魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第65話 解放

時刻はまだ午後4時前。魔法科高校の授業終了時間はどこも午後4時20分なので、一高から一番近くにある四高からでも来れるはずがなかった。2人は荷物も持たず訪れたので、ホテルに荷物を置いてきたのだろうか。

 

「2人とも学校は?」

 

事情を知らなければ聞いても不思議はなかった。

 

「四高も今日から休校です」

「三高はまだ授業だと言っていたが?」

「一高の決定に追随する形で二高と四高は今日から。他の5校も明日から歩調を合わせるようです」

 

文弥の報告を聞いて、ここまで大事になっているとは思わなかった。

 

「それは知らなかったな」

「あら、克也さんなら知っていると思いましたけど」

「一高だけだと思ってたからね」

 

亜夜子がおどけて聞いてくるので、自然と笑みが浮かぶ。水波に左脇腹をつねられ、慌てて真顔に戻す。可愛い嫉妬である。

 

「2人が来てくれた理由は?」

「おそらく俺達が出ている間、深雪と水波の護衛をしてくれるのだろう」

「…達也さん、物分かりが良すぎるのはやめてもらえませんか?」

「達也兄さんに求めてもダメだよ姉さん。達也兄さんは先のことや僕達の考えを、簡単に先読みしてしまうんだから」

「そうだな。達也はそこも化け物だ」

「克也、お前を《分解》してもいいか?」

「達也、冗談じゃすまないぞ」

 

真剣な話から克也と達也の痴話喧嘩に発展したが、2人はすぐにやめて亜夜子と文弥に向き合った。

 

「達也さんの言う通り、深雪お姉様と水波さんの護衛に立候補させていただきました。深雪お姉様の場合、私達より強いのですけど」

「「構わない」」

「2人がいてくれるなら安心できる。ホテルに泊まっているなら家に泊まらないか?毎回家とホテルを往復するのは面倒くさいだろ?」

「…どうする姉さん?」

 

この家に泊まれる方が都合がいいのは確かだが、双子とはいえ年頃な2人は同じ部屋で寝るということに少し迷いがあるはずだ。姉弟でも言い難いこともあるだろう。

 

「お言葉に甘えましょう文弥。何とぞよろしくお願いします」

「深雪、水波と2人で空き部屋の掃除をしてくれ。克也はここで文弥達にお茶を煎れてあげてほしい。俺は今から出るが遅くなると思う」

「分かりました」

「かしこまりました」

「了解、気をつけろよ達也。何かあれば連絡してくれ」

「ああ、朝までには片をつけるつもりだ」

 

克也の心配に達也はしっかりと頷いて出て行った。

 

 

 

深雪と水波が文弥達の部屋を準備している間、俺は2人に飲み物を煎れていた。文弥にはブラックコーヒー砂糖多めミルク少量、亜夜子にはホットレモネードを出す。一口飲むと2人は眼を見張った。

 

「…克也兄さん、何故ここまで美味しく煎れることができるのですか?」

「…黒羽家の使用人より美味しいのですけど?」

「その時の豆の状態・葉の具合と湿度・気温・お湯の温度を見分けて調節しているからね。この豆と葉はどこのか分かるか?」

「いえ、高価なものだと思いますけど…」

「残念。それはそこら辺のスーパーに置いてある安物だよ」

 

2人は俺の告白に呆気にとられていた。

 

「これが安物ですか?家で飲んでいるものより美味しいんですが。一体どんな手品を使ったんですか克也さん?」

「その前に2人は葉山さんの煎れた飲み物を飲んだことがあるよね?」

「はい、何度もいただきました」

「何か違いを感じなかったか?」

「…確かに葉山さんのコーヒーは満足のいく味でしたが、克也兄さんのは素材の味が出ている気がします」

「その通り。葉山さんはちょっとした魔法を使って味を調節しているが、俺は魔法を使わず材料だけの味を使っているんだよ」

 

魔法より美味しく煎れることができるなど思ってもいなかったらしく、2人は開いた口が塞がらない状態になっている。

 

「俺は炎を得意としている。厳密にいえば振動系加速魔法なんだけどね。炎を操るということは熱を操るということ。つまり空気中に含まれた水分子を振動させるということだ。ここまではいいか?」

 

2人が頷いたのを確認してから話を続ける。

 

「水分子を操作できるなら、水分子のことをさらに詳しく視ることができる。つまりその豆や葉に含まれた水分量を視ることができて、空気中に含まれている湿気を理解できる。煎れる分量を測り、その水分量を視てお湯の温度を適切な温度に設定するという簡単なテクニックだ」

「…それを簡単だと言えるのは克也さん、貴方の認識能力・理解能力があるからだということをお忘れではありませんよね?」

「俺以外にもできると思ったんだがな」

「…理解していないみたいだよ姉さん」

「…みたいね文弥」

 

2人に呆れた眼で見られ、俺の精神HPが少しばかり減少した。

 

 

 

その頃バイクに乗った達也と将輝は、2台のセダンを連れて相模川河口近くの漁港に来ていた。セダンには十文字家配下の魔法師10人が5人ずつに分かれて乗っており、これだけの戦力があれば十分だと達也は思っていた。

 

バイクを漁港の入り口に止めて防波堤を見ている。そこには四艘の船が漁船が停泊しており、どれも沿岸用の小型船だったがそれはどうでもよかった。

 

「沖で大型船に乗り換える気だろうか」

「可能性は低くない。だがこんな小さな船では沖合に出たとしても、この風の中ではすぐに転覆するだろう。魔法を使っても魔力切れを起こせば即死亡だ」

「司波っと、呼び方はこれでいいのか?」

「構わない。克也のことはこう呼んでいるんだろ?俺はどちらでもいい。それで何が聞きたい?」

「奴はこっちに向かっているのか?」

「ああ、こっちに…いや、西に進路を変えた。行くぞ!」

 

達也は叫ぶと同時にバイクにまたがり、西に向かって走り始めた。将輝も一拍遅れてバイクにまたがり、セダンの運転手にジェスチャーで向かう方向を指示を出して達也の後を追う。

 

海岸線と平行に走る幹線道路を西に向かっていると、前を走る車が1台いた。それに顧傑(グ・ジー)が乗っていると、達也に聞かなくても将輝には分かる。

 

達也の横に並ぼうとしてスピードを上げて横に並んだ瞬間、達也がバイクから離れた。その行動を不思議に思っていると、達也がバイクから離れた次の瞬間に、バイクが一閃されて真っ二つになった。将輝は犯人を見ようとしたが見ることができなかった。魔法発動の兆候を感じて同じように反射的に、バイクから離れて達也の横に着地する。先程まで自分がいた場所を見ると、愛車が真っ二つにされており、そうした張本人が道路に立っている。

 

達也は街灯に照らされた襲撃者の顔を見て、驚きの表情を浮かべた。

 

「千葉寿和警部か!?〈百家〉千葉家の長男でもあろう貴方が、何故テロリストに味方する!?」

「何、千葉!?あの千葉さんの兄なのか!」

 

将輝が達也に聞いたが達也からの返事はない。寿和が返事をせずに敵対行動で返ってきたことで、避けることに意識を向けていたため答えられなかったのだ。将輝に切り掛かろうとした寿和は、上から猛スピードで落ちてくるナイフを避けるために距離をとる。

 

そのナイフは達也が移動魔法で投擲し、牽制を意図したものであった。距離をとった寿和に《精霊の眼(エレメンタル・サイト)を向けるとほぼ死にかけているのが視えた。

 

これが克也が言っていたやつか。

 

達也の脳裏に克也から説明された言葉を思い出す。

 

 

 

 

『操られた人間は二度と生き返ることはない。また想子が枯渇しても自爆して存在を残さない』

『自爆させないためにはどうしたらいい?』

 

達也の質問に苦い顔をしながら克也が答えた。

 

『…殺すしかない。たとえその人が善人であろうと関係ない人間を巻き込むのであれば、いっそ命を奪って人殺しにさせないようにするしかない』

『どこを狙えばいい?』

『心臓だ。そこに自爆遅延発動術式が仕込まれている。俺や達也の《眼》でも視ることのできないように細工されてな』

 

 

 

つまり俺の《部分分解術式》で心臓を狙うか、一条の《爆裂》で狙えばいいということだが、俺の《分解》を見られるわけにはいかない。ここは一条に頼むしかないな。

 

「一条!俺が牽制するからお前は《爆裂》で心臓を狙え!間違っても全身を狙うんじゃないぞ!」

 

返事を待たずに寿和に向かって走り出す。

 

「何!?待て!まだ把握してないぞってもう突っ込むのかよ!ええい、任せろ!」

 

俺は司波の指示に従い《爆裂》の照準を合わせる。

 

【《爆裂》 照準準備】

 

【目標 左肺及び心臓 照準完了】

 

【《爆裂》発動】

 

《爆裂》が男性の心臓に向かって放たれたが、肉眼では捉えられない非物理の光が男性の全身から放たれ無効化される。それは紛れもなく《術式解体(グラム・デモリッション)だった。

 

「何!?」

「《爆裂》が無効化されただと!?」

 

俺達は戸惑いを隠せない。その一瞬の隙をついて男性が高速接近し俺達に刀を振るう。それを辛くも避けた司波は、また男性と接近戦で刃を交えていた。

 

この人は高等魔法《術式解体(グラム・デモリッション)》を使えるのか!?いや、考えるのは後だにしよう。今はこいつを倒すのが先だ。

 

俺はもう一度《爆裂》の照準を合わせて発動させる。またしても彼の全身から想子が発せられ《爆裂》を無効化されるが、俺は動じずそして間髪入れずに《爆裂》を発動させた。今度は無効化されずに、彼の左肺と心臓を破裂させ活動を停止させた。

 

「お疲れ司波。この人は《術士解体(グラム・デモリッション)》を使えたのか?」

「使えたかということはこの際関係ない。この人をどうにかするのが先だが、顧傑はもう目視できないほどにまで離れている。これ以上離れれば日本の領海までに確保できなくなるだろう。お前は十文字家の配下の方々と追いかけてくれ。俺はこの人を弔う」

「分かったその人のことは任せる。行きましょう!」

 

将輝はセダンの横を自己加速術式で走りながら、顧傑が乗った車を追いかけていった。

 

 

 

弔うと言ったのはいいが。どうしたらいいか悩んでいると、知った声が聞こえてきた。

 

「達也君」

「師匠、どうしてここに?」

 

声をかけてきたのは八雲だったことに達也は驚いていた。

 

「このままあの人物に暴れられては困るからね。一応僕も魔法師に近い存在だから、君達魔法師が苦しんでいるのを放っておけない。協力しようと思ってね」

「ありがとうございます。ではこの方をお願いします」

「おい、達也君」

 

八雲に任せて将輝のあとを追い掛けて暗闇に消えていった達也に、優しく声をかける。しかし聞き入れずに走り去った達也に、やれやれとばかりに首を左右に振り弟子に指示する。

 

「まったく。彼を弔ってあげなさい」

 

暗闇の中から現れた弟子達が担架に乗せた寿和を、道ばたに泊めてあったワゴンに乗せる。八雲が乗ったことを確認した後、東に走り去った。

 

 

 

達也は将輝を自己加速術式で追い掛けながら、左右に視線を向けていた。その時克也と《念話》する時とは違った感覚で、頭の中に声が聞こえてきた。

 

『もしもし聞こえていますか?聞こえていれば応答願います』

「聞こえています。貴女は誰ですか?」

 

聞こえてきた声は女性だった。耳元で話されているような微妙な感じに顔をしかめながらも、半分無視して走りながら返事をする。

 

『申し遅れました。私はUSNA顧傑探索特別部隊所属のシルヴィア・マーキュリー・ファーストです。シルヴィとお呼びください。リーナとの関係はよくお聞きしていますよ司波達也さん』

 

どうやらリーナの知り合いらしい。耳元に直接話しかけてくる魔法に興味を覚えたが、それは今考えることではないと頭から追い出して質問を返す。

 

「達也でいいですよシルヴィアさん。それでご用件は何でしょうか?」

『顧傑の逃走経路が判明しましたのでお伝えします。彼はダラスに先月まで潜伏した後、操っていた海軍の隊員を用いて逃走用船舶を準備させ、USNAを脱出したのが3週間前です。そして以前から工作員として潜り込ませていた大陸の古式魔法師を使い、横浜に密入国しました。その後は、2月4日まで箱根付近に潜伏していたとみられます』

「なかなかの手際の良さですね」

『そして信じられないことに、ブラジルの船艦10隻が日本に向かって出船していたことが判明しました』

「ブラジルですか?ブラジル政府は何と?」

『「命令など出しておらず、混乱中に勝手に出て行きやがった」とぼやいております。USNAとブラジル政府は同盟までは行きませんが、友好関係があるため我が政府はこの情報を事実と認めました』

「いつ頃到着予定ですか?」

『…』

「シルヴィアさん?」

 

返事がないためもう一度聞き返すと、返ってきた言葉に驚愕せずにはいられなかった。

 

『30分後です』

「どうすればいいでしょうか?」

『リーナに《へビィ・メタル・バースト》を使わせるのが一番でしょうが、そこまで派手に我々が動くわけにはいきません』

「考えがありますので、シルヴィアさんはご自分のお仕事にお戻りください」

『分かりました。達也さん、お気をつけて』

 

会話が切れたのを確認後、達也は克也に《念話》で連絡を取る。

 

 

 

文弥達と家の警戒をしていると、達也から《念話》で連絡が届いた。

 

『克也、急いであれを着てあれを持ってこい!』

『何故あの2つを?』

『四の五の言わず早く持ってこい!俺の場所はバイザーに表示可能だ。切るぞ!』

 

達也から叱責を受け、反省しながら水波の元に向かい願いを言う。

 

「水波、俺の【箱】を開けてくれ」

「今すぐにですか?」

「ああ、それが必要だ」

「分かりました」

 

達也が〈横浜事変〉でしたように克也は片膝をつき、深雪がしたように水波が克也の額に口づけをする。その瞬間一高前で起こった危険な想子の嵐ではなく、普通に活性化した想子が渦巻く。

 

「克也お兄様、お開けになるのはお使いになられるからですか?」

「それだけの事態になっているんだろう。地下室に行ってそこから直接達也のところに行くから見送りはいらない。文弥・亜夜子、2人を頼む」

 

克也は深雪と水波を2人に任せて地下室に向かった。地下室のパソコンを立ち上げ、戦闘服を収納しているクローゼットのパスワードとCADのパスワードを入力し解除する。床下からせり上がり、厳重に保管されたクローゼットの中にある〈ムーバル・スーツ〉に似た戦闘服を、二着のうち一着を取り出して着衣し、大型CADを手に取り屋上に向かう。

 

自宅の屋根の上に上がり、ベルト部分に仕込まれた飛行魔法用CADを作動させ上昇する。バイザーに達也の位置を表示して確認した後、西に向かって飛行する。眼下の景色がとてつもないスピードで後ろに飛んでいくが、それでも達也のいる場所に到着するまで15分はかかるだろう。

 

克也は可能な限りのスピードで向かった。

 

 

 

克也が西に向かって飛び去った後、亜夜子が口を開く。

 

「深雪お姉様、克也さんが何をしたか教えてもらえませんか?」

「…水波ちゃんの行動は、克也お兄様の真の力を解放させるためのものです」

 

深雪は言うべきか迷っていたが、自分達を慕ってくれている2人を蔑ろにできないと判断しての答えだった。

 

「真の力の解放ですか?」

「それは私から説明いたします。私と克也兄様の間には、パスのようなものが形成されています。どのような結果でこうなってしまったのかは分かりませんが、気付いたときにはできていました。ある日、克也兄様が魔法を使おうとした際、全魔法力の7割しか出せないことに気付かれました。達也兄様に視ていただいたところ、克也兄様の魔法演算領域の一部に【蓋】がされていることがわかりました」

「魔法演算領域に【蓋】ですか?」

「これにより克也兄様は、全魔法力の7割しか使えなくなりました。その【蓋】の開閉は私の意思で可能です。達也兄様は克也兄様に【蓋】がされていることに気付いた際、こう命名されました。【パンドラの箱】と」

「水波さん、それは北欧神話のゼウスがパンドラに与えた災いの詰まった【箱】ですよね?何故そんな名前を達也兄さんはつけたのですか?」

「少しだけその神話の内部を説明します。パンドラは好奇心からその【蓋】を開けてしまい、あらゆる災禍が飛び出すことになりました。急いで【蓋】を閉めたので、【希望】だけが残ったと言われています。達也兄様が【パンドラの箱】と名付けたのは、克也兄様の【蓋】を開けることで災いをもたらすという意味ではなく、希望を残すという意味でです。決して悪意を込めてつけたわけではないのです」

 

水波が涙を流しながら説明するのを聞いて、深雪は同じように涙を流し、文弥と亜夜子は聞いてしまったことを後悔していた。




パンドラの箱・・・北欧神話における災いの詰まった箱。パンドラが興味本位で箱を開けたことで、あらゆる災いが世界に散らばったと言われ、慌てて閉めたことで箱の中には【希望】が残ったと言われる。克也がその【箱】を解放することは、塞がれていた魔法の扉を開けて覚醒することに他ならない。
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