大会4日目から8日目にかけては新人戦が行われる。1日目は〈スピード・シューティング〉の予選と決勝・〈バトル・ボード〉の予選があり、これはまだ安心して見ることが出来た。
午前中は〈スピード・シューティング〉と〈バトル・ボード〉の予選が行われた。
一高
〈スピード・シューティング〉決勝トーナメント進出
〈バトル・ボード〉予選突破
三高
〈スピード・シューティング〉決勝トーナメント進出
〈バトル・ボード〉予選突破
結果は予定通りだった。昼休憩を挟んで後からは〈スピード・シューティング〉の決勝トーナメントが行われ、首脳陣の期待通りに詩奈が優勝してくれた。
「使用した魔法は《ドライアイスの亜音速弾》か。まだまだ荒削りだが、2年後にはもしかしたら七草先輩にも匹敵するかもしれない」
克也は達也・深雪・泉美・香澄の5人で、詩奈の決勝を見に来ていた。
「まさか七草先輩と同じ魔法を使ってくるとはな」
「詩奈ちゃんはお姉様を尊敬されているようで、昔からよく教わっていたみたいですよ」
「七草先輩より泉美と香澄とよく遊んでいたと思っていたけど」
「歳が近かったので遊んではいました。けど魔法を使うことはお姉ちゃんに教えてもらってたみたいです」
2人から情報を聞いて、同じ魔法を使っていた理由がよく分かりもやもや感が薄れた。
〈スピード・シューティング〉の結果。
優勝 一高
準優勝 三高
予定通りだったので1日目は安堵できる結果だった。
大会7日目、新人戦2日目は〈クラウド・ボール〉予選・決勝トーナメント、〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉の予選があった。
一高
〈クラウド・ボール女子〉3位
〈クラウド・ボール男子〉3位
〈アイス・ピラーズ・ブレイク女子〉予選敗退
〈アイス・ピラーズ・ブレイク男子〉予選敗退
一方三高
〈クラウド・ボール女子〉優勝
〈クラウド・ボール男子〉優勝
〈アイス・ピラーズ・ブレイク女子〉予選突破
〈アイス・ピラーズ・ブレイク男子〉予選突破
総合順位
1位 一高 435ポイント
2位 三高 335ポイント
3位以下混戦状態
まだ点数には余裕があるが、翌日からが今年の〈九校戦〉一番の山場だと言われ、苦戦は免れないと誰もが予想していた。
大会8日目、新人戦3日目と大会9日目、新人戦4日目は予想通りの結果になった。
3日目
一高
〈バトル・ボード女子〉予選敗退
〈バトル・ボード男子〉予選敗退
〈アイス・ピラーズ・ブレイク女子〉4位
〈アイス・ピラーズ・ブレイク男子〉4位
三高
〈バトル・ボード女子〉優勝
〈バトル・ボード男子〉優勝
〈アイス・ピラーズ・ブレイク女子〉優勝
〈アイス・ピラーズ・ブレイク男子〉優勝
4日目
一高
〈ミラージ・バット〉3位
〈モノリス・コード〉予選4位で突破
三高
〈ミラージ・バット〉優勝
〈モノリス・コード〉予選1位で突破
総合順位
1位 一高 465ポイント
2位 三高 455ポイント
本戦での貯金を使い切ってしまうことになり、首脳陣は頭を抱えていた。
「本戦の〈ミラージ・バット〉と〈モノリス・コード〉は優勝が狙えるから総合優勝もこのままなら狙えるだろう。だが今年は良くても来年以降はマズいな」
「2年生はいいとして1年生はテコ入れが必要かもしれない。いくらエンジニアの腕が良くても、選手の魔法力が低くては意味が無い。それなりには鍛えないとな」
夕食の前、一高首脳陣つまり3年生徒会役員は、〈九校戦〉会場のホテルの会議室で反省会を行っていた。優勝した克也・深雪・雫・ほのかまでが沈んだ表情をしているのは、それだけ結果が芳しくなかったからだろう。
「明日の〈モノリス・コード〉は大丈夫でしょうか?」
「分からない。三高もなかなかの腕前だったから優勝は間違いないだろう。せめて準優勝はしてほしいが」
「けど、彼らが決勝トーナメントに進出できた時点で驚きなんだ。それは難しいだろうさ」
克也の言葉は厳しいが、事実なために誰も反論することができなかった。〈モノリス・コード〉は得点が高いこともあり、もっとも魔法力のある生徒3人が選ばれるのだが、今年の1年生は実力がほぼ横ばいだった。よく言えば実力差がなく安定しているが、悪く言えば実力が低く人選が難しいのだ。それに加え2種目しか掛け持ちが出来ないので、仕方なく総合トップ3からではなくトップ10から選ぶことになり、予想通り苦戦していた。
「三高に離されないためには、可能な限りは上位に入ってもらいたいな」
克也の言葉は気休めにしかならなかったため、暗い雰囲気を吹き飛ばすことはできなかった。
夕食時、1年生はもとより2年生・3年生にまで暗い影が落ちているのは、本戦前半の結果と新人戦の結果に差があり、魔法力の格の違いがはっきりしたからだろうか。
「克也、さっきテコ入れが必要だって言っていたが具体的にはどうする?」
「まずは体力作りからかな。身体がついてこなければ魔法力があっても使い物にはならない。簡単で基礎的な走り込みから始めようか。1週間に2回ほど放課後に第三演習場を走らせる感じはどうだろう」
「2年生は大丈夫だろうが、1年生がそれについてこれるかどうかだな」
真面目に話し合えたのはここまでだった。突然女子生徒の悲鳴が上がり、振り向くと森崎が苦しげに両膝をつき首元を抑えていた。
「森崎!?」
駆け寄ると苦しそうにのたうち回ったため、自体が分からない克也達にはどうすることもできない。だが最低限のことならできる。
「達也・レオ、森崎を立たせて抑えてくれ!」
「わかった」
「おう!」
達也とレオが森崎の両腕をしっかりとつかみ、暴れないように押さえつけている間に克也はやるべきことを決めた。
「森崎、痛むだろうがすぐ終わらせる。少しの間だけ我慢してくれ。っ!」
「がは!」
森崎の引き締まった腹部に拳を叩き込み、胃の内容物を強制的に吐き出させる。1発入れると森崎は痛みのあまり気絶した。
「これで大丈夫だと思うけど、念のために先生を呼ぼう」
「そうだな」
森崎を医務室へ運ぼうとすると、もう一人が倒れ込んで首元を抑えていた。
「十三束もか!」
森崎を床に寝かせた後、十三束にも同じようにして吐き出させ、2人を担いで医務室に向かった。
安宿に検査を頼んでいる間、廊下では3人が話し合っていた。
「2人とも同じように首を抑えていたな。同じ病気か?」
「俺達はそれの専門じゃないから安宿先生に任せる方がいい下手に思い込みで動けば二次被害になる可能性がある」
「レオは何か気付いたことはあるか?」
達也の質問に、レオは何かに気付いたかのようにまくし立てた。
「2人とも〈モノリス・コード〉の出場者だぜ。狙われた可能性はあるんじゃねぇか?」
「…なら幹比古もか?だけどそんな表情は見られなかった。レオ、悪いけど幹比古の体調を見てきてくれないか?2人のことは俺達に任せてくれ」
「O.K.克也、今から聞いてくるから少し待っててくれ」
レオは宿舎に向かって走り出し、あっという間に消えていった。レオがいなくなってから数分後、安宿が出てきたので結果を聞いてみた。
「症状からして食中毒ね。正確には意図的なだけど」
「意図的?」
「あの2人だけが症状を見せるなんて可笑しいでしょう?もしかしたら夕食時にいた全員に飛沫感染するかもしれないから、これを全員に飲ませてあげてね」
そう言って渡してきたのは錠剤型の薬だった。
「ありがとうございます。感染経路は後ほどお伝えしますので、これで失礼させていただきます」
安宿にお礼を言って克也と達也はその場を後にした。
安宿との会話を終え、克也は会議室に生徒会役員とレオを含む首脳陣を集めて先程の話を聞かせた。
「…ということでほのか・水波・泉美・詩奈、男子生徒にも手伝ってもらって夕食に参加していた生徒全員にこれを配って欲しい。レオと幹比古はここに残ってくれ。話し合いたいことがある」
指示を出して4人が出て行った後、感染経路について話し合っていた。
「2人が食べていたサラダを調べたけど特に問題は無かったよ。同じものを食べた生徒にも症状は見られなかったから、あれ自体が原因というわけじゃないみたいだ。なら2人はどこからもらったのかということだね」
「幹比古、2人は〈モノリス・コード〉に出場予定だった。何か2人が病気になるようなことはあったか?」
達也の言葉に幹比古は記憶を読み返し、何があったか思い出そうとしていた。
「夕食前、2人に誘われてソフトクリームを食べに行くことになったんだけど実家からの電話があって、僕は2人と別れたんだ。もしかしたらそれが原因なのかもしれない」
「そのソフトクリームはどこのだ?」
レオの質問はそれが特定できれば、原因が見つかりやすくなると踏んでの問いだった。
「かなり有名な店舗の移動車らしくて、他の高校も来ていたからみんな口にしているはずだよ」
「知り合いにも似た症状がないか聞いた方が良さそうだな」
克也・達也・深雪・幹比古・レオによる会議は、暗い影を残して終了した。
翌日の朝、克也達は臨時の会議を開いていた。メンバーは昨日のままだ。
「結果を言うと、他校の生徒は誰も体調を崩していないそうだ。各校の知り合いからの情報だから信用してもらって構わない。三高・四高・二高が比較的多く食べていたみたいだが、特に問題はないらしい」
「ということは、意図的に一高の選手が狙われたということですね?」
「理由が分かんねぇぜ?何故俺達一高なんだ?魔法を否定したいなら、全員に同じようにすればいいはずだぜ達也」
深雪の声は怒りと不安に染まっていた。レオも頭が悪いわけではなく、時々今のように鋭い意見を出してくる。
「つまり僕達一高、あるいは特定の誰かを狙っているってことなのかな?」
「幹比古の意見が今のところ濃厚だろう」
「達也、それより代役はどうするの?」
「あとで俺と克也が大会委員と折衝してくる。何とかして出場させてもらわないと、三高に優勝を持っていかれることになる」
このことは昨日の夜にメールで聞いており、将輝・文弥&亜夜子・光宣から回答を貰っていた。真夜にも移動車を追跡して貰っているが、今のところ手掛かりがないらしく連絡は来ていない。
朝の緊急会議は10分ほどで終了した。
ある場所で男達は密談をしていた。そこは暗く電気は付けておらず、5人がけの丸いテーブルの中央に置かれた蝋燭が不気味に揺れている。
『首尾はどうだ?』
『完璧だ。一高は本戦の〈モノリス・コード〉を棄権せざる終えない』
ぽそりと呟かれた言葉に、同じような声音で答えながらにやりと笑った。
『実行者は始末したんだろうな?』
『もちろん証拠隠滅もしっかりとしてある。万が一見つかったとしても、自殺と判断されるように命令しておいたからな』
『ならいい。我らの復讐はこの程度では終わらん。明日の昼頃に作戦を実行させる。我が同胞とボスのために自らの命を差し出そう』
男達の密会は誰にも見つかることもなく終わった。
今日は新人戦の〈モノリス・コード〉決勝トーナメントが行われるが、克也と達也には見ている暇はない。大会委員に今回の事情を説明し、本戦の〈モノリス・コード〉出場を認めて貰わなければならないため、克也と達也は大会委員本部に赴いて大会委員長と話をしていた。
「つまり本戦の〈モノリス・コード〉の出場選手変更を認めて欲しいということですか?」
「そうです。四葉家としてのお願いではなく一高としてのお願いです」
「彼らが元々病気を持っていたのではありませんか?」
「2人が同時に同じような症状を見せることがあると思いますか?それともホテルの食事に、何かが混ぜられていたと仰りたいのであればご心配無用です。既に2人が食したサラダには基準値以下の病原菌しかありませんでした。他に食べた生徒にも症状は見られていませんよ」
「しかし…」
「しかしもどうもこうもありません。彼らと同じソフトクリームを食べた他校の生徒には症状が見られていない。彼らが意図的に狙われたと考えて間違いないと思いますが」
大会委員長は一昨年同様に異例を認めたくないらしい。正確には自分達の失態を知られたくないために行動しないのかもしれない。さすがの克也でも腹が立つが、その怒りは電話の着信により急速に消え去った。
「失礼します」
一言断ってから電話に出ると真夜からだった。
「
克也がそう口にしたことで、大会委員長の背筋が伸びる。ついでにスピーカーモードにして、達也と大会委員長にも聞こえるようにする。
『克也が頼んでいたことが詳しく分かったから連絡したんだけど。必要なかったかしら?』
「一高の優勝がかかっていますから必要です。それでどうしましたか?」
『貴方達の同級生2人を狙っていた人物が判明したわ。自殺に見せかけて死んでいたけど、上からの命令だということはすぐにわかったの。その人物は【ノーブル】と【ブランシュ】の合体組織【レプグナンティア】の構成員で、去年から今回のためだけに潜入していたみたい』
「ありがとうございます。大会委員長にもお伝えしておきます」
『それと気を付けなさい克也。何をしてくるか分からないけど、反魔法師団体の強硬部隊が〈九校戦〉会場に向かっているそうよ』
「肝に銘じます
真夜の緊迫した電話を切って大会委員長に向き合って話す。
「お聞きの通りです。どうやらまた工作員が潜り込んでいたようですね。そちらの失態ですが、今ここでそのことを責めるつもりはありません。選手変更を認めてもらうだけでいいんです」
「…分かりました認めましょう」
「ありがとうございます」
話し合いが終わって試合会場に向かう途中、達也と先程の件について話し合う。
「狙われるのか?」
「来るだろうな。魔法師を大勢殺せるタイミングだから」
「いつ来るだろうか」
「明日の昼頃じゃないかな。明日は本戦の〈モノリス・コード〉があるし、終わり次第表彰が始まるから観客も減る。一番多く殺すなら決勝が行われる14時ぐらいだろう」
「〈モノリス・コード〉の作戦はどうする?」
「去年と同じように幹比古に頑張ってもらおうと思ってる。幹比古なくして一高の優勝はないよ。今なら同時に3つぐらい《感覚同調》を使えるだろうから」
そんな会話をしながら新人戦〈モノリス・コード〉が行われている会場に向かった。