため食事はここに来ていたのだ。

 

時期を考えると当たり前の事だがここには誰もおらず、それをよしとしたのか深雪とほのかは達也の腕に抱きついていた。達也は困ったなという顔しかせず、2人を振り払おうとはしなかった。俺的にも居心地が悪かったので教室に戻ろうとしていたのだが、ふいに感じた「何か」によって行動できなかった。

 

その時電話が鳴る。出ると焦った七草先輩からだった。

 

『大変よ克也君!』

「場所は何処ですか?」

『吸血鬼が校内に…って知っているなら話は早いわ。通用門から実験棟の資材搬入口に向かって移動中よ』

「了解です。それと搬入口付近の想子センサーをオフにして下さい』

『戦闘になるかもってことね。…はい、切ったわよ」

「ありがとうございます」

 

電話を切り、会話を聞いていた2人に合図をする。CADを操作し屋上から飛び降り搬入口に向かう。ほのかは完全においていかれたが、そのことを気にする余裕が俺達にはなかった。

 

 

 

克也達が駆け付けたときには既にエリカが戦闘中だった。そしてエリカの獲物である刃が、吸血鬼の胸を貫く。しかしそれを気にする様子もなく、右手を鉤爪のように構えてエリカを切り裂こうとした。しかしその頃には、エリカは攻撃範囲から離れている。そしてエリカが貫いた胸は、全員の目の前で瞬時に塞がる。

 

「治癒魔法!しかもこの一瞬で!?」

「…どうやら本格的に化け物みたいね」

 

リーナが驚いている様子を見ると、彼女が吸血鬼だということを知らなかったようだ。今そんなことを考えている暇はなかったのだが、攻撃する必要もなかった。何故なら目の前で彼女が氷の彫像になっていたからだ。

 

「さすが深雪だな」

「いえ、これぐらいはしなければダメです」

 

深雪が真面目な顔で答えたので、油断していたのは自分だったと改めて気付かされた。克也はそこで気を取り直す。

 

「この女を調べるんだろエリカ?結果だけ教えてくれないか?」

「うん、もちろん。捕獲に協力して貰ったんだから当たり前じゃない」

 

そんな話をしていた達也・エリカ・安堵していた深雪・幹比古・美月・悔しさに佇んでいたリーナは、終わったと思っていたので気付いたのは克也だけだった。

 

「離れろ!」

 

克也が大声で叫ぶ。条件反射で逃げた5人の目の前で、氷に閉ざされていた吸血鬼が攻撃を繰り出した。氷に包まれたままそんなことが出来るのかと思ったが、そんなことを口にする暇はない。氷の彫像が爆発する瞬間、克也は全員を《炎陣(えんじん)》で反射的に守った。

 

「これは?」

「克也のオリジナル魔法《炎陣(えんじん)》だ。防御魔法としては最適でな。重機関銃の攻撃にも耐えるぞ」

 

幹比古の疑問に達也が少しばかり自慢気に答えたが、すぐに真顔に戻して敵を見据える。しかし何処にも敵はおらず、空中から電撃が繰り出されている。電撃は俺の魔法によって侵入できず、すべてが燃えながら消えていく。

 

「達也、何処にいるか見えるか?」

「いや、見えないな。攻撃する瞬間に光るからそこに攻撃してみたが手応えがない」

「そうか…」

 

普通の眼では見えないので、《全想の眼(メモリアル・サイト)》で視るとそれはそこにいた。達也も視点を変えて見つけたようで少しほっとしている。

 

「なあ達也、何であれは逃げないんだ?」

「わからん。逃げようと思えば逃げられるはずなのにそうしないのは、何か逃げられない理由があるのかもしれない。リーナ、何か知らないか?」

「…ヴァンパイアの正体はパラサイトと呼ばれる非物質体よ」

「ロンドン会議の定義だろう。それは知っている」

 

達也はその程度の情報が欲しいのではない。もっと具体的な情報を欲していた。

 

「何でそんなことをあんたが知ってるのよ!日本人が全員こうだというの?」

「安心しろ俺達は例外だ。知っているのは克也のおかげだがな。それで?」

「人間に取り付くと人間を変質させるみたい。適合性があるらしいけど取り付く。いえ、宿主を求めるのは自己保存本能に近いパラサイトの行動原理らしいわ」

 

会話を聞いていると、どうやら誰かに取り付こうとしているらしい。それなら《炎陣(えんじん)》から出ないのが一番なのだが、他の生徒や職員に取り付かれては本末転倒だ。

 

「達也、あれは霊子の塊だ。なら魔法で吹き飛ばすことができるかもしれない。あれ(・・)が必要だと思うのだが」

「…ここで使うのか?」

「他人に取り付かれるより、この魔法を見られる方がマシだろ?」

「…わかった。やろう」

 

克也達は頷くと眼を閉じ、エイドスにアクセスして自分達の魔法演算領域を重ねる。すると1人では処理できない規模の魔法式が構築され、大規模な起動式が展開される。そして克也の《全想の眼(メモリアル・サイト)》と達也の《精霊の眼(エレメンタル・サイト)》を同時に使用し、一つの能力に変える。

 

その名は《全知の眼(ゼウス)》。

 

巨大な術式を発動させ、構造体を照準して巨大で強力な魔法を発動させた。

 

火焔解散(ジャーマ・ディスパージョン)》。

 

これは克也と達也の2人によるマルチキャストで、双子だから成し得る究極の対抗魔法だ。克也の《燃焼》と達也が《分解》を、最大出力で放つことによって可能になる。

 

「「今だ!」」

 

克也と達也が同時に叫ぶ。背中合わせで克也の左手と達也の右手から魔法が放たれた。この魔法は身体の何処かが物理的に接触していないと、魔法演算領域が重ならないので発動できない。《火焔解散(ジャーマ・ディスパージョン)》が霊子の塊を直撃して吹き飛ばしたが、全てを燃やし尽くすことはできなかった。

 

「逃がしたか…」

 

達也がそれを視て呟いたが、同時に克也と達也は地面に倒れ込んだ。

 

「お兄様!」

「克也君・達也君!?」

「克也・達也!」

 

深雪・エリカ・幹比古に寄り添う美月が心配そうに駆け寄ってきた。

 

「…大袈裟な反応だな。少し力を使いすぎただけだよ」

 

克也はそれだけ言うと達也と同じように気を失った。

 

「深雪、2人とも大丈夫なの?」

「ええ、想子の使いすぎで気を失っただけよ。さっきの魔法はお兄様方に大きな負担をかけるから、あまり使ってもらいたくはないのだけど仕方ないでしょうね。もちろん内緒よ?ここにいる全員がね」

「もちろんよ」

「分かりました」

「秘密にします」

 

3人の言葉に頷き深雪は考え込んだ。

 

お二人を移動しなければならないけれど、ここには吉田君しか運べる人がいないわね。十文字先輩に来てもらおうかしら。

 

「吉田君、十文字先輩の連絡先はお持ちですか?」

「ええ、ありますがどうしたんですか?」

「お兄様方を運ぶための助けが必要なので、もう1人連れてきてもらえるようにお願いできますか?」

「はい、分かりました」

 

幹比古は深雪の要望に応え連絡をし始める。そこで深雪はもう1人安否の確認を忘れていたのを思い出した。

 

「リーナ、大丈夫?…リーナ?」

 

深雪が振り向くとそこにはもうリーナの姿はなかった。逃げたのかと思ったときには、克人がもう1人連れて駆けつけていた。

 

「吉田、2人は大丈夫なのか?」

「司波さんが言うには力の使いすぎらしいので、おそらく大丈夫だと思います」

「分かった。沢木、四葉を頼む」

「了解しました」

 

沢木と呼ばれた上級生は克也を背負い保健室に向かった。

 

 

 

2人をベッドに寝かして、戦闘に参加したメンバーの様子を確認した安宿先生に許可をもらってから、先ほどの戦闘を行った深雪達は生徒会室に集合して状況を報告していた。

 

「なるほどな。逃げられたが手傷を負わせたか。吸血鬼は誰だった?」

「シールズさんの知り合いのようでした。それもかなり親密な関係のようです」

「その留学生が嘘をついている様子はなかったか?」

「はい。彼女の反応からすると、吸血鬼の正体が友人だったとは知らなかったようです。克也達によると、彼女は嘘をつくのが苦手なそうなので、どちらかと言えば騙された側かと」

 

幹比古の報告に克人は深く頷き、横に座る深雪に話を振った。

 

「それで司波の妹、あいつらはいつ目が覚める?」

「おそらく午後の授業の間は目を覚まさないでしょう。夕方までには起き上がれるかと思います」

「分かった。事情を職員室に伝えて、今日の授業は免除してもらえるように俺の方から頼んでおこう」

「ご苦労をおかけします」

 

深雪の言葉に頷き、克人は職員室に向かい深雪達も午後の授業に向かった。

 

 

 

「それ」は弱っていた。克也と達也による攻撃を受け、何もない場所を彷徨っていた。致命傷は避けられたが、深い傷を負い休むための「何か」を探していた。「それ」は強い感情を持つものに引き寄せられる。形のない世界から形のある世界に引きずり込まれ、壁を越えた衝撃で12体に分裂し、呼び出した人間にとりついた。休める「何か」を見つけるために「それ」は移動していた。そして「それ」はロボ研で休める器を見つけた。

 

 

 

 

 

〈パラサイト〉を撃退した次の日、昼食の席で拗ねているエリカがいた。

 

「エリカ、いい加減に機嫌を直せ」

 

達也が少しイライラした口調で言うが、エリカはそっぽを向いたままだったので俺が骨を折ることにした。

 

「エリカ、逃がしたのは謝るが全てリーナが悪いわけじゃないのは分かってるだろう?あの場面でリーナを拘束などしてみろ。下手するとこちらが拘束されていたぞ。もし本当にリーナが首謀者ならまたやって来る。その時は俺の名前にかけて容赦はしない」

「勝てるの?」

「例えリーナが強かろうと俺は絶対に負けない」

「そう」

 

俺の本気の言葉にエリカはニヤリと笑ったことで機嫌が直る。すると全員から感謝の視線をもらった。大したことはしていないが、返事をしないのも失礼なので、笑顔を浮かべて受け取っておく。エリカの機嫌が直ったおかげで今日の昼食は楽しかった。

 

昨日放って行ってしまったほのかには、達也から謝罪があり許しをもらった。何でも「友人を助けに行ったんだから、怒る必要もなく、怒るのは本当の友人ではない」と言ったらしい。なんとも素晴らしい友人だと俺達は思った。

 

「ところで克也君、市原先輩とはどうなの?」

「ここ4ヶ月の間は何もないな。どうしてだ?」

「ううん別に。最近克也君が市原先輩と一緒に話しているのを見てなかったから」

「なるほどね」

 

機嫌が直ったエリカの言葉に、そういや全然話していなかったと思い出した。俺と達也は昨日の午後と夜にぐっすり眠ったおかげで体調は回復し、普段通りの生活を送っていた。

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