魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第88話 死闘

夕方、本家の敷居をまたぐとまたしても達也が立っていた。

 

「何か用か?」

「話がある。俺に付き合え」

 

有無を言わせず振り向いて歩き出す弟の背中を、不思議に思いながら追いかけた。達也の背中からは、覚悟がにじみ出ているように感じられる。無視することもできたが、何故か引き寄せられるように、無意識のうちに足が達也を追いかけていた。

 

連れて行かれたのは、綺麗に磨かれた木造建ての修練場だった。普段からあまリ使われない場所だ。だが俺・達也、そして辰巳も浦賀に本家を移築してから何度も拳を向けあって、互いに競い合い互いを高めあった場所だ。懐かしさと悲しみを同時に抱きながら、修練場の真ん中へと向かう。

 

修練場の真ん中には長さ20cmの赤と白のテープが、互いの隙間2mになるよう床に貼られている。達也は奥の赤いテープを踏み越え、こちらに振り向いた。その眼は怒りと悲しみの光を放ち、悲しみの意味が俺には分からなかった。

 

「何をするつもりだ?」

「克也、俺と戦え」

「何の意味がある?」

「やれば分かる。だから構えろ」

 

克也が仕方なく白のテープの後ろに立ち、左拳を顎の近くまで上げて右拳は甲を下にして腰に握る。すると達也は何の合図もなく突っ込んできた。左肩から右脇腹に向かって振り下ろす右手刀を、克也は間一髪の所で避ける。達也の手刀にはゼロ距離で《分解》が発動されている。触れていれば克也の胸は切り裂かれ、大量の血が吹き出していたことだろう。

 

右手刀を振り下ろした勢いを利用して、右後ろ回し蹴りを放ってきたが、その瞬間に克也は達也の軸足である左足を右足で払う。足を払われた達也は状態を浮かせ、僅かな隙を見せた。だが克也はそれ以上追撃せず、バックステップで3mほど距離を取る。

 

「何故攻撃してこなかった?」

「あのまま俺が攻撃していたら、《術式解体(グラム・デモリッション)》を最大出力で放ってきていただろう?いくら俺でもお前のを喰らえば、数秒間はスタンしてしまう。それは致命的な時間だ。今のお前の状態で、それを喰らうわけにはいかない」

 

達也の圧縮度は尋常ではない。20年以上も隣で見てきたのだ。脅威がどれほどなのか自分が一番理解している。

 

達也はバネ仕掛けのように立ち上がり、大きく距離を取って【固有魔法】《分解》による《部分分解》を、両肩と両足の付け根に計4発放ってきた。《想子鎧(サイオンがい)》でも防げるが、俺は【固有対抗魔法】《地獄の辺獄烈火(ベルフェゴール)》で消し去った。

 

続けざまに《雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)》を放ってきたため、体術を使ってその場から離れると、克也の立っていた場所が綺麗に消滅していた。どうやら克也を本気で殺すつもりらしい。向こうがその気ならば、こちらもそれ相応の全力を出さねばなるまい。

 

仕返しとばかりに《奈落の底(ダークナイト・フォール)》を達也に向かって威力ではなく、速度重視で放つと達也は必死の形相で左に動いた。だがこれは想定内なので焦らず次の魔法を発動させる。

 

「がはっ!」

 

《偏位解放》による圧縮空気弾が直撃した達也は、苦痛の声を上げて空中に舞い上げられる。だが地面に戻るまでに、そのダメージはなかった(・・・・)ことになっていた。

 

「相変わらず便利な魔法だな《再生》は」

「克也も《回復(ヒール)》があるだろう。羨む気持ちは分からん」

「お前ほどの速度では治せないさ」

 

自己加速術式で互いに肉薄し拳を振るう。互いの拳が互いの頬を捉えて相手の顔を吹き飛ばすが、瞬時に顔を引き戻し、これまで以上の速度と力で互いに殴り合う。どちらも笑みは浮かべておらず、眼には相手を叩き潰す以外の感情の炎は見えず、相手以外見えていなかった。

 

「はあァァァァ!」

「せあァァァァ!」

 

互いの右拳を大きく振りかぶり、互いの中間点でぶつけ合う。

 

ゴガッ!

 

拳が砕ける音が聞こえた。だが2人は互いに一歩も引かず、ごく一部に全ての力を込めながら力勝負をしていた。先程のぶつかった衝撃で、克也の手は筋繊維までダメージが入り、達也の手は骨までダメージが入る。《再生》と《回復(ヒール)》を行使して痛みを取り除く。だがぶつけ合ったままの状態でいるため、「破壊」と「再生」、「破壊」と「回復」をありえない速度で繰り返す。

 

そのため自分達の右手にとてつもない痛みが走るが、声でねじ伏せ押し合う。

 

「はあァァァァ!」

「せあァァァァ!」

「「ふっ!」」

 

押し合いをやめて互いに大きく距離を取り、時計回りに高速移動を始める。一瞬の隙を逃さまいと《精霊の眼(エレメンタル・サイト)》と《全想の眼(メモリアル・サイト)》をフル活用し、相手の想子の動きを観察する。

 

すると達也が右手を伸ばして《術式解体(グラム・デモリッション)》を無秩序に放ってきた。克也はそれを避けるために一瞬足を止めたが、この一瞬の隙を突かれ追撃を喰らってしまう。

 

「ぐっ!がはっ!」

 

達也の右ストレートが左頬に炸裂し、右回し蹴りが左の脇腹を直撃する。

 

ズガン!ボキッ!

 

修練場の壁にたたきつけられた衝撃で、蹴られてひびの入っていた左肋骨の3本が折れたようだ。とてつもない痛みに耐えながら、床に着地する瞬間に《回復(ヒール)》を使用し、完治する前に床を蹴って達也の懐に入り込む。

 

ここまでの所要時間はわずかゼロコンマ5秒。

 

「何!?」

 

達也が驚愕している僅かな隙を、克也は全力攻撃で無力化させることを決めた。

 

「っ!」

 

無言の気合いを吐き出し、右ボディブローを叩き込んで、左手で達也の頭を抑えながら、右膝蹴りをボディーに叩き込む。

 

「ぐっ!がはっ!がっ!」

 

達也が血を吐くがそれを無視して、左後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

 

吹き飛ばされた達也はよろよろと立ち上がり、《再生》でダメージをなかった(・・・・)ことにした。互いにもう体力の限界なので、次で最後にしようと右拳に全想子を纏わせて精一杯引く。すると達也もその意味を理解したらしく、想子を最大にまで圧縮させながら構える。

 

克也の対魔法障壁攻撃最大の矛《貫通弾(ブレイク・バースト)》と達也が使える魔法障壁最強の盾《想子滝(サイオン・ゲイザー)》。どちらが強いのか決めようと動き出そうとした瞬間、張り詰めた声が聞こえた。

 

「2人ともいい加減にしなさい!」

 

入り口を見ると、怯えながらも必死に自分達を止めようとしているリーナの姿があった。

 

「何故ここにいる」

「あれだけ派手な魔法の衝突を感じたら来たくなるわよ。それと打撲音とか衝突音なんかも、異常なほどこっちにまで届いていたわ」

「どうでもいいが邪魔をしないでもらえないか?これで最後なんだ」

「させると思う!?」

 

正直この会話でやる気は失せていたが、これまでの戦闘はなんだったのか意味のない時間の無駄になる。

 

「それでもやると言ったら?」

「私も全力で相殺するわ!」

 

想子を活性化させながらこちらを睨むリーナ。口だけでなく本気で止めようとしている。右拳に凝縮していた想子を解除し、普段通りに戻すと、達也も圧縮させていた想子を和らげた。

 

「興醒めかお互いに」

 

克也と達也が戦意喪失したことで、張り詰めていた空気は元に戻った。それに気付いたリーナは、緊張から解放されたからなのか倒れてしまい、床に倒れるまでに克也がリーナの身体を抱きとめていた。

 

「…達也、事情は後で話す。俺の部屋で待っててくれないか?リーナを運んでくる」

「ああ」

 

達也は素直に頷いて克也を送り出した。

 

 

 

正直なところ、リーナが来なければ俺はやられていたな。あの右手に集まった想子は尋常じゃない。俺の《想子滝(サイオン・ゲイザー)》でも無理だっただろう。

 

達也の精神は《再生》の過剰使用によって、かなり疲弊していたが、何より達也を追い込んだのは克也の殺気だった。明確に感じるのではなく、具現化して直接自分の身に突き刺さってくる。そんな錯覚を起こすほど強烈なものだった。

 

さっきの会話には一毛たりとも殺気は含まれていなかった。戦闘とのギャップに驚くが、それどころではないと自分に言い聞かせ、克也の部屋へ向かった。

 

 

 

俺はリーナを部屋に運び寝かせた後に自室へ向かった。ドアを開けると、椅子に腰掛けてこちらを見る達也がいた。

 

「大体の予想はついているんだろ?」

「まあな。最初は四葉家のことだと思ったが、お前の必死さから見て違うとはっきりした」

「四葉家の問題でも間違ってはいないけどな」

「水波を探しているのだろう?」

 

達也の率直な質問に俺は呼吸を一瞬止めてしまった。

 

「…ああ、一昨日から行方不明だ」

「連絡がないのも可笑しい。さらには辰巳さんを含む3人のボディーガードが見当たらない。捜索中か?」

「捜索中なのは事実だけど3人はもういない。つい前日に亡くなった」

「…何?嘘だろう?」

 

さすがの達也もあれほどの手練れが殺られるとは、まったく思っていなかったようだ。達也も腕を見込んで任せていたのだから驚くのも無理はない。

 

「事実だよ。2人は心臓を銃弾が貫通して即死、辰巳は出血多量死。それ以外にも奇妙な点がいくつも見つかった」

「奇妙?」

「1つは犯行時刻に、生きているようには見えない不気味な人間を見たという目撃証言。1つは辰巳の背中の傷。1つは監視カメラの映像と想子測定器にまったく異常も見られないこと」

「確かに奇妙だな」

 

達也は深く考え込んでしまう。こうなれば話を聞ける状態ではないと、俺は長年の付き合いから分かっていたので、思考を邪魔するようなことはせず、好きなようにさせることにした。時計の秒針が3周したところで、ようやく達也は物思いから現実世界に帰還した。

 

「情報が少なすぎてどう作戦を立てるべきかも思いつかん。何か掴んでいないのか?」

「何もない。水波の想子を追跡してみたけど、現場以外からは見つからなかった。黒羽家も何一つ手掛かりは見つかっていないみたいだ」

 

俺がかぶりを振るのを見て達也はため息をついた。気持ちは分からなくもないが、2日間捜索した俺がため息をついていないのだから、この場面では我慢してほしかった。

 

「そう言えば、辰巳さんの怪我が奇妙だって言っていたが?」

「傷は腹部より背中側が酷くて、背中全体に無数の刺し傷があったらしい。それも傷が全て同じ形状で同じ深さで」

「ありえないな。ナイフのような物で刺しても、その度に僅かに刃の軌道はズレるから、同じような形状と深さになるはずがない」

 

話を聞いただけではっきりと言い切ってくれることに、心からありがたく思えてくる。

 

「その通り。警察もその意見だった。武器でないなら魔法しかないだろう。だがそんな魔法があるのか?」

「俺達が知っていることが全てじゃない。世界にはまだまだ知られていない魔法だってあるんだろう。それが使われていたとしても可笑しくはない」

「そうだな達也。どうやら俺は少し天狗になっていたみたいだ」

 

少しばかり調子に乗っていたらしく、そんな子供じみた行為に恥ずかしくなる。だが羞恥心に捕らわれているわけにはいかない。

 

「現に目撃者がいるなら、監視カメラの録画映像と想子測定器に異常が見つからないのは可笑しい。誰かが細工したに決まっている」

「誰か…か」

「【レプグナンティア】の本部を壊滅させたときに見つけた研究所のデータを、簡単に盗んだ奴が関わっていると言いたいんだろ?」

「ご名答。それも含めて藤林さんに頼んでる。あとは待つだけだ」

 

それを最後に達也は、あの戦闘が嘘のような穏やかな微笑み部屋を出て行った。

 

 

 

その日の夜、俺は不思議な夢を見た。

 

『ごめんな⚪⚪、自分勝手な兄ちゃんで。⚪⚪、お前の代わりとして生きれなかったよ。⚪⚪、守れなくてゴメンな』

 

その言葉を皮切りに、自分を中心とした世界がホワイトアウトし、何もかもが消え去って自分さえも消えた。




貫通弾(ブレイク・バースト)・・・克也の使う魔法障壁を貫くための最大の魔法。

想子滝(サイオン・ゲイザー)》・・・達也が使える最強の魔法障壁。
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