壬生を含むグループが強行作戦に出た夜、真夜から克也に依頼内容の結果が届いた。
封筒に入れられた紙には、今回の黒幕【エガリテ】について詳しく書かれている。動かしているのは【ブランシュ】日本支部リーダー司一。さらに司一の義弟 司甲も協力者であると記されていた。
名前だけは少なからず知っている。まさかとは思ったがどうやら内部からは、すでに学内の情報が漏れていると考えていいだろう。
克也の予想は正しく、摩莉にお願いしといてよかったと思える。しかし【ブランシュ】を動かしている敵の正体はわからなかったようだ。それでもよくこの短時間でここまで調べられたなと、感服せずにはいられない。
その日の放課後、講堂には予想以上の生徒が集まっていた。その数およそ全校生徒の半分。十分すぎるほどの賑わいである。
「当校にここまで暇人が多いとは。学校側にカリキュラムの改善を申請しなければなりませんね」
「…市原、このタイミングで笑えない冗談はよせ」
鈴音と摩莉のやりとりに克也が苦笑をもらす。鈴音には意外そうな顔をされ、摩莉には何故か睨まれてしまったが。克也的には、少しだけ気を抜ける言葉だったようだ。
「どんな手を使ってくるのやら。専守防衛といえば聞こえはいいが…」
「渡辺委員長、実力行使を前提に考えないでください」
先程の発言は何処へやら。摩莉のボヤキに鈴音がすかさず鋭いツッコミを入れのだった。
「もはや真由美の独壇場だな…」
渡辺先輩の呟きは全員の内心を表していた。討論会が始まってから有志同盟のメンバー発言は、小さなことをごねて文句を言っているだけにすぎなかった。会長はそれをうまく利用して対応している。討論会が進行するにつれて、有志同盟のメンバーは窮地に追い込まれていった。
『…一科生でもニ科生でも当校の生徒であることに変わりありません。みなさんにとって、かけがえのない3年間なのですから』
会長がそう締めくくると講堂全体から拍手が送られる。何事もなく終わったなと俺は思った。しかし有志同盟はこのままで終わるつもりはなかったらしい。
ドカーン!
爆発音と同時にすさまじい振動が講堂を襲った。それが合図だったかのように、有志同盟のメンバーが動き出す。
「委員長!」
「取り押さえろ!」
達也が委員長を呼んだとほぼ同時に、音声ユニット越しに命令が下った。俺と達也は近くにいたメンバー2人を床に押さえつける。それとほぼ同時に窓ガラスが割れ、謎の物体が飛び込んできた。それは落下と同時に煙を吐き出したかと思うと、煙は拡散せずに物体と共に逆再生のように外に消えていった。収束魔法と移動魔法の複合術式。あの一瞬で魔法を選択し構築するとは流石だな。
そう思いながら使用者を見ると、「どんなもんだい」とでも言いたそうな顔で俺を見ていた。
「何!?そっちにも侵入者が!?」
委員長が何処からか連絡を受けて驚愕していた。どうやら大勢の武装集団が侵入しているらしい。魔法科高校には国から委託された機密性の高い文書やデータが大量に保存されている。だからテロなどを生業にするそういう輩から狙われやすい。
そのため万が一に備えて、侵入者を排除できるほどの魔法力を持つ職員が、ある程度の人数が敷地内に常駐している。彼等でも対処できないほどの事態になっているということは、事態の深刻さを物語っていた。
「委員長、俺は爆発のあったと思われる実技棟の様子を見てきます」
「達也お兄様、私もお供します」
達也のセリフに続いて深雪までそう言い出した。
「気をつけろよ!」
「「はい!」」
委員長の言葉に2人は力強く答えて駆け出していく。
「委員長、俺はCAD調整室付近を見てきます」
委員長の返事を待たずに俺は駆け出した。
講堂の外に出ると校内は騒然としていた。至る所で戦闘が行われているほどに。よく見れば職員だけでなく一科生も戦っている。俺は木立の陰に隠れて眼を閉じ、意識を情報の世界に向けた。
《
それが俺の2つ目の【固有魔法】。
能力の1つとして、自分が条件指定したものの一部分の記憶を視ることができる。
今回は「校内にいる生徒の中で何らかの違和感のある想子」という条件で探す。すると条件に一致した者が1人いたので、誰にも見つからないようにそこへ向かった。
到着するとそこでは1人の生徒が電話をかけている。気配を消して情報端末を奪うことを考えたが、余計に刺激してしまう気がしたので話しかけることにした。
「何をしているんですか?こんなところで」
話しかけられて驚いた生徒は、電話を切って突然攻撃してきた。俺の耳に極微細なガラスを引っ掻くような音が大音量で届く。低周波が放たれ耳元で鳴り響くが、想子を操作して無効化し同時に少し身体を傾ける。想子を操作するより楽な対抗魔法はあるのだが、事後処理の説明が面倒くさかったので使わなかった。
魔法名《耳鳴り》は、空気を震わせ三半規管を麻痺させる。足止めなどに使われるポピュラーな魔法で、比較的簡単であり使う魔法師も多い。利便性があるので野外訓練ではよく使用されている。
《耳鳴り》が効果を発揮したと勘違いした男子生徒は逃げ出した。平凡な一科生なら効果はあっただろう。だが俺は四葉を受け継ぐ魔法師であり、魔法を無効化する訓練を行っている。だから〈
気を失う瞬間「な、なんで…」と聞こえた。まあ、効果があったと思わせる行動をしたので仕方ないかと思いながら、講堂の舞台袖から拝借した縄で手を縛る。
「こちら
委員長に渡されていた音声ユニットで伝える。
何故俺が委員かというと、討論会が始まる前に任命されていたからだ。委員会の腕章を渡されながら。最初はもちろん断ったのだが、「この作戦の発案者はお前だろう」と言われ渋々受け取っていた。
音声ユニットを胸ポケットに戻し、俺は男子生徒を抱えて講堂に向かった。
《