2096年10月1日付で新生徒会が発足した。今期の生徒会は恐怖独裁政治の趣を呈していたが、その配下にある生徒が以前より楽しんでいるという、少々救いがたい現象が発生している。そのことを気にする役員はおらず、前生徒会と何も変わらない穏やかな空気が流れていた。
新生徒会発足初日にも関わらず、克也と達也は先日の家の様子をうかがっていた人造精霊の起動式を記憶領域に保存してこっそりと学校に持ってきていた。放課後に簡単な挨拶を終えて、それぞれが業務に携わってくタイミングで、去る直前の幹比古に見せているところだ。
「幹比古、悪いんだがこれを見て欲しい」
「これは古式魔法の起動式だね。どこで見つけたんだい?」
「昨日、外出中に監視されてる気がしたからちょっと読み取ってみた。それで式神の構造は、流派によって異なるのかどうかということなんだが」
「克也ならそんなことあっても仕方ないか。流派の違いは克也の言う通り見られるよ。僕の家の精霊魔法も自分達なりに改造した物だからね。ん?なんだろうこれ変なアレンジが入ってるね。…なるほど2人が僕に聞いてきた理由が分かったよ」
「どういうことだ幹比古?」
幹比古の納得したような言葉と表情に、達也は何かが分かったのだと思って、好奇心を抑えきれずに聞いた。
「これは明らかに盗撮・盗聴のための式神だよ。違法なことに使用するためのものだ」
「幹比古に聞いて良かった。これは破棄したほうが良さそうだな」
「その方が良いよ」
幹比古は得意げにニコニコしながら答えた。
生徒会の仕事を終えて帰宅途中。俺達がコミューター乗り場で待っていると、突然謎の集団に襲撃されたがあっさりと返り討ちにして全滅させた。
「達也、これを見て欲しい」
「...破魔矢か」
俺の掌に乗っているクロスボウの矢を見るとすぐに答えてくれた。
「古式魔法で
鋭く尖った鏃に触れながら呟く。
「私達を黒羽家が雇った古式魔法師と思ったのでしょうか?」
「それで間違いないと思うよ水波。でも俺達が標的になっているとしたらまずいな」
「克也お兄様、それはどういうことですか?」
「俺達を目的としているなら、周りにも迷惑がかかるかもしれないということだよ。下手をしたら被害が出るかもしれない」
俺の想像に深雪は厳しい顔を浮かべた。周りというのが友人だと理解した結果だ。
「万が一のことを考えて師匠にも頼むか。それとエリカ達にも警戒させた方が良いな。俺は今から師匠のところへ行ってくるから、3人で先に帰っていてくれ」
「了解」
俺は達也と別れて深雪と水波を連れて帰宅した。
翌日の放課後、いつものメンバーを特例で生徒会室に入室させて昨日の事の顛末を伝えた。
「4人とも怪我はないんだね?」
「ああ、大丈夫だ幹比古。悪いがこれを見て欲しい」
昨日拾ったクロスボウの矢を机の上に乗せると幹比古が顔をしかめたが、それ以外のメンバーは疑問符を浮かべていた。この武器に詳しいのは、古式魔法師かそういう物事に精通している者だけだ。だから友人達が首を傾げていても文句などなかった。
「…破魔矢だね」
「ああ、これを使ったとなると俺達を古式魔法師と判断していたと考えられる」
「おかしな話だね。4人は〈九校戦〉で活躍しているから顔ばれしている。なのにこれを使うなんて」
「その通りだ。それを踏まえて考えると俺達を狙ったのは、この国の魔法師ではない亡命か密入国した大陸の魔法師だということだ。もちろん国内の術者という可能性もあるかもしれないが、わざわざこんな道具を使って捕らえにくる必要性を感じない」
「達也の言う通りだと思う。この道具は国内では使われていないものだし、簡単に手に入る物じゃない」
克也と幹比古の会話を聞いて全員が事態の深刻さに気付いた。当事者でないのだから気付くのに遅れても仕方が無いが、もう少し早めに気付いて欲しいと思う。
「克也が言いたいのは何故襲撃されたか背景が分からない。個人ではなく一高生が狙われるかもしれないということだね?」
「その解釈で正しい。1人になるのは危険すぎるから複数で行動して欲しいんだ。〈論文コンペ〉の代表には、既に十分な数の護衛がついているから心配ない。一番心配なのはここに呼んだメンバーだ。俺達が最も親しいのは君らだからな」
克也の言葉に男2人は照れ、エリカは何故かにやりと笑っていた。美月はやや怯えていたが。
「雫はほのかを家に泊めてあげて欲しい。幹比古は美月を頼む。このメンバーの中で狙われやすいのは美月だと思っている。特に彼女の能力を知られるわけにはいかない。問題はレオとエリカだが、先生に頼んでおいたから大丈夫なはずだ。見えない不安はあるかもしれないけど、実力は申し分ないから気にしなくていい」
全員が素直に頷いてくれたのに満足して、克也達はほっと息を吐いた。
数時間後、生駒に4人は来ていた。呼び鈴を押すと意外にも藤林が出てきたので、4人は少しばかりその場で呆然としている。
「藤林さんが来るとは聞いていましたが、案内役まで買って出るとは思いませんでした」
「2人をイジってみたかったから」
「…本人がいる前でそれを言いますか?」
他愛ない会話をして謁見室に入ると、既に烈はソファーに座っていた。
「本日はお時間を頂きありがとうございます」
「そんなにかしこまらないでくれ。去年の〈九校戦〉の時のように普通に話して欲しい」
達也の社交辞令に烈はかぶりを振り、孫を見るような穏やかな眼でお願いをした。
「ではお言葉に甘えまして。今回の用件ですが」
「それは
「その通りです」
「では克也君は参加しているのかね?」
「自分は
克也の炎が灯ったような眼の光を見て、思わず烈は少し腰を引いてしまう。克也は〈パラサイドール〉などという危険兵器を作った上に、それを〈九校戦〉で精度実験を行い、達也に怪我をさせたことに怒っていた。達也は気にしていないようだったが克也は許せていない。自分達が必死になって捕らえた〈パラサイト〉をかっさらい、自分の欲望のままに動いたのだから。
「〈十師族〉には非常事態を除き、師族会議を通さずに共謀・協調してはならないというルールがある。だから今回は九島家としては協力できないが、九島烈個人として達也君の要請を受けよう」
「ありがとうございます」
つまりは周公瑾の危険性を、それなりに認識しているということだろう。
10分程度の面会だったが、克也達にとって協力を得ることができたのは大きな収穫だ。今克也達は藤林に誘われて、友人としての食事をするために接待用食堂に座っていた。ドアがノックされて開かれると、見目麗しい同年代の少年が入ってくる。その美貌に深雪と水波は息を飲んで達也でさえ驚いていた。
「第二高校1年九島光宣です。よろしくお願いします」
「第一高校2年司波達也だ。よろしく光宣」
「同じく司波深雪です。よろしくね光宣君」
「1年桜井水波です。よろしくお願いします光宣様」
「久しぶり光宣」
「克也兄さん!」
「ごふっ!み、光宣し、死ぬ…」
達也達の自己紹介を聞いたあと克也が挨拶すると、光宣がとんでもないスピードで克也に接近して抱きしめた。その力に克也は呼吸がままならなくなり悲鳴をあげている。
「克也兄さん、会いたかったよ!」
「…光宣君、克也君が死んじゃうから離してあげて」
藤林の言葉に光宣が我に返り解放すると、克也はその場に崩れ落ちて屍と化していた。その様子を見ていた達也はポツリと呟く。
「光宣君はどうやら克也のことを、本当の兄のように慕っているようだな」
「それは仕方ないわ達也君。光宣君の身体を一時的にとはいえ、正常な状態に戻してくれるんだから光宣君がそう思うのが普通よ」
「克也は治したことがあったのか?」
「…ああ、
ようやくダメージから回復したようで、椅子にしっかりと座れるようになっていた。光宣が席に着くと料理が運ばれていく。準備が整って食事をしていると光宣が話題を出した。
「達也さんの仕事は、〈伝統派〉の術者を捕まえることですか?」
「大体そうだ」
「でしたらお役に立てると思います。〈伝統派〉の拠点が集中しているのは京都ですが、奈良にも拠点と呼ばれる場所が少なからずありますので」
「拠点?」
「〈伝統派〉というのは魔法結社だけど、1つの組織から成り立っているわけじゃないの。少なくとも10を超える魔法師の集団の連合体なのよ。だからそれぞれの集団ごとに本拠地と呼ばれる拠点があるわけ」
藤林の補足に4人は納得した。
「だから〈伝統派〉が起こした事件でも、違う流派の式神で似た性質を持つ魔法が使われていたんですね?」
「その通りよ。あらゆる流派が混ざっていたから、最近までどこの組織なのかが分からなかったの」
「分かりました。それじゃあ頼むよ光宣君」
「光宣と呼んで下さい達也さん」
「分かった光宣。明日はよろしく」
「任せて下さい」
その言葉を最後に口は夕食を食するために動かされた。たまに藤林が光宣の黒歴史を暴露し、光宣が怒るという楽しい時間が過ぎていった。