魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第73話 挽回

今、克也達は〈九校戦〉会場からバスで引き上げているところだが車内は重くて暗い。どうしようもない雰囲気が漂っている。生きる屍と化した生徒は、俯いたまま一言もしゃべらない。

 

〈九校戦〉は本戦〈モノリス・コード〉で優勝。〈ミラージ・バット〉で優勝と準優勝し、三高が〈ミラージ・バット〉でこけてくれたお陰で一高が総合優勝し六連覇。そして克也達3年生の三連覇で幕を下ろした。

 

だが互いに抱き合ったり喜びを爆発させる生徒は、バス内で誰一人としていなかった。

 

それもそうだろう。〈モノリス・コード〉の決勝が終わり、〈モノリス・コード〉優勝と総合優勝したことで、はしゃいでいる時に上空で爆発音が轟き、見上げていると突然観客席の天井が落下してきたのだから。

 

死者と怪我人は数えられないほどとなり、最悪の事件となってしまった。世論から否定的な言葉を投げかけられることを分かっていたが、克也からすれば真夜の忠告を生かせなかったことと比べると、それはひっかき傷のようなものだった。

 

隣に座る水波にさえ気を配る余裕もなく、克也は頭を抱えて俯いている。雫・ほのか・幹比古はともかく。達也・深雪もかける言葉が見つけられず、同じように悲しげな表情を浮かべて見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

翌日、克也は水波を連れて四葉家本家に来ていた。今回の事件の報告をしに来たのだがその足取りは重く、真夜に叱られると思いながら書斎に向かっている。

 

「叔母上、ただいま到着しました」

 

書斎のドアをノックしてから名乗ると、葉山が開けてくれたので中に入り真夜の向かいに座る。水波は克也の横に緊張した面持ちで座る。葉山が出してくれたコーヒーを一口飲んだあと、克也は机に額を擦り付けるほど深く謝罪をした。

 

「叔母上、この度は情報を頂いていたにも関わらず、事件を防げなかったことを深くお詫び申し上げます」

「克也が謝ることは何も無いでしょう。むしろ褒められることだと思いますよ?」

 

克也の謝罪に真夜は優しく答えるが、克也にとってはそれがむしろ心に刺さった。

 

「自分の認識の甘さが裏目に出た結果がこれです。俺は補佐としてやっていく自信を失いました」

 

克也のカミングアウトに、水波だけでなく真夜も葉山も驚きを隠せない。

 

「デモ隊さえ抑えれば、何も起こらないという勘違いを起こしていました。こんな簡単なことを予測できずにして、補佐が務まりましょうか?」

「いつにもましてネガティブね克也。達也さんだったら予測できたとでも言いたいのかしら?」

「達也は自分よりはるかに頭の回転が速いですし切れますから、予測はできたかもしれません」

 

克也も達也が万能だとは思っていないが、自分より頭の切れる弟なら可能だったのではないかと思い始めていた。

 

「克也の気持ちは分かりましたが、補佐から立場を変更するつもりはありません。それは深雪さんにも達也さんにも貴方にも水波ちゃんにも、そして四葉にとっても大きな利益になりますから」

「…分かりました」

 

克也は渋々頷き受け入れた。

 

「ところで叔母上、被害はどの程度なのでしょうか」

「今のところは死者100名・重傷者70名の大惨事ね」

「予想以上の規模ですね。首謀者は分かっていますか?」

「国防陸軍大亜連合強硬派 酒井大佐の部下による反乱よ」

「ミサイルが発射された場所はどこですか?」

「国防陸軍 伊豆基地みたい」

 

克也は質問に淡々と答える真夜に感心しながらも、頭の片隅では別のことを考えていた。今回の事件は、去年の復讐というところだろうか。〈九校戦〉の大幅な競技変更を求めたのが大亜連合強硬派の首班酒井大佐だ。彼の暗躍を四葉が発見して失敗させたのだから、その部下が上司の敵を討ちに来ても可笑しくはない。

 

「世論は大丈夫でしょうか」

「五分五分でしょうね。落下してきた天井から一般人を守ろうとした魔法師を、擁護する一般人もいるようですから」

「その人達が狙われることがないことを祈るばかりですね」

 

自分達の意見に賛成しない者を標的とした嫌がらせは、何時の時代も起こりうるため懸念してしまう。

 

「話を変えましょう。克也も達也さんも深雪さんもこの3年で素晴らしい成績を残してくれました。四葉家として嬉しい限りです」

「ありがとうございます」

 

突然の真夜の賛辞にも動じず、克也は素直に真夜の賛辞を受け入れた。今年の〈九校戦〉で克也と深雪は出場競技で全て優勝。達也は担当選手で相打ちを除いて無敗という快挙を成し遂げていたため、真夜に褒められても照れたりはしない。克也が真剣に考えていた最中に、このタイミングで聞く必要があるのかという話を振ってきた。

 

「ところで貴方達はもうすでに()を終えたのですか?」

「っ!?」

「…叔母上、真剣な話の最中にそれを放り込みますか?」

 

水波は顔を真っ赤にしながら俯き、克也は少し白けた表情で問い返す。

 

「重い話ばかりだと肩の荷が下ろせませんから。少しぐらい構わないはずよ」

「TPOを考えて下さい。それにまだそんなことはしていませんよ」

「あら、2人ならしていると思いましたけど。そんな気がないのですか?」

「無いわけがないでしょう。むしろ俺の中には気持ちがあります。それに達也も深雪もしていないと思いますよ」

「なら何故行動に移さないのかしら?」

「学生の間にできてしまったら問題になりますし、負担が大きすぎます」

 

真夜と克也のやり取りに水波はさらに顔を真っ赤にさせ、今にも泣き出しそうだったが2人は気付いていなかった。そしてそれを見て少しウキウキしている葉山がいる。セクハラとも取れる反応だが、葉山もそれなりに気になっていたのかもしれない。

 

「私は早く孫を見たいのだけど」

「急かさないで下さい。俺達にも速度というものがあるんです。自分達の速度で歩ませて下さい」

「考えておくわ」

 

真夜の返答にがっかりしながらため息をつく。

 

「ところで酒井大佐の部下の反乱だとおっしゃいましたが。どなたなのですか?」

「首謀者は矢口中尉だそうですよ」

 

克也の仕返しのようないきなりの話題転換にも、真夜は顔色一つ変えず簡潔に答えた。

 

「矢口中尉はどうされるのですか?」

「捕縛するつもりですが、彼の今後の行動次第では国家反逆罪で処罰することになるでしょう」

「その役目、自分に任せてもらえませんか?」

「何故か聞いてもいいかしら?」

「今回自分は役目を果たせませんでした。汚名返上する機会を頂きたいのです。お願いできませんか?」

 

真夜は克也の眼を見て、黒羽家より克也に任せた方がいいのではないかと思い始めていた。日本の魔法界の頂点である〈十師族〉の一員でもある四葉家の血を受け継いで、自分の不甲斐なさを呪い、誰よりも責任を感じている克也以外には任せられない。

 

そう思わせるだけの強い光が克也の眼に映っていた。

 

「いいでしょう貴方に任せます。人員はどうしますか?」

「実力行使は前提にしていませんが、可能であれば文弥と数人のメンバーでお願いします」

「分かったわ。準備が整い次第連絡するからそれまでゆっくりしていなさい」

「ありがとうございますそれでは失礼します」

 

真夜と先程まで一度として会話に入ってこず、真夜の後ろに立っていた葉山に克也は一礼し、顔を真っ赤にしたままの水波を連れて書斎を出た。

 

 

 

葉山は珍しく動揺しながら真夜にハーブティーを出して労うように質問した。

 

「奥様、よろしいのですか?克也様に任務を任せても」

「葉山さんは克也が失敗するとでも思っているのですか?」

 

真夜は少し機嫌悪そうに葉山に聞いたが、葉山が言いたいことを理解していたので、本気で聞いたわけではなかった。

 

「ここ最近の克也様の精神状態は芳しくありません。むしろ入学時や昨年の周公瑾の事件より悪化しているように思われます。本人は自覚していないようですが」

「それは同感だわ。克也はここのところ精神を切り崩すような形で学生生活を送っているから心配です。だからこそ水波ちゃんに頑張ってもらわないと困るのだけれど」

 

真夜は呟きながら入ったカップを彼女らしくない作法で音を立てて、中身のハーブティーを回転させていた。それだけ真夜も克也のことが心配なのだろう。

 

「水波ちゃんには、やっぱり行為に及んでもらわないと解決しなさそうね」

「しかし奥様、本人に強要させては余計にあらゆる意味で傷つけることになりかねないと思いますが」

「そこが一番の問題点ね。2人は互いにまだそれを望んではいないでしょうし、さっきまでの会話を聞いていると、まだまだその段階まではいってないでしょうね。それよりここまで克也を思い詰めさせた矢口中尉には、それなりの罰を与えなければ私の気が済まないわ」

 

真夜は飲み終えたカップとソーサーを、空中に放り投げて《夜》で貫いた。葉山は使用人を呼んで、粉々に砕け散ったカップとソーサーを片付けさせ、使用人と共に書斎を出て行った。

 

 

 

 

 

数日後、黒羽家の魔法師3人と文弥を含めた5人で、克也は伊豆基地に向かっていた。少数で向かったのは、大人数を動かすと面倒なことになるかもしれないと考えたからだ。

 

「克也兄さん、矢口中尉をどうされるつもりなんですか?」

「返答次第かな。俺が行ってまだ自分が正しいと言い続けるなら捕縛するし、自分の行いを償う気があるなら監視に留めるよ」

「何か情報が得られるといいですね」

 

髪をかき上げる(・・・・・・・)文弥の言葉は気休めでしかなかったが、簡単に情報が得られるとは思っていない。セダンが伊豆基地に着くまで克也は眼をつぶり、瞑想に近い感覚で精神統一をしていた。

 

 

 

伊豆基地には昨日のうちにアポを取っているので、名前を告げるだけですんなり基地内に入ることができた。案内されたのは、取調室と呼ぶことのできる机と椅子が4つ置いてあるだけのこじんまりとした部屋だった。念のため盗撮と盗聴が仕掛けられていないか確認し終えた文弥が、嬉々として報告に来た。

 

「克也兄さん、不審なものは何もありませんでした」

「ご苦労様」

 

|肩に掛かるほどの髪を無意識のうちに耳にかける仕草《・・・・・・・・・・・・》をしながら、顔を真っ赤にさせている文弥を見ると、男だと分かっていても可愛いと思ってしまう。もちろん克也自身にはそんな癖はないが、町中を歩けば、10人中10人が美少女だという容姿をしている文弥が悪い。文弥にその意図が一切なかったとしても。克也は無理矢理その思考を脳から追い出した。

 

黒羽家の魔法師3人は車で待たせているが、宇治第二補給基地の時のようなことが起こった場合は、人命より目標を優先せねばならないため実力行使もやむを得ないと指示している。

 

10分後、矢口中尉が訓練を途中で中断して取調室にやってきた。

 

「お待たせしました四葉殿。今回は小官にどのようなご用でしょうか?」

「今回お伺いしたのは〈九校戦〉でのことについてです」

 

矢口中尉が話し始めたところで遮音フィールドを展開し、話が外に漏れないようにする。克也が魔法を使ったことに矢口中尉は表情を変えず、当たり前とでも言うように見返してきた。

 

「〈九校戦〉ですか。それは観客が多く亡くなったことと、そこのお嬢さん(・・・・)と関係があるのですか?」

彼女(・・)のことは後ほどお話しします」

 

文弥の変装(女装?)については、それほど言及がなかったので話を進めることにした。

 

「自分が事情聴取されることに何か感じませんか?」

「何か…とは?」

「貴方自身が今回の事件の首謀者だということです」

「…仰っている意味が分かりませんが」

 

矢口は克也の質問に詰まったが、疑問を覚えるようなほどの間は空かなかった。

 

「貴方は去年の〈九校戦〉において、競技変更を打診した酒井元大佐の補佐として、競技変更に深く関わられておられましたよね?酒井元大佐が逮捕されてからというもの、貴方が残った強硬派を率いて、先の〈九校戦〉で一高が負けるよう【レプグナンティア】をそそのかした。あまつさえ観客を巻き込んだ。違いますか?」

「はっはっはっは、何を根拠に仰られているのやら。私が元大佐の復讐のためにしたとでも言いたいのですかな?四葉の後継者補佐ともあろう方がその程度の推理力とは。いやはや四葉家も落ちたものです」

 

矢口の言い方に文弥は怒りを覚えたらしく立ち上がりかけるが、克也の無感情に座り続ける様子を見て正気を取り戻した。文弥が椅子に座り直したのを確認した後、克也は一つ切り札を出すことにした。

 

「では一つ説明しましょう。彼女はあの事件の犠牲者の娘さんです(・・・・・・・・・・・・)。何か言うべきことがあるのではないですか?」

「誠に運が悪かったとしか申せません」

「それだけですか?ではもう一つ証拠をお見せしましょう」

 

持ってきたデータカードをパソコンに読み込ませ、スクリーンに接続し音声を再生させた。

 

『首尾はどうだ?』

『完璧だ。一高は本戦の〈モノリス・コード〉を棄権せざるを得ない』

『実行者は始末したんだろうな?』

『もちろん証拠隠滅もしっかりとしてある。万が一見つかったとしても、自殺と判断されるように命令しておいたからな』

『ならいい。我らの復讐はこの程度では終わらん。明日の昼頃に作戦を実行させる。我が同胞とボスのために自らの命を差し出そう』

 

その音声を聞いた矢口は狼狽し、スクリーンとデータカードの入ったパソコンを破壊した。もちろん今回のデータカードはコピーしたものなので壊されても痛くない。

 

「如何でしょうか。これを証拠として上官に提出してもいいですが」

「捏造だ!俺を陥れるための道具だろう!」

「捏造ではありませんよ。貴方達が使っていた部屋の監視カメラの映像を元に、口の動きに音声を加えただけですから。その部屋に残っていた残留想子を調べた結果、貴方の想子情報と一致したというわけです。これでも言い訳を続けますか?」

「黙れ!誰かに命令されてやっているのだろう。そいつを教えろ!」

 

まだ惨めな言い訳を続けてくるので、少し想子を活性化させて威圧するとすぐに押し黙った。

 

「いい加減にしろよ。こっちの捜査で裏はとれてるんだよ。さっさとお前の目的を言え」

「…俺の目的は第一世代と【調整体】の撲滅だ。【レプグナンティア】はそれを利用させたに過ぎない」

「ミサイルを発射させたのは何故だ?」

「一高の邪魔をできないと分かった途端、自分のやったことがばれるのが怖くなって知っている者を消そうとした。観客を巻き込むつもりはなかったんだ」

 

矢口に礼儀をかなぐり捨てて脅すと素直に話し始めたので、矢口から見えないように録音しながら、最も重要なことを聞くことにした。

 

「命令したのは誰だ?」

「それは言えない」

「言え」

「明日まで、明日まで待ってくれ。明日には必ず話す。だから待ってくれ」

「明日になったら本当に話すんだな?約束するならこの書類にサインをしろ」

 

克也の差し出した四葉家の名前と印が押された誓約書に自分の名前・階級・所属部隊を書き込んだのを確認する。矢口をその場に残し、克也は文弥を連れてセダンに向かった。

 

 

 

セダンに乗りながら帰宅していると、元の姿に戻った(・・・・・・・)文弥が話しかけてきた。

 

「犯人が矢口中尉だという証拠が本人の口から出たのは、捜査の大きな一歩ですね」

「そうだな。でも黒幕のしっぽは掴めなかったのは痛い。明日になったらわかるようだから気にしなくていいか」

「それより克也兄さん、変装させる(・・・・・)意味が分からないんですが」

 

俺が負のループに陥る前に話題を変えたつもりだったのだろうが、それは文弥自身を追い詰める結果になるとは重いもしなかっただろう。

 

「あれは変装なのか?俺には女装にしか見えなかったが」

「女装じゃありません変装です!」

 

もちろんわかっていたが少し文弥をからかってみたかった。今回文弥を変装させたのは、変装が上手いことも理由の一つだったが、主な理由は四葉の関係者だと知られないためである。文弥もわかっていたが、そろそろこの格好を卒業したいのもあったので抗議しているようだ。

 

「まあいいじゃないか。文弥のおかげで情報を引き出せたんだから」

「一割も活躍していませんけどね」

 

不満を漏らしながらも嬉しそうにしている文弥を見て、俺も自然と笑みが浮かんできた。その間にもセダンは順調に東京に向かって走っていた。

 

 

 

 

 

翌日、伊豆基地より信じられない悲報が四葉家と克也宛に届いた。

 

『本日未明、矢口中尉 首つり自殺にて死亡』

 

またしても黒幕への道を阻まれ任務失敗に終わったのだった。

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