魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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10章 師族会議編
第57話 異議


一条将輝は新年の挨拶から帰宅したところ、「当主様が呼んでいる」と使用人に伝えられたため、即座に父の仕事部屋に向かっていた。この時間から家にいるのは珍しいことだ。去年も一昨年もいなかったというのに何があったのか。普段、剛毅は表の仕事のため家にはいないので、将輝も少なからず動揺していた。

 

「父上、参りました」 

 

学校では見せない物腰の低い丁寧な動作で来訪を伝える。

 

「将輝か。入って楽にしてくれ」

「失礼します」

 

洗練された動作で襖を開けて部屋に入ると、羽織袴を着た父の剛毅が足を崩して座っていた。将輝はその言葉通りに足を崩してあぐらをかいて座る。

 

「どうしたんだ親父?」

「まあ、気楽にとはいかんだろうが聞いてくれ。お前は四葉克也という少年を詳しく知っているな?」

「ああ、去年と一昨年〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉の決勝で負けた相手だ。それに一昨年は〈モノリス・コード〉でも負けた。友人でもあるがそれがどうしたんだ?」

「彼は次期当主の司波深雪嬢の従兄だ」

「何だと!?」

 

将輝は二重の意味で驚いていた。深雪が四葉家の直系であり次期当主であること。そして克也と血縁関係があることに。

 

「さらに司波達也君は四葉克也君の双子の弟だ」

「…そうか」

「ん?驚かんのか?」

「ああ、親父も知っているだろう?俺があいつにレギュレーション違反の攻撃をした際、攻撃を受けながらも立ち上がり俺を倒したことを」

「ああ、緊急の会合が開かれたぐらいだからな」

 

達也が去年、克人に後夜祭で呼び出されたのは、将輝を倒したことで緊急の会合が開かれたことを示していた。

 

「あの時俺はあいつを殺してしまうところだった。だがあいつは攻撃を食らいながらも立ち上がり俺を倒した。克也と双子であるならそれも納得できる」

「なるほど。そしてその四葉克也だが桜井水波嬢と婚約した」

「桜井といえば桜シリーズの【調整体】か?」

「おそらくそうだろう。これに対し七草家は、婚約を解消するよう魔法協会本部に異議を申し立てた」

 

将輝はそれを聞いて眉をひそめた。そもそも他家がよその家系に文句を言うこと事態が馬鹿げているのだ。言うことは権利でもないが、それに従う義務も発生しない。

 

「将輝はどう思う?」

「双方がそれを望んでいるなら何も言うつもりはないし、そもそも他人の婚約に首を突っ込むべきではない。俺だって婚約した際に文句を言われるのは腹立たしいからな。七草家の解消の理由は何だ?」

「さあな。そこまでは書かれていない。詳しくは次の〈師族会議〉で聞くことになるだろうが、おそらくは遺伝子のことだろう」

「遺伝子?桜井さんが【調整体】だから遺伝子が不安定だと言いたいということか?」

「確信はないがな。四葉克也君のような魔法師を不安定な【調整体】とではなく、真っ当な魔法師と婚約させたいのだろう。やれやれ、そもそも魔法師なんぞ造られた存在が多いというのに。そんなことをまだ言っているのか」

 

吐き捨てるような剛毅の言葉に、将輝は納得と疑問が同時に浮かんだ。

 

「親父、七草家は造られた魔法師ではなく、自然な魔法師の家系ということなのか?」

「ああ、七草家は一度も遺伝子操作を受けていない日本唯一の存在だ。お前が文句を言わないのであれば、俺は一条家当主として四葉家の婚約を承諾する」

「いいのか?貸しを作っても」

「貸し借りなど関係ない。今回は七草家の考えに賛同できないだけだ。彼の反応は過剰な気がするのでな」

「わかった親父に任せる」

 

これが後々日本の魔法社会を狂わせる騒動の火種になるなど、一条親子は露ほどにも思っていなかった。

 

 

 

同じ頃、七草邸でも同じような親子会議が行われていた。

 

「先日、四葉家から新年の挨拶と共に重大発表が届いた。司波深雪嬢を四葉家次期当主とし、司波達也君を婚約者にすると」

「…納得ですお父様。深雪さんの魔法力は〈十師族〉に匹敵し、上回るとも思っていましたから。でも、兄妹で結婚などできるのですか?」

「本当は従兄妹同士だったらしいがこのことはどうでもいい。それより問題なのは他にある」

 

忌々しそうに父の口から言葉が漏れるため、真由美・香澄・泉美はどう対応すれば良いか迷っていた。そこで真由美が長女として聞いてみる。

 

「それ以外に何があったのですか?」

「司波達也君は四葉克也殿と双子の弟だ」

「…それも納得はできます。達也君の腕は普通の魔法師の域を凌駕していますから。克也君と双子と言われても不信感はありません」

「そうか。では四葉克也殿が一高1年の桜井水波嬢と婚約したのはどう思う?」

「…桜井さんとですか?お父様」

「…僕も信じられません」

「事実だ。だがこれは許容できる話ではない!」

 

父の情緒が理解できずに3人は眼を丸くしていた。 

 

「あの能力を【調整体】なんぞと子供を作らせてたまるか!日本の魔法社会の貢献に役立って貰うためには、【調整体】などにその遺伝子を渡してなどなるものか!…香澄・泉美、もしお前達がよければ四葉家に対して婚約を申し込むが?」

「なりませんお父様!既に婚約している身の方々に申し込むのは失礼です!」

「自分も同じですお父様。私達は確かに克也兄に好意を抱いていますが、婚約した方に申し込みたくありません」

「そうか。もういい」

 

弘一は娘達と話を打ち切り自室に引っ込んだが、それは自分の欲をはき出すためのものだった。日本魔法協会本部を通じて四葉家へ、香澄または泉美と婚約してもらうよう要請することにした。

 

その後、弘一は新しい目的のために動き出した。

 

 

 

 

 

克也一行が一段落できたのは1月4日だった。1月3日には帰ってきていたのだが、九重寺と独立魔装大隊に挨拶しに行っていたため忙しかった。八雲には思った以上のスピードで話が広がっていることを聞かされ、今年も穏やかに学校生活を送れないと確信するのだった。

 

 

 

 

 

1月8日。新学期初日に克也達は学校に呼び出されたため、いつもより30分ほど早く家を出ていた。

 

「つまり、わざと戸籍を移動させていたわけではないということですね?」

「はい。自分は一度父親に捨てられたため、四葉家に引き取られていました。今回の婚約で実家に戻ることができたので、姓名を戻す運びとなっています。捨てられた理由としては、自身の地位が脅かされると忌避したからでしょう」

「如何されますか校長?」

「事情は理解した。だがご当主様には抗議をさせていただく。それ以外は構いません。今までのように学校生活を送り、一高のために尽くして下さい」

 

ニヤリと笑いながら語りかける百山に、感謝の返事を返した達也は教室に向かうと、エリカ達が自分の席で話し込んでいるのを見た。

 

「どうしたんだ?全員そろって」

「あ、達也。おはよう」

「おっす達也」

「おはよう達也君」

「おはようございます達也さん」

 

達也が聞くと、幹比古・レオ・エリカ・美月の順で挨拶してくれたが、一度で答えてはくれなかった。

 

「ああ、おはよう。しかし良いのか?俺なんかとつるんで」

「四葉家の直系で克也の双子の弟で深雪さんの婚約者ってこと?気にしすぎだよ達也は。その程度で僕達が離れるわけがないだろ?」

「それだけのことを黙っていたはずなんだがな。何とも思わなかったのか?」

「人には隠さなきゃならねぇことが一つや二つあるのは当然だろ?そんなこと黙ってたって俺達は怒らねぇよ。四葉家の直系だって聞いたら誰もが驚くだろうけどな」

「本当にそれだけなのか?」

「達也君は疑い深いね。逆に聞くけど知られたらどうなると思ってたの?」

「避けられると思ってた。あれだけのことを話さずに隠していたんだからな」

 

エリカに聞かれたことに対して本心を言うと、全員がげんなりしたため、何か間違ったことを言ったのかと思った。

 

「水臭いな達也は。僕等は友達だろ?そんなことでは離れないよ」

「そうよ。その程度で距離を置いている連中とは訳が違うのよ」

 

エリカが言葉通りにクラスに眼を向けると、友人を除くクラスメイト全員が顔を背ける。そのあからさまな行動にエリカが爆発しそうになっていた。

 

「エリカ、落ち着け。あいつらはお前達みたいにそれほど仲良くしていたわけじゃない」

「それでも同じ一高生徒でクラスメイトでしょ?達也君に助けてもらった人も大勢いるのに、黙ってたってだけでこんな仕打ちは割に合わないよ!」

「俺はそんなこと気にしていない。普段から普通に接していた存在が畏怖する家系の直系だと知れば、居心地が割るかなっても仕方ないさ。これまでの行動を掘り返されて、処罰を下されると思い込んでも仕方ない。時間が解決してくれることもあるから今はそっとしといてやれ。それにお前達がいるんだから何とも思いはしないさ」

 

達也の本心からの言葉に、いつものメンバーが照れた笑みを浮かべていた。

 

 

 

達也とは違い、克也と深雪は居心地の悪さを感じていた。

 

「やっぱりこうなるか…。予想通りだったけど実際にされるとくるものがあるな。それより水波と達也が心配だ」

「仕方ありませんよ克也お兄様。1人ではないだけマシですから。達也お兄様がどのような状態でいるのか分からないのが不安です。それに水波ちゃんも可哀想になります」

「ああ、そうだね…」

 

本当は達也の感情が少し上がっていることを知っていたが、ここで深雪に話せば周りにどんな眼を向けられるかわかったものではない。ただでさえその美貌で周りを魅了してきた深雪だが、同時に恐れられてもいた。そこに家柄が加わったのだから不安は倍増どころか二乗だろう。

 

普段なら挨拶してくれるほのかや雫は、2人から離れたところで話をしているため、挨拶することはできなかった。自分から行けばなんとか返してくれるだろうが、普段通りには行かないのは目に見えていたので何もしなかった。

 

 

 

昼休みになっても事態は好転せず、むしろ悪化しているように感じた。同級生だけではなく下級生や上級生からも向けられるのだから、好意や尊敬などの感情でないのだからたまったもんじゃない。

 

今まで名前で眼をつけられることは日常茶飯事だった。気にしていなかったが、今向けられている感情は精神的なダメージを与えるものであり苦しかった。俺と深雪は2人だがそれでもこんな状態なのだから、水波はどうしているのか心配だった。

 

〈慶春会〉以降、水波はまともに俺と会話もせず眼でさえ合わしてくれない。

 

そのため嫌われてしまったのかと思い、深雪に相談すると「悩んでいるのではないか」と言われた。「今までのような関係ではなく、婚約者という立場になり、心の整理ができていないから距離を置いているのでは?」とも言われた。

 

少なからず俺もそうだったので、無理に会話をしようとはしなかった。

 

1年生の階を歩いていると否応なく視線を向けられる。俺は名前も顔も校内で知られてしまっているため、こればかりはどうしようもない。1-Cの教室に着いて迷いなくドアを開けると、予想通り水波がクラスメイトにたかられていた。

 

「水波」

「克也様…」

 

名前を呼ぶとすぐに返事をしてくれたが、視線が鬱陶しかったのでさっさと退散することにした。

 

「行くぞ」

 

水波を呼んで背を向けて歩き出すと、弁当を持って後をついてきた。

 

 

 

行き先は何処でもいいが、誰もいない所で弁当を食べることにした。屋上では達也と深雪が仲良くしているため、邪魔しないように別の場所を探していたのだ。

 

校舎と実験棟の間にある並木道に、ベンチがあったのでそこで食べることにした。俺が座ると水波も少し広めに隙間を空けて座る。確認してから周りを一瞥し、寒さを遠ざけて適温にまで上昇させる。この程度はCADを使わずに念じるだけで操作可能だ。想子測定器に拾われてしまうが、ピクシーに頼めばもみ消してもらえるため使わない手はない。深雪が作ってくれた弁当を開けて食べ始めた。

 

 

 

20分後、水波が食べ終わるのを待ってから俺は話し始めた。

 

「水波、戸惑っているんだろう?」

「…はい、どのように距離を保てば良いのか分かりません」

「深雪みたいにひっついても構わないんだぞ?むしろその方が俺は嬉しい」

「深雪姉様ほどはできませんが可能な限り頑張ってみます」

 

水波が嬉しそうに微笑みながら、俺との距離を詰めて左肩に頭を預けてきた。

 

 

 

しばらくしてから水波に聞いてみる。

 

「クラスはどうだった?」

「非常に居心地が悪かったです。朝は遠目から見てくるだけだったのですが、昼休みが始まるとすぐに集まってきまして質問攻めに遭いました」

「やはりか」

「でも、七草さんに助けていただきました」

 

予想外の人物の登場に驚く。

 

「香澄か。正義感があって困ってる人を放っておけない性格だから、その様子を見過ごせなかったんだろうな」

「克也様はどうでしたか?」

「深雪がいたからそれほど気にしなくて済んだよ。ただ、ほのかと雫には避けられた」

「北山先輩はともかく光井先輩は仕方ないと思います」

「そうだな。好きな人に婚約者ができたとなれば平常心ではいられない。そろそろ戻ろうか授業開始まで10分しかない」

 

そう言って俺は水波を連れて教室に戻った。

 

 

 

帰宅してすぐに克也は真夜に連絡した。

 

『どうしたの克也?』

「本日、百山校長から呼び出しを受けました」

『厳重な抗議ですか…克也達は特に何もしなくていいわ。それより伝えたいことがあります』

「伝えたいことですか?」

 

真夜が嘆かわしいとでも言いたげな表情で伝えてきた。

 

『本日、日本魔法協会本部を通じて七草家から異議の申し立てがありました』

「それだけですか?〈十師族〉といえど、婚約に異議を唱える資格は持ち合わせていないはずです」

『その通りよ。内容は貴方に水波ちゃんとの婚約を解消するよう求めたばかりか、娘の2人を婚約者にして欲しいそうです』

 

真夜の表情が理解できる内容だ。ため息をつきたくなるが真夜の前ではしない。

 

「それは本人達が望んだことですか?弘一殿だけの意思でしたらお断り下さい。俺は一夫多妻制などとるつもりはありません。俺の婚約者は水波だけです」

『その気持ちは分かるけど今はまだ返事をしません。貴方達はいつも通りに生活をしていなさい』

「分かりました母上(・・)。ご命令通りに」

 

電話が切れるとソファーに座り込む。七草家のホームパーティーに行ったときの弘一との会話が脳裏に浮かぶ。真由美・香澄・泉美の誰かを娶って欲しいと言ってきた弘一の顔が浮かぶが、敢えて考えないようにする。香澄や泉美が嫌いで断ったのではない。むしろ人として好きなのだが、水波以上に異性てして好きにはなれないと自分でも分かっていた。

 

達也達はどう声をかけたらいいか迷っていたが、結局かける言葉が見つからず途方に暮れていた。

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