魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第66話 失敗

達也はようやく将輝と十文字家の配下の魔法師に追いついた。だが十文字家の配下の魔法師は、USNAの軍人を含む負傷した怪我人を治療している。少し離れたところには、砂浜に座り込んで海岸線を見つめている将輝がいた。

 

「一条、どうした?」

「…顧傑(グ・ジー)に逃げられた」

 

悔しそうに歯の隙間から声を出す将輝に、達也は心配そうに声をかける。

 

「何があった?」

「俺達は顧傑が他の車に乗り換える隙をついて攻撃したが、伏兵に邪魔されて逃亡させてしまったんだ。USNAの部隊と共闘したが数が多すぎて何も出来なかった」

「人数は?」

「軽く100人は超えていた」

 

将輝の報告に達也は妙な納得感を感じていた。ここに向かう途中シルヴィアからもらった情報には、「【ノーブル】から忽然と姿を消したメンバーの数は100人を超えている」とあり、顧傑の手駒としてこの場で使われたとすれば、人数的におかしくはない。砂浜には将輝が《爆裂》で倒したのだろうか。大量の血が飛び散っており、砂に染み込み始めている。

 

顧傑が乗っていると思しき水陸両用車が船に乗り込むのを視て、どうするべきか迷っていたがその思考は中断を余儀なくされる。情報端末から緊急着信を告げるアラームが鳴り、出ると意外な人物からだった。

 

『特尉、無事か?』

「中佐?何故この番号に?」

『詮索は後だ。今から信号弾を打ち上げるからそこに来てくれ』

 

その言葉が終わるか終わらないかの間に、沖合から信号弾が打ち上げられる。将輝は何が起こっているのか分からず無言で見上げていた。

 

「一条、俺は今からあの信号弾が打ち上げられた場所に向かう。お前も来るか?」

「何か理由があるんだろ?もちろん行くぞ」

 

将輝の言葉に頷き、十文字家の配下の魔法師のリーダーに聞く。

 

「自分達はこれからあの信号弾の打ち上げられた場所に向かいます。ここを任せてもいいですか?」

「お任せを。必ず奴を捕縛してください」

 

その言葉に2人は頷き、互いに抜きつ抜かれつ海の上を疾走しながら目的地に向かった。

 

 

 

船に上がると克也がいたので事情をある程度理解する。将輝は何事かと眼を見開いて驚いていたが。

 

「中佐が俺の携帯に緊急連絡できたのはこういうことでしたか。何故克也を見つけられたのですか?」

「『上空を有り得ないスピードで飛んでいく人影を見た』という魔法師からの目撃情報が入ってね。確認したら〈コバルト・スーツ〉を着た克也君だったという経緯だよ」

「なるほど補導されなかったことに感謝します真田少佐。中佐方が来ているということは、軍が動いているということですか?」

「これは非公式の命令だ。来ているのは30人ほどになる。そのため〈サード・アイ〉はもってこれていない」

「では敵艦を駆逐できませんね」

「敵艦とはどういうことだ特尉?」

 

風間はどうやら知らないらしく将輝も驚いていた。

 

「20分程前にUSNAから連絡がありました。ブラジル船艦10隻がこちらに向かっているらしく、あと数分で観測内に入ると思います。それが分かったので克也に来てもらいました」

「…だから克也君は大型CADを持っていたわけか。あれを使って倒すのか?」

「ええ、周囲に被害を与えない究極の魔法を使いますよ」

 

達也の言葉に克也を除いて全員が驚愕するが、それは人によって意味合いが違った。将輝はそれだけの艦隊を倒せるだけの魔法を使えるのかと。風間と真田は達也と公表されている人物以外に、〈戦略級魔法〉を使える人がいるのかと。

 

その後ろで克也は無表情に佇んで平線を見つめていた。

 

「来たぞ達也」

 

克也の硬質な声に惹かれるように全員が水平線の先を見ると、巨大な戦艦が多数出現したため情報が事実と確認した。顧傑が乗った船は戦艦に向かって走って行って乗り換えるのだろう。

 

「中佐、魔法使用の許可は下りていますか?」

「下りてはいないが戦艦を確認したのだ迎撃しても構わない。放っておいて自国が砲撃にさらされた方が非難を免れないだろう。準備は出来ているのか?」

「克也は既に準備完了しています。俺がタイミングを指示しても構いませんか?今の克也に声を届けられるのは俺だけですので」

 

克也の眼は敵艦だけを見据え、こちらの会話には介入する素振りを見せていなかった。

 

「いいだろう。だが我々もここで見届けさせてもらう」

「分かりました。克也、いいか?」

「問題ない」

 

達也の問いかけに振り返らず、端的に答えたけで敵艦を見据えていた。

 

「これは〈インシュタント・ブリック〉か。よくもまあこんな戦艦を持って来れたものだな」

「...何だと?」

 

克也の呟きに風間は驚きを隠せなかった。

 

「司波、それは一体何だ?」

「ブラジル海軍、戦艦四天王の一つだ。大きさとしては一番小さいが、攻撃力は四天王の中では随一。さらには世界でも指折りにお墨付き。本格的に戦争させるつもりだったとしか思えないな」

 

達也の説明に風間・真田を除く全員が硬直状態に陥ったが、達也が続けた言葉で安堵した。

 

「克也なら攻撃される前にすぐ倒してくれる。見ていれば分かるさ」

 

敵艦が艦砲射撃の試し撃ちを行い、克也達の目前数kmの地点に落下して巨大な水柱を成形する。水柱によって大量の水しぶきを浴びるが克也は微動だにしなかった。

 

「魔法発動、準備」

「魔法発動準備、開始」

 

達也の指示に克也は生命感を感じさせない声音で呟いたにもかかわらず、克也から10m離れた場所で心配そうに見ている風間・真田以下の隊員にも、しっかりと聞き取れていた。

 

【対象物照準 完了】

 

艦隊の中心を走る〈インシュタント・ブリック〉に狙いを定める。

 

【魔法式 構築】

 

想子が人肌でも感じれるほどに活性化する。

 

【魔法式構築 完了】

 

巨大な魔法式が魔法演算領域に流れ込み、魔法式が構築される。

 

【起動式 展開】

 

魔法式が起動式に変換される。

 

【起動式構築 完了】

 

起動式を一旦停止させそのまま保持する。

 

「魔法式準備完了」

 

克也の報告を聞いて達也は風間に視線を向ける。風間が頷きを返したので許可が下りたと理解し、最後のそして克也の生活を脅かすことになる命令を下した。

 

戦略級魔法(・・・・・)《レーヴァテイン》発動」

「《レーヴァテイン》発動」

 

克也が大型CADの引き金を引くと〈インシュタント・ブリック〉の直上に炎球が発生した。それは瞬時に剣の形に変形し、猛烈なスピードで落下して目標物である〈インシュタント・ブリック〉を貫く。敵艦が展開していた陣形は円形に直径約1km。その中心を航行していた〈インシュタント・ブリック〉を貫いた瞬間、その剣は上下左右に膨張し、艦隊の残りの9艦を巻き込んだ。

 

爆発が収束したのを確認して眼を向けると、そこには何も存在していなかったように穏やかな海原があるだけだった。約1kmの定義された座標で爆発した結果、周囲には一切の被害を及ばさない。克也の魔法が被害を可能な限り留めながらも、〈戦略級魔法〉に値するものだと証明された結果だった。

 

「敵艦全て撃沈。残りは目標のみ」

「分かった。顧傑捕獲は〈十師族〉に任せ、我々はこれから帰還して今回の魔法についての緊急会議を開く。全ての隊員は持ち場に急げ!特慰、あとは任せた」

 

風間の頼みを聞き入れ、用意してくれた小型艇に3人で乗り込む。逃亡し始めている顧傑の乗った船に向かって、エンジンだけでは出せないスピードで追い掛けた。

 

 

 

振動魔法を克也・硬化魔法を将輝・移動魔法を達也が、それぞれ担当しながら追い掛けていると、突然逃走船の加速がなくなり止まった。3人で顔を見合わせ、状況が理解できていないことを確認する。

 

「何故止まった?」

「知らん。乗組員を殺したんじゃないのか?顧傑がこの中にいるのは分かっているんだが」

「殺す意味が分からないぞ達也。そうしたら逃げられなくじゃないか」

「分かっているがそれしかないだろ?」

 

3人で意見を交換していると、船から突如として炎が立ち上り瞬く間に全てを覆った。

 

「何だ!?」

「顧傑が証拠隠滅を狙ったんだろう!水をかけろ急げ!」

 

将輝と達也は移動魔法で海水を持ち上げ船の上からかけ、克也は振動系減速魔法で水分子の動きを抑える。だが炎の勢いは止まらずむしろ勢いを増していた。

 

「消えないぞ!むしろ炎が大きくなってやがる!」

「周公瑾の時と同じで自ら燃えているんだ!まずいぞ。あいつの存在がなくなっていく。これじゃ世間に示しがつかない!」

「乗組員だけでなく自分の存在まで消そうというのか!?俺達が捕縛し、世論に捕まえたと知らせないために自害しやがったんだ!」

「離れろ!これ以上ここにいたらこっちまで巻き込まれるぞ!」

 

将輝の言葉通り全員を飲み込もうとするかのように大きくなる炎から逃れるために、全速力で陸地に向かって船を走らせた。

 

 

 

帰りは合流していた八雲の車に乗せてもらい、将輝を最寄りのコミューター乗り場まで送った後、克也と達也は自宅まで送ってもらった。

 

克也と達也が帰宅したのは午前2時過ぎだった。全員が寝ていると思ったため無線でセキュリティを解除し、静かに玄関のドアを開けたのだが水波と深雪が既に待っていた。

 

「「お帰りなさいませ克也兄様(お兄様)、達也兄様(お兄様)」」

「「...ただいま」」

 

予想外の出迎えに口ごもってしまう。

 

「先にお風呂に入られますか?それともお食事ですか?」

「まず風呂に入ってくるよ。食事は軽いものでいい。達也はここのを使って俺は地下のを使うから」

 

達也と別れて風呂場に向かった。

 

 

 

克也と達也は風呂から上がってソファーに座っていたが、水波と深雪が出してくれたサンドウィッチを口にするか説明をするか迷っていた。達也が口を開いたので克也は達也に任せることにした。

 

「...任務に失敗した」

「失敗とは逃げられたということですか?」

「いや、死亡は確認したが遺体を回収できなかった」

 

失敗と聞いた4人は、死亡と聞いて強張っていた表情が少しだけ緩む。

 

「しかし『生死を問わない』という命令であったはずでは?」

「深雪、それは万が一を想定した場合だ。テロ事件を解決したと世間に知らせるためには、首謀者の存在が不可欠だった。姿を見せられないのでは、一般市民が納得しない。むしろ反対運動が活発化するだろう」

「今回の任務は世間に我々魔法師が解決したと示すことが目的だった。それを成せなかったなら任務は失敗としか言い様がない」

 

落ち込む克也と達也に4人はかける声を見つけることができず、ただ心配そうな眼を向けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

翌日。達也は千葉家を訪れるらしいので、克也は横浜の魔法協会関東支部に今日の深夜の事後説明のために訪れていた。水波同伴で一番豪華な応接室に通される。他にも九島家や十文字家の当主が来ていたが、どうやらレディーファーストで真夜がこの部屋の使用権を勝ち取ったらしい。

 

母上(・・)、お待たせしました」

「よく来てくれたわね。顧傑の件かしら?」

「はい」

 

未だに母上(・・)と呼ぶのに違和感があるが、「設定」を疑われるわけにはいかないので我慢する。

 

「今回の一件、不首尾に終わってしまったことをお詫び申し上げます」

「気にしなくていいわ。自害されるとは誰も予想していませんでしたから」

「しかしそれでは示しがつきませんが」

「仕方ありません。どうにかして〈十師族〉で収束させます」

 

真夜は当主らしくしっかりと頷いてくれた。しかし他の懸念も残ってしまいそれが一番の心配事だった。

 

「反魔法主義運動はこの先どうなるのでしょう?」

「過激になるでしょうね」

「やはりですか。困りましたね」

「私達だけで対応するのは不可能だから今考えても仕方ないわ。それより《新魔法》はどうでした?」

「予定通りでした。〈戦略級魔法 《レーヴァンテイン》〉と公表して問題ないかと思われます」

「貴方の《レーヴァテイン》は局所的な魔法ですから、条件が限られる場所でも使えます。これから使用頻度が増えるかもしれませんね。そんな日が来ないことを望んでいますが」

母上(・・)でもそんなことを考えられるのですね?」

「貴方は私を何だと思っているの?」

 

克也の茶々に楽しそうに乗っかりながら、真夜は笑顔で聞き返してきた。

 

「俺を溺愛する優しい母上(・・)だと思っていますが。何か間違いでもありますか?」

「…言うようになったものね克也」

 

頬を赤くしながら睨まれても全く怖くないので、さらに踏み込むことにした。

 

「次期当主の補佐ですよ?現当主に引け目を感じていたらやっていけません」

「なかなか肝が据わってきましたね克也。それはどの程度まで耐えられるのでしょうか?」

 

真夜は先程と変わらない笑みを浮かべながら、《夜》で応接室を包む。

 

「穏やかではありませんね母上(・・)

 

克也も笑顔を崩さず、同じように《夜》を発動させた。真夜より《夜》が明るいことがただ一つ違うことだろうか。互いの《夜》が相殺して《夜》が崩れる。

 

母上(・・)、手加減されると気分を害されるのですが」

「ここで殺り合っても仕方ないでしょ?それに可愛い息子(・・)を傷つけたくありませんからね」

「…褒め言葉として受け取っておきます」

「素直にありがとうと言えばいいのに。そろそろ会議が始まるから移動するわ。気をつけて帰りなさい。水波ちゃんを介抱してあげながらね」

 

意味ありげにウインクをしながら会議室に向かう真夜の後ろを、今まで身じろぎ一つしなかった葉山が克也達に一礼してから追い掛けた。2人を見送った後、硬直していた水波を再起動させて帰宅することにした。

 

「水波、帰ろうか」

 

そう言いながら左手を差し出すと、水波は首を傾げながら克也を見てきた。

 

「俺達は婚約者同士なんだから、これくらいしてもおかしくないだろ?それともしたくなかったか?」

 

意地悪げに聞くと頬を赤くして膨らませながらも、嬉しそうに克也の左手を細い右手で握ってきた。交際したばかりの互いの手を握るつなぎ方ではなく、互いの指を絡めるようにして魔法協会関東支部をあとにした。

 

 

 

克也達はこれで終わったと思っていたが、この騒動は始まりに過ぎない。顧傑の背後にさらなる黒幕がいることを、克也も達也も真夜も知り得なかった。そしてその黒幕の野望は、地道にしかし確実に実を結んでいた。




レーヴァテイン・・・克也の使用する特化型CADと戦略級魔法の名前。
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