魔法科高校の劣等生~双子の運命~リメイク版   作:ジーザス

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第91話 集い

達也が倒れていた克也を発見したのは偶然だった。克也の部屋の前を歩いていると、何かがが倒れる音が聞こえた。ドアを開けて中を見ると、俯せに倒れている克也を発見した。

 

「克也!」

 

駆け寄って声をかけるが返事はない。顔色は悪く呼吸が浅いので危険な状態であるのは一目瞭然だ。《再生》を施すが目覚める様子はなく焦ってしまうが、深呼吸をして焦りを追い出す。

 

克也を肩に担ぎ治療室に向かう途中、リーナと出会ったので声をかけた。

 

「リーナ、克也が倒れた。医師を呼んでほしい」

「分かったわ!みんなに知らせてくる!」

 

リーナが走り去った方角とは逆を向く。もっとも信頼を寄せる兄を背負って歩き出し治療室に向かう。

 

「克也、死ぬなよ…」

 

 

 

 

数十分後、達也は医師を含めた四葉家の重鎮を集め、緊急の会議を開いた。だが全員の表情は暗く、特に真夜は克也同様に倒れそうだった。

 

達也は全員を見渡してから重い口を開く。

 

「…四々屋(ししや)先生、現状報告をお願いします」

「畏まりました。克也様の容態は一言で言うと、芳しくありません。最悪の事態の一歩手前で踏み止まっているという状態です」

 

医師の診断には異議を唱えたくないが口に出したかった。「嘘」であると。だが医師がこの場で嘘をつく理由もなくメリットもない。 

 

「…いつ目を覚ますのですか?」

「不明です。精神に欠落が診られますので、当分は目を覚まさないかと。最悪の場合、目を覚まさずこのままの可能性も」

 

全員が眼を見開いて驚愕してしまった。現在の四葉で〈最強〉の魔法師である克也を失うのは痛手だ。四葉の地位を下げることになり、〈十師族〉の一角から脱落してしまう可能性も高まる。

 

四葉家の〈切り札(ジョーカー)〉であり、〈戦略級魔法師〉である克也を失うのは損害が大きすぎる。どうにかして目を覚ましてもらわなければならない。だが手の施しようもなく、手探り状態で治療して悪化させては本末転倒だ。

 

「克也の件は一旦棚上げだ。問題は水波を死に至らしめ、克也を意識不明状態に陥れた奴らの捜索と殲滅について話し合いたい。リーナはどう思う?」

「他国の介入ではなく、国内の何者かによる襲撃の可能性が高いと思うわ」

 

躊躇いもなくバッサリと切り捨てる言動だ。だが咎める人物はいない。ましてやその表現が妥当とでも言える空気が漂っている。

 

「根拠はあるか?」

「女の勘ってやつかしら?正しいとは思っていないけど」

「リーナの言い分はもっともだと思います。そうですよね叔母様?」

 

深雪は自分の言い分を言いながらも、相手の言い分も聞いていた。

 

「あながち間違いとは言えないわ。女の勘は意外と鋭くて正しいときが多いから」

 

まるで経験有りとでも言いた気な態度と声音だが、詳しく聞いたり話を拗らせる真似を誰もしない。する必要もする意味もないのだから。

 

「文弥はどう思う?」

「克也兄さんの《眼》から逃れられるような認識阻害の結界、日本にあるはずのない《完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)》の術式に拉致方法など。我々が知り得る非合法組織では不可能だと思われます」

 

高校時代とは売って変わって男前に成長した文弥は、毅然としながら達也の問いに答えた。その隣では俯いて会議に参加できていない亜夜子がいたが、誰も声をかけずそっとしてあげていた。

 

「敵はなんだと思う?」

「可能性があるのは大亜連合です。しかし条約締結もありますし現状では介入できないかと思います」

「達也兄さんは国内であれば何処だとお考えなのですか?」

「七草家の息がかかった第三課。もしくは七草家そのもの」

 

達也の予測に予想外だったのか。全員の息を飲む音が聞こえた。

 

「達也さん、正気ですか?」

「可能性の問題です叔母上。【調整体】を否定する当主の弘一殿であれば、婚約に反対していましたからね。水波を拉致しても可笑しくはありません」

「確かに達也様の言い分は分かります。しかしさすがに七草家といえど、国家を含む魔法社会と敵対するなどあり得ないと思いますが」

「考えすぎだと自分も思いたいですよ」

 

葉山が言い過ぎとでも言うように、諭す形で達也の意見に釘を刺す。達也自身も考えすぎだと自分でも思っているし、そうであってほしいと願っていた。だからこそ強い言葉で言い返そうとはしない。納得はしていないようだが。

 

「しばらくは様子見で頼む。余計な警戒をされるわけにはいかない」

「分かりました」

「それで捕獲した奴らから情報は得られたか?」

「記憶にロックがかかっているようで、自白剤を用いても不可能でした」

 

敵はかなり用心深いと最初の頃から分かっていた。人体発火魔法と記憶の蓋という二重の保険をかけていたようで、用意周到さに脱帽させられる。捜査に行き詰まりを感じるのはそれだけではない。一番の原因は、四葉の二大戦力の片割れの不在と水波の死による悲しみが原因だろう。

 

僅か2日で復帰できるほど四葉も感情が薄いわけでもない。深雪が当主を継いでからは、家族・親類・部下との関係を深く尊重するようになった。どうやらこれが裏目が出ているらしい。それは悪いことではないが、その関係を利用されているとなれば、弱点を突かれているということになる。魔法社会から四葉の信頼が失われる理由にもなりかねない。

 

「亜夜子と文弥は、捕獲者より敵の捜査を優先してくれ。少数で多く動く方が効率は良いからな」

「「了解しました」」

 

2人は返事をした後に会議室を出て行った。その後は四葉や分家内の内情を話し合い、別々に会議室を後にした。

 

 

 

 

 

1週間経っても克也は目を覚まさなかった。敵の情報も発見できず、時間だけが無情に過ぎていく。今日は高校時代の友人達が克也の見舞いに来てくれていたが、全く目を覚ます気配もせず眠り続けていた。

 

「克也さん、ちゃんと面と向かってお礼を言いたいのに。眠ってたら言えないよ」

 

ほのかは涙を浮かべながらベッドで眠る克也に声をかける。

 

全員が治療室にいるわけではなく1人1人が治療室に入り、一言だけ伝えていた。拉致されて傷ついた心の傷が治ったほのかが応接室で漏らした言葉と普段から優しさに溢れた声音が、今では悲しみに塗りつぶされている。普段のほのかの明るさを知っているメンバーの気分をさらに沈ませていた。

 

「克也さん、私の好きな気持ちはどうやったら気付いてくれるの?こんなに好きなのに。眼で見れて触れることができるのに、笑顔も見れなくて声も聞けないなんて生き地獄だよ。助けてもらったから好きになったんじゃない。桜井さんと婚約する前から。入学して最初の〈九校戦〉の時からずっと好きだったのに。本当に克也さんは朴念仁だね」

 

泣きついた後、悲しい笑みを浮かべながら治療室を出る雫の気持ちは本物だ。

 

吸血鬼事件ての際のブラックホール生成・消滅実験のことを伝えた時にネグリジュを着たのは、少し克也をからかってみたかったからである。残念なことに友人宅のホームパーティーからの帰りだったので、疲れており下着を着けずに映像電話をしてしまったのだが。

 

 

ちなみに雫は酔っていたこと・お酒を飲んでいたことに気付いていない。

 

 

閑話休題

 

 

そのせいで深雪には怒られるわ。克也には上を着るよう言われるわ。重たい話になるわ。雫のいろいろな計画が水の泡になってしまった。

 

その後も色々あって気持ちを告げられず、克也が婚約してしまい、克也自身がそれを喜んでいたため文句を言えなかった。誰も居らず声を聴いていないことをいいことに、雫は自分の本音を打ち明けた。

 

東北からアポを取っているとはいえ、道場破り的なことをしていながら急遽駆け付けたエリカ、克也が倒れたことを聞いてドイツから緊急帰国したレオ、新婚生活を謳歌して新しい命をお腹に宿した美月とその旦那である幹比古が、一言述べた後に応接室でお茶をしていた。

 

「ほのかと雫はもう大丈夫なのか?」

「はい、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

「うん、大丈夫」

 

達也の心配に2人はかぶりを振って明るく、しかしいつもより少し陰った笑みを浮かべた。

 

「2人は今何をしているんだ?」

「私は研究室で柴田さんの〈眼〉について研究しています」

「私はほのかの助手」

「状態は?」

「一定の目途は立っているんです。でもこれといった良い結果は得られていないんです」

 

ほのかは美月の〈眼〉について研究しているようだ。保護のために眼鏡をせずに普通にいられる薬を開発中なのだが、思いのほか難航しているらしい。吉田家にある呪符や呪法具で事足りるのだが、毎回呪符を使って結界を張ったり持ち運ぶのは、面倒であるし荷物も増えることになる。

 

幹比古ならその程度何も言わず、むしろ率先して自分からするだろう。だが手間暇を考えると、薬で症状を抑える方が効率がいい。そのため、ほのかや雫に頼んで開発してもらっているのだ。

 

美月に関しては、樹里の世話をしている深雪の育児を学ぶため、深雪の部屋(仕事部屋とは別)で絶賛勉強中だ。

 

深雪も四葉家当主の肩書を背負っているのだから、乳母や使用人に任せた方がいい。だが本人曰く「自分で育てて愛情を注ぎたい」ということなので、達也も真夜も何も言わず見守っている。

 

「レオはドイツ語を覚えたか?」

「あれから6年経つんだぜ達也?それなりには使えるっての。日常会話程度なら、日本語と遜色ないくらいには話せるようになったぜ」

「エリカは?」

「山形と福島・岩手・青森は終わったから、あとは秋田と新潟だけかな。その前に北海道行って全滅させるよ」

「「「「…」」」」

 

本人を除く全員が、あっけらかんとして話すエリカに何も言えずに眼を泳がすことしかできなかった。

 

「…レオ、高校時代に殺られなくてよかったね」

「…喰ってかかってた自分を褒めてやりてぇぜ」

 

2人が苦い笑みを交わしているのを、微笑ましそうに見ている達也の表情はとても穏やかだ。

 

「エリカ、資金は大丈夫なのか?」

「それがねぇ。かなり厳しいの」

あれ(・・)のせいか?」

「そうよ!未だに犯人捕まってないし、捕まえたら気が済むまで竹刀でぎったぎたにしてやる」

 

言いたいことはわかるが、年頃の女性が使う言葉ではない。とは言うものの、エリカなので誰も何も言わなかった。

 

「あれって何ですか?」

「ほのかは知らなかったのか。先月、千葉家の本邸が何者かに放火されたんだ。全体の半分が使い物にならなくなったらしい」

「誰がそんな酷いことを…」

 

ほのかは感情移入しやすい性格だから、深刻に事を捉えているようだ。実際問題的に自宅が放火されることは深刻なのだが、エリカであれば報復を受けるかもしれないと友人達は思っていた。

 

「分かんないんだよねぇ。お怒りを買った覚えはないけど」

「今回の道場破りの件じゃねぇのか?」

「可能性はあるけど、負けた腹いせに放火なんかするかな?」

「そこまで根性のある奴らじゃないと思うよ。千葉家に喧嘩を売る輩なんてそうそういないと思うんだけど」

「資金なら四葉が支援するから気にするな」

「さすが達也君」

 

最後に話が逸れたが、結局その話し合いは結論が見えず、話し合いは途中で終わってしまった。

 

 

 

その頃克也の治療室には、2人の女性が涙を流しながら克也を見ていた。

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