魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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6章 ダブルセブン編
第40話 新学年


達也が困惑している姿を、俺は後ろから腕を組んでにやつきながら見ていた。今達也は自宅の全身を映す大きな鏡で(いわゆる姿見)、あとはブレザーを着るだけの状態になりながら数分間立ち尽くしていた。達也の困惑した顔だけで白米が食えそうだが、達也に殺されそうなのでそんなことを口走ったりはしない。

 

「達也お兄様、早く新しい制服をお召しになった姿を私に見せてください。それとも焦らしていらっしゃるのですか?」

 

どうやら深雪の心は我慢できなくなってきているらしく、その表情は限界に近いことを表していた。達也が着ないという選択肢を放り出し、ブレザーの襟を掴んで羽織る。すると深雪がさっと回り込み、きっちりと着込んでいるのを確認して幸せそうな表情を浮かべた。

 

達也の制服は俺達と違い、左胸と片口には八枚歯のギアを図案化したエンブレムが飾られている。一科生と同じ大きさで同じ位置にある意匠は、今年度から新設された魔法工学科のシンボルである。

 

去年の1年間で対内・対外的にも、無視することが難しいほどの実績を積み上げてきた達也。このまま二科生で留めておくのは一高としても魔法社会としても、不利益にしかならないと判断された。

 

その結果、新しい学科の新設された。3月の試験にパスした生徒は、4月から魔工科で授業を受けることになっている。また魔工科に一科生から移籍した人数分だけ、二科生の成績上位者が一科生に転科できる。それによって幹比古が一科に移ることになっている。学年末の点数が影響していたのだと誰もが思っていた。

 

しかしどれだけ表面を取り繕ったとしても、魔工科が達也のために作られたと思われても仕方がない。だからこそ達也にあるべきものが、この1年なかったことを不満に思っていた深雪が、達也にあるべきものがようやく付いたことに浮かれるのは当たり前なのだろう。

 

「みんなでお茶にしましょう」

 

深雪は2つの意味でご機嫌になりながらリビングに向かった。そんな深雪に俺は苦笑し、隣に立つ水波は不満そうに見ている。まあ、自分の仕事である家事を取られては気分を害しても仕方ないことだろう。水波はガーディアン兼家政婦という立場で、司波宅に居候しているのだから。達也が動く気配を全く見せないので尋ねてみる。

 

「達也?」

「ああ、今行く」

 

達也が動かなかったのは数秒だが、僅かな空気の変化に気付けるのは双子であり互いに信頼し合っているからだろう。俺の後ろを当たり前のように付いてくる水波は、達也が動いてリビングに向かうまで、そちらには不満そうな顔をせずに待っていた。

 

 

 

「いよいよ明明後日は入学式か。当日、俺達は早めに家を出るが構わないか水波?」

「大丈夫です克也兄様(・・・・)。私もご一緒させていただきます」

 

水波が克也のことを「克也兄様」と呼んだのは、水波が四葉の関係者であることを悟られないための打開案だ。様では完全に情報をばらまく原因になる。水波は達也と深雪の従妹という関係であり、克也が「さん付けで呼ばれるのは嫌だ」と言ったことで、渋々であったが水波がそれで良しとしたという経緯だ。

 

ちなみに達也と深雪の呼び方は達也兄様と深雪姉様だ。水波も最初は仕方なさそうだったが今では自然に使っている。テンパったときはつい達也様・深雪様と呼んでしまっているが。

 

「それを踏まえて今日の招待は受けた方が良い。水波も来てくれ」

「…ご命令のままに」

 

達也の言葉に水波は気乗りしない様子で承諾した。

 

 

 

ホームパーティーといえど北山潮が催すだけあって、魔法・非魔法社会に関わらず、誰もが知っているような大株主や社長が大勢集まる。だから必然的に会場は盛り上がってしまう。普段は顔を合わせられない責任者と直接言葉を交わせるのだ。大人だからこそはしゃいでしまう。

 

雫の父が晩婚だったせいもあってか、従兄弟はほとんどが成人している。結婚相手や婚約者を連れてくるので、親族だけでもそれなりの大人数になってしまう。そんな事情を2人は現在進行形で、雫の母親から説明されていた。

 

北山紅音旧姓鳴瀬紅音は、かつて振動系魔法で名を馳せたA級魔法師だ。そんな人物に克也と達也は捕獲され、聞いてもいないのにそんな話をされているのだ。少し疲れてきた2人だったが、こんな場所で気分を害されるわけにはいかないので、真面目に耳を傾けている。

 

「ところで貴方がほのかちゃんの片想いの相手なのよね?」

「そのような者ではあります」

「赤面しないのね?なかなかだわ」

 

突然の話題転換ににも落ち着いて言葉を返す。どうやら達也の少しずれた解答が加点になったらしく、少しとげとげした空気が和らぐ。

 

「何故断ったの?あの子は可愛いのに。四葉君もそう思うでしょ?」

「可愛いと思いますよ色々と」

「そうですね。かなりレベルは高いと思います」

 

克也にも話を振ってきたので本心を伝えた。ほのかは同世代だけでなく、上級生からも好意の眼で見られている。校内のみならず、他の魔法科高校でもファンクラブが小規模であるが、いくつか形成されているほどだ。可愛いというのはお世辞でもなく事実だった。

 

「なら受け入れてあげてもいいのに。四葉君は付き合いたいと思わないの?」

「確かに交際すれば楽しくなるでしょうね。しかしほのかの想い人は達也です。横槍を入れようとは思いませんよ」

「それだけの容姿をしているのに枯れてるわね」

「枯れているかどうかは分かりません。人間は容姿で判断すべきではなく、人間性で判断するべきだと思っていますので。それにほのかは外見だけでなく、人としても素晴らしい女性だと思っていますよ」

「見た目より中身というわけね四葉君は。言わせてもらうけど、ほのかちゃんや雫の2人が貴方達に向ける感情は普通じゃない。性別という壁を越えて家族のような愛に近い感情だわ。悪いけど司波君、貴方のパーソナルデータを勝手に調べさせてもらったわ」

「愉快ではありませんが理解できます。娘の近くに自分のような不気味な人間がいれば、調べたくなるのも分かりますから」

 

正直、克也もあまり愉快ではないが達也の言う通り理解はできる。克也だって自分の周りに普通とは思えない人物がいれば、興味や好奇心を度外視しても調べたくなる。克也達ならば調べなければならない義務がある。

 

「貴方は一体何者なの?北山家の情報網を駆使しても可笑しなデータが出ないなんて。四葉君の場合は雫に聞いたのとほぼ同じだし、こうして話してみて納得できた。問題は貴方よ。だからここでもう一度聞くわ。貴方は一体何者?」

「自分は司波達也というパーソナルデータに書かれている人間そのものです。パーソナルデータと本人が違うのは仕方ありません。データだけでその人間を全て知ることなど不可能であり、また記せない事情だってあるのかもしれませんから」

「っ…」

 

達也の言葉に紅音は唇をかみしめて悔しがっていた。二回り以上歳の離れた歳下に言葉で負けたとなれば、少しだけ長く生きている人間からすれば認めたくはないだろう。

 

「紅音、そろそろやめなさい」

「北山さん…」

「妻がすまなかった司波君・四葉君」

「こちらこそ失礼なことを申しましたお許しください。少し失礼させてもらっても良いですか?雫とも話しておきたいので」

「ああ、娘も喜ぶだろう」

 

潮の許可をもらい、3人の元に戻ると雫に頭を下げられた。そのまま雫の元へ向かう。

 

「ごめんね克也さん・達也さん」

「こちらこそ失礼なことを言ったんだ。雫も顔を上げてくれないか?今はこの時間を楽しもう」

「うん」

 

笑顔で言うと雫も笑顔で答えて話題を作る。留学先でのルームメイトの珍行動や、ほのかの幼いときの恥ずかしいエピソードなどたくさん話してくれた。雫がほのかそっくりに真似るので、克也は口に含んでいた炭酸水を吹きだしかけたこともあった。

 

「姉さん、少しいい?」

「航、どうしたの?」

「お話がしたくて。邪魔だった?」

「ううん、ちゃんと挨拶してね」

 

後ろから問いかけられた相手にそんな風に話す雫は優しい姉で、普段の様子からは考えられないような優しい声だった。

 

「初めまして北山航です。今年小学6年生になります。司波達也さん、お聞きしたいことがあるんですけどいいですか?」

 

年齢相応の声音で言葉が震えていたが、達也は克也にノンアルコールカクテルのグラスを渡しながら優しく答えた。

 

「こちらこそ初めまして。答えられることなら答えよう」

「魔法が使えなくても魔工技師になれますか?」

「「「「「「…え?」」」」」」

 

達也を除く全員が声をそろえて航を見る。彼は達也に眼を向けているため全員の声に気付いてはいなかったが、達也はしっかりと答えた。

 

「無理だな。魔工技師は魔法技能を持つ魔法工学者のことだ。魔法を使えない技術者を魔工技師とは呼ばない」

「そうですか…」

「でも魔法が使えなくても魔法工学を学ぶことは可能だ。実際、魔法を使えなくても生業としている人がいるからね。魔法がなければ掴みにくい感覚的な作業もあるが、慣れれば魔法なしでも作業が行えるようになる。場合によっては魔法を使える人よりも上手い人もいるだろう」

 

達也は相手の気持ちを落としてから上げることが多い。それは喜びを増やすことにもなり、進歩にも繋がると自身が知っているからだ。

 

「君が本気で勉強すれば、お姉さんの役に立つことが出来るかもしれないな」

「ぼ、僕はそ、そんなつもりじゃ…」

 

顔を真っ赤にして俯けば誰でも本心が分かるだろう。達也に向けられる眼も見知らぬ大人(高校生でも小学生からすれば大人だ)に対するものではなく、尊敬し追いつきたいと思う気持ちが込められた視線に変わっていた。

 

 

 

 

 

西暦2096年4月6日新年度初日、水波を自宅に残した3人は学校に向かった。この3人での登校が残り2回しかないからなのだろうか。家から最寄りのコミューター乗り場まで、深雪は克也と達也の腕を抱きしめていた。歩きにくそうだったが幸せそうなので、2人は苦笑しながらも何も言わずにいた。

 

一高に向けて歩いているといつものメンバーがそろう。コミューターを降りる頃には、2人の腕から深雪が半強制的に離されている。深雪はかなり不満そうだったが。

 

「幹比古、制服の着心地はどうだ?」

「からかわないでよ克也」

 

ニヤリと笑いながら克也が人の悪い祝辞を送ると、幹比古はまんざらでもなさそうに答える。幹比古が一科生に転科するのは知っていたが、制服を見るのは今日が初めてだった。

 

1年間エンブレムがないのを見てきたので、幹比古には悪いが違和感がある。しかしそれは今までなかったものがあるのだから仕方ないだろう。

 

「達也はどうなの?」

「俺か?まだ始まったばかりだからなんとも言えないな」

「冷めてんなぁ達也は。まあ、達也がはしゃいだ方がよっぽど怖ぇか」

 

達也がもう少し喜んでいると思っていたレオだが、達也らしい反応に苦笑を浮かべていた。

 

「ほんとね。美月なんてにやけてたのに」

「に、にやけてないよ!」

 

エリカの弄りに美月が反論するいつもの様子に笑ったメンバーだが、エリカの言葉によってそれはさらに悪化した。

 

「で、ミキ」

「僕の名前は幹比古だ。何だよエリカ?」

「なんで近くにいる美月じゃなくて、わざわざ遠い達也君に聞いたの?」

「べ、別に良いだろ!?男同士なんだから聞いてもいいじゃないか」

「あ、もしかして既に電話で聞いてたりしてた?くふふふふふふ」

 

エリカの言葉に真っ赤にして俯く2人を見て、それを見ていた全員が優しく見守るのだった。

 

 

 

昼休み、克也達は生徒会室に来ていた。達也を風紀委員会から生徒会へ移籍させるという花音とあずさの密約が、本人の意思を無視して実行された結果である。というわけで、今日から達也は生徒会副会長となった。本人は不満と呆れが一周回って受け入れていた。

 

風紀委員には達也の後任として幹比古が。欠員が出た部活連推薦枠に克也が選ばれた。本来は幹比古が部活連推薦枠に選ばれるはずだったのだが、達也の事情が事情である。魔法力と適正力から克也が部活連、幹比古が風紀委員会ということらしい。どちらも対応はできそうなのだが。

 

克也が部活連に入ったことで、今まで不真面目だった麻雀部などが真面目に活動し始めたらしい。克也はまだ何も行動を起こしていないにも関わらず、この有様では巡回などしたときにはどうなることやら。そんなことを思い始める生徒会メンバーであった。

 

生徒会メンバーは達也が入ったこと以外は何も変わらず、風紀委員の幹比古と部活連の克也を含めた平和な昼食タイムを過ごしていた。

 

「実はまだ新入生代表を見たことがないんです」

「新入生の準備は学校側主導で行われているからね。タイミングが合わないと中々難しいよ」

「多くの来賓がある特別な式典は、人生経験が豊富な教員が担当するということでしょうか」

「その考えで間違ってないと思うよ」

 

克也の言葉に五十里が説明を付け足してくれる。そうなると新入生代表のことが気になってくる。

 

「総代はどんな子だったんですか?」

「僕は知らないけど、中条さんが顔を見てるんじゃなかったかな」

「七宝君ですか?やる気満々には見えましたよ」

「野心家ってことね」

 

本心を隠そうともしない花音の表現に、あずさが苦笑したところを見ると、同じような印象だったのだろうと生徒会室に集まった面々は思った。




生徒会長・あずさ
生徒会会計・五十里
生徒会副会長・深雪
生徒会副会長・達也
風紀委員長・花音
風紀委員・幹比古
部活連会頭・服部
部活連副会頭・克也
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