魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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11章 レプグナンティア編
第67話 微妙


今日は3月10日、将輝が金沢に帰る日がやってきた。一高への臨時転校は昨日で終了しており、あとはキャビネットに乗るだけで帰宅できる状態になっている。克也は1人で将輝の仮住居からほど近い、キャビネットの駅に見送りに来ていた。

 

「いろいろすまなかったな将輝」

「迷惑なんてかかってないぞ克也。有意義な時間だったからむしろ感謝しているさ」

「そう言ってもらえると助かる。向こうでも変わらずやるんだろ?」

「ああ、克也に勝てないことはこの2ヶ月で思い知らされたからな。お前以外の魔法師には負けないように、もっと実戦での作戦を考える。基礎から勉強し直すつもりだ」

「〈カーディナル・ジョージ〉にでも頼むのか?」

「もちろんだ。あいつは俺の参謀だからな。結果を期待できる作戦を考えてくれるさ」  

 

そうこう話している間に帰る時間が来てしまったため、送り出すことにした。

 

「何かあったら連絡してくれ。可能な限り便宜は図らせてもらう」

「その時は頼みにしてるぜ友人」

 

お互いの拳と拳を軽くぶつけて別れの挨拶をした。将輝の乗ったキャビネットが見えなくなるまで見送り、克也はそのまま学校に向かった。

 

 

 

今日は日曜なのだが入学式に向けての準備があるため、学校に行かなければならない。面倒だとはいえ、疎かにすることはできないのだ。達也と深雪は真夜に呼び出されており、今日は学校に来ないので、克也が中心となって準備を進めることになる。克也は別に入学式が嫌いというわけではない。準備をするのが面倒くさいので嫌なだけである。

 

学校に到着すると、部活動をする同級生・下級生のかけ声や応援が聞こえてきた。卒業式はもう少し先だが、3年生が登校しないため、在校生は先輩気分で練習に励んでいた。

 

克也も山岳部とバレー部に入部しているが、最近は忙しくここ2ヶ月ほど参加できていない。各部長に小言を言われるが、所属部員のCADを調整することで許しを得ている。最近では部員から〈名誉部員〉と呼ばれているらしく、不本意だが受け入れるしかなかった。

 

生徒会室に到着して部屋に入る。もう既に達也と深雪以外の役員がそろっており、それなりに着々と準備が進んでいた。ほのかは〈会計〉として入学式にかかる費用を計算しているらしく、難しい顔をしながら何度も何度もパソコンのキーボードをたたいている。泉美はプログラムの見直しを職員とするため、足早に生徒会室を出て行った。

 

「水波、総代の答辞はできたかい?」

「すみません克也兄様。どう言葉を紡げば良いのか分からなくて」

「貸して」

 

水波にキーボードで打ち込んでいた答辞の原稿を見せてもらう。どうやら全体を変えようとしていたらしく、余計に時間がかかっていたようだ。

 

「ここ10年以上答辞の原稿は変わっていないらしいから、全体を変える必要はないよ。所々を前年度と被らないようにすればそれでいい。どうせ総代が自分なりにアレンジしてくるだろうからね。あくまでも入学生全員の所信表明のようなものだから、新入生代表の答辞にあまり深い意味は無いよ」

「ということは七宝君の時も変わっていたんですね?」

「深雪も変えてたらしいから、多少の変化は教師も気にしないそうだ」

 

水波の質問に少し論点をずらして答える。その後も準備を進め、ある程度の目処が立ったところで、早めに帰宅することになった。

 

 

 

 

 

3月15日。今日は魔法科高校の卒業式であり、先程まで卒業生送別パーティーが開かれていた。終了すると寂しげな空気が校内に漂っていたが、今年も俺はその空気に乗れずにいた。まだ卒業ではないのもあるが、何より千代田先輩に連行されているのが主な理由だった。連行された場所は、かつて彼女が委員長として使っていた風紀委員会本部だ。

 

何故ここに呼ばれたのか分からなかったが、俺は文句を言わずついて行っていた。部屋は幹比古が委員長に就任してからさらに整理整頓され、生徒会室にも劣らない綺麗さだった。渡辺先輩や千代田先輩が使うと散らかっていたせいなのか。幹比古の整理整頓能力には驚かされる。性格もあるだろうし、古式魔法師としての心意気もあるのだろう。

 

「司波君、言いたいことがあるんだけどいいかな?」

「構いませんよ。でも先に何故ここに連れて来たかを教えて下さい」

 

委員長席に座りながら聞いてくる千代田先輩に、俺はこの部屋に連れて来た理由を聞いた。

 

「ここに来たのは、誰にも邪魔されないと思ったからよ。私が高校最後の日にここを訪れても、文句を言う人はいないから」

「確かに3年間の思い出に浸っても、文句を言う生徒はいないでしょう。では本題に入りましょうか。ご用件は何ですか?」

「大したことじゃ無いけど、会うことはそうそうないだろうからここで言っておくね。私はあんたのことが好きだったのよ」

 

千代田先輩の告白に俺は少々驚いていた。少しで済んだのは、俺に水波がいたことが大きかった。

 

「初耳です。千代田先輩は五十里先輩のことが好きだと思っていましたから」

「啓は幼馴染って感じだからそんな感情はなかったの。私の気持ちを知っていて欲しかっただけだから、何も答えなくてもいいよ。答えに関しては分かりきってるから。それじゃあ、最後の1年も一高をよろしくね」

 

風紀委員会本部から出て行く千代田先輩の目尻に僅かな光の反射が見えたような気がした。たとえ千代田先輩に告白されていたとしても、俺は受け入れなかっただろう。嫌いではなくむしろ人間性は好きなのだが、女性として見ることはない。考えるとしても、仲の良い友人という存在になるだろう。

 

俺は風紀委員会本部でしばらく立ち尽くしていた。

 

 

 

元生徒会の卒業生やそれなりに関わりのあった沢木先輩・桐原先輩・壬生先輩には、卒業のお祝いの言葉を何度も言っているため、もう一度会いに行く必要は無かった。俺は正門前に咲く桜を見ながら、高校に入学してから2年経ったことを実感していた。

 

あと1年。今年は何も起こらないことを祈っているが、俺達が望んだところで敵がそれに合わせてくれる保証は絶対にない。世界トップレベルの影響力を持っていた【ノーブル】はほぼ壊滅状態に近いが、それでもまだ大きな権力をUSNAで振るっている。同じく崩壊気味の【ブランシュ】と合体しなければいいが。

 

顧傑(グ・ジー)によって設立され、彼によって崩壊しかけている【ノーブル】は、自身の逃走のために利用されて有力幹部や大多数のメンバーを失った。だがまだ勢いは相変わらずで、彼等の主張が徐々に浸透しているのは日本でも確認済みだ。

 

先月、一高前で襲撃してきた【エガリテ】の残党のように手荒な活動はしていないが、ニュースで名前を取り上げられると良い気持ちはしない。最近は【ブランシュ】も大人しくしているらしく、顧傑の死亡が大きな要因であることは疑いようもないことだった。

 

 

 

 

 

今日は春休みだが克也達は学校に来ていた。3日前まで達也と深雪が沖縄に行っていたため、入学式の準備が少しばかり遅れているのだ。

 

克也とほのかが中心となって準備を進めていたが、2人がいないとそれなりに不都合が生じる。入学式の準備を生徒会で経験しているのは克也とほのかだけだ。中には2人だけでは回せない仕事も含まれてくるため、生徒会の想定している以上に進まなかった。そのせいか2人には多大な疲労が蓄積している。克也は普段のように生活できず、暇さえあれば眠っている有様。ほのかはいつも明るく振る舞っているのに、ここ1週間はからげんきだ。

 

生徒会室で軽く打ち合わせをしていると、面会予定の新入生が指定時間少し前にやってきた。

 

「はじめまして三矢さん。第一高校生徒会長 司波深雪です」

「はじめまして司波先輩。三矢詩奈ですよろしくお願いします」

 

深雪の優しい挨拶に、緊張で強張っていた詩奈の表情が年相応の柔らかい表情に変わった。

 

「四葉先輩はもう少し怖い方だと思っていました」

「名前だけ聞けば怖がっても仕方ないさ。正確に言えば今は司波だけどね」

 

詩奈の質問に克也は優しく答えてあげた。水波から少し睨まれてしまったが。

 

「答辞の長さはこれくらいで良いと思います。もし覚えられなければ、原稿を持って呼んでもらっても構いませんよ?」

「大丈夫…だと思います」

 

詩奈との打ち合わせは昼前に終わった。時間があったので克也は山岳部に向かい、久々の参加と気分転換に汗を流すことにした。

 

 

 

更衣室で運動着に着替えて第三演習場に向かうと、既に1年生がへたり込んでいるのが見えた。それを見てレオがため息をついている。

 

「レオ、どうした?浮かない顔して」

「お?克也じゃねぇか。メニューを考えてやらせてたんだがよ。全員がこの有様でがっかりしちまってな」

「ちなみにどんなメニューなんだ?」

「林間走15km、魔法を使わず端から端まで枝を伝って飛び移るのを1往復だ」

 

レオのメニューにため息を隠そうともせずにつく。

 

「レオ、それはお前の考えだろ?後輩の気持ちを考えてやれよ。あいつらだって死にかけてるぞ」

 

俺の視線の先には、地面にあぐらをかいたり木の幹に背を預けて空をぼんやり眺めている者・その他諸々。同級生でさえ疲労で動けていないのだ。上級生でこの有様なのだから、下級生からすれば地獄だろう。

 

「県前部長の推薦は間違ってると思うのは気のせいか?」

「俺はちゃんと断ったんだぜ?それでもやれって言われたんだから仕方ねぇだろ。それに克也が断らなければ俺にはなってねぇよ」

「生徒会入会というより強制的なものが先に発動してたからな。断るしか方法がなかったのさ。俺はこのくらい問題ないがもう少しだけ軽くしてやってくれ。せめて走りは10kmにするとかだな。俺も同じメニューしてくるから、それまでに全員起き上がっておくこと。いいな?」

 

部長のレオに軽く説教しながら、他の部員にも副部長として命じておく。15kmなら魔法を使わなくてもすぐに終わる。俺は走り出して森の中へと向かった。

 

 

 

2時間後にメニューを終わらせて先程の所に戻る。今度は岩場を両手だけで登る練習と、加重系魔法や硬化魔法で崖を歩くメニューをやっているところだった。

 

本来山岳部は、魔法を使った練習は行わない。肉体を鍛えることを第一の目的にしているからだ。だがこうした練習の中にも、魔法を使うこともある。その理由として、肉体を使った方法と魔法を使うことで、魔法のありがたさを知る機会を得るためらしい。

 

崖の高さ25m幅10m。ごつごつした岩場と凹凸のない平らな場所に別れているため、隙間は5mほど分けられている。この崖は地面に収納できる折りたたみ式となっているらしい。それに落下したとしても、地面はマットレスに近い素材であるため、怪我をする可能性は低い。

 

そういうこともあって、意外と部内の上級生からはそこそこの人気を誇るメニューとなっていたりする。

 

「レオ、今度は何をやらせてるんだ?」

「俺の気まぐれと偶然でこんな物があったからやってみただけだ。案外みんな楽しそうにやってるからいいと思うんだが。克也はどう思う?」

 

レオの言葉に応える前に、壁を上っている下級生と同級生を見る。皆が珍しそうにしながらも楽しそうに登っていた。俺もやってみたかったので否定的な意見は言わなかった。

 

「なかなか面白いと思うぞ。俺もやってみたいしな。ただ…」

「ダンケ克也。で、どうした?」

「何故こんな物が長年ここにあるのかが知りたい」

「言われてみると確かに」

 

そもそもここにある必要性を感じなくもなかったが、経験したことのない鍛え方ができるのなら、やることにこしたことはないだろう。俺とレオは部員に混じって登ることにした。ごつごつした岩場は簡単に上れたので、後から上ったにも関わらず一番に登りきると全員から睨まれた。凹凸のない壁は《壁走り(ウォール・ラン)》で楽々登って、またしても睨まれてしまう。

 

「克也、その魔法は普通誰も使わねぇぜ?」

「そんなことを言われてもな。俺からしたら対人戦闘においても、有効的に使える魔法だからオススメなんだがな」

「この2年間ずっと見てきたが今だに驚かされるぜ。克也と達也はほんとうにびっくり箱だ」

「褒められたととっておくよレオ」

「素直にありがとうって言えよ克也」

 

レオに笑顔でバシバシと背中を叩かれ、痛みを堪えながら笑みを浮かべた。どこかで聞いた言葉だったが、思い出すこともなく久々の部活はあっという間に終了した。

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