魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第36話 覚醒

2月15日、学校に登校すると奇妙な困惑が校内に漂っていた。いつものメンバーはその空気に首を傾げる。昼休みに克也達3人は生徒会室に呼び出され、〈3H〉が異常な行動をしたので点検をしてほしいと言われた。

 

なんでも学校のサーバーにアクセスして、生徒の名簿を見ていたとのこと。確かに「異常な行動」と言っても可笑しくはないだろう。ロボ研にいつものメンバー・五十里・あずさで向かう。

 

点検をするために〈3H〉の前に達也が立つと、いきなり飛び掛かってきた。危険度が低かったので達也は避けなかったが、首に回された腕を全員が凝視していた。

 

「達也はロボットにもモテるのか。これは興味深い発見だな」

「克也、笑えない冗談はよせ」

 

深雪の不満を恐れて達也は釘を刺す。次の言葉でそれは水の泡となるが。

 

「達也お兄様にお人形遊びの趣味があるとは存じませんでした」

「深雪、俺にはそんな趣味はないぞ。ピクシー、とりあえず離してくれ」

 

もっとも信頼する2人に言われて落ち込み気味の達也だが、今はピクシーを見るのが先だった。達也の声を聞いて腕を解いたピクシーの顔が、名残惜しそうにしているのを全員が認識する。

 

「ピクシー、その台に座れ。美月、ピクシーの中を覗いてくれないか?幹比古は美月がダメージを受けないようにガードしてほしい」

「分かりました」

「分かった」

 

達也に命じられピクシーは座り、幹比古は呪符に念を込める。美月が眼鏡を外して覗くと驚いていた。

 

「います〈パラサイト〉です。でもこのパターンはほのかさんにそっくり」

「…ほのかの感情が乗り移ったということか?」

「多分そうです」

 

全員が驚いている間、克也が美月に尋ねると肯定してくれる。

 

「あの時の〈パラサイト〉が光井さんの感情に反応して、目覚めてピクシーに憑依したのかな?」

「それかピクシーの中にいた〈パラサイト〉に、ほのかの感情が焼き付いたかだな」

 

幹比古と克也の会話にほのかが両手で顔を覆ったので心当たりがあるようだが、その思考はある声によって中断された。

 

『その通り。私は光井ほのかの感情によって覚醒しました』

「テレパシーか…」

「残留想子は魔法ではなくサイキックだったんですね」

 

あずさの言葉は全員を代弁したものだった。

 

「何故言葉を話せる?」

『前宿主から知識を受け継いでいます』

「お前はあの時の〈パラサイト〉か?」

『我々は〈パラサイト〉と呼ばれるものですが、その質問には答えられません』

「お前は何人殺してきた?」

『それにも答えられません。前宿主から移動するとその記憶は失われます』

「大勢殺してきた可能性もあり、誰も殺していない可能性もあるということか」

『その理解で正解だ』

「お前は我々に敵対する存在か?」

『私は彼女の貴方に対する強い想いによって覚醒しました。よって貴方に従属します』

 

会話からすると克也達に敵対することはないらしく、驚いてはいるが会話を壊そうとする者はいなかった。

 

「どんな感情でもいいのか?」

『強い想いでなければ不可能です。貴方達人間の言葉で言えば、〈祈り〉という概念が近いと思われます。貴方に尽くしたい。貴方の役に立ちたい。貴方に仕え、自分を知ってほしい。それが私を目覚めさせた〈祈り〉です』

 

ピクシーが言葉を発する度に叫びそうだったほのかだが、深雪とエリカに押さえつけられているので何も出来ていなかった。

 

『前宿主の記憶がありませんから、私がどのような感情に引き寄せられ、この世界に引きずり込まれたかは分かりません。今の私を構成しているのは〈貴方のものになりたい〉という欲求です。よって私は貴方に従属します』

 

ついに羞恥に耐えられなくなったほのかが、深雪とエリカを道連れにして崩れ落ちた。

 

「俺に尽くすというなら命令を聞け。許可なくサイキックを使うことを禁止する。表情を変えるのも禁止だ」

『ご命令・のままに』

 

ピクシーはぎこちない声で答えた。

 

 

 

「達也、ほのかが可哀想になったのは俺だけかな?」

「いや、お前だけじゃなくあの場所にいた全員が思っているだろう」

「そうですね。私もそう思います」

 

会話している場所は、家のリビングではなく達也が所有している車の中だ。深雪は「お嬢様」であるため、いくつかの習い事を欠かさず受けなければならないので絶賛移動中である。ほのかは〈光のエレメンツ〉の末裔であるため、人並み以上に依存癖がある。それはほのか自身のものというより、〈光のエレメンツ〉そのものが原因である。

 

「ピクシーはどうする?」

「どうするもなにも俺が管理しなければならないだろうな」

 

そんな会話をしていると深雪の稽古場に着いた。男子禁制なのでエントランスで見送る。

 

「克也はこの後どうするんだ?」

「先生に稽古を付けてもらいに行ってくるよ」

「分かった。俺はカフェでゆっくりしてるから、15分前になったら来てくれ」

「了解」

 

会話を終え、俺は車で九重寺に向かう。30分ほど走らせていると、達也が強い魔法力を持つ何者かと交戦しているのを感じた。その近くにはもう1人いたが誰かは分からない。車の進行方向を変更し、交通法違反にならない程度の速度で向かう。

 

この魔法力はリーナか?こんなときに面倒臭い。毒づきながらも車を走らせる。達也が交戦していた場所に行くと、身体を痙攣させている人物がいた。

 

「大丈夫ですか?」

「…君は?」

「四葉克也です。ここにもう1人青年がいませんでしたか?」

「君がエリカの言っていた友人か。僕はエリカの兄 千葉修次だ。司波君なら赤髪の魔法師を追いかけていったよ」

「ありがとうございます」

 

俺は修次さんに《回復(ヒール)》で、電撃による筋肉の痙攣を抑えてから走り出した。

 

俺が辿り着いたのは、達也の放った《雲散霧消(グラム・ディスパージョン)》が、リーナの放った強力な魔法と衝突する瞬間だった。リーナが吹き飛んだのを見てから達也に話しかける。

 

「達也、その疲労は一体何だ?それにこの武器は?」

「リーナが放った戦略級魔法《へビィ・メタル・バースト》を受けた後だ。ちなみにこの武器は〈ブリオネイク〉。ケルト神話の光明神ルーが持つ武器の一つから名前をとった神器の模造武器だ」

「こんなところでよくぶっ放せたなリーナは」

「比較的簡単に威力調整が出来る魔法だからな」

 

達也の話を聞きながら《癒し》で疲労を取り除いてやると、いつもの達也に戻り、後始末をしてから深雪の迎えに行った。達也を回復させておいたおかげで、深雪に戦闘をしたことはバレなかった。

 

 

 

 

 

リーナと交戦してから数日後の午後7時。克也達は生徒が下校し、滞在している職員も僅かな時間帯の学校に来ていた。夜間に学校に入ることができるのは決められた人間だけだ。

 

その中には生徒会が許可した者が該当するので、もちろん克也達は入ることが可能である。生徒会許可証3枚を門の守衛に渡し、来訪者用IDカードを受け取る。これがなければ不法侵入扱いされるので、警察行きにならないための必須道具だ。ちなみに許可証を発行できるのは生徒会長だけなのだが、達也と深雪に頼まれ(脅され?)たあずさが発行している。

 

今回の目的は、互いの位置を知ることができるピクシーを連れ出し、残りの〈パラサイト〉を引き寄せることだ。表向きの名目は「異常な行動を続ける〈3H〉の様子を見るため」である。制服を着せたピクシーを学校から連れ出してキャビネットに乗る。

 

「達也、どこに行くんだ?」

「青山霊園だ」

「お化けはそういうところに出るからという理由ですか?」

「その通りだよ深雪」

 

どうでもいいことだが、それなら霊園じゃなくてもいいだろと思ったかもしれない克也だった。そして位置を知り合いに送るのだった。

 

 

 

しばらくしてキャビネットを降りて霊園に向かっていると、複数人に見張られているのを感じた。全員に《癒し》で眠気を表面に浮上させて眠りに誘う。おかげで倒れる音以外は聞こえなかった。

 

『ご主人様、〈パラサイト〉3体が接近中です』

 

ピクシーの報告に俺達は足を止め、ピクシーを真ん中にして三角形の陣を作る。どこから現れるか分からないため、この陣の敷き方は正しいだろう。

 

達也が身を引き締めたので、達也の視線の先を見ると3人の男が向かってきている。彼らが〈パラサイト〉なのは分かっているが、その身体と雰囲気に謎の違和感があった。2人が立ち止まり1人がさらに近づいてくる。

 

眼から伝わる情報と肌で感じる情報が違うので、それによって違和感が発生していたのだと今気付く。人間の形をしているのに人ではない気配を発している。それが違和感の正体だった。

 

『四葉克也、話がしたい』

「…何故俺なんだ?」

『この国で、今もっとも力があるのは四葉家だ。そしてここにその血を受け継ぐ人物がいるなら、その者に聞くのは自然だろう?』

「事情は理解した。俺はなんと呼べばいい?」

『マルテ』

「ミスターマルテ、一体何のようだ?」

『我々はこれ以上諸君らと敵対する意図は無い』

「諸君らとは誰で敵対とはどういう意味だ?」

 

俺は可能な限り情報を得られるように努力することにした。俺達は彼らのことをあまりにも知らなさすぎる。正体を知っているとはいえ、紙の媒体やデータとしての記録だけだ。実際に会話をすることができるのは、後にも先にもこの瞬間だけだろう。ならば時間を惜しんででも話を続ける必要がある。

 

『我々デーモンは、これ以上日本の魔法師に対して敵対する気は無い』

「なるほどね。それ以外にも用があるんじゃないか?」

『君達と敵対しないと約束する代わりに、後ろのロボットを引き渡して貰いたい』

 

その言葉にピクシーが肩を強ばらせる。

 

「理由は?」

『同胞を解き放つためだ。そのような命のない器に入られていては、我々デーモンとしても許容できない。我々デーモンも命を持つ生命体だ』

「そういうことらしいぞピクシー。どうする?」

『嫌です!私は私です。私の望みはマスターの物であるそれだけです!』

 

ピクシーの言葉に全員が苦笑したことで心意気は決まった。

 

「だそうだミスターマルテ。会話を聞いての通り交渉決裂だ。それに言いたいことがいくつかある」

『残念だよ四葉克也。言いたいこととは何だ?』

「何故魔法師に対してだけ敵対しないと言った?何故一般人は含まれない?それに何故日本人だけなんだ?他国の人間は狙うのか?信用できないな。そしてピクシーを破壊した後、何を宿主にするつもりだった?言わなくても分かっているがな」

『小僧…!』

 

男が袖口からナイフを取り出す。柄にコードが繋がっているところを見るとただのナイフではなさそうだ。他の2人も同様にナイフを手にしている。顔が怒気で覆われており、感情が爆発しかけているらしい。溜めたままでは辛いだろうから爆発させてやることにした。

 

「武器を捨てて大人しく投降すれば、痛い目に遭わずにすむし、幸せな実験動物としての待遇を保証してやるぞ」

『貴様!』

 

俺がにやりと笑いながら言うと、完全にキレて叫びながら突っ込んできた。ぶつかる瞬間に《炎陣(えんじん)》で2人と1体を囲う。ナイフが触れた瞬間に溶けて消えていくのを見て、マルテを含めた〈パラサイト〉が眼を見開いて驚いている。その瞬間を見逃さずに《炎陣(えんじん)》を解除し、圧縮想子弾をマルテの足に打ち込んで転倒させる。

 

「達也!」

「任せろ」

 

達也が〈拒絶〉の念を込めた想子弾を、倒れているマルテに打ち込むと、のたうち回るように激しく痙攣し始めた。達也が打ち込んだ思念が〈パラサイト〉を拒絶し、〈パラサイト〉がそれを拒絶しているのだ。残りの2体は、俺と深雪が圧縮想子弾を大量に撃ち込み気絶させていた。

 

「克也君!」

「ごめん、遅くなった」

 

エリカと幹比古が走り寄ってきた。後ろに予想外のもう1人を連れて。

 

「レオも来たのか?」

「おう、リハビリがてらな」

「とりあえずここを離れるために、こいつらを運ぶ車を呼ばなきゃな」

「なんで?」

「あれだけ派手に魔法を使ったんだ。普通の警察以外にも寄ってくるだろうからね」

 

俺の言葉を理解できていなかったらしく、幹比古は疑問符を浮かべていた。

 

「ミキの倉に運び込んでもいい?」

「いいのか幹比古?」

「うんいいよ。そもそもこれは僕達の仕事だからね」

 

「僕達の仕事」とは古式魔法の使用者のことだろうか?それともエリカたちを含めたことなのだろうか?後片付けをしてもらえるのであれば、どちらでも構わないので考えるのをやめておいた。

 

「頼む幹比古」

「今日は帰りなよ克也君達は。捕獲してくれたし後は任せてほしいから」

「分かった後を頼む」

 

克也達は後をエリカ達に任せて帰宅する。だが〈パラサイト〉との戦闘中に監視されていたことを3人は知らない。たとえ《視界》を広げていたとしても気付かなかっただろう。何故なら遠隔操作で見張られていたのだから。

 

1つは七草・十文字家の連合とは別に、七草家当主の意向を受けている国防軍情報部。

 

1つは想子センサーを使って監視していた九島家前当主とその孫。

 

1つは反則級の情報収集能力を持つ謎の機械によって見ていた四葉家当主。

 

これらが厄介な事件に発展するとは、誰も考えていなかった。

 

 

 

翌朝、克也と達也はエリカ達に呼び出されるのだった。

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