魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第84話 合意

4人は新婚旅行もそれぞれ行い、新婚時だけに可能な2人きりだけの時間を5年間過ごしていた。深雪も当主としての仕事をしながら、克也も補佐として国内各地を飛び回りながらも、それぞれの新婚生活を謳歌している。

 

そして克也は吉田家に来ていた。遊びではなく仕事上の都合で訪れていた。

 

「これでよしっと。じゃあこれを当主様によろしく」

「固いな幹比古は。昔通りでいいんだぞ?」

 

吉田家の家紋が押された書類を受け取りながら、克也は高校時代と変わらない態度で語りかける。しかし幹比古は緊張感が拭えないのか表情を固くしていた。

 

「無理だよ。克也ならともかく、〈十師族〉の当主なんだから対等の立場ではないよ」

「そんなこと言ってるけど、幹比古も吉田家当主なんだから対等と言えるはずだぞ」

 

克也の言葉通り、幹比古はこの5年の間に吉田家当主を父から継承していた。長男が当主の座を継ぐのが代々の習わしだが、一つだけ例外がある。

 

それは次男・三男・または血縁関係のある男児が、本家の長男を超える能力を見せた時だけ。当主の座は本家の長男ではなくその者が引き継ぐ。

 

「よしてよ僕は当主の器じゃない。精神的な弱さがまだまだ見られるからね」

「それを言うなら俺もだよ。人をまとめる力は俺より深雪の方が上だ」

「僕はそう思わないけど。そういえば深雪さんの調子はどう?」

 

吉田家と同盟を結ぶ役割は、本来ならば深雪が対応するべきである。今日来たのが深雪ではなく、克也が自宅に現れたことに幹比古は驚いていた。

 

克也が「理由は後で話す」と言って、結局言った本人と聞いた本人の双方は今の今まで忘れていた。そのため幹比古は思い出したかのように聞いたのだった。同盟の締結したことを証明する誓約書へのサインを終えた2人は、使用人が煎れた緑茶を飲みながら話をしている。

 

 

 

余談だが吉田家は古式魔法の家系であるため、コーヒーや紅茶といった洋風より、緑茶のような和風を好む血筋らしい。克也は緑茶も好きなので、文句もなくありがたくごちそうになっていた。

 

 

閑話休題

 

 

「深雪は臨月だから神経質になってるんだ。こんなことでイライラはしないだろうけど、精神的な体調を鑑みて補佐である俺が代理として来てるんだよ」

「初産だったら不安だろうね」

「深雪だから心配ないさ」

「でも克也じゃなくてもよかったんじゃない?」

 

幹比古の疑問は克也を嫌っているのではなく、夫である達也が来てもよかったのではないかと言っているだけだ。

 

「当主命令で近くにいるよう命令されてるよ」

「…そこで当主権限を持ち出さなくても、普通にお願いしたら達也は素直に聞いてくれると思うんだけど」

「幹比古の言う通り、そんなことしなくても達也は聞き入れてくれるさ。けど権力を使ってでも、深雪は達也に自分の側にいて欲しいんだろうな」

 

当主雑務から解放された深雪は、達也とよく一緒に四葉家本家の庭や山を歩いて、体調を崩さないよう気を張っている。達也も可能な限り深雪といるよう心懸けているが、やはり立場上どうしても離れなければならないときがある。

 

〈トーラス・シルバー〉としての仕事、独立魔装大隊の訓練への参加など。どうしても深雪の側を離れる際は、真夜や葉山さんに頼んで支えて貰っている。だが仕事中も訓練中も深雪のことが気になって集中できず、牛山・風間・柳に指摘されたりしているらしい。

 

克也も可能な限り深雪を支えてはいるが、水波のこともあるためどうしても第二優先になってしまう。そんな克也の不安を察したのか幹比古が水波について聞いてきた。

 

「桜井さんはどう?」

「安定期に入ったからよく買い物に行ってるよ。俺は代理としての仕事があるから、あんまり一緒に行けてないんだ」

 

克也が水波との間に子供を授かったことに気付いたのはつい最近だ。一度だけ夜を共にし、身体を重ねただけだったのだが、まさかこうなるとは思わなかった。

 

克也がなかなか子供を作ろうとしないので、しびれを切らした水波が積極的に行ったことで、ようやく夜を共にしてくれたのは数ヶ月前のことだ。といっても克也には作る気持ちはまだなかったようだが、水波の作戦勝ちで今に至る。

 

誰より喜んだのは真夜であり、《流星群》を使えることを望んでいるようだが、正直どうなるかは分からない。そもそも何故自分に真夜と同じ魔法が遺伝したのか分からないのだから、調べるまではどうしようもない。

 

克也の【固有魔法】《奈落の底(ダークナイト・フォール)》と真夜の《流星群》は、別の魔法であることが克也と達也の共同分析で、つい最近になって分かった。

 

光を局所的に一カ所に集めて穿つ《流星群》とは違い、範囲設定をすることで、あらゆる場所に穿つことが出来る魔法の《奈落の底(ダークナイト・フォール)》は、《流星群》の派生というより、上位種や進化形と言えるのではないだろうか。

 

威力は年齢の差もあるが、克也の方が数段上であり、《癒し》を同時に発動させれば、肉体的にも精神的にも多大なダメージを与えられる。

 

「安定期かぁ。克也も仕事を執事に任せて、達也のように一緒にいてあげるべきなんじゃない?」

「俺だって一緒にいたいけど、仕事が軌道に乗るまではいられないさ」

「変わらないね克也は」

 

そんな風に決意している克也を幹比古は見て、怒りというより安心という感情が溢れてきた。

 

「克也は今のことで満足せず未来についても考えてる。それは自分・家族・友人だけじゃない。関わりがない人や敵対する人の未来もね。だから克也がみんなを守るために殺したとしても、誰も離れず付いて来てくれるんじゃないかな。そんな君に出会えた僕は幸せ者だよ」

「俺もお前に会えて幸せだよ幹比古。幹比古から別の生き方を学んだ。それは今も生きているしこれから先も生き続ける。そして俺が死んでも俺の子供・孫・曾孫、さらにはその先にまで、いつまでも教訓としてこの世界に残り続ける」

 

緑茶を飲み干して本家に戻ろうと玄関を出ると、幹比古からサプライズが飛び出した。

 

「言い忘れてたけど僕、柴田さんと結婚することになったんだ。もう両親には挨拶に行って許可ももらってるよ」

「おめでとう。式には出席したいけど、予定がかなり先まで埋まってるからどうなるか分からないな」

 

行きたいのだが、仕事があればそちらを優先せねばならない。友人の結婚式に参加できないことに申し訳なさを感じていると、幹比古が慰めてくれた。

 

「気にしないで。克也の立場も分かってるから、来れなくても仕方ないさ。気持ちだけありがたく受け取っとくよ」

「ああ、ビデオレターでも送るよ。またな」

 

幹比古と別れ意気揚々と家路についた。

 

 

 

 

 

克也が。いや、四葉家が穏やかに暮らせたのはこの日までだった。悲報が四葉家に届くまでは…。

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