大会3日目
〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉男子ペア 3位
〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉女子ペア 1位
〈シールド・ダウン〉男子ペア 1位
〈シールド・ダウン〉女子ペア 予選落ち
しかし三高は今日の試合で全て2位以上だったため、2日目終了時点で得点差が40点だったのが、3日目には100点にまで広がっていた。優勝してペアをお祝いすることができなかったが、個人個人でお祝いの言葉を言う生徒はいた。
『マスター』
お茶会の途中、ピクシーから達也にテレパシーが届いた。達也は普段テレパシーを使うことを禁止していたが、特別な事情があれば使用しても構わないと命令している。つまり何かがあったということだ。
「達也お兄様?」
「3Hの様子がおかしいようだから見てくる」
急に立ち上がった兄に深雪が聞くと、どうとでも解釈できるように答えた。克也は友人達との会話に夢中で気付いていなかった。
『同胞の反応をキャッチしました。私の存在も認識されたようです』
「何体いる?」
『16体です。今、反応が消失しました。休眠に入ったようです』
思っていた以上に多いことに達也はうなだれた。
「達也、〈パラサイドール〉を見つけたのか?」
達也がいなくなったことに気付いた克也が、作業車から降りてくる達也に問いかけた。
「ああ、これはチャンスだ。今から行ってくる」
「行かせないぞ達也」
「克也?」
作業車から降りるとお茶会は終了していた。話し掛けてきた克也に答えると予想外の言葉が返ってくる。双子の兄が真剣な表情で止めに来ることを予想していなかった達也は、少なからず彼にしては珍しいことに驚いていた。
「お兄様、私も同じ意見です」
「深雪?」
「ご自分の体をどれだけ酷使しているか理解しているのですか!?朝から夕方まで選手のCADを調整して、作戦まで考えられてその裏で〈パラサイト〉の仕事など。いくら達也お兄様でも壊れてしまいます!それでも行くというなら、克也お兄様とご一緒に力尽くで止めさせていただきます!」
深雪の怒気に慌てる達也だった。
「待て2人とも!俺の《眼》を封じるつもりか!?そんなことをすれば2人とも只では済まないぞ!」
「わかってるさ達也。これは承知の上で言ってるんだ。明日の試合は出られないだろうし、一高を退学の可能性だってある。それは仕方がない。だが、ここで達也が壊れれば俺達はどうすれば良い!?別れは寿命が尽きる時だけだ!それ以外の死は絶対に許さない。去年と同じことをしようとしているのを自覚してくれ。二の舞はゴメンだ」
達也は2人が涙を流しながら懇願する様を見て、自分がどれだけ心配をかけていたのかを実感する。これだけ自分を心配してくれる兄妹に、これ以上不安にさせることはできない。いや、させたくなかった。
「わかった。今日は戻るよ」
達也が素直に従ってくれたのでほっとした克也だった。水波は克也の必死さを見て、少し自分の胸が痛んだ。それが自分より達也を心配することに嫉妬した反動だとは、まだ気付いていない。
3人の喧嘩はお茶会が終了した後だったので、その話を聞いたメンバーはいなかった。
大会4日目、達也の休息による復帰と足並みをそろえるように一高の追い上げが始まった。〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉男子ソロでは克也が将輝を破り優勝。のちに将輝から文句を言われたが恐怖の笑顔で黙らせていた。
〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉女子ソロ 優勝
〈シールド・ダウン〉男女ともに 優勝
これにより先日までの点数差が100点から60点にまで縮まった。
その日の夕食で話題になったのは、克也が決勝で将輝を破った魔法《流星群》だった。世間には《夜》として認知され、真夜が使用しない限り見ることができない。この大会で見ることのできた観客は幸運と言えるだろう。
克也が使用した理由は真夜からの命令だったが、元から使用するつもりだったので命令に従ったというより、自分の意思で使用したと言うべきだろう。
一高の快進撃は新人戦でも続いた。
新人戦初日
〈ロアー・アンド・ガンナー〉男女 優勝
香澄のエンジニアを克也が担当して見事優勝に導いた。
2日目
〈シールド・ダウン〉男子 3位
〈シールド・ダウン〉女子 優勝
水波のエンジニアを克也が担当しまたしても優勝に貢献。
〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉男子 3位
〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉女子 優勝
克也は泉美も担当して優勝。
3日目。〈ミラージ・バット〉は仕方ないことだが亜夜子の独壇場だった。一高からは1人が決勝トーナメント進出しており、善戦しているが優勝は不可能だろう。しかし2位は確実な点数なので心配することはない。
「やっぱり亜夜子に勝つのは難しいな」
「あの魔法力なら仕方ないさ」
「私でも勝てるとは言い切れません」
3人は誰にも聞かれないように小声で話しながら、亜夜子の試合を観戦していた。亜夜子が縦横無尽に空を飛び回り、圧倒的なスコアをたたき出して優勝した。
〈モノリス・コード〉では琢磨達が6戦全勝しており、残りは四高とだけになっていた。だが辛勝した三高が四高にあっさりとやられているのを見て、更に勝ちへの意識を込めて気を引き締めていた。克也は琢磨達のCADを担当していたが、もちろん負けるだろうと予想している。文弥に勝つのは不可能だと分かっていたから。
結局、琢磨達は四高つまりは文弥によって全員がノックダウンされて負けた。しかし2位を確保したことで一高は新人戦優勝を果たした。文弥と亜夜子の活躍は〈九校戦〉で名を馳せ、以前から流れていた「四葉の分家に黒羽という家系があるらしい」という噂を、真実であるのではないかと信じ込ませるのだった。
9日目からは本戦に戻り〈ミラージ・バット〉の決勝戦が行われた。一高は決勝に2人、三高が1人の時点で、合計獲得点数は上回るだろうと言われていたが、確実に取るためには達也とあずさの調整と選手自身にかかっていた。
優勝 ほのか 準優勝 スバル 3位 三高
となり獲得点数80点と20点でついに一高が1位に躍り出た。
10日目。一高は〈モノリス・コード〉でも優勝し、三高との点数差を100点に広げた。しかし最終日の〈スティープルチェース・クロスカントリー〉の結果次第では、逆転は十分可能な点数差だ。首脳陣は下級生や結果を残した選手とは違い、素直に喜べてはいない。
達也の本当の仕事はここからであり、正直なところ総合優勝などどうでもよかった。克也と深雪に被害が出なければそれでよかったからだ。
最終日、克也は〈スティープル・クロスカントリー〉女子に出場している深雪に語りかけていた。
『深雪、達也が〈パラサイドール〉と交戦中だ。可能な限りスピードを下げて慎重に進むように一高生に伝えてくれ。思った以上に達也が苦戦してる』
『わかりました。可能な限りスピードを抑えるように言います』
深雪は克也との《念話》を切った後、同時に進んでいた一高チームに伝えた。
「できるだけ慎重に進みましょう。後半になればより難しくなるかもしれないから。魔法と障害物の邪魔がどんな風に入ってくるかわからないもの」
「その意見には賛成だね。練習したとはいえ、普通に森を走っただけだから。走るだけなら特段問題なく完走できるんだけどね」
「大丈夫よ!そんなのすぐ避けれるわ!」
同級生一行は納得してくれたのだが、花音は自分の意志を貫くらしく走って行った。その結果、深雪の言葉通りのことが起きる。
「キャー!」
声がしたので向かうと網にくるまれた花音がいた。
「千代田先輩、ゆっくり行きましょう。いいですね?」
「あうぅぅ。わかった…」
深雪が諭したことで花音もようやく理解してくれたらしい。素直に言うことを聞いたのは注意を無視して走ったところ、罠にはまったという羞恥心が大きかっただろう。ただでさえ深雪の言葉には説得力があるのだ。魔法力だけでなく人としても。
それ以降、深雪がゆっくり行くよう指示したことに疑問を抱いたメンバーはいなかった。むしろそれが正しいと感じたようで素直に従っていた。花音の痴態が深雪の言葉の信憑性を裏付けたのは言うまでもない。幸か不幸かは別にして(花音にとっては不幸に違いないが)、克也と深雪の作戦はある意味良い方向に働いていた。
閑話休題
実際、〈スティープル・クロスカントリー〉の練習はスバルの言ったように林間走をしただけだ。障害物の予測ができない以上、深雪の指示はどの観点からみても正しかった。たとえ達也の目的を隠すための理由であっても、生徒の安全を考えれば間違ってなどいない。
『達也、深雪に一高チームにゆっくり行動して欲しいと言っておいたから、気にせず戦ってくれ』
『任せろそのためにここまで来たんだ。そろそろ切るぞ?このままでは戦いづらい』
『わかった。気を付けろよ達也』
達也が集中できるように克也は《念話》を切る。その結果、達也が全ての〈パラサイドール〉を殲滅した5分後に、深雪達は戦闘があった辺りを通った。克也の指示がなければ鉢合わせしたか、〈パラサイドール〉による攻撃を受けていただろう。
深雪は最後に花音が再び罠にはまったのを無視して、〈スティープルチェース・クロスカントリー〉女子を優勝した。花音は2位、ほのかと雫は仲良く5位と6位、スバルは8位となった。
男子は1位 克也 2位 将輝となり、一高は総合優勝を果たした。
最終日には去年と同じようにパーティーが催された。今年は真由美がいなかったので、克也はそれほど疲れはしなかったが、三高の女子に囲まれて将輝に助けを求める羽目になった。後夜祭の後は一高だけのお祝いパーティーが始まり、全員が互いを労っている最中だ。
「今年も司波の活躍で優勝できたな。あいつは今回も負けなしだろ?いつまで続くかが楽しみだな」
「沢木先輩、あまり言わない方が良いと思いますよ」
「冗談だ。そういえば、四葉もなかなかの腕前だったな。七草姉妹・桜井・七宝にも大好評だったようだ。魔法だけでなくCADの調整もできるとは大したものだよ」
「少なからず自分のCADは、自分で調整できるようになりたかったものですから。その知識が今回は役に立ちました」
達也は魔法式の無駄を可能な限り省き、魔法の発動速度を速めて最適に効率化することに重きを置いている。一方、克也は使用者本人のその時々の体調に合わせて調整するため、使用者本人への負担はかなり軽減される。
達也の調整は確かに素晴らしいが、選手への負担が少し多いため克也は微妙な心境になる。本人達の限界を引き出してしまうからだ。だがそれは無理矢理引き出しているのではない。本来持っている最高の魔法力を教えているのだ。本人達は気にしていないようなので告げることはしないが。魔法技能や身体に影響しているわけでないのだから、わざわざ本人達に伝える必要もない。
「四葉の魔法力にはまた驚かされたな。決勝で使った魔法、あれは《夜》だろ?この眼で見られるとは思わなかった。一条選手の驚いた顔を見たときには少し笑ってしまった」
「それ本人に聞かれたら鮮血の華が咲きますよ服部先輩。今回も振動魔法で来るとあいつは考えていたでしょうから、裏をかいて《夜》を使ってみましたが予想通りでしたね」
「違いないな。あの驚き様は振動魔法対抗戦術を考えてきたのに、作戦が役に立たずに愕然とした人間の顔だった。案外純情なのかもしれないぞ、なぁ吉田」
「な、なんで僕に話を振るんですか!?」
幹比古は突然話し掛けられ慌てふためき、その様子を沢木・服部・克也は見て笑っていた。
「七宝の変わり様は目を見張るものがある。四葉のおかげか」
服部はしばらく笑った後に真剣な顔で話しだした。
「そうですね。自己が強いのは変わりませんが自分の意見を貫こうとせず、むしろ他人の意見を吟味して考え直すようになってくれました。だから〈モノリス・コード〉に出場した残りの2人も、七宝をリーダーと認めて作戦を考えて遂行したのでしょう」
琢磨はあの試合以来人間性が大きく変わった。何より変わろうと努力しようとしているのが分かるほど熱心に取り組んでいたため、周囲の信頼を得て上級生からも一目置かれる存在になった。CADを調整した際も、ちゃんとお礼も言い自分なりの作戦を克也に話して、改善点を示して欲しいというお願いまでしてきた。そんな七宝に克也も頑張っているなと思うようになった。
神田議員を追い返すための〈実験〉を行ったときは、香澄へ対抗心をかなり燃やして、入学式の二の舞を演じかけたが。達也と深雪がいつものメンバーと窓際で楽しそうに話していたので、克也も混ざるために友人8人の元へ向かった。