魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第56話 戸惑い

入浴を終えて部屋に戻ると、和室に清潔に保たれているであろう布団が敷かれていた。何故か布団が1組に枕が2つ。どういうことなのか分からず、お互いに眼を見ながら首を傾げていた。その時、ドアのノックが聞こえたので開けると白川夫人が立っていた。

 

「克也様の部屋は別にご用意させていただいております。そちらに移動をお願いします」

「…分かりました」

 

疑問を抱きながら白川夫人のあとをついて行くと、達也のいた部屋からかなり離れた一室に通された。先ほどいた部屋と同じ作りであり、布団が1組で枕が2つなのも変わらず。叔母の考えが分かり、久々に頭痛に悩まされたが達也に《念話》で伝える。

 

『…こっちも同じだったよ達也』

『連絡が遅かったな。そんなに遠かったのか?』

『結構歩いた気がする。移動距離にして50mぐらいか?』

『…離すにも限度があるだろ。叔母上は何を考えているんだ?』

仲を深めろ(・・・・・)ってことだろ。こんな用意をわざわざさせるんだから。叔母上の場合はその意味がずれてる気がする』

『…そういうこと(・・・・・・)をしろということなのか?』

『〈慶春会〉前にそんなことをさせるか?当日に醜態をさらすことになるぞ。多分叔母上は、俺達4人が動揺するのが見たいんじゃないかな』

『…なかなかいい性格をされているな叔母上は』

『達也がそれを言う?』

『お前にも言われたくはないが…深雪が帰ってきたから切るぞ?』

『こっちも感じた。水波も帰ってきたみたいだから切る』

 

達也との連絡を切り、少し気を抜いているとドアを開けて水波が入ってきた。

 

「お待たせしました。こ、これは!」

「いや、俺がしたのでは…っ!?」

 

部屋に入ると自然に眼に入る位置に和室があり、その場所に克也が立っているため、克也が敷いたかのようなことになっていた。弁解しようと声を出したが最後まで言えなかったのは、水波の様子に驚いていたからである。

 

何人もの使用人によって磨かれたであろう水波は、普段から美少女であったが、今では深雪にも劣らない美貌に変化していた。浴室が暑かったのだろうか。単衣(ひとえ)だけでも全く寒そうに見えない。遠くで達也の動揺した気配を感じたので、自分と同じような状況になったのだろう。水波でさえこうなのだから、深雪ならどうなるのか想像したくもない。

 

「水波、先に言っておくが俺が敷いたんじゃないぞ。ここに移動させられたときにはこうなっていたんだ」

「いえ、克也兄様を疑っているわけではないのですが。驚いていましてどなたがこうされたんでしょうか」

「誰がこうしたのかは分からないが命じたのは叔母上だろうな。とにかく寝ようか明日は朝から忙しいだろうから。でも寝る前に話しておきたいことがある。布団で待っていてくれ」

「分かりました」

 

克也が着替えている間、水波は寝る準備をしてくれた。顔が赤いのは、入浴の際の熱が残っているだけではないだろうと気付く。寝間着用の浴衣に着替え、敷き布団の上で正座をして俯いている水波の前に、同じように正座をして姿勢を正す。

 

「水波、顔を上げてくれ。これからのことを話しておきたい。俺はまだお前が婚約者だと納得できていない。理性では理解しているが、感情がそれを邪魔している。水波にとっては辛いかもしれないが我慢してほしい」

「大丈夫です。私は婚約者であると感情で理解してもらえるまでいつまでも待ちます。お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「いいよ。答えられることなら」

「お名前はなんとお呼びすればよろしいですか?」

「水波の好きなように呼べばいいよ。今まで通りでもいいし、俺が四葉家にいたときの呼び方でもいい」

 

いきなり呼び方を変えろなんて言われても、簡単には変えられない。人間というものは、慣れた言葉を意図していなくても紡いでしまうものだ。克也が護衛兼偽りの従妹として水波を見ていたのを、今すぐに婚約者として見れないのと同じだ。

 

「それでは『克也様』とお呼びさせていただきます。さらに聞かせていただきます。深雪姉様と兄妹ではないということは本当なのですか?」

「いや、それは嘘だ。達也と深雪を結婚させるために言ったことらしい」

「それでは近親婚ということになるのではありませんか?」

「深雪は四葉の科学、魔法学の粋を結集させて作られた

完全調整体(・・・・・)】だそうだ。造られる前に遺伝子が弄られているから、ベースが一緒でも遺伝子は別物だ。だから近親婚による弊害はないから、生まれてくる子供に影響はない」

「…つまり遺伝子上は従妹ということですね?」

「その通りだ。叔母上の言葉から推測すると、俺達より寿命は長いだろう」

 

深雪の正体を知っても尚感情にブレが出なかったのは、自分と同じ【調整体】であることを無意識に感じていたからだろうか。

 

「水波、婚約者が俺で本当にいいのか?お前が望むなら解消してもらってもいい」

「嫌です!私には克也様しか考えられません!〈論文コンペ〉の日に言ったように私の居場所は、克也様の隣だけです!…克也様の婚約者にしてもらえて私は嬉しかったんです。もし克也様が他の誰かと婚約すれば私の居場所は何処になるのか。私は何のために生きているのか分からなくなっていました。克也様は誰にも渡しません!」

 

水波の眼を見て俺は気付いた。

 

誰に何を言われても折れない心の強さ。それを曲げない意志の強さ。それが俺を惚れさせて恋をさせた。水波に妹として向けていた感情の中にあった、1人の女性としての感情がこれだったのだ。死が2人を別つまで守り続けなければならないものだ。

 

今になって気付く。そんなことを教えてくれた大切な女性がこんなに近くにいたのに、今まで気付いていなかったのだろうか。鈍感な自分に腹が立つほどに。

 

「ありがとう水波。じゃあ、寝ようか?」

「はい!」

 

水波は横に入ってきて嬉しそうに抱きついてきた。今までの俺なら、文句を言うか遠回しな拒否をしていただろうが、今の俺にはできない。将来の伴侶になるのだからできないのは当然だ。

 

「水波、もう一つ言っておくことがある」

「何でしょうか?」

「俺はお前とまだ一線を越えて事を成すわけにはいかない。それは分かってくれているか?」

「…はい」

 

水波が顔を赤くして恥ずかしそうにしているが、大切なことなので気にせず続ける。

 

「お前が卒業して生活環境が整ってからだ。優秀な魔法師は多くの子孫を残すことが求められているが、学生の間は適応されない。それに他の家から求められても従う義務はない。だから安心して高校生活を送って欲しい。年明けからの学校は居心地悪いだろうが我慢してくれ」

「そのことは覚悟の上で了承したんですから気にしないで下さい。もし子供が産まれればその子は大丈夫なのでしょうか」

「そのことは心配しなくて大丈夫だ。俺の《回復(ヒール)》があるから問題ないらしい」

 

子を成すのはまだ先だ。経済的な安定があっても、人間としては未熟にも程がある。水波にも大きな負担をかけることになる。それだけは避けたい。

 

「ただ、その何だ。気の迷いだったりで求めることがあるかもしれない」

「そ、それは願ったり叶ったりではありますが…。口に出されるとどうすればいいかわからないです」

 

それはそうだろう。いきなりこんな話をされるのだから、動揺しない方が凄い。水波の性格からして、そういった知識は周囲より少ないだろう。基礎的な知識はあっても、興味がなければ増えるはずがないのだから。

 

「そろそろ寝よう。眠くなってきた」

「はい。最後にお願いをしてもいいですか?」

「どうした?」

「抱き締めてもらえますか?」

「もちろんだ」

 

水波の甘えに嬉しく思いながら抱き締める。

 

「しまった特製ドリンクを忘れた。元旦の朝はまずいことになる」

「ご心配なく。もちろん持参しております」

 

準備の良さに辟易とさせられる。

 

「おやすみなさいませ」

「おやすみ」

 

互いの手を握りながら目を閉じると、睡魔が襲ってきたためすぐに眠りにつけた。

 

 

 

 

 

元旦の朝から克也達は着せ替え人形のように1時間以上いじり回され、終わる頃には自宅に帰りたくなっていた。控えの間で気持ちを落ち着けていると、着飾った津久葉夕歌がやってきた。

 

「あけましておめでとう。年上からの助言をあげる。入場の際に吹き出しちゃダメよ?我慢できなくなったら、少し長めのお辞儀で顔を隠しなさい」

「あけましておめでとうございます。それはどういう意味ですか?」

「入ったら分かるわ」

 

それだけを笑顔で伝えて、夕歌は自分の控え室に戻っていった。

 

「達也、吹き出すってどういうこと?」

「分からん」

 

達也も少なからず緊張しているようで返事に愛想がなかった。その後、白川夫人に呼ばれて誘導に従いながら部屋に入る。

 

「次期当主 司波深雪様及び御兄上 司波達也様。当主補佐 四葉克也様及び使用人 桜井水波様のおなーりー」

 

白川夫人の口上に克也と達也は膝が砕けそうになる。深雪と水波はこめかみが引きつっていた。夕歌の助言がなければ、4人とも醜態を曝していたことだろう。

 

これは「どこまで耐えられるか選手権」なのか?

 

〈慶春会〉の場にも関わらず、そんなくだらないことを考えてしまう克也と達也は、自分自身にうんざりしたが、気が軽くなったのでプラマイゼロになるのだった。

 

 

 

しばらく食事を楽しんだ後、葉山の進行で最も重要な場面へとフェーズが移行する。

 

「皆様、改めまして。新年あけまして誠におめでとうございます。私より3つほど喜ばしい報告を致します」

 

金糸をふんだんに使った黒留袖を着た真夜の発言に、ざわつきが音をなくしたかのようにピタッと止まった。

 

「この度、司波深雪さんを次期当主とすることを決定しました。挨拶は継承式で行おうと思っております。そして〈私の息子(・・・・)〉である克也の弟・達也を婚約者としました」

 

真夜の言葉にざわめきが広がった。子供がいなかった真夜の口から〈息子(・・)〉という言葉が出たのだ。深夜の子供だと思っていた彼らが、隣同士で会話をしてもおかしくはない。

 

「ご当主様、〈息子(・・)〉と聞こえたのは聞き間違えでしょうか?」

「いいえ津久葉殿。良い機会ですからここで説明しておきましょう。克也と達也は【事件】の前に採取していた私の卵子を用い、姉を代理母として産まれた双子です。何故双子になったのかは謎ですが。このことを知っていたのは、姉である深夜と葉山さんと紅林さんだけでした」

「納得いたしました」

 

津久葉家当主が座り直したのを確認してから、真夜は口を開いた。

 

「そして達也の兄である克也を、深雪さんの補佐として仕えさせることにしました。これを踏まえ、桜井水波ちゃんをボディーガードから婚約者としての地位に変更致します」

 

出席者は何故使用人兼ボディーガードだった水波が、深雪達と同じ席に並んでいるのかを理解したらしく、納得顔で隣同士で話している。

 

「姉さん、大丈夫?」

 

文弥が声をかけていたので視線を向けると、真っ青な顔をしている亜夜子が視界に入った。

 

「葉山さん、亜夜子さんを別室へ」

「かしこまりました」

 

亜夜子が文弥とともに退出するのを見送って真夜は告げた。

 

「それでは食事を再開しましょうか」

 

 

 

「姉さん、大丈夫?」

「…やっぱり文弥には分かっちゃうんだ。こういうときに双子は隠し事ができないから不便ね」

「克也兄さんのことは仕方がないよ。克也兄さんが気付かないうちに水波さんに好意を抱いていたのは知ってるからね。姉さんが落ち込むことはないと思う」

「水波ちゃんを恨んでなんかいないわ。克也さんを幸せにしてくれればそれでいいから。...でも本音は自分で克也さんを幸せにしたかった。克也さんが私に抱いてる感情は、『愛』でもそれは1人の女性としてじゃない。家族としての『愛』だってずっと前から気付いてた。何があっても自分には振り向いてくれないのは分かってた。でも諦めきれなかった。とっても好きだったから」

 

別室で涙を流しながら悲しく微笑む双子の姉に、文弥はかける言葉が思い浮かばなかった。今の亜夜子は次期当主候補の補佐ではなく、1人の少女として話していた。

 

 

 

食事もほぼ終了して泥酔しかけている出席者の前で、克也と達也は真夜に話さなければならないことを伝えることにした。

 

母上(・・)、お伝えしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「どうしたの克也?」

 

母上(・・)と言うのはまだぎこちなく違和感があるが、〈設定〉を疑われてはならないため我慢する。

 

「〈アンジー・シリウス〉が日本に来日し、吸血鬼と戦闘をこなしている頃から、自分は力不足なのではないかと感じ始めていました」

 

克也が話し出すと、今まで談笑していた出席者は3人の会話を静かに見守り始めた。どのような話をするのか興味を覚えたのだ。

 

「貴方は四葉でも屈指の実力者ですよ?謙遜しすぎると嫌みになると思いますけど」

「謙遜ではありません。自分には達也のように、一瞬で多くの相手を無力化する決定打がないのは事実ですから」

「複数が相手でも貴方なら問題ないでしょうに。それこそ気にしなくてもいいのではなくて?」

「俺の魔法は大勢の敵を倒すことを前提としたものではありません。あくまで単独あるいは少数の敵を倒すことを目的とした魔法です。作用範囲が局所的な魔法を得意としているのはご存知でしょう?」

 

克也の言葉に全員が衝撃を受けていた。克也の魔法力の高さだけに眼を向けていたため、そのようなことに気付いていなかったのだ。確かに克也の得意とする魔法は効果範囲が極端に狭い。《流星群》も効果範囲を広めることができるが、達也のように何十kmもの範囲を爆発させることはできない。

 

「…何が言いたいの?」

「自分と達也はこの1年間、可能な限りの時間を新しいテーマに注いできました」

「それで?」

「その甲斐あって強力な新魔法を開発することができました」

 

克也の言葉を聞いてどよめきが広がる。表情や雰囲気を崩さないあの葉山でさえ驚いていた。表情には表していないが、空気が揺れ動くのは隠せていない。

 

「達也さん、それは本当ですか?」

 

克也を疑っての質問ではない。真夜自身が理解するために時間稼ぎをした意味合いが強い。

 

「はい、俺の《質量爆散(マテリアル・バースト)》にも劣らない極めて強力な魔法です。地形にもよりますが俺より威力は上の可能性があります」

「なんてこと!2人は自分達の力だけで戦略級魔法を開発したの!?母親(・・)として誇り高いわ!」

 

真夜の喜び様は本当の母親のような様子だ。そしてその喜びは純粋なものである。四葉家としての威厳を求めない人として魔法師としての才能。それを発揮した2人への本心からの賞賛であった。

 

「それでその魔法はどんな魔法なの?」

「CADが完成していませんのでまだ確定ではありませんが、俺の《質量爆散(マテリアル・バースト)》とは違い、周辺には大きな被害を与えないと思います。大規模ではありますが局所的な魔法なので戦略級魔法として認められれば、昨今の世界情勢を鑑みるに、実戦での使用頻度が自分以上に増えるでしょう。試し撃ちはしていませんが、今すぐに実戦投入しても克也なら失敗することはないかと」

「CADはいつ完成するのですか?」

「今月中にはなんとか仕上げたいとは考えています」

「分かりました楽しみにしています」

 

真夜は満足そうに頷いて日本茶を口に含む。その様子を見て克也達も気を緩めることができた。

 

 

 

 

 

翌日、2097年1月2日。四葉家から魔法協会を通じて、〈十師族〉・〈師補十八家〉・〈百家〉・〈数字付き(ナンバーズ)〉などの有力魔法師に対して通知が出された。

 

①司波深雪を四葉家次期当主に任命したこと。

 

②司波克也及び司波達也を四葉真夜の息子として認知すること。

 

③司波克也と四葉達也は双子であり、四葉克也の姓名を司波に変更すること。

 

④司波深雪と司波達也が婚約及び司波克也と桜井水波が婚約したこと。

 

それを知った有力魔法師各家は、魔法協会を通して祝電を送った。しかし全ての数字付き(ナンバーズ)が祝電を送ったわけではなかった。

 

翌日の1月3日付で、日本魔法協会本部に司波克也と桜井水波の婚約を破棄するよう異議が申し立てられた。

 

申立人は現〈十師族〉七草家現当主 七草弘一その人であった。

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