魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第52話 治療

夕食を食べた後、克也は水波が食器を洗っている間に、達也からのメールを読んでいた。

 

『幹比古達が忍術使いを含む〈伝統派〉に襲撃されたが、返り討ちで捕縛。一条がその時に援護してくれたらしい。幹比古の予想では、周公瑾が〈伝統派〉に匿われているのではなく、乗っ取っているのではないかということ。そして宇治川に京都の魔法師が結界を張っているため、周公瑾は宇治川を越えてはいないのは確実。京都市街区から出ているのであれば伏見より南、宇治川より北に潜伏している』

 

ということだった。よく1日で分かったなというのが本心であり安心要素だが、居場所の把握ができていないということが不安材料だった。

 

克也は今回自分の参加が認められていないのは、「分家の不満を紛らわせるため」「達也の忠誠心を試すため」という結論に至っており、真夜が仕方なく命じたと見いだしていた。確信ではないが8割方そうだと思っている。

 

それであれば「文弥達にわざと尾行をつけさせ、達也の家に連れてきた」のも納得できるし、「克也の手助けなしで任務を成功させなければならない」ということも頷ける。

 

達也が捕縛に成功すれば、分家の当主達は良く思わないだろう。おそらくその時に会合を開いて達也の処分について話し合うだろうから、その時に文句を言えばいいと克也は思った。

 

考え込んでいると電話が鳴り、出ると不機嫌そうな光宣が画面いっぱいに映った。

 

「どうした?光宣」

『…嘘つきましたね?先月来てくれるって言ってたのに』

 

どうやら今回、克也が京都に来なかったことに怒っているらしい。誤解を解かなければならないと思うのだった。

 

「それは誤解だ光宣。俺だって行くつもりだったさ。でも生徒会長と副会長が、そろって学校を離れられるわけがないだろう?もう1人副会長がいるとはいえ、1年生1人に任せっきりにするのは可哀想だ。プレゼンの指導や人員不足の現場に生徒を派遣しなきゃならない仕事もあったんだ。1人でも多くの〈論文コンペ〉を知っている人間が必要だろう?」

『うう、分かりました。でも、来週は来てくださいよ?約束ですからね!』

「分かった約束するよ。またな」

 

電話を切ると、水波がアイスティーを持って来てくれたので礼を言って口に含む。

 

「光宣様からだったのですか?」

「ああ、先月会う約束をしたが会えなかったことに拗ねていた。あれはほのかの男バージョンだな」

 

克也に同感のようで水波も笑っていたが、また電話が鳴り出ると意外にも将輝からだった。将輝が移る直前に水波は、テレビカメラの枠外へと避難していた。

 

「将輝か。どうした?」

『久しぶりだな克也。今日俺が京都で吉田君一行を助けたことについてなんだが』

「ああ、さっき達也からのメールで見た」

『そうか。どうやら今回もきな臭いことになっているようだ。〈論文コンペ〉までにあいつを捕まえなきゃ腹の虫が収まらん』

「奴のことを知っていたのか?」

『…〈横浜事変〉の時に建物へ逃げ込んだゲリラを引き渡すように命じた際、捕獲して差し出してきた男がそいつだった。あの時は協力してくれたのだと思ったんだがな。どうやらはめられていたらしい』

 

どうやら〈スティープルチェース・クロスカントリー〉の話をした際、顔をしかめていたのだがこのことだったようだ。

 

「悩むなよ将輝。お前があの時そう思っても仕方ないさ。俺であろうと達也であろうと十文字先輩だろうと、お前の立場だったら不信感はあっても疑わなかっただろうさ」

『ああ、ありがとうおかげでスッキリしたよ。それよりなんだあのCAD(・・・・・)は?見たことないぞ』

「それは秘密だ。じゃあな」

『あ、待て、おいこら!』

 

将輝の言葉を無視して電話をぶち切る。

 

将輝が言っているのは今年の〈九校戦〉で、〈スティープルチェース・クロスカントリー〉の異質さを話していた時に、一条家が種目変更の真実を見つけると約束したことだ。その際可能な限りのお礼はすると克也は言った。将輝が情報をくれたのでお返しにCADを送ったのだが、それはFLTで将輝のためだけに作ってもらった特注品であり非売品でもある。

 

将輝の好きな赤をベースにした色合いで、形は〈シルバー・ホーン〉に似ているが名称は決まっていない。名称を将輝に付けてもらおうと思い、命名せずに先週郵送した。

 

見れば誰もが非売品であると気付く代物なのだから、何か言ってくるのは分かっていたので無理矢理電話を切ったのだ。おそらくメールで文句を言ってくるだろうが、直接(電話も直接とは言わないが、画面越しに話せば直接と言えなくもない)言われるよりはマシだ。

 

 

 

寝室に入りドアを閉めようとすると、水波が隙間から部屋に滑り込んできた。

 

「水波、どうした?」

「今日は達也兄様と深雪姉様がおられませんので、同じベッドで寝ようと思いまして」

 

水波は寝る気満々のようだ。たまにはわがままを聞いてあげるのも先輩且つ義兄の務めだろう。

 

「いいよ水波。おいで」

 

水波は嬉しそうにベッドに潜り込んできた。

 

そして翌日、水波が起き出す前にこっそりベッドから抜け出し静かに眠らせてあげた。水波がまたしても俺を抱き枕にして寝ていたのは、言わなくても想像がつくだろう。

 

 

 

 

 

早朝、土日の日課であるランニングを終えて、シャワーを浴びてから地下室で新魔法の基礎設計の最終調整をしていると、水波から内線で連絡があった。

 

「水波、どうした?」

『達也兄様からの緊急連絡です。光宣様が体調を崩したので至急来て欲しいと』

「わかった。準備するから水波も頼む」

『かしこまりました』

 

水波に返事をしてから、理論データを保存してパソコンの電源を切る。今日1日で理論と基礎設計が完成できると思ったんだが仕方ないか。想定外のことが起こるのはいつものことだし。

 

克也は京都へ行く準備をするために自室に向かった。

 

 

 

数時間後、光宣が寝込んでいるホテルに到着した。

 

克也は京都に向かう間、水波の距離がいつもより近い(正確には10cm)ことに気付いたが、毎回毎回同じ距離が保てるわけがないから仕方ないと思い、気にしないことにしていた。2人の距離が普段より近いのは、好きな人に甘えたいという気持ちが行動に表れたものだと気付いていない水波であり、水波が自分を好きだと気付いていない克也の天然が合わさった結果だった。

 

やはり克也は、達也が去年の〈九校戦〉で言われていた「朴念仁」という言葉に当てはまるのだろう。双子なので傾向が似ていてもおかしくはないので、今は何も言わないでおこう。

 

 

閑話休題

 

 

「光宣、大丈夫か?」

 

達也に部屋番号を聞いていたのでわざわざ連絡する必要も無く、用件を伝えてホテルマンにマスターキーで開けてもらった。達也から聞いていたらしく疑わずに案内してくれた。

 

「克也兄さん、来てくれたんですね!?」

「気持ちは嬉しいが興奮するな光宣。身体に悪いから落ち着け」

 

起き上がろうとする光宣を手と言葉で押しとどめる。

 

「水波、空気の換気を頼む。いくら気温を下げないためとはいえ、ここまで空気が悪ければ別の病気にかかりそうだ」

「かしこまりました」

 

空調システムでも換気は可能だが、人間の手で換気して自然な空気を取り入れる方が、精神的にも衛生的にも効果はいい。水波に頼んだあと、《回復(ヒール)》で光宣の想子の活性化を抑えて身体の破壊を押しとどめる。

 

克也は光宣が【調整体】であることを初めて治療した頃から知っており、普通の魔法師の想子と比べて規格外に活性化していたのを視て、〈想子体〉が壊れていることに気付いた。しかし何故想子がここまで活性化するのかまでは分からなかった。克也は光宣が実の兄妹の間に生まれていることを知らない。光宣自身も藤林も。そして遺伝子提供した兄妹でさえも…。

 

「ありがとうございます。やっぱり克也兄さんの治療が一番効果的です」

「といっても応急処置程度しかできないよ。完治させることは俺にもできないから、九島家に早く特効薬でも良いから開発してもらいたいものだ。明日からは魔法を使っても良いが、今日1日は絶対安静だ。藤林さんはいつ来る?」

「分かりました今日は大人しくしています。響子姉さんは仕事が終わり次第来ると言っていました。たぶん夕方頃になると思います」

「そうか。俺と水波は隣の部屋にいるから何かあったら呼んでくれ」

「分かりました」

 

光宣が目を閉じて規則正しい寝息を立て始めたのを確認し、電気を消して窓のカーテンを閉めてから隣の部屋に移る。水波が煎れてくれたアイスコーヒーを一気に飲み干しておかわりを頼む。

 

「克也兄様、光宣様の原因がお分かりになったのですか?」

 

遮音フィールドを張っているので光宣には聞こえない。治療している間の俺の空気の揺らぎを察知していたらしく、勘の良さに舌を巻いてしまう。

 

「みんなには内緒だ。もちろん達也と深雪にも今はね」

「はい」

 

水波の受け入れる覚悟が出来ているのを確認して話す。

 

「光宣は【調整体】だ。そのため想子が尋常じゃないほどに活性化している。それも普通の魔法師じゃ耐えられない圧力に。でも活性化しているから光宣の想子体の回復も早い。破壊と回復を高速に交互に繰り返しているから、体調を崩しているんじゃないかな」

 

俺の言葉に水波は自分と【同じ存在】である光宣に同情していた。自分の心臓が締め付けられるような幻痛が走り、無意識に心臓の辺りを手で触れ、痛みを押さえ込んでいた。

 

 

 

達也達が帰ってくるまで、克也は新魔法を使用するための試作CADの設計を考えていた。

 

「効率よく魔法を発動させるためには、ソフトに比重を置くべきだが、想子消費を考えればハードを優先させるべきだ…。やはり魔法を最短且つ強力に発動させるためには、俺の処理能力と発動速度に頼るしかないか」

 

克也は呟いているが遮音フィールドは張っていない。このホテルは四葉が展開している企業の傘下が経営しているため、盗聴などは気にしなくていい。新魔法のことはいずれ話すことになるだろうから問題ないが、光宣のことはバレたくなかったので遮音フィールドを展開していた。

 

今、水波は机に身体を預けて可愛らしい寝息を立てて眠っている。克也が疲労のある水波を、《癒し》で眠気を浮かび上がらせ眠らせたのだ。魔法を使うより自然に回復させた方が精神的な回復は高い。汗だくになって魔法で乾燥させるより、シャワーで洗い流した方がスッキリするのと同じ原理だ。近づいてくる人の気配がしたので、水波を起こして迎えの準備をする。

 

「藤林さん、ご苦労様です」

「こちらこそごめんね。光宣君を任せて」

「気にしなくてもいいですよ。藤林さんが仕事で来れないのは仕方ないですし、治療方法がある俺が看病するのは当然ですから」

 

光宣が眠る隣の部屋で、水波が煎れたコーヒーを藤林さんの飲み干す。一息ついてから眼で水波にお礼を言い、俺に謝罪してきたので軽く流した。

 

「そろそろ達也が帰ってくるので少し待っていて下さい」

 

言葉通り10分後に達也が帰ってきた。藤林さんは達也に光宣を視て欲しいと頼み、達也は仕方なく受け入れた。達也が原因の一部を伝えていると幹比古たちが帰ってきた。

 

「あれ?なんで克也君がいるの?」

「光宣が体調を崩したから看病に来たんだ。ところで将輝は?」

「そのまま金沢に帰ったよ。事情を伝えに帰ったんじゃないかな?」

 

確かに今帰らなければ、夜までに帰宅するのは難しいだろう。妥当な判断だ。

 

「で、今日の結果は?」

「こっちは襲撃のあとの事情聴取で1日終わりだ」

「将輝と七草先輩の名前を使っても、簡単には終わらせられないほどの事態だったのか?」

「ああ、こっちは一条の《爆裂》で手足をもいだ程度しか攻撃していないんだが、向こうが自滅攻撃してくれたせいで、情報らしきものは何も出なかった。想子センサーや監視カメラには、向こうが先に攻撃したのが映っていたんだがな」

「自滅攻撃?」

 

レオの質問は自滅した攻撃方法に対しての質問だった。

 

「襲撃者は蛇または竜の巻き付いた剣を炎で作り上げたんだ。何か分かるか?」

「…達也、それは《倶利伽羅剣(くりからけん)》じゃないか?」

「克也は知ってたの?」

「一時期、古式魔法を勉強することにはまっていた時があってその時に知ったんだ。それを自らなのか強制的なのか分からないけど、使ったのであればただじゃ済まない」

「使わせるとどうなる?」

「…」

「…手が燃える」

 

達也の質問に克也が黙っていると幹比古が代わりに答えてくれた。その答えに全員が眉をひそめる。

 

「…魔法で形作られているとはいえ、《倶利伽羅剣(くりからけん)》の炎は具現化したものだ。それを無理矢理握らされているんだから燃えるのは道理だよ」

「厄介な相手だったんだな。それよりも俺は1日多くこっちに残る。みんなは帰ってほしい」

 

達也のお願いに藤林と光宣以外が反対しようとしたが、俺が止めた。

 

「達也は立場上(・・・)残らなきゃならない。幹比古は風紀委員長だ。学校を2日連続で欠席するのはあまりよくない。エリカとレオは実習が溜まっているんだから帰らなきゃまずい。俺と深雪は生徒会長と副会長だ。2人そろって欠席するのは学校運営に支障を来す可能性がある。だからみんな堪えてくれ」

「分かったけど実習の課題手伝ってよね」

「俺の分もだぞ?」

「…わかったよ」

 

俺の言葉に全員が渋々納得してくれた。2人ほど要求があったが言うことを聞いてくれるのだから我慢しなければならない。俺は仕方なく頷いた。

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