魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第42話 修羅場

香澄と泉美は真由美と別れて講堂の席に並んで座っていたのが、香澄は未だに先程の経緯に毒づいている。泉美は自分と比べて好戦的な双子の姉に、特別大きなため息をつきたくなっていた。

 

「克也兄と一緒にいたあの男は誰?お姉ちゃんに気安く触って!」

「香澄ちゃんは知らないのですか?あの方がどなたなのか」

「有名な人なの?」

「ある意味ではそうです。去年は二科生でしたが今年度から魔工科に転科された司葉達也さんですよ。昨年の〈九校戦〉では二科生にも関わらずエンジニアとして選出され、新人戦女子〈スピード・シューティング〉と〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉では、1位から3位を担当した出場者で独占。新人戦〈ミラージ・バット〉では優勝と準優勝。本戦の〈ミラージ・バット〉でも優勝。驚異的な戦果を上げられた方です」

「うそ…」

 

驚愕する香澄に、泉美はさらに追い打ちをかけた。

 

「事実ですよ。それに〈クラウド・ボール〉ではお姉様の担当をされていました。克也お兄様に限ってですが、〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉の準決勝までCADを調整されています。お二方とも満足そうにしていましたよ。克也お兄様は除外しておきますが、お姉様のあの心の許しようは尋常ではありませんね」

 

最後は独り言だったが、香澄がショックを受けている姿を見て、溜飲を下げた泉美であった。

 

 

 

入学式は無事に終わり、生徒会室には克也達と真由美姉妹がいた。五十里・中条・ほのかは、職員と手分けして片付けにあたっているためこの場にはいない。

 

「克也兄、久しぶり」

「克也お兄様、お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな。最後に会ってから2年くらいか?随分と成長したね2人とも」

「克也お兄様のおかげで魔法も上達しました。もしよろしければ今度見てもらえませんか?」

「いいよ、時間があればね」

 

克也と双子が久々の挨拶を交わして、真由美が2人を連れて達也と深雪の前に行って挨拶をさせたのだが…。

 

「泉美ちゃん?」

「深雪先輩、〈九校戦〉の活躍を拝見させていただきました。とても美しかったです」

 

泉美は呆然と深雪を見上げ、真由美に名前を呼ばれても気付かずに話し始めた。深雪は上級生らしく優しい笑顔を浮かべていたが、それが余計に事態を悪化させた。

 

「私のお姉様になってもらえませんか?」

「「お姉様!?」」

「「…は?」」

 

泉美の言葉に真由美・深雪・克也・達也は、同じ言葉で驚きを現にした。しかし克也は泉美が熱しやすいということを今思い出す。

 

「それは不可能と思われます」

「水波?」

「泉美さんが深雪姉様と姉妹になるのは難しく、克也兄様と達也兄様の妹になることは可能だと申しました。克也兄様もしくは達也兄様が真由美さんとご結婚されれば、泉美さんは義妹ということになります。この関係性において深雪姉様と泉美さんは、正しく姉妹と呼べるのでしょうか?」

 

水波の言葉に固まる一同。

 

「み、水波…」

「お兄様方!?」

「反対!絶対反対!」

「深雪と香澄まで…」

 

水波にそういうことを言って欲しいのではないと言いたかったのだが、深雪と香澄に邪魔されてしまう。この場合は2人の感情が爆発している。男は女に弱いと言うように、男である克也が女である2人に勝てるはずもなかった。

 

「克也兄ならともかく。司波先輩だったら僕は反対だからね!」

「香澄ちゃん、今のは仮定のお話ですよ」

 

どうやら双子は、どちらかが熱すると片方は分別を取り戻すらしい。新しい発見に頷いていたがそれどころではなかった。何故克也は良くて達也はダメなのかと思うが、自分の知らない男が大切な姉に近づくのを防いでいるようだ。

 

「ぎゃ!痛いよお姉ちゃん!」

「苦しいですお姉様!今のは香澄ちゃんが悪いのではないのですか!?」

 

真由美に連行され、生徒会室を出て行く双子を3人は微妙な顔で見送っていた。

 

 

 

今日はいつものメンバーで、喫茶店〈アイネブリーゼ〉にやってきていた。雫を含めたこのメンバーで立ち寄るのは5カ月ぶりなこともあり、和気あいあいとしていたが雫の言葉で空気が固まった。

 

「主席君の勧誘はどうだった?」

「…ダメだった」

 

ほのかの言葉を聞いて「しまった」という顔をした雫だったが、悔やんでも後の祭りだ。勧誘はあずさとほのかの2人に任されていたので、失敗したほのかが落ち込んでも仕方がない。

 

「断った理由は何だったんだ?」

「〈十師族〉に負けないほど、強くなりたいからだって言ってました」

「目標があるのは良いことだし、生徒会入りが嫌だということではないんだったら残念がる必要はないよ」

「そうだな。ほのかの力不足というわけじゃない。気にしなくても良いさ」

 

克也と達也の慰めの言葉により、ほのかはいつもの元気を取り戻した。

 

「問題は彼の代わりに誰を入れるかだな。順当に行けば次席の泉美だが…」

 

克也の言葉に深雪は微妙な顔をしていた。この反応を無視して勧誘するのはいかがなものかと思い、克也は言葉を途中で切る。深雪は入学式後の生徒会室での出来事が、未だ足を引っ張っているらしく、泉美に若干の苦手意識を抱いていた。

 

「三席は誰だったの?」

「姉の香澄だな。泉美と香澄は双子で2人とも魔法力は申し分ない。特に七宝を含めたこの3人は四席以下と比べて圧倒的だ。泉美と香澄どちらを入れても問題ないんだが、どちらを入れても少々面倒くさくてね」

「どういうことだ?」

 

克也の歯切れの悪い言葉に、レオが興味津々に聞いてくる。もちろんレオには悪気はない。克也が苦笑いをしているのが珍しかったのだ。

 

「泉美を入れた場合は深雪に精神的なダメージがあって、香澄を入れると達也と一騒動を起こすかもしれないから」

「詳しくは聞かねぇが、どっちにしろややこしいことになるわけだな?」

「その通り」

「でも、順当に行けば次席の泉美さんなんじゃないかな?」

「そうですね。事情はともかく成績上位者から選ぶのであれば、それが正しいと思います」

「最後は本人達のやる気次第だろうね」

 

幹比古と美月からの推薦もあり、泉美を入会させることが濃厚になり雑談会は終わった。

 

 

 

家では、トイレに行った達也の後を追いかけた幹比古との会話内容を、達也が2人に話していた。

 

「ということは、エリカはローゼンの血筋なのか」

「そういうことだな。道理で俺が千葉家にエリカがいると知らなかったわけだ」

「達也お兄様、それはどういうことですか?」

「これはあくまで想像だが。エリカは高校入学まで、苗字を名乗らせてもらえなかったんじゃないかな。寿和警部・修次さん・お姉さんの3人は前妻との子供だからね。腹違いの子供であるエリカを、時期尚早で社会に知られたくなかったのだと思う。それも相手方の血筋がローゼン一族だ。向こうとしても知られたくなかったんだろうね。たぶんだけど、駆け落ちについては不問にするから血筋のことは口外するなというやり取りがあったんだと思うよ」

「だから今日までローゼンは日本に支社を置きながら、あまり関与しなかったのですね」

「正確には関わりたくなかったんだろうね。断絶状態にしたのは、一族からそんな人間を出してしまったことへの戒めなんだろうね」 

 

エリカは苦労して生きてきたのだと今更ながら思う。それでも現実を受け入れ、真っ直ぐに生きていこうとしている姿を見ると眩しく、眼をそらしてしまいたくなる。だがそれは、彼女との友人関係を崩すことにもなる。

 

3人はエリカにこのことを一切話す気にはならなかった。

 

 

 

 

 

4月10日。克也は昼休みに水波に頼んで、泉美と香澄を生徒会室に連れてきてもらい、生徒会入りのことを話していた。何故達也でも深雪でもなかったかというと、どちらかが壊れて話が進みそうになかったためだ。克也なら2人は心を許しているし、熱にうなされたり敵意をむき出されずに話を聞いてくれるからである。

 

「つまり私達のどちらかを、生徒会役員として取り立ててくれるということですか?」

「やる気があるなら2人一緒でもいい」

「気持ちはありがたいですが遠慮させていただきます」

「そうか。なら泉美、入ってくれるか?」

「喜んで」

 

泉美の生徒会入りが決定し、放課後に仕事を教えることになった。

 

 

 

そしていつの間にか新入生勧誘週間に入った。生徒会・部活連・風紀委員会にとって、最も忙しい行事の一つに突入している。ここ2日間は乱闘などが起きず平和である。恐らくは克也のお陰だろう。

 

あずさが「今年は平和ですね」と言った心境は理解できる。しかし去年、大きな事件に巻き込まれた克也・達也・深雪、毎年乱闘が起こることを知っている五十里は、あずさの言葉を黙殺した。期待を裏切らずにあずさの「今年は何事もなく終わりますように」という願いは、3日目にして儚く散った。

 

ロボ研でトラブルが発生し、一触即発の場面で達也と深雪が現れたことで、魔法の撃ち合いには発展せず平和に解決した。元凶になった少年は、達也が入学式の前に誘導した生徒の1人であった。

 

 

 

 

 

4月14日の夜、3人は珍しい客を迎えていた。

 

「久しぶりだな2人とも」

「お久しぶりです克也兄さん・達也兄さん・深雪姉さん」

 

文弥は嬉しそうに返事をする。文弥と亜夜子は3人にとって四葉と繋がりのある人間の中で、唯一信頼できる身内だ。克也はともかく、達也や深雪が普段より優しくなるのはそんなこともあり仕方がなかった。

 

「そういえば四高に合格したらしいな。遅くなったがおめでとう」

「ありがとうございます達也さん。本当は一高に進学したかったのですけれど、我々が集中するのはよくないと当主様に言われましたので断念しました。それに散らばることで情報把握も効率的になりますから」

「叔母上の命令なら仕方ないさ。で、今日はどんな話を持ってきたんだ?」

 

達也が話を促すが、人影が3人の背後にあることで、文弥は聞かせてもいいのか迷っている。

 

「水波なら気にするな。水波は克也のボディーガードだ」

「克也兄さんにですか?必要だとは思いませんが」

 

話をする前に、水波を見た文弥に達也は事情を説明する。それを聞いて、文弥はそれ以外の理由があるのだと納得する。詳しくは分からないが、何か大きな意味があると。それぐらいのことなら文弥でも理解できる。

 

そうでもなければ分家と本家の次期当主候補にはなれない。だが理解と納得は別物である。とはいえ、目的を話さずに思案に暮れるほど落ちぶれてはいない。姿勢を正して、文弥は来訪目的を話し始めた。

 

「ではお伝えします。現在、国外の反魔法師勢力によって国内にマスコミ工作が仕掛けられています」

「いつものやり方か。ちなみに何処からだ?」

「USNAです。反魔法師キャンペーンはマスコミだけでなく、野党の議員にも手が回っています」

「さすがだなこの短期間でよくここまで調べた」

「あ、ありがとうございます…///」

 

先程まで事務口調だった文弥が克也に褒められ、顔を真っ赤にする様子は文弥が普通ではない趣味があるように見える。だがそんなことはなく、単に褒められて嬉しかっただけだ。

 

 

 

克也は文弥と亜夜子が帰った後、自室のベッドで腕を頭の下で組みながら、2人からもらった情報を思い出していた。 

 

吸血鬼騒動が終わったと思えば、今度は反魔法師マスコミ工作か。気を休める暇もないな。達也の《質量爆散(マテリアル・バースト)》の影響で、世界の基盤が揺らぎ始めているのは予測していたが、ここまでとは思っていなかった。やはり他国は日本の技術力と魔法力を無視できないらしい。日本には戦略級魔法師が2人もいるのだから、探りを入れてきても可笑しくはないか。

 

克也は腕を元に戻して睡魔に身をゆだねた。

 

 

 

克也は自分が戦略級魔法師にも勝るとも劣らない力を保持していることに、まだ気付いていなかった。

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