魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第79話 亡命

バランス大佐との電話を終え、同じ仕事部屋にいる2人に事の次第を伝える。

 

「【レプグナンティア】の活動が活発化で過激化か。こっちにも飛び火しないことを願うが無理だろうな」

「リーナが来るのなら師族会議をまた開かなければなりませんね」

「USNAの戦略級魔法師を保護していることを黙認してバレたら、四葉家だけでなくリーナにも迷惑がかかるからな。特に七草が五月蝿いよ」

 

弘一の名前を聞いて2人は眉を顰める。大体の厄介事を引き起こすのは弘一だと叔母から聞かされ、自分達の眼で確認したことで関わらない方がいいという結論に至っていたからだ。

 

「葉山さん、白川夫人に来賓用の部屋の掃除をお願いできますか?できるだけUSNA風にリニューアルしてもらえたら嬉しいです」

「かしこまりました。すぐに取り掛からせます」

 

電話が終わってからずっと黙っていた葉山さんに指示を出す。俺たちは明日1日を空けるため、可能な限り事務処理を終わらせるために、全力で書類に眼を通し始めた。

 

 

 

 

 

リーナは2年ぶりの日本に来ても、感慨めいたものは何も浮かばなかった。〈ブリオネイク〉の入った箱から、彼の温もりを感じるように胸に抱きしめる。

 

自分にもう少し力があれば、2人と一緒に自国で戦うことができたのにと自分を責める。だが未成年を争い事に命を懸けて参加させることなど、どの国でも特別な事情を除いて容易に許可されることではない。

 

暗い気持ちでいたリーナは3時間ほどしか眠れず、頭の芯の重さを感じながら、房総半島と大島のほぼ中間点の海原を眺めていた。この辺りが大亜連合の艦隊を消滅させ、そして吸血鬼事件の発端になった《グレート・ボム》の爆発点。私は結局使用者を見つけられず帰国した。あまつさえ同胞の処断もできず、むやみに部下に怪我をさせた。

 

カツヤ、貴方は何を以て魔法が正義だと言えるの?

 

リーナはそんな1人で考えても答えが出ない疑問を抱えながら、浅い眠りの淵に落ちていった。

 

 

 

「…ちょう。総隊長、あと10分ほどで到着します。ご準備を」

「…わかったわ。到着場所はどこなの?」

「浦賀と聞いております。着陸地点から15kmに入れば、方位を設定して自動操縦に切り替えろとバランス大佐から命令されております。私にも詳しい場所は知らされていません」

 

安全な場所に着けるならどこでもいいと思いながら、街並みを見ているとひときわ大きな建物が見えてきた。軍に入る前に興味本位で読んだことがある。日本古来からの建物で、確か日本家屋と呼ばれるものだ。

 

そこら一帯からは強力な魔法師にしかわからない「何か」を感じるので、並みならぬ魔法師がいるのだと直感した。自分の亡命を快く引き受けてくれた人物がいるのだから、危険はないと不安をねじ伏せる。

 

ヘリポートに到着してヘリから降りると、一目で高位の執事だとわかる人物がお出迎えをしていた。

 

「お初にお目にかかりますアンジェリーナ・クドウ・シールズ様。私は執事序列第一位の葉山と申します」

「こちらこそよろしくお願いします。リーナと呼んでください」

「ご主人様が直々にお会いしたいとのことです。リーナ様、こちらに」

 

「リーナ様」という呼び方に違和感を覚えたが、歓迎されているのが分かったので、自分の不安をいったん棚上げして操縦士を振り返る。

 

ヘリの近くでは整備士らしき人物達が手際よく動いており、操縦士も笑顔で会話している。その様子を見て大丈夫だと安心し、葉山という名の執事のあとを追って大きな日本家屋に入った。

 

案内されたのは、和風と洋風が適度に混ぜ込まれた不思議な一室だった。未熟者が和洋折衷にすると違和感があるものだが、この部屋は見苦しくなく心の傷が癒される。そんな気分にさせてくれる部屋だったので、土木担当者の腕が良いのか。はたまた設計者の腕が良いのか気になった。

 

部屋を眺めていると奥のドアが開かれ、驚きの人物が後ろに可愛らしい少女を連れて入ってきた。

 

「…カツヤ?」

「久しぶりリーナ。元気だったか?」

 

友人を傷つけても態度を変えず、日本に来た自分を避けずに1人の魔法師として接してくれた。自分より強い魔法師のカツヤが、魅力のある笑顔で心配してくれた。

 

その笑みを見ると胸が締め付けられ、今までの不安が溢れて涙を流しそうになる。けど総隊長として鍛え上げた強固な精神力で抑えてお礼を言った。

 

「この度はワタシを保護していただきありがとうございます」

「どういたしまして。話しにくいからそんなにかしこまらないで欲しい」

「そういうことなら遠慮なく。カツヤが挨拶に来るということは、ここは四葉の家ね?」

「そうだよここは四葉家本家だ。つい最近移築したばかりでまだ敷地内を完璧に把握できてないんだ。無駄に広すぎて嫌になるよ」

 

そうやって愚痴るカツヤに、私はあれから中身は変わらない優しい男性だと思いながら笑ってしまう。楽しく会話している間、カツヤの後ろに立つ少女から、きつい視線を向けられるのが痛かったのだけれど…。

 

 

 

克也兄様が金髪碧眼の美少女と楽しそうに話しているのを見て、私は嫉妬してしまった。

 

優しくどこまでも広がる冬の青空を思わせる碧色の瞳に、柔らかく下品に見えず丁寧にケアをしているであろう金色の髪を持つ少女を見て、対抗心を燃やしてしまった。

 

そして何故かこの人が自分のライバルになると直感する。敵対視してしまう自分に驚いていたのですけど、克也様の真剣な声に我を取り戻し、彼女の話を聞き始めました。

 

 

 

「単刀直入に聞こうか。バランス大佐の報告と違わないんだな?」

「ええ、この眼で見たわ。顔見知りではないけれど、基地内の軍人が殺されるのを目の前で」

「そうか…。今から話すことは辛いかもしれないけど心を強く持って聞いて欲しい。3時間ほど前に、バランス大佐とカノープス少佐が死亡したと連絡があった」

「…う、噓でしょ?」

「事実だ。USNA政府から暗号メールで詳細が届いた」

 

渡されたタブレットには2人のことが事細かに記されていた。

 

『USNA統合参謀本部情報部内部監察局第一副局長 ヴァージニア・バランス 腹部刺傷による出血性ショック死

【スターズ】第一部隊隊長 ベンジャミン・カノープス 魔法過剰使用による魔法演算領域のオーバーヒートにより死亡』

 

「嘘よ…こんなの嘘よ!ベンとは別れるときに約束したわ。必ずバランス大佐とここに来るって!」

「現実を受け入れるんだリーナ。政府がわざわざ君に嘘の情報を送り付ける理由があると思うか?」

「ワタシの動揺を誘って、復讐させようと暗に意味しているのよ!」

「リーナ、お前の信じたくない気持ちはわかる。だが現実を受け入れることも1人の魔法師としての役目だ。君は【スターズ】総隊長 アンジー・シリウスだ。君が下手な動きをすれば、何が起こるか分からないから耐えてくれ」

 

俺が必死になだめてもリーナは落ち着いてくれない。それどころか逆にヒートアップしていた。

 

「じゃあワタシは何もせずここでただ見ていろとでも言うの!?そんなのできない!今すぐにでも戻って復讐してやるわ!」

「バランス大佐とカノープス少佐の気持ちを踏みにじるのか?あの2人はリーナ、君自身にUSNAの軍人として死ぬのではなく、1人の人間としてこの世界を見てほしくて逃がしたんじゃないのか?」

「っ!でも、でもじゃあワタシはどうしたらいいのよ!?こんなのじゃ【スターズ】総隊長なんてただの肩書になるわ!それならいっそこのまま「眠れリーナ」…」

 

俺はリーナの言葉を最後まで聞かず、リーナの額に左手を当てる。《癒し》を発動させて眠気を浮かび上がらせたのだ。不安による寝不足なのだろうか。リーナはすぐに眠りに落ちた。倒れるリーナを両手で支え、お姫様抱っこの態勢で持ち上げる。

 

「水波、達也と深雪のところに行っててくれないか?」

「構いませんが何故ですか?」

「恥ずかしくて見られたくないから。そんな眼をしないでくれ。別にいかがわしいことをするつもりなんてない」

「…分かりました」

 

水波にひと睨みされるがなんとかなだめる。

 

 

 

水波とは反対方向に向かう。準備していた部屋に行き、移動魔法でドアを開けてベッドにリーナを寝かせる。布団を首元まで被せ、ベッドに腰かけリーナの癖がなく艶のある髪を優しくなでながら、無意識のうちに言葉を発する。

 

「リーナ、お前の苦しみは俺にも理解できる。親しい人物が死んだことを簡単に受け入られないことも分かる。でもそこで立ち止まっていたら、できることも二度とないチャンスも逃すことになる。復讐する機会は必ず準備する。あの2人を殺した奴らじゃないが似た奴らをね。その時までゆっくり休めリーナ」

 

そう言い残し俺は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

3日後、俺はリーナを連れて臨時の師族会議を行うために魔法協会関東支部に来ていた。深雪が当主に就いてからというもの、一度も師族会議に顔を出しておらず、自分が全て出ていることに疑問を感じ始めている。

 

2回とも公式の会議ではないとはいえ、補佐ばかりが出ていいのもある意味面白いが。前回は深雪の都合が悪かったし、今回は顧傑(グ・ジー)の捕獲にあたりUSNAとの協力を得た際にできたパスでの要請を受けたため、俺が行くべきだと達也と深雪に言われたので来ていた。

 

水波は一緒に行けずリーナと2人で行く俺に怒っていたが、「重要な仕事だから」と言うと引き下がってくれた。帰ってきたら買い物に付き合うと約束すると、すぐに機嫌を回復させ、ご機嫌になりながら俺達を送り出(追い出)した。

 

あの日から2日間眠り続けたリーナと2人で魔法協会関東支部に向かう間、リーナは2年前はゆっくりと見る暇がなかった街並みを楽しそうに見ていた。

 

 

 

開始時間5分前になり、大画面に各当主が映りはじめる。ちなみにリーナには見えない位置で待機してもらっている。

 

『四葉家からの要請とは想定外です』

『会議の間隔が短くなっているような気がしますな』

『それだけ日本の情勢が悪化しているのでしょう』

『二木殿・六塚殿・八代殿、お静かに。四葉殿、少し早いですが全員が出席しましたので開始いたしましょう』

 

真言が3人をなだめて克也に発言を求める。

 

「今回ご当主方を招集しましたのは、我々にも野放しにできない状況に陥っているからです」

『どういうことでしょうか?』

「3日前、USNAの一部基地がデモ隊に襲撃され制圧されました」

 

俺の報告にさすがの〈十師族〉現当主でも動揺を隠せておらず、驚きを普段露わにしない弘一でさえ驚いていた。その驚きが素なのか演技なのか。俺には見分けられなかったが信用することにした。

 

「そして顧傑捕獲にあたり、USNAとの協力を得た際のパスで要請がありました。そして我々はこの要請を受け入れることにしました」

『四葉真夜殿が仰られていたルートですな。四葉殿、その要請とは一体何だったのですか?』

 

俺は三矢家当主の言葉に行動で応じた。画面に現れた金髪碧眼の少女に全当主が見とれているのを無視して、画面外から説明する。

 

「彼女はUSNA公認戦略級魔法師《ヘヴィ・メタル・バースト》の使用者であり、【スターズ】総隊長アンジー・シリウスことアンジェリーナ・クドウ・シールズです。戦略級魔法師を取り込み、四葉家の地位を押し上げる為ではないことを改めてご報告いたします」

『これまでの四葉家、そして克也殿の行動を見る限り疑うつもりなどありませんのでご安心を。ところでUSNAの基地を制圧したデモ隊はどこなのですか?それほど強大な組織があるとは思えませんが』

「【レプグナンティア】による犯行です。彼等より犯行声明がありました。それによると『同志よ今こそ立ち上がる時だ。魔法という人間に許されざるものを使う奴らに死を』だそうです。これは世界各地にある支部に向かって伝令を送ったものと考えられます。そこで日本の支部に思い留まることを願う文を送りましたが無視されました。彼等は今後もテロを起こすようなので、警戒しなければなりません。もし具体的な行動に移すようであれば、我々が処理しますので手出しをしないように願います」

 

各当主は悩みながらもこちらが望む展開に運んでくれた。

 

『一条家は異議なし』

『二木家も異議なし』

『三矢家も異議なし』

『五輪家も異議なし』

『六塚家も異議なし』

『七草家も異議なし』

『八代家も異議なし』

『九島家も異議なし』

「何かあった場合には報告しますのでよろしくお願いします。ご足労をおかけしました」

 

回線を切ってからは、早々に魔法協会関東支部から離れる。本家に戻るために自分で新しく購入した車に乗り込み、リーナが盛り込んだのを確認してから発車させた。

 

「よかったわね邪魔する家がなくて」

「ああ、けど七草家は要注意だな。七草家全体ではなく当主の弘一個人を危険視するべきだリーナ」

「カツヤがそう言うなら肝に銘じとくわ」

 

リーナが素直に聞き入れてくれたのを嬉しく思いながら、車を本家に向かって走らせた。

 

 

 

その日の夕方。頼んでおいた情報を文弥と亜夜子が持ってきてくれたので、リーナを同席させていた。リーナを保護していることを2人は知っていたので、改めて聞くようなことはしなかった。だが亜夜子からリーナに向けられる笑顔の視線が、異様に冷たかったのは気のせいだろうか。

 

いや、文弥も顔を引きつらせていたから俺の勘違いではない。

 

たぶん…。

 

「克也兄さんに頼まれていた件をお持ちしました」

「さすがだな。これだけの短時間で見つけるなんて。続きを聞かせてくれ」

「【レプグナンティア】の日本支部は倒産した某会社のビルの地下にあり、ホームページに掲載されている住所とは違うようです」

「ホームページの写真と住所は本体を隠すためのダミーか。それで他に何か情報はあるのか?」

「明後日の午後に七草家の表の職業であるベンチャーキャピタルの本社を爆発させるようです」

「また七草家か。狙われる理由はあるのか?」

「七草家は他の〈十師族〉より表社会に進出していますから。その功績が妬ましいと思われているのでしょう」

 

確かに七草家は、他家より一歩も二歩も表社会に進出している。狙うのであれば恰好の獲物だ。成功すれば多大な影響を両方の社会にもたらすことができる。これ以上美味い話はないだろう。表社会にも被害を出すのは、本末転送な気もするが。

 

「情報ありがとう。念のためもう一度抗議文を送っておくよ。それでも止めないなら存在ごと消すさ」

 

俺の不敵な宣言に文弥と亜夜子は苦笑いでごまかし、リーナは無表情で聞いていた。

 

 

 

2人を送り出してから深雪の仕事部屋に向かう。

 

「つまり抗議文を送り、前回と同じように無視されれば実力行使もやむを得ない。そういうことでしょうか克也お兄様?」

「仕方ないだろう?そうでもしなきゃ日本もUSNA同様飲み込まれる」

「飲み込まれる!?どういうことよ!」

 

知らず知らずの内に話が進んでいくので、リーナが割り込んできたが俺は説明したくなかった。俺の心境を察してか達也が代わりに話してくれた。

 

「USNAはもはや〈世界一の魔法部隊〉ではない」

「…どういうこと?」

「USNAの半分の州が反魔法師運動の参加者に占領されている。もうUSNAという魔法大国は存在しないんだ」

「そんな…」

「リーナ、辛いだろうがもうUSNAには戻れない。だから正式に四葉家に戸籍移動しようと思う。九島閣下に頼んで許可をもらう予定だ」

「…ありがとう」

 

 

 

結局四葉家当主が直々に送った手紙の意味はなく、返事はホームページに掲載された。

 

『我々の計画を邪魔する者には天罰を 我々は当初の目的を実行する 一般市民のために我々は命を捨てよう』

 

 

 

そして翌日水波の買い物に付き合い、魂を奪われたのは別の話だ。入学前にも似たようなことがあった気がするが、思い出すことができない克也だった。

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