魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第55話 指名

12月29日土曜日、克也達が本家に赴く日が来た。今は既に本家に着いているのだが、道中に分家が何か仕掛けてくるかもしれないと克也は警戒していた。しかし気の抜けるように特に何もなかった。どうやら会合に侵入して恐喝したことで、達也の追放を留めてくれたようだ。

 

万が一襲撃してくれば容赦なく殺すつもりだったので、無駄な労働をしなくて済んだことに安堵していた。ちなみに達也と深雪は、〈論文コンペ〉の日に克也が何をしたかは知らない。辰巳の運転で本家に来たのはいいが、使用人として仕えていた水波が、自分達と同じ部屋にいることに4人とも首を傾げていた。

 

「何故、水波ちゃんがここにいさせられるのでしょうか?」

 

深雪の言葉は水波にいてほしくないわけではない。使用人ではなく客人として認識されていることに、大きな違和感を覚えたが故だった。

 

「克也のボディーガードだからということなのか。それ以外の何かがあるのかもしれないけど」

「何か…ね」

 

達也の言葉に克也は無意識で呟いたが、誰からも追求はなかった。

 

「叔母上との約束の時間まで1時間しかない。その間に休んでおけってことかもね」

「ならよいのですが」

 

真夜は19時から候補者及びボディーガードを食堂に集め、次期当主を指名するつもりなのだろう。

 

〈慶春会〉で発表した際に、醜態をさらさせないための配慮なのだろうが、「せっかく準備する時間をあげたのだから失敗したら許しません」とでも言いたげな真夜の高らかな笑い声が、頭の中にわいてきたので克也はかぶりを振って追い出す。その様子を水波達が不思議そうに見ていたが、何でもないと手を振り気にしないように促した。

 

 

 

18時50分になり克也達は食堂に通された。深雪は一番端に、そして達也・克也・水波の順に座っている。深雪の隣は真夜の席であるため、つまりは2番目の上座に座るよう暗に意味されていた。

 

少しして文弥・亜夜子・夕歌・勝成がそろう。あとは真夜を待つだけになったのだが、達也と水波は居心地の悪さを感じていた。ボディーガードでしかない自分達が、何故このような場所に座らせられているのか理解できていなかったのだ。亜夜子はボディーガードではなく、補佐役に近いので納得できる。

 

自分達は間違いなく場違いである。

 

そのように感じてはいるが達也達の勘違いだ。克也・深雪を除いた亜夜子を含む4人は、達也と水波がここにいることに異議を唱えていない。むしろいなければならないという共通の思いを胸に秘めていた。達也は自分達を凌駕する能力を持ち、水波は第二世代の『調整体』にも関わらず、〈十師族〉に匹敵する魔法力を持っている。そう認識しているため何も言わず、単に2人が勝手にそう思っていただけだった。

 

「みなさん今日はよく集まってくださいました。そこまでかしこまる必要はありません。気楽にして下さいな」

 

真夜が現れたことで空気に緊張感が走るが、言葉を聞いて少し空気が和む。

 

「今日呼んだのは他でもありません。明日の〈慶春会〉でいきなり次期当主を発表されては気持ちの整理がつかないでしょうから先に伝えておきたいと思い、事前に皆さんに集まっていただきました」

「御当主様、少しよろしいでしょうか?」

「何かしら?」

 

文弥が真夜の言葉の後に手を上げて、許可を求めたことには驚いたが、真夜が優しく聞いたおかげで、克也の気持ちは空回りしなかった。

 

「失礼します。私、黒羽文弥は次期当主候補の地位を返上し、司波深雪さんを推薦いたします」

「私も失礼いたします。私、津久葉夕歌も地位を返上し司波深雪さんを推薦いたします」

「それは構いませんがお二人はご実家を継ぐおつもりかしら?」

「自分は次期当主決定次第で決めさせていただきたいと思います」

「私はそのつもりでございます」

 

文弥はそう言うだろうと分かっていたが、夕歌まで言い出すとは思わなかった。津久葉家は達也に対してはまだ友好的。悪く言えば無関心の立場を取ってきたため、どうなるか予想できなかった。

 

「克也はどう思いますか?」

「自分を除く次期当主候補の方々ならば、どなたでも次期当主に推薦しても間違いはなく、それぞれが相応しい当主になると思っています。なので特に言うことはありません」

「勝成さんはどうですか?」

「自分勝手であり、責任放棄なのは重々承知の上で申し上げます。私は真夜様と他の次期当主候補のご意向に任せようと思っております」

「責任放棄ではないとは思いますけどいいでしょう。では発表します。次期当主は…」

 

真夜の言葉に全員。いや、深雪だけが緊張していた。全員が真夜が誰を指名するのか理解していたので、何も言わずに言葉を待っている。

 

「深雪さん、貴女を次の当主とします」

「…はい」

「次期当主候補の方々が貴女を推薦しているのですから、期待を裏切らないように心懸けなさい」

「期待を裏切らないように誠心誠意精進して参ります」

 

真夜の宣言と深雪の覚悟を全員が受け止め、納得した表情でお辞儀をする深雪を見つめていた。

 

 

 

食事が終わると、真夜が深雪・達也・克也・水波に残るよう命じる。それから他の候補者を真夜は送り出した。全員の前に紅茶が置かれ、葉山を含めた執事が退室して真夜が口を開く。

 

「さて深雪さん。貴女は次期当主になりましたけど、当主となれば結婚相手を決定しなければなりません。しかし自由な恋愛は認められません。これは理解されていますね?」

「…はい」

 

深雪は固い声で返事をして真夜の決定を待っていた。

 

「結婚相手を発表する前に大切なことを教えます。克也と達也さんは、貴女の本当の兄(・・・・)ではありません」

 

その言葉に4人が驚愕する。

 

「何故なら2人は私の息子(・・・・)なのだから」

 

更に4人は驚愕し、深雪と水波は手で口を押さえて声が漏れないようにしていた。

 

「叔母上、それは事実なのですか?俺と達也が深雪の兄ではないという証拠はどこにあるのでしょうか」

「貴方達は私が事故に遭う前に保存していた卵子を受精させ、姉さんを代理母として生まれた双子なの」

 

その言葉を聞いて2人は驚くより真夜を疑った。人を殺すような視線とも言える鋭さで真夜の眼を見据える。その様子に真夜は不自然なほど落ち着いた表情で、何故か優しく見つめ返していた。

 

「…後ほど詳しくお聞きしても良いですか?」

「ええ、親子水入らず(・・・・・・)で話しましょう。深雪さん、貴女の結婚相手を発表します。準備は良いですか?」

「…はい」

 

深雪の言葉には、覚悟と「もしかしたら」という気持ちが込められていた。

 

「貴女の結婚相手は達也さんです。達也さんは深雪さんの婚約者兼ボディーガードとして、これからも傍にいてあげて下さい」

「かしこまりました」

 

達也は潔く受け入れていたが、深雪は胸を押さえて前屈みになっていた。歓喜のあまり張り裂けるような痛みを、まさに痛感していたのだ。

 

「それから克也は、深雪さんの補佐役として仕えてあげて下さい」

「叔母上、それは構いません。ですが水波がここにいる理由をお聞かせ願いたいです」

「何故聞きたいの?」

「ボディーガードとしてここにいるのであれば、勝成さんも2人を連れてくるはずでしょう。達也と水波がここにいるのは、単に能力を認められているからではないはずです。現に達也は深雪の婚約者に選ばれました」

「さすがね。克也の洞察力には驚かされます」

「恐縮です」

 

克也は喜びを一切感じさせない冷たい声音で返事をする。

 

「褒めてはいないけど教えてあげる。水波ちゃんは克也の婚約者です。そのためにこの場へ呼びました。〈慶春会〉で深雪さんの次期当主発表と婚約者発表をします。その時に達也さんはもちろんのこと、克也と水波ちゃんにも出席してもらいます」

 

半ば予想していた答えだった。だが実際に言われると、感情の揺らぎを抑えることはできなかった。水波は深雪同様に前屈みになっていたが、深雪と違うといえば涙を流していたことだろうか。

 

「2人は〈慶春会〉のために自分を磨かなければなりせんね。葉山さん」

 

真夜が名前を呼ぶと葉山が入ってきた。

 

「葉山さん、白川夫人を呼んでちょうだい。深雪さんと水波ちゃんの入浴に何人か手配して」

「かしこまりました」

 

葉山が白川夫人を呼んで2人を浴場に連れ出した後、真夜はようやく口を開いた。

 

「それじゃあ、私達も移動しましょうか」

 

 

 

2人が連れて行かれたのは真夜の書斎だった。達也が室内を不思議そうに見回していたので聞いてみる。

 

「達也、どうした?」

「いや、ここはいつも電話していたところとは違うのだなと思ってな」

「ああ、あれはまた別の部屋だよ。ここは俺・葉山さん・HARのメンテナンス業者しか入ったことがない部屋だ。正確には叔母上のプライベートスペースだな」

「何故お前が?」

「魔法事故の後、最初に目を覚ましたのがこの部屋だったんだ」

「何故ここに?」

「叔母上のせいだろうね」

 

話ながら真夜にチラッと眼を向けると、頬を赤くして眼を逸らした。そんな様子に克也が笑みを浮かべると、達也もぎこちないが笑みを浮かべる。ここに来た意味を忘れかけるような話をしていると、葉山が自然な流れで問いかけてきた。

 

「達也()のコーヒーはブラックでよろしいですか?克也様は砂糖なしにミルク少々でよろしいですね?」

「…ええ」

「よく覚えてましたね葉山さん。3年間も俺のを作っていないでしょうに」

 

達也は葉山の呼び方に戸惑っていた。これが一番大きな変化だっただろう。「様」と葉山に呼ばれるとは思いもしなかったのだから。

 

「叔母上、何故あのような嘘をついたのですか?」

「嘘なのか達也?」

 

葉山が克也と達也にコーヒーを、真夜にハーブティーを置くのを待ってから、達也は静かに聞き始めた。

 

「ああ、俺達と深雪を形成している遺伝子は同じだ。ここに呼ぶための手段だったんじゃないかなと思ってな」

「確かにあんなことを言われれば後々聞こうと思うからな。それで本当なのですか叔母上?」

「ええ、嘘よ。貴方達2人は姉さんの子供です。でも深雪さんと兄妹ではないというのは、あながち間違いじゃないのよ?だって深雪さんは【調整体(・・・)】だから」

 

今度こそ驚愕に固まった。

 

深雪が【調整体(・・・)】…?ありえない。そんな兆候は見られなかった。この17年間一度も。思うかもしれないとすれば、完璧すぎる容姿とプロポーションだろう。左右対称の肉体など本来ならばありえない。人間はどうしようと体質・成長過程で、身体の左右のバランスが変わるものだ。だが深雪は機械を使って測定しようと同じ数値となる。だがそれは数値化しないとわからない変化であって、わざわざ気にすることではない。女性は気にするかもしれないが。

 

「2人が驚くのも仕方ないわ。深雪さんは【完全調整体(・・・・・)】とでも言える四葉家の最高傑作だから。2人をもってしてもこれまで気付けなかったのでしょうね。達也さん、姉さんなら貴方の力を一時的に抑えることは可能だった。でも、確実に貴方より先に寿命を向かえる。その際、貴方を抑えられる存在が必要だった。そのために深雪(・・)は造られた。深雪(・・)は貴方のために造られた存在。あの子がいなくなれば貴方は世界を滅ぼす。だから達也(・・)深雪(・・)を娶りなさい。拒否は許しません。それに産まれてくる子供のことも心配しなくて良いわ」

「…拒否も何も。俺は深雪を突き放すことはできません。気持ちの整理をする時間が必要ですから、今すぐに受け入れろと言われても無理です」

「それでいいの。少し外で待っててもらえる?克也と話したいことがあるから」

「分かりました」

 

達也が部屋を出て行ったことを確認した後、真夜は克也に向き合った。

 

「まずはおめでとうと言うべきかしら?」

「ありがとうございますと言うべきでしょうか?俺も達也と同様に気持ちの整理ができていません」

「それは分かってるわ。でも喜ぶべきではなくて?水波ちゃんと婚約したのだから」

「婚約できたことは嬉しいですが、俺は自分が水波のことを好きなのか分かりません」

 

嘘偽りなく克也の言葉は本物だ。

 

水波は可愛らしく気品があって人望も文句がない。メイドとしてのプライドなのか変なところでわがままになることがあるが、基本は素直で真面目である。見た目や人柄だけで結婚できて嬉しいわけではなかった。

 

「克也でも分からないことがあるのね」

「人間は自分のことを完全に理解することなどできません。達也でさえ、残っている感情でも理解に苦しんでいるぐらいですから。達也に劣る俺が理解できるはずがありません」

「固いわね。でも、貴方は知っているはずよ。自分が水波ちゃんのことを好きだということを。今までなかった?水波ちゃんと一緒にいて嬉しかったことや楽しかったこと」

 

真夜に言われて、そういった思い出は幾つか簡単に浮かんできた。だがそれが好きという感情に当てはまるのか分からなかった。

 

「俺にとって大切な存在であるのは確かです。しかし深雪と同じ感情を抱いているとは思っていません。深雪に向ける気持ちと水波に向ける感情が違うのは分かっていますが、それが好きという感情に繋がるかは分かりません」

「以前付き合っていた市原鈴音さん。いえ、一花(・・)鈴音さんとの時は感じなかったの?」

「鈴音があの一花(・・)だったとは…。よくそのことがわかりましたね」

 

この瞬間まで克也は鈴音が《一花家》であり、《数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)》だとは知らなかった。話してくれてもよかったのではないかと、克也が思ったかは定かではない。鈴音が交際相手でさえ言わなかった。いや、克也だからこそ(・・・・・・)言えなかったのかもしれない。四葉家の名前に恐れて言わなかったのではない。好きな人だからこそ知られたくなかった。

 

知られるならもっと深い関係、もしくは婚約者になる時まで。四葉家と克也を信じなかったわけではないのだ。ただそうであると言えなかった。それだけのことだろう。鈴音に限らず、《数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)》はその素性を明かさない。失敗作の烙印をおされたことを引け目に感じているからだ。

 

魔法社会は一般社会と比べて、より実力主義な界隈である。魔法力が多少あっても、よほどの希少能力でもない限り生き残ることは難しい。されど魔法力が高ければ安定は保証される。事故に遭わなければという条件付きだが、これは一般社会においても同じことだ。だが今まで魔法を使えていたものが、使えない存在になると扱いは最悪だ。腫れ物を見るかのような冷たい視線に晒される。

 

だが克也達はそんなことなど気にしない。《数字持ち(ナンバーズ)》だろうと一般魔法師だろうと同じ扱いだ。

 

「この際、鈴音のことは置いておきましょう。鈴音と水波に向ける感情が別の種類の感情だとは理解しています。水波に向ける感情は俺の中で深雪と同じように妹である感情、女性として見ている感情が入り交じっていますから」

 

克也にとって水波は守るべき妹的存在であり、気持ちの切り替えは難しい。

 

「今はそれでいいわ。この先気付いてくれればいいから。それから達也さんのように、子供のことは気にしなくてもいいわ」

「何故でしょうか?」

「貴方の遺伝子には、【調整体】の不安定な遺伝子を正す能力があります」

「それは固有魔法《回復(ヒール)》の影響ですか?」

「その通りよ。これが分かったのは私の叔父であり、貴方の大叔父である四葉英作の能力によるものです」

「俺が幼いときに知ることができたのですか?」

「それがあの人の能力だったから。どのように知ることができたのかは教えてもらえず、ついには私達にも分かりませんでした」

 

真夜が残念そうに話すので克也は本心だと思った。

 

「水波に黙っていて良い話ではありませんね」

「ええ、そうした方がいいでしょうね」

「ではこれで」

「達也さんも連れて入浴してきなさい」

「分かりました」

 

 

 

部屋を出ると達也が壁に背を預けて眼を閉じていた。

 

「達也、終わったよ」

「遅かったな」

「思った以上に内容が重くてな」

 

予想外の内容の濃さに、案外長時間にわたって話していたらしい。

 

「水波のことはどうするんだ?」

「受け入れるよ。ただ心の準備ができていないから、これからどう接したらいいか分からない」

「俺も深雪のことを受け入れきれていないから、人のことは言えないけどな。それに友人達が知ったら、大騒動になりそうなのが一番の心配事だ」

「それはどうしようもない。叔母上が決めたことに反対することは、叔母上と四葉を裏切ることになる。今ここで裏切れば俺達の周りは敵だらけになる。俺達の力じゃ2人を守り切れないし、何より2人を突き放すことができない」

「ああ、それに深雪と水波は今の状況を受け入れることに精一杯だ。これ以上追い詰めるようなことをしたら、どうなるか想像もつかん」

「だから今は〈慶春会〉のことだけ考えよう」

 

克也の肩を軽く叩き、着替えを取りに部屋に向かった。

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