魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第59話 安堵

克也は数日後に真夜から文をもらっていた。秘匿回線でも憚れる内容らしく、手紙を読んでいると驚愕する。

 

『USNAの兵器保管庫から旧世代の小型ミサイルが紛失。行方は不明』

 

旧世代の兵器とはいえ、今でも紛争が続いている地域では現役として使用されている代物だ。廃棄されずに保管されていたのは納得できるが、失くなることは普通ならありえない。

 

これは直接聞きに行くしかない。

 

克也はUSNAに入国する許可を求めるため、四葉家と国に頼むことにした。

 

 

 

 

 

1週間後。特別に許可が降りたため、渡米経験のある亜夜子と2人で向かうことになった。それを水波に告げると不満そうだったが、四葉家の仕事と理解してくれていたので文句は言われなかった。滞在期間は3日間である。帰ってきたらそれなりに水波と何かをしなければならないと思っている。

 

USNAに到着したが、目的地までは交通機関を頼るしかない。USNA政府に許可をもらっているというのに、何故に車を準備しないのか不服に思った。俺も亜夜子も英語は問題ないので、基地司令室へ向かうのは容易いのだが。

 

USNAが特別に発行してくれた偽装身分証明書のおかげで、掲示を求められても問題なく通れた。偽装身分は日系アメリカ人の恋人同士(・・・・)で、西海岸から観光に来たという名目でタクシーやバスを乗り換える。

 

正直恋人同士というのが納得できなかったのだが、自分を連れて行くための条件として亜夜子に出されてしまったのだ。確かに恋人という偽造は動き回るのに便利だとは思うが、兄妹でもいいのではないかと思ったりする。

 

やむなく了承したが、水波にバレたらどうなるかわからない。亜夜子は嬉しそうに俺の左腕を抱き締めているので、ふりほどく気にはなれなかった。

 

空港のコミューター乗り場へ移動し、客待ちをしているタクシーが目に入った。亜夜子に目配せをすると、頷きを返されたのでそのまま乗り場に向かう。

 

『基地司令室の近くまでお願いできますか?』

 

流ちょうな英語でタクシーの運転手に目的地を指定すると、疑問を投げかけられた。

 

『あそこにですか?見るとお客様は学生のようですが何の目的で?』

『自分達は魔法師なのですが、将来は軍に入ろうと思っているんです。そのために資料ではなく、実物をこの眼で先に見ておきたいと思いまして』

『かなりの向上心をお持ちなのですね。自分も若い頃は軍を目指していたのでお気持ちお察しします。わかりました可能な限り、お近くまでお送りしましょう』

 

快く引き受けてくれた運転手の運転は、昨今の技術の向上により振動や慣性が軽減されているとはいえ、普段なら感じられる違和感を感じない。車や自分の技術の癖を理解し、自身の腕で補っているようだ。かなり運転に慣れているのだろう。

 

余談だが、今の時代にも前世紀同様にタクシードライバーがいる。無人無料コミューターが普及している現代においても、人に運転してもらいたいという層がそれなりにいるためだ。自動運転で移動するのではなく、自ら・誰かがハンドルを握って運転したい・してほしいという人々が意外と多い。

 

 

閑話休題

 

 

『運転手さんも魔法師なのですか?』

 

乗車前に聞いた話を思い出したので、信号待ちのタイミングで聞いてみた。

 

『私のことはハウリーとお呼び下さい。私は事故で魔法技能を失いましたので今は一般人ですよ』

『失礼しました』

『気にしないで下さい。それほど魔法力はなかったので、ハイスクールを卒業しても軍には入れなかったでしょうから』

『この地域では【ノーブル】は活動していないのですか?』

『はい。この辺りは軍の施設が近いためあまり活発に活動できないらしく、やってきたはいいものの即座に撤退しましたよ』

 

嘆かわしい事態だったのだろう。彼の言葉には毒が含まれている。

 

『軍の魔法基地を襲撃したと聞きましたが?』

『政府によって情報統制されているはずのことを、何故知っているかはお聞きしません。隠蔽された理由は、政府にとっても許容できない問題だったからです』

 

叔母上の情報より詳しく知っているらしいので、分かる範囲だけでも聞き出すことにした。

 

『それはどういうことですか?』

『襲撃した【ノーブル】のメンバーの数人が、魔法によって操られていたのが分かったんです。それも死んだ人間(・・・・・)がです』

『…どういうことでしょう?』 

 

今まで2人の話を聞いていた亜夜子が口を開いた。

 

『大陸の古式魔法によって死体を動かしていたんだろうな。《僵尸術(きょうしじゅつ)》と言ったと思うけど、どちらにせよあまり気持ちの良いものではない。それを知られないために政府がもみ消したと?』

『はい、私は軍に知り合いがいますから教えてもらえましたが』

『何故我々に教えたのですか?』

『私は人を見る目がそれなりにあると自負しております。貴方々を見て信頼に足る。そしてその立場にあるのだと判断したからです。こちらこそお聞きしますが、何故私の言ったことを信じられたのですか?』

『魔法師は嘘をつくと想子の動きがぶれます。それが貴方にはなかったから信用しました。少量とはいえ一般人も想子を持っていますから』

 

想子は意図しなくても動いてしまうものだ。生きている以上、想子は活動しているのだから当然である。

 

『貴方はかなり強力な魔法師なのですね。着きましたよ』

『ありがとうございます。お釣りはいりませんのでもらっておいて下さい』 

『かなり多い気がしますが?』

『お礼です。詳しい情報を頂きましたから、それぐらいしなければつり合いません』

『お気を付けて』

 

笑顔で見送るハウリーさんと別れて、俺達は見学を装いながら基地司令室へ向かった。

 

 

 

「亜夜子、分かっていたことだけど簡単に通れたことが不安でしょうがない」

「克也さんでも驚きますか?私は以前ここに来ているんですから、チェックがある程度寛容なのは当然ですよ」

「流石は亜夜子だ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

亜夜子が嬉しそうに微笑む。今俺達は話さなければならない重要人物がいる部屋に向かいながら、英語ではなく日本語で話していた。案内人がいるが多少日本語を知っていたとしても、会話の内容は理解できなかっただろう。

 

『こちらでお待ち下さい』

『分かりました』

 

いきなり声をかけられたが、驚くことなく英語で返事を返す。待たされたドアの先には、面会する人物が待っている。緊張などとはほど遠い性格だが、相手の地位が高いこともあり気まずかった。

 

『どうぞ中へ。許可がおりました』

 

案内人にお礼を言ってから部屋に入る。

 

『失礼しますバランス大佐』

『失礼します』

 

俺と亜夜子が部屋に入ると、驚いた表情をする金髪碧眼の少女がおり、その横には〈スターズ〉ナンバーツーのカノープス少佐が立っていた。

 

『ようこそ司波殿。シリウス少佐・カノープス少佐も楽にして下さい。今回集まってもらったのは四葉家の要請によるものです。では司波殿、説明をお願いします』

『失礼させていただきます。自分は四葉家次期当主 司波深雪の補佐司波克也です。本日、出席させていただいた理由を申し上げます。このほどUSNAの兵器保管庫から旧式のミサイルが紛失したことにはご存じだと思いますが、犯人は未だ把握できていないはずです。しかし我々はその犯人を特定することができました』

 

俺の報告に3人が驚くが話を続ける。

 

『今回の事件の犯人は顧 傑(グ・ジー)またの名をジード・ヘイグ。国際テロ組織【ブランシュ】の頭領であり、国際犯罪シンジゲート【無頭竜】の前首領リチャード=(スン)の兄貴分でもあります。さらにはつい最近、USNA軍の魔法基地を襲った【ノーブル】を作った張本人でもあります』

『今までの事件はその人物による仕業ということですか?』

『部下を使って事件も起こしていますが。他の厄介な事件の首謀者でもあります』

『厄介な事件ですか?』

 

今まで黙って聞いていたカノープス少佐が、聞かずにはいられないとでもいう表情をしながら聞いてきた。

 

『吸血鬼ですよ』

『なっ!』

 

驚きで声が出なかったリーナがついに声を上げる。むしろ片眉を上げたり、肩を震わせた程度の反応しか見せない2人が異常だ。

 

『…なるほど。確かにあの事件は我々にとっても甚だしいものだった。それほどの大きな事件を引き起こした黒幕が関係しているというわけか。通りで我々にも中々しっぽを掴ませないわけだ。つまりこのまま放っておけば、日本にもUSNAにとっても不利益を被るということですね?』

『そうです。この事態を危険視した四葉家現当主は、自国にとって危険な人物を処理するべく、同盟国であるUSNAに我々を派遣したという次第です』

『…我々にとってのメリットはなんでしょうか?』

『今回紛失した兵器が、USNAの失態であるということを無かったことにできます。全世界に流れれば、USNAの世界最強の魔法部隊という基盤が揺るぐことになります。それは同盟国である我が国も許容できません』

『確かに兵器の紛失という事実が、他国に知られるのはあまり好ましくない。だがUSNA政府と話し合わなければ国としての判断はできかねる。我々の独断で押し通せる内容ではない。だが事態が事態だ。数日待ってもらえるのであれば、良い報告をできると思っているがそれでよろしいか?』

『構いません。それほど時間もかからないのであれば大丈夫です』

『結論が固まり次第、シリウス少佐経路でお伝えさせていただく。シリウス少佐、2人の見送りをお願いします』

『イエス・マム』

 

リーナは命令を断らずにしっかりと敬礼を返していた。日本で見たときより行動に余裕がある。こちらにいたときは脱走兵の処分などによって精神がすり減っていたのだから、余裕がなくなるのは当たり前だろう。

 

『『失礼します』』

 

2人そろって挨拶をしてリーナの後についていった。

 

 

 

『バランス大佐、あれでよろしいのですか?』

『何が言いたい?カノープス少佐』

 

3人がいなくなると、カノープスが不安そうにバランスに問いかけた。

 

『〈触れてはならない者たち(アンタッチャブル)〉と手を組んでもいいのかと』

『手を組んだわけではありません。あくまで利害の一致というものです。四葉家を敵に回すことは、USNAの破滅を意味しますからね。《崑崙法院》が滅亡した理由がそれです。この先世界の均衡を保つためには、四葉家の存在が必須でしょうから』

『...万が一の場合、総隊長を四葉家に避難させるということですか?』

『まだ四葉家は知らないようですが、【ノーブル】の活動が水面下で活発化してきています。前回のようなことが起こらないという確信もありません。だからこそ準備はしています』

『この司令室にも手が伸びる可能性があると?』

 

バランスの言葉が信じられないかというようにカノープスはかぶりを振った。この司令室は他の基地内の施設より厳重な警備と安全性が保証されている。だからカノープスはそんなことはないと言いたいのだ。だが現に軍用基地が襲撃されたことを考えると、到達されないという可能性は否定できない。

 

『前回のように死体に襲撃される可能性があるということですか。眼や機械で見分けることは不可能ですから、話せるかどうかで判別しなければなりません。それでは見落とす可能性があります。後手に回るしかないでしょう』

『今はそれしかできません。ならば可能な限りで対応できるようにしてもらいます。頼みますよカノープス少佐』

 

カノープスは敬礼で返事をした。

 

 

 

一方その頃、リーナは克也と亜夜子を連れて基地内を案内していた。

 

『リーナ、基地を案内しても良いのか?』

『別に構わないわ。軍の機密事項や重要書類を見せるわけじゃないんだし。武力を見せびらかすだけで脅しにもなるわ』

『物騒だな。でも間違ってはいないから否定はしない。ところで死体によって基地が襲撃されたのは本当か?』

『…不本意だけど噂通りよ。分かったのは行方不明で死亡扱いになっていた人間がいたこと、死体の大半が遺体安置所から盗まれたものだったってことだけ。その殆どが軍医が戦場で直接死体認定していたわ』 

 

それなら政府が隠したくなるのは分かる。

 

『じゃあ、ミサイルが盗まれた方法も分かっているよな?』

『死体が持ち出したって言いたいんでしょ?』

『リーナは半年経っても馬鹿なのは変わらないな』

『なんですって!?』

 

突然の馬鹿呼ばれにリーナは憤慨した。まるでエリカの悪口にレオがキレたような光景だ。その様子を亜夜子が内心のわからない微笑みを浮かべて見つめていた。

 

『よく考えろ。無断で侵入できるようなセキュリティーはしてないだろ?』

『当たり前でしょ!どこにも負けないわよ!』

『それなら分かるはずだ。見たところここには、声紋認証システムが導入されている。死体は話せないから、他のセキュリティーをクリアできてもそこで積みだろう。それを考えると内部に協力者がいるか、生きたまま操られた人間が盗んだ以外には考えられない』

『軍に内通者がいると言いたいの?』

『確信はないがいる可能性はあるだろう。これだけの警備だ。外部からの侵入はかなり厳しい。余程の御隠がなければ入れないが、〈スターズ〉の前衛部隊に古式魔法師はいないはずだ』

 

克也の分析にリーナは信じたくなさそうな表情をしていた。克也だって四葉家に内通者がいると言われても、容易には信用できない。

 

『肝に銘じとくわ。それより2人はいつ帰るの?』

『明後日だ。何故聞く?』

『暇があれば軍で練習しない?ワタシも久々に戦いたいし。一高でやったのと同じ訓練があるからそれで勝負よ』

『いいよリーナ。今回も負かしてやるさ』

 

リーナからの宣戦布告を受け入れ、人の悪い笑みを浮かべる。

 

『ところで2人はホテルの部屋は別々?』

『一緒だが。それがどうした?』

『何で一緒なの?』

『経費の無駄だからな』

『…そう』

 

リーナの質問の意味と少しばかり落胆した声音が、克也には理解できなかった。

 

ちなみに部屋の予約をしたのは亜夜子である。1度渡米した経験のある亜夜子がホテルの予約をするのは、別段お可笑しなことでは無い。不慣れなことをして失敗する克也ではないが、亜夜子に任せて問題のないことだと理解していた。予約を同室にしたとしてもお金を節約できると亜夜子に言われれば、克也もわざわざ断る必要も無かったのもある。

 

婚約者がいる身なのだから、いくら亜夜子ほどの美人と同室だとしても克也が過ちを犯すわけが無い。たとえ亜夜子がウェルカムだったとしても。亜夜子からすれば大好きな人と同じ部屋で一晩すごせる。克也からすれば余裕がある四葉家のお金でも節約できる。こうした利害の一致により、一室のみの予約となったのだ。

 

しかしそれが亜夜子による作戦であったとは、2人は知る由もない。

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