リーナの元に九亜を含む【わたつみシリーズ】9人を連れて戻ると、リーナから盛大に首を傾げられた。
「要人は1人じゃなかったの?」
「俺もそう思っていたけど、七草先輩は一言も1人だとは言ってなかった。俺達の思い込みだな。それよりもうすぐ会議が終わる。それまでに消滅させないと。リーナ、作戦決行だ」
「分かったわ。すぐに終わらせるから瞬きせずに見てなさい」
《
「《ヘヴィ・メタル・バースト》発動!」
廃ビルのむき出しになった鉄筋に魔法式を照準し、リーナは旧USNA戦略級魔法《ヘヴィ・メタル・バースト》を発動させた。
「…以上だ。これで魔法師はこの国からいなくなる。USNAのように世界で2番目に、アジアで最初の魔法がない国を作り上げるのだ!」
「「「「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」」
幹部の男の声に参加者は、雄叫びを上げ片腕を突き上げた。
「隊長、これでこの国は我々のものです。ついにここまでこれました!」
「ああ、そうだな長かった。これでボスの無念が晴れることだろう」
部下の嬉しそうな声に、隊長と呼ばれた男は静かにだが嬉しそうに答えた。
「これより作戦を開始する!後につ…」
男の命令は最後まで発せられず、また作戦が決行されることはなかった。リーナが発動した《ヘヴィー・メタル・バースト》によって、数百人の【レプグナンティア】に参加していたデモ隊、廃ビル及び地下30mの地盤までが融解し、一瞬のうちに全て消え去った。
爆発の威力は凄まじく、克也の〈領域干渉〉が大きく揺らいだ。今すぐにも定義破綻しそうだったが、なんとか持ちこたえてくれた。爆心地から3km離れた四葉家傘下の企業の所有するビルの屋上からそれを見ていた文弥達は、旧USNA戦略級魔法の威力を目の当たりにして恐怖を覚えていた。
克也でさえ心と身体が震えた。それは驚異的な威力を持つ《ヘヴィ・メタル・バースト》に対する恐怖の故か。それともリーナの戦略級魔法を使う決断をした際の気持ちを知ったが故か。
克也がリーナに声を掛けようと近寄ると、ふいに〈コバルト・スーツ〉を着たリーナの身体が揺れ、倒れ始めたので慌てて支える。見ると穏やかな寝息を立てていたのでほっと息を吐き出す。
「克也兄さん、リーナさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。目的を達したことで今まで抱え込んでいた緊張の糸が緩んだのだろう。気を失っているだけだから心配しなくていい。取り合えずヘリを呼ぼうか。この人数の移動はその方が楽だ」
「僕が連絡しますので克也兄さんはゆっくりしてて下さい」
「よろしく」
文弥に本家への連絡を頼み、リーナを九亜に任せて転落防止柵に身体を寄りかからせながら、視線を更地と化した爆心地へ向ける。
《ヘヴィ・メタル・バースト》、重金属を高エネルギープラズマに変化させ、気体化を経てプラズマ化する際の圧力上昇を更に増幅して、広範囲にプラズマを散撒く魔法。上下に圧縮する形でプラズマ化し、電子を水平方向へ円形に拡散させることで、原子核を原子核同士の電気的斥力と電子との間に働く電気的引力で高速拡散させ、その運動エネルギーで広範囲を焼き尽くす。
〈ブリオネイク〉を使用することで、収束ビームとして発射することができる。その際のビームの発射速度は音速の100倍にもなる。〈ブリオネイク〉がなくとも発動できるが、さすがのリーナでも不安定な魔法式になり、最悪俺のように魔法式が逆流し魔法技能を失う可能性もある。
「〈ブリオネイク〉なしだとダモクレスの剣だな。まったく危険な魔法を作ってくれたものだ。扱いが難しいじゃないか」
皮肉を呟きながらも、克也の口元には笑みが浮かんでいた。魔法師としての敬意、天才魔工技師〈トーラス・シルバー〉の〈ミスター・シルバー〉の片割れとしての興味。これら2つが合わさったが故の笑みだった。
「〈ブリオネイク〉を使わなくても普段のCADと大して変わらないサイズで、同等の威力を発動させることができるCADを開発しないとな。毎回毎回これを持ち運ぶのは結構面倒くさい」
「克也兄さん、ヘリが来ました」
「ああ、わかった。すぐに行く」
「開発までにどれだけかかるかわからないが、当分の間の研究テーマは決まったな」
ヘリに向かいながら克也は、1人でそんなことを呟いていた。
本家に到着して文弥達と別れてリーナを家政婦に頼んだ後、9人を連れて応接室に入る。そこには水波・達也・深雪が驚いた顔で待っていた。ヘリの中から要人を連れて帰ると連絡していたが、これだけの大人数だと思っていなかったのだろう。
「克也、聞いていないんだが?」
「俺は要人を連れて帰ると言ったはずだけど」
「
「
低レベルな争いをしている2人を、水波は生ぬるい眼で見つめながら深雪は困った笑顔を向けていた。九亜達は何が何だかわからないようで、克也の後ろで首を傾げていたが。
「説明してくれるんだろうな?」
「しないわけにはいかないだろう?どうせ七草先輩にも事情説明しないとダメなんだから。取り合えず水波・深雪、この子達を風呂に。今まで消毒槽にしか入ったことがないようだから」
「分かりました。白川夫人と使用人にお願いします」
九亜が不安そうに見上げてきたが頭を優しくなでてあげると、悪いことが起きないと理解してくれたらしい。素直に使用人についていき応接室から出て行った。
「で、どういうことだ?」
「想像でしかないけど危険な魔法の研究を行っていたみたいだ。超大型CADを用いて9人もの【調整体】を使い捨てにするようなやり方をしていたとなると、それしかないと思う」
「12人のうち9人しかいない。残りの3人は…」
「ああ、間違いないだろうな」
達也が最後の言葉を口ごもった言葉を、克也も想像していたのでわざわざ口にはしなかった。
「取り合えず七草先輩にメールして事情を説明するよ。それまではゆっくりしてもらおう。9人も受け入れるとなると数日はかかるだろうから」
「そうだな後のことは任せる。リーナは大丈夫か?」
「緊張の糸が切れただけだよ。気にしなくてもしばらくすれば目を覚ますさ」
「克也がそう言うなら問題ないだろう」
達也は克也の方が医療に対する知識が多いことを理解しているので、克也の診断を間違いだと言わなかった。
風呂から上がり眼をキラキラさせている九亜を、応接室まで水波に連れてきてもらって話を聞くことにした。九亜は何故か達也を怖がり、克也の腕にしがみつく。その様子を見て、水波がこめかみを引くつかせていた。自重してくれているようで、具体的な行動に移したりはしなかった。
「九亜、聞きたいことが山ほどあるんだが少しだけにするよ。まず何歳だ?」
「14歳、です」
「幼いな。九亜はあの部屋で何をしていたんだ?」
「大きな機械の中に入っていた、です」
「大きな機械とはこれのことかな?」
九亜達が出てくるまでに、記憶から紙に書き写した絵を九亜に見せた。細部までは覚えておらず描けなかったが、何度も見ているのであれば問題なく分かるだろう。
「そう、です。この大きな機械、です」
「ここで何をしていたんだ?」
「分からない、です。椅子みたいなものに座らせられた後は、何があったのか分からない、です」
情報が少なすぎてこれでは何をしていたのか分からない。
「その機械から出た後はどんな気持ちだった?」
「気持ち?…ふわふわ溶けていくみたいだった、です」
「何が溶けていくんだ?」
九亜は一度自分の足元に視線を落とし、両手を胸の真ん中に置く。心臓を掴むような仕草。いや、自分の中から出て行く何かを掴もうとするような仕草に近い。そんな風に克也達4人には見えた。
そして九亜は呟く。
「私が、私達の中に」
一瞬にして克也達は九亜だけではなく、残りの8人にも同じような症状が現れていると直感した。
「達也、これは…」
「…ああ、自我消失の自覚症状だ。かなり危険な状態だな。このまま同じように魔法演算領域を強制リンクさせられていたら、命を落としていただろう」
「達也、それは違うぞ」
達也のセリフを否定した克也の言葉に、3人が訳が分からないように首を傾げた。
「さっき話しただろ?3人がいないってことはつまり、もう3人死んでいるんだよ」
「そんな…」
「嘘…」
水波と深雪が一番感情的なダメージを受けていたのは、同じ【調整体】だからだろう。九亜はいなくなった3人の理由を知らされていないらしく首を傾げていたが。
「だから俺達は残りの九亜を含む9人を命がけで守らなきゃならない。これは四葉家の新しい家訓じゃない。強力な魔法師として為すべき事柄だ」
優しく九亜を抱きしめると九亜も身体を預けてきた。望んで【調整体】として生まれたわけでもなく、生まれた時から生き方を決められていることの辛さは、四葉家直系として生まれた自分になら痛いほど理解できる。14歳という幼さで魔法実験を強制的にさせられ、自分と同じ存在が消えていく理由を説明されず生きていく気持ちは、共感できても実感することはできない。
「…パパ」
「「「「はぁ!?」」」」
突然の九亜の発言に、さすがの克也達でも声を上げずにはいられない。
「ここ、九亜ちゃん!?なな、何を!」
「自分を抱きしめてくれる男の人はパパではないの、です?」
深雪の慌てた質問にも、爆弾発言をする九亜に克也達は思考停止に陥った。そして九亜を寝かしつけた後、克也が水波と深雪に夜遅くまで質問攻めにされたのはお約束だ。
3日後。真由美は兄の智一を連れてやってきた。何故2人なのか克也達も首を傾げていたが、何らかの理由があって来たのだと分かったので口には出さなかった。応接室には克也・真由美て・智一、そして【わたつみシリーズ】を代表して九亜が座っていた。
「今回、私個人の要請を受け入れていただき感謝いたします」
「当初の目的に毛が生えた程度の要請です。気にしないでください。それより聞きたいことが幾つかあるのですがよろしいですか?」
「ええ、答えられる限りでよければ」
答えられる限りとは話せないことがあるのだろうか。それともあまり知らされていないことで情報が少ないのだろうか。どちらにせよ判断材料が少ないので確信はできない。
「ではお言葉に甘えまして。何故あの地下に要人がいると知っていたのでしょうか」
「それは私からお伝えします。克也殿は《
「はい、お会いしましたがそれがどうしたのですか?」
「その男性は私の恩師なのです。正確には魔法大学で私が配属されていた研究室の主任でした」
智一の暴露に多少なりとも驚いたが、これで川倉基樹が最後に残した言葉の意味が理解できた。
「なるほどそういうことでしたか。何故それで四葉家に要請したのですか?」
「父に四葉家が【レプグナンティア】を殲滅すると説明を受けた数時間後に、川倉先生から『彼女達を助けてほしい』というご連絡をいただきました」
「いくらなんでもタイミングが良すぎませんか?」
「私もそう思ったのです。今更なのですが正確には数ヶ月前から相談されていた内容でもあったのです。『不当な扱いを受けている彼女達をどうにかしたい。これ以上苦しむ姿を見たくない』と。しかし勝手に逃がすわけにもいきませんから、仕方なく幹部の命令通りに研究を続けていたようです。元々川倉先生は温厚で才能があるなしにかかわらず、誰にでも全力で手を差し伸べてくれる優しい方でしたから」
なるほど。だから刀を交わしたときに気分が高揚していたのだと今気付いた。ぶつかってくる相手に全力で立ち向かう。それがその男性の生き様だったのだ。だが話を聞いている途中から後悔していたのだが、聞かれたくないことを聞かれてしまう。
「ところで川倉先生はどちらに?」
「…私が殺しました」
「え?」
「刀を交えた後《人体発火》で存在を何者かに消されたのです」
「でもそれは克也君の責任じゃないはずよ?」
真由美の慰めに克也はかぶりを振る。
「《人体発火》が仕掛けられていることに気付いてさえいれば、助けられたかも知れないのです」
「克也殿はその前に刀を交えられたのですよね?先生の腕はどうでしたか?」
「素晴らしい方でしたよ。自分が出会った剣術家の中でも5本の指に入る猛者でした」
「そう…ですか。それなら先生は不満などありません。満足していかれたのですね?よかったです本当に…」
智一は成人しているにもかかわらず涙を流していたが、3人とも咎めず智一の気が済むまで優しく見守っていた。
九亜達を見送りに本家の入り口に行くと、9人がそろって1人ずつ挨拶をしてくれたのだが、九亜とは少し違う勝気な少女がまた近寄ってきた。
「どうした?」
「あたしの名前は
「忘れるもんか。七草先輩は良い方だから要望はある程度聞いてくれるよ。それからいつでも遊びにおいで九亜も誘って。また会おう四亜」
「またね」
別れ際に克也の頬にキスをしてから七草先輩の車に乗り込み、清々しいしかし少し照れた笑みを浮かべてくる。発車するまで隣の九亜と何やら喧嘩らしきものをしていた。
「先にするのはズルい、です」「早い者勝ちだもん」「次は私が先にします、です」「こっちだって負けないんだから」
という会話が聞こえたので頭を抱えたくなった。後ろから突き刺さる3つの視線のせいもあったが。
車が走り去って見えなくなり家に入ろうとすると、3人分の手に襟首を捕まれ急停止せざる負えなくなる。
「何でしょうかお三方」
「少しお話ししましょう克也お兄様」
「詳しいお話をお願いします克也様」
「説明してしてもらうわよカツヤ」
この世で最も逆らってはいけない3人に捕獲され、完全にチェックメイトだが形ばかりの抵抗を試みた。
「深雪と水波の行動は分かる。だがリーナ、お前は何故だ?」
「なんだろう。ノリかな?」
「関西人かお前は!」
「一応九島家の血を引いてるから、あながち関西人と呼べなくもないわ」
「達也ヘルプ」
「…すまん用事を思い出した」
助けを無視され、克也は肉食獣に包囲された生まれたばかりの草食獣のようになるしかなかった。
「無視しないでくれないかな!?」
克也の悲鳴と怒声が混じった悲痛な叫びが、四葉家本家の入り口から初夏の風を運ぶ空に木霊した。
数日後、俺は九島家に連絡していた。リーナを四葉家に迎え入れる許可をもらうためだが普通なら必要ない。だが建前的にしておいたほうがいい。どこから横槍が来ても血縁関係のある九島家の許可が下りたと言えば、大抵は引き下がるだろうと考えたからだ。
古語で例えれば「虎の威を借る狐」と言う。四葉家なら狐というより虎をも超えているが、どちらにせよ建前がほしい。電話をすると、前回電話した頃より美貌に磨きがかかった光宣が映った。
『克也兄さん、お久しぶりです!』
「…やあ光宣、久しぶり。一つ聞きたいんだけど、何故九島家に連絡すると映像電話になるんだ?」
『僕が出る時だけですよ』
「相手が女性だったらどうするのさ」
『それはそれですよ克也兄さん』
何だか最近、光宣の性格が藤林さんに似てきたなぁ。
「まあいいや。閣下はいるかな?お話ししたいんだけど」
『今隣にいますから代わりますよ。お祖父様、克也兄さんからです』
『おお、彼からかありがとう光宣。克也君、今回はどうしたのかな?』
「お願いしたいことがありましてご連絡させていただきました」
『克也君には個人的な借りが大いにある。気にせずなんでも言ってくれたまえ』
「ではお言葉に甘えまして。実は閣下の弟さんのお孫さんであるアンジェリーナ・クドウ・シールズを、我が四葉家に戸籍移動させる許可を頂きたいのです」
『保護してくれたのだ拒否はしない。その程度ならばこの老いぼれの許可は必要なかろう?』
「建前です。閣下の許可を得られたとなれば、横槍が来ても反撃できますから」
『ふぉっふぉっふぉっふぉ。克也君はまた面白いことを考えおるわ』
言葉通り本当に楽しそうな閣下に俺は苦笑するしかなかった。
『先ほど言ったように戸籍移動の件は許可する。もちろん横槍が入った場合、私だけでなく九島家が後ろ盾になろう。これは〈十師族〉間における共闘や協調ではない。立場における意見の相違だ』
「日本語の使い方次第だと思いますが」
『弘一なら使ってくるであろう?その仕返しに近いものだ』
「悪知恵が働きますね閣下」
ニヤリと笑うと同じような笑みで返事をしてきた。
『年を取ると体力勝負ではなく、頭を使って作戦勝ちを狙うものだ。私はまだ体力勝負でも未熟な魔法師に勝つ自信はあるがね』
「それは否定しません閣下。それでは失礼させていただきます。光宣にもよろしくお願いします」
『分かった孫にも伝えておこう。後日正式な書面を送る。待っていてくれたまえ』
予定通り許可がもらえたのでガッツポーズをしたいところだが、そこは我慢して戸籍移動を優先しなければならない。俺は許可をもらったことを3人に伝えるために自室を出た。
3日後。戸籍移動が完了したので、リーナにサプライズするために夕食の席で発表することにした。楽しくいつも通りに食事をしたあと深雪から報告があった。
「リーナ、話しておきたいことがあるの。いいかしら?」
「ミユキ、どうしたの?」
「とってもいい事よ。入ってきてもらえますか?」
リーナを焦らすような真似はせず、待機していてもらった人物を呼び出す。食堂の奥のドアが開かれ、使用人の服を着た若い女性が入ってきたのを見たリーナは硬直した。
「
「久しぶりリーナ。元気でしたか?」
「シルヴィ…」
笑顔で話しかける年上の友人にに再会し、リーナは涙を流し始めていた。
「生きていたんですね!?」
「ええ、ハワイのホノルル基地に飛ばされていたのが幸いしました。3日前に日本政府から入国が認められ、達也さんが事情説明をしてくれました。その関係で四葉家が身元を保護してくれることになったんです。今の四葉家は《
「ワタシもよシルヴィ」
2人が互いに抱きしめ合っているのを優しく見守りながら、克也はもう一つサプライズ(本来はこっちがメインなのだが)をすることにした。
「リーナ、九島閣下から四葉に戸籍移動する許可を、この前電話でいただいた。さっき正式に許可する書類が届いたよ。さらには政府からも許可が下りた。今日からリーナは四葉
リーナは涙を拭き、素晴らしい笑顔を克也達に見せてくれた。
「よろしくお願いします!」
リーナの四葉家への加入は四葉家の地位を押し上げるだけでなく、日本の安定を目指す一歩になった。だが闇は確実に侵食している。そのことを克也たちは知らず、それが自分達の運命を変えることになるとは、まだ気づいていなかった。
ある部屋で男はかけていた眼鏡を握りつぶし、レンズが手の平に食い込むのを気にせずさらに強く握りしめた。
「くそっ、
その男の後ろには若い青年が何も言わず立っていた。
「お前にも仕事をしてもらう日が来る。その時は失敗するなよ?」
「承知しました。この若輩者の命、貴方の野望のために捨てて見せましょう」
その青年の言葉に男は嬉しそうに頷き、家族との食事に向かうために仕事用の椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。顔に邪悪な笑みを浮かべながらその男の後を追いかけるように部屋を出たその青年は、国立魔法大学付属第一高校の制服を着ていた。