魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第69話 同情

入学式が終了した週の日曜日、克也は真夜からの文をリビングで1人読んでいた。達也はFLTへ、深雪と水波はお嬢様のための習い事に行っているためである。

 

『【ブランシュ】と【ノーブル】が合体して新しい団体を結成。名前は【レプグナンティア】』

 

安易なネーミングだが、名前はそれ自身を表す情報でしかないからどうでもいいのかもな。

 

『USNAで過激な活動を繰り返し、魔法科高校や魔法に関係のある会社・そして道ばたを歩いている魔法師などが標的。怪我人も出ている。取り締まっているが人数が多く対処しきれていない』

 

「これはこれで問題ありだが。それより気になるのは団体の人数だな」

 

【ノーブル】は顧傑(グ・ジー)によって大半が駒に使われて死んだはずだし、【ブランシュ】もそこまでいなかったはずだ。どこか名前も知らない組織を、幾つかまとめて吸収した可能性があるかもしれない。

 

克也は誰もいないリビングで独り言を呟き、重い腰を持ち上げた。そろそろFLTから迎えに行っていた達也が、2人を連れて帰ってくる頃だ。まだ15分ほどあったので風呂に入ることにした。よもやこのミスが変な事態に発展するとは、さすがの克也も思わなかった。

 

 

 

シャワーを浴びている間も滴る水滴をタオルで拭っている間も、克也は【レプグナンティア】について考えていた。いつもなら気付くはずの人の気配や物音をスルーしてしまうほどに。

 

人数を集めるのはそれほど難しくはないだろう。魔法に対する反感を持った一般人は想像以上に多い。魔法によって家族を失った者・魔法使用中に事故に遭い魔法技能を失った者・魔法そのものを嫌う者。

 

挙げれば切りが無いな。

 

それだけ魔法に対する忌避感が大きいということだろうが、それより気になることがある。顧傑が作った【ノーブル】だが、一度手合わせした【ブランシュ】とは根本的には違う気がする。【ブランシュ】より過激な活動をしすぎている。それも魔法師という枠組みではなく、【調整体】や第一世代に対する批判が異常に強い。

 

まるで誰かがそう指示を出しているようだ…。

 

そんなことを考えていたせいなのかもしれない。

 

突然、脱衣所の扉が開いた。どれだけ考え事に没頭していても、さすがにその音には気付く。髪を拭いていた克也がタオルの隙間から眼を向けると、開け放たれた扉の向こう側でいつの間にか帰ってきていた水波が、眼を見開いて立ち竦んでいた。

 

克也も驚かなかったわけではないが一瞬で立ち直る。風呂上がりとはいえ、マナーとしてたたき込まれた無意識の行動で、タオルを巻いて下半身の大事な部分は隠しており、裸なのは上半身だけだ。

 

「水波」

 

克也は水波の顔を見ないように声をかけたが返事はなく、もう一度タオルの隙間から見ると、まだ衝撃から立ち直れていなかった。聞こえてはいないはずだが、眼から入ってくる光景の刺激に脳が一時的に思考停止に陥ったようだ。

 

「水波、ドアを閉めてくれ」

「失礼しました!」

 

少し強めに言うと、水波が大きな音を立てて脱衣所のドアを閉めた。その後派手に床が鳴ったのは水波がこけたからだろうか。克也がこけた瞬間の水波を想像して、苦笑しながら衣服を身につけて脱衣所を出た。

 

その後、水波は就寝するまでの3時間。顔も合わせず話もしてくれなかった。

 

 

 

自室に全員が引っ込んだ後、水波は自分のベッドで枕に真っ赤にした顔を押しつけながら暴れていた。

 

『見てしまった!見てしまった!初めて男性の身体を見てしまった!大事な部分は見えなかったけど見てしまった!それも婚約者のを!』

 

水波は脳裏に焼き付いた克也の引き締まった上半身を、頭から追い出そうとかぶりを振る。だが余計に鮮明に映し出されるような錯覚を覚えていた。〈婚約者〉という単語を思い浮かべる度に左胸の奥がズキンと痛む。しかしそれは不快な痛みではなく、嬉しい痛みだと水波は感じていた。

 

足をばたつかせながら悶々としていると、ドアがノックされ想い人の声が聞こえてきて余計に胸が高鳴る。

 

「水波、少しいいか?」

「少々お待ち下さい!」

 

水波の部屋のドアをノックし声をかけると、焦った声が聞こえてきた。

 

「どうぞ!」

 

少ししてドアが開き水波を見ると、頬が赤くまだ脱衣所でのことを引きずっているようだ。

 

「脱衣所のことは気にするな。油断していた俺も悪い。だから明日からはいつも通りで頼むよ水波」

「はい!よろしくお願いします!」

 

水波の返事を聞き、頭を撫でてから自室に引っ込んだ。

 

水波は頭を撫でてもらった余韻に浸りながら、ベッドに潜り込み幸せそうに頬を緩めながら眠りにつき、克也も自室に引き返してベッドに潜り込んでいた。掛け布団を首元まで持ち上げながら、先程の水波ともやりとりを思い出す。

 

『頭を撫でたときのあの嬉しそうな顔が可愛いすぎるな』

 

克也は心の中で呟き、これは仕方が無いことだと割り切ることにした。克也は目を閉じ眠りにつくが、崩れた顔なのは水波と変わらなかった。

 

 

 

 

 

今学期はお陰様で事件らしいことは何一つ起こらず、克也達は楽しく高校生活を謳歌していた。といっても新入生勧誘週間に幾度となく事件が勃発していたが。克也と深雪の恐怖の笑みで穏便?に終わらせ、2人が動けない場合は、達也が介入して争いごとを抑えていた。

 

定期試験も無事に終わり、恒例行事になりかけている結果を叩き出してから最後の〈九校戦〉準備に入っていた。

 

総合順位 主席 克也 

 

僅差で次席 深雪 

 

三席 ほのか 

 

僅差で四席 雫 

 

五席 幹比古

 

実技試験 1位 深雪 

 

僅差で2位 克也 

 

3席 雫 

 

僅差で4位 ほのか 

 

10位 幹比古

 

筆記試験 1位達也 

 

僅差で2位 克也 

 

3位 幹比古 

 

4位 深雪 

 

5位 ほのか 

 

僅差で6位 雫 

 

7位美月 

 

8位エリカ

 

魔工科筆記試験 

1位 達也 

 

2位 美月

 

1年生の間は二科生だった幹比古が、総合順位でトップ10に入った。成績の伸び具合に克也達は褒め称えていたが、少なからず教職陣が頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

〈九校戦〉準備は順調に進み、あとは競技要項が送られてくるのを待つだけだ。その日の昼前、大会委員から競技内容が各高校に送られた。放課後の生徒会室で、役員全員が内容を読んでいた。

 

「競技が元に戻ってよかった。あのままじゃ今年も何かあるんじゃないかと思ってしまったが、心配する必要は無かったみたいだ」

「あれは対大亜連合強硬派の暴走だからな。それを変更せずにいられるほど、大会委員も度胸があるわけじゃない。逆に戻さなかったら批判が集中していただろう」

 

達也の言う通り去年の競技変更は、酒井大佐率いる国防軍の一派による圧力に耐えきれず、やむを得ない形で大会委員が要望を受け入れていたもの。今年になって変更するのは当然だろう。

 

「競技が戻ったのは良いが問題は選手だな。今年は技術方面に少し偏っているから、選手には掛け持ちして貰うことになる。疲労が溜まりやすくなるだろう」

「それは自分自身で整えないとな。むしろ一昨年よりはマシだと思いなよ達也。エンジニアが増えるということは、達也の仕事が減って、少ない担当選手に多くの時間が割けるんだから」

「そうだな。何事も前向きに考えよう」

 

達也はこの2年間、一高で誰より多くの担当選手のCADを調整していたため、首脳陣は心配だったのだ。

 

「ここにいるメンバーは、ほぼ出場種目は決まっているから今言うべきだな。深雪は〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉と〈ミラージュ・バット〉。克也は〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉と〈バトル・ボード〉。ほのかは〈バトル・ボード〉と〈ミラージュ・バット〉。水波は〈クラウド・ボール〉、泉美は〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉だ」

「幹比古・雫・香澄は生徒会役員じゃないけど決まってる。幹比古は〈モノリス・コード〉、雫は〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉と〈スピード・シューティング〉、香澄は〈クラウド・ボール〉だ」

「残りはこれから決めないといけませんね。もちろん克也お兄様と達也お兄様には、エンジニアとしても活躍して貰いますのでよろしくお願いします」

「「任せておけ」」

 

2人は同時に深雪のお願いに頷く。

 

「残りは試験の結果と得意魔法で決めるべきですね。克也さん、意見を貰いたいのですがいいですか?」

「いいよ。その子は…」

 

克也達は自分達の学年の三連覇、そして一高の六連覇を目指して動き始めた。

 

 

 

 

 

〈九校戦〉開幕までの期間が残り1ヶ月を切った。練習には熱が入り始め、一昨年より生徒がやる気になっていたことに、3年生徒会役員は嬉しく思いながらも、「一昨年からやってくれよ」と呟かずにはいられなかった。

 

〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉は深雪の魔法のおかげで練習には困らず、〈バトル・ボード〉も簡易コースで行っている。〈クラウド・ボール〉はテニス部のコートを使い、〈ミラージ・バット〉は体育館で映像投影しながら練習していた。

 

〈モノリス・コード〉は第三演習場で行われ、〈森林ステージ〉に見立てていた。幹比古・十三束・森崎vs克也・達也・レオによる戦いは白熱し、いつの間にか〈九校戦〉関係者にとどまらず、教職陣まで見学する有様だ。

 

森に身を隠した幹比古による精霊魔法を、同じく森に身を隠した克也が破り、その隙を突いて達也が突進する。その達也を迎え撃つのは十三束だ。拳を突き出す際の衝撃波で達也を追い払うが、達也はそれを躱しながら《共鳴》を発動する。だが十三束も《接触型術式解体》で無効化する。

 

その間に森崎が克也陣地に侵入するが、レオによって阻まれる。そのような攻防が10分ほど続き、レオによって森崎が倒され、十三束が達也に降伏した。残りは幹比古だけなのだが、さすがにここまで隠れられると見つけるのに一苦労だった。

 

「味方だと頼もしいが敵になると厄介だな」

「敵対しない方が身のためかも」

「今はある意味敵同士だけどな」

 

2人を倒した後、モノリスに見立てた縦長の長方形型コンクリートの前に集まりながら、達也と克也の愚痴にレオが茶々を入れる。そのせいなのか。森の中から気配が一瞬だけ漏れ出たことに3人は気付いた。克也と達也ならともかく、レオまでが気付いたのは意外だ。

 

まあこの2人の近くで2年間共に勉強と実戦慣れをしていれば、それなりには気配の察知など身についてしまうことだろう。もちろんレオの潜在能力であったことも否めないが。気配を流させた結果は意図したものではないが、この機を逃せばもう見つからない可能性が高い。

 

「克也・レオ、俺は気配がしたところに向かうから援護を頼む。克也、場所は分かるか?」

「達也の2時方向の前方50mかな。予想外に近いところまで来てたみたいだ」

「危なかったな。達也、任せたぜ」

 

達也はレオに眼で答えて森の中に向かって走り出した。

 

数十秒後、森の中で雷鳴が轟いて光が溢れたと思いきや、達也が転がり出てきて、珍しく地味に必死な形相でこちらに向かって走ってきた。

 

「…レオ、何があったと思う?」

「…克也より頭のできが悪い俺に理解できるわけがないだろ?」

 

レオと互いに意見交換している間にも、達也の後方で《雷童児》が暴れ回っている。どうやらそれのせいで達也は捜索を中止せざる終えなくなり、撤退してきているようだ。

 

「達也、どうした?」

「分からんが何故か幹比古が少々切れている」

 

叫びながら聞くと、大声で返事が返ってきた。

 

「レオ、幹比古がキレた理由は分かるか?」

「見当もつかねぇよ」

「穏便に済ますなら、こっちが降参した方が良いかな?」

「だろうな…おわ!幹比古の野郎、俺達も狙い出しやがった!」

「逃げようか」

 

雷から逃げるため3人は森の中を走り回った。

 

「克也、降参の合図の花火があったぜ」

「そういや忘れてた。サンキューレオ」

 

腰から降参用花火を取り出し打ち上げようとしたが、手元が滑って地面に落ちてしまい、後ろを走っていた達也が誤って踏んでしまった。

 

「「達也!」」

「…すまん」

 

達也が心底すまなそうに謝るが、危機は増していく一方だった。このままでは全員が雷にうたれ、無様な結果になるだけだったので第三演習場から逃げ出すことに決めた。《跳躍》を使って壁を飛び越え、第三演習場から抜け出すと攻撃は収まった。

 

「やれやれ。何だったんだ今のは?」

「本人に聞くのが一番だと思うぞ」

「出てきたみたいだから聞きに行くか」

 

第三演習場に隣接する出入り口から出てきた幹比古に問いただすことにした。

 

「幹比古、あれはねぇぜ」

「ひどいよ幹比古」

「何故俺達は本気の攻撃をされた?」

 

三者三様の怒り方で聞くと、気まずそうに幹比古は答えた。

 

「ごめん。隠れてたら嫌なこと思い出しちゃってさ。2人がやられた瞬間に何故か爆発した」

「何に怒ってたんだ?」

「言いたくない」

 

幹比古が頑固に断りながら克也達の脇を睨んでいた。その方向を見ると、エリカが声を殺しながら腰を折って笑っていたので大体の予想がついた。3人は幹比古に同情して肩を叩いてから、気絶している2人の救助に向かった。

 

 

 

〈九校戦〉前々日まで練習は行われ、出場選手は手応えを感じながら次の日のために眠りについた。

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